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ヘルウェルティア魔術学院物語

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第二話「入学式」

遂にこの日を迎えた。今日試験結果が発表される。この合否によっては俺は魔術師への道を諦めるしかない。そうなったら本格的におじさんに雇ってもらおうかな。もう二度と祖国へは帰れないし帰れたとしても帰りたくもない。

ここに来てから気づいたがどうやら公国以外の大国では国を結界で覆っているらしい。結界は主に厄災や魔獣の侵入を防いでおり結界がある地域とない地域とでは目に見えて差が出ているらしい。確かに公国ではありえない程作物の実りが良く山道を歩いていても魔獣と遭遇したことがなかった。共和国では魔獣の代わりに盗賊の襲撃を何回も受けたけど。

体内に魔力を宿す魔獣はかなりの危険だ。体内にある魔力を制御しきれない個体がほとんどで見境なく暴れるから公国では毎年たくさんの死傷者を出している。てっきりそれが普通の事だと思ったけど公国を出てからあちらでは当たり前の事がこちらでは通用しなくて戸惑っていたりしている。それだけ公国が遅れていると言う事だろう。

さて、そんな事よりも結果を見なくては。ベルンの中央にそびえる様に建っている魔術学院本校はとてもでかい。流石は世界一の魔術師育成学院だ。でもそれと同に一国を治めているとか正気を疑うけど。公国では絶対に見下される国だな。

合格者は紙に貼りだされており俺の受験番号の名がそこに刻まれていた。それを確認して俺は小さくガッツポーズを取る。周りでは入れなかった者が目に見えてショックを受けており逆に受かったやつの中には大げさに飛び上がっている者もいた。しかし、初めて見るな。緑色の髪の女性とか。それに何より素晴らしい体をしているけどあまり女性の体を見るのは失礼だろうな。さっさと制服を受け取りに行くか。

「受験番号52番、エルナン・ハルフテルです」

「52番…はい、確認しました。これが君の制服よ」

教師と思われる女性から俺は制服を受け取る。一目見ただけでかなりの魔力が練り込まれている。俺もやろうと思えばできるけどあれ(・・)のせいでかなり時間がかかるうえに魔力もかなり消費するからやりたいとは思わないけど。

「入学式は明日行います。寮についてもその時に言われるので送れずに来てね。それと、入学おめでとう」

「あ、ありがとうございます!」

女教師の祝いの言葉で俺は本当に入学できたんだ、という自覚が広がってくる。まるで夢の様に感じるけど確かに、俺は今魔術師になるための最初の一歩を踏み出しんだと自覚した。





☆★☆★☆
「店長!俺合格してました!」

「まじか!そりゃよかったな!」

制服を受け取った俺は宿屋にある荷物をまとめた後バイト先の店長に報告しに行く。周りの大半が見知らぬ人の中で唯一会話をするのが店長だ。あの日、串焼きを買った客と店長と言う関係から始まったけどもう一月になるのか。意外と長かったな。

「坊主、お前は明日から学院に通うんだろ?なら今日で最後になるのか…。少し悲しいな。だけどそれが坊主がここに来た理由だしな、仕方ないか」

「店長にはお世話になりっぱなしでした」

「構わんよ。それに世話と言っても大したことはしていない。せいぜいベルンの街を案内したくらいだ」

店長はそう言うが実際はかなりお世話になった。余った食べ物をただでくれたり店長の言ったように街を案内してくれたり…。他にもたくさんの事をしてもらった。

「店長の串焼きはとても美味しかったですよ。また食べに来てもいいですか?」

「勿論だとも!何時でも来てくれ!そん時はサービスしてやるよ!」

「ありがとうございます!」

店長の言葉に感謝の念を抱きながら最後のバイトの日を過ごした。帰る際には串焼きを数本持たせてくれた。

「さて!明日から…と言っても明日は入学式や授業の説明で終わりそうだけどいよいよ始まるんだな…!」

すっかりお世話になった宿屋に戻って俺は緊張と興奮で激しい鼓動を続ける心臓に手を当てて心を落ち着かせようとする。しかし、夢にまで見た日を迎えると言う事もあって結局眠る事は出来ず落ち着くことが出来たのは日が昇り始めた時だった。





☆★☆★☆
結局一睡もできなかった俺は目の下にうっすらと隈を付けながら制服に身を通す。白いワイシャツの上に黒のブレザーを着る。左の胸ポケットには魔術学院国の国旗である二つの杖が交差する紋章が描かれている。一見地味にも思えるが個人的には気に入っている。公国にいた頃は黒っぽい服を選んできていたな。

荷物の入った袋を背負い女将さんに別れの挨拶をして宿を出る。女将さんも良く受験生が泊まりに来る関係か笑顔で祝ってくれたな。こっちに来てから良い人ばかりに出会っている気がするな。いや、公国にいたころが酷かっただけか。

ベルンの大通りを歩いていくと同じ新入生なのか魔術学院の制服を着た人達と会う。みんなそれなりの荷物を持っていたりするが中には教材を入れていると思われる鞄のみを持った生徒もいる。恐らくベルンに実家がある人なのだろう。基本魔術学院の寮に入るのは魔術学院がある街に住んでいないものと国外の人だけだからな。

昨日訪れたはずの学院は今日から通うためか一月見てきた学院とはまた違って見えた。俺は感動で体が震えるのを感じながら魔術学院の敷地を跨ぐ。門の前には魔術学院国の陸軍の軍服を着た者が立っていた。恐らく怪しい物が入ろうとすれば即座に捕らえるだろう。

基本的に魔術師は近接戦が苦手だ。魔術を使うのにはかなりの集中力を有するため敵が目の前にいては集中できないからだ。その為基本的に戦うときは自然と安全な後方から高威力の魔術や補助魔術を味方兵士に付与する役割になる。無論中には近接戦が得意と言う奴もいるだろうし俺みたいに国柄、家柄のせいで無理矢理習わされた者もいるため「魔術師=近接戦が出来ない」とはならないが大半はこの図式に当てはまってしまう。

さて、そんな事よりも俺は入学式が行われる第一体育館に来ている。順番とかは特に決められていないので自由に座る。勿論席は全て埋まる筈なので詰められるところは詰めなくてはいけないけど。

俺は真ん中の列の端の方に座ることが出来た。ふと隣を見ると昨日見た緑の髪の女性が座っていた。こんな偶然もあるんだな。そうしてみていたせいか女性がこちらの視線に気づき顔をこちらに向ける。…ふむ、かなりの美少女だな。

「…え、と。何ですか?」

「あ、ごめん。珍しい髪の色だからちょっと気になってね…」

「…もしかして他国の人ですか?」

「そうだよ。でもなんでわかったの?」

試験の時には民族衣装を着ていたから知っている人なら知っていただろうけど今着ているのは学院の制服だし髪の色も金髪で特に珍しいわけでもない。しいて言うなら少し日焼けしているくらいだ。まあ、それも公国にいたころの話で今は目立つほど肌が焼けている訳じゃない。

ここ(魔術学院国)ではこの色は別に珍しくないんですよ」

「へぇ、そうだったのか。俺ベルン以外はあまり立ち寄らずに来たから分からなかったよ」

「そうなんだ。あ、もしよかったら他国の事とか教えて…」

『静粛に!これより魔術学院入学式を開始する』

彼女がそこまで言った時教師の言葉と思われる声が体育館に響き渡る。今のは風属性魔法を応用して声を大きく、そして遠くまで届けたのだろう。

「入学式始まったからまたあとでね」

「う、うん。そうだね」

彼女にそう言って話を区切り入学式に集中するが途中で気付いた。俺、名前聞いてなかったわ。しかもこの後ってクラス毎に別れてそれぞれの教室で注意事項とか授業の説明をするんだった…。話す時間ねえじゃん。

俺はGクラスって言われたけど彼女はどうなんだろうか?もし同じクラスだったら嬉しいんだけどな。やっぱり同じクラスにキレイどころがいるだけでテンション上がるよな!
 
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