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人徳?いいえモフ徳です。

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五十一匹目

「にゃーにゃー、この屋台引く意味あるのかにゃー?」

「さー?」

「アイテムボックスあるのにねー」

「でもこれないとポップコーンつくれにゃいよー?」

その日、王都のメインストリートに数台の屋台が解き放たれた。

屋台を引くのは背の低い子供だ。

一台の屋台を四人一組で運んでいる。

「うにゃ? あんまり人いにゃいにゃー」

「でもご主人様の指示だし」

「ほら、早くやるわよ」

「その通りだにゃ」

三人が屋台の準備をしていると、まばらだった足が増えてきた。

通勤時間だ。

「じゃぁご主人様の指示どおり作ろう」

「そーだにゃ」

四人のうち二人が屋台に備え付けられた装置に魔力を流す。

魔力コンロと鉄板と透明なシリンダーで出来た簡単な装置だ。

シリンダーの底部辺りに油とコーンを入れる票線があり、そこまで油とコーンを入れた。

「このあいだご主人様が悪ぶってたの可愛かったにゃー」

「『くはは。民は家畜なのだ。餌と水をくれてやるのだ』ってやつ?」

「おっかにゃいなー」

「でもあのクズ貴族よりマシだよ。シラヌイ様の家はちゃんと家畜番してるもん」

やがてポンポンとコーンが弾け始める。

何事かとよってくる人達。

「お嬢ちゃん方、何を売ってるんだい?」

「ポップコーンっていうお菓子だにゃ」

シリンダーが弾けたポップコーンでいっぱいになる。

火を止め、塩をふって袋につめる。

その過程で広がるポップコーンの香ばしい匂い。

「ポップコーン買いませんかー? 一袋で大銅貨一枚ですよー。たったの10フル(百円)ですよー」

「果実水もありますよー。こっちは15フルですよー」

そこで一人の男がポップコーンと果実水を買っていった。

それを皮切りにだんだんと売れ始める。

「増産するにゃ」

ザラザラとコーンを装置に入れると客が驚いた。

「バカな…これが家畜の餌だと…?」

「うにゃ、ご主人様が考えたらしーです」

「そのご主人様って誰だい?」

客が聞くと売り子が屋台の屋根の端とポップコーンの袋を見せた。

【狐の知恵の実】という店名と共に描かれている紋章。

「………………………………うそだろ?」

「うみゃ?」

「き、君はタマモ様の部下なのかい?」

「私達のご主人様ははシラヌイ様だにゃ」

「タマモ様はシラヌイ様のお婆ちゃんだにゃ」

「シラヌイ様はめちゃくちゃ強くて可愛いですよ」

「私達は第三班で、他の通りに一から五班までが居ますよ。
ほら、この地図の場所です」

暫くして、客足が少し落ち着いた。

「けっこう売れたにゃ」

「ご主人様が言ってた黒字ラインを早々に超えてたにゃ」

「まだ売れそうだから早めに袋詰めするにゃ」

テキパキと働いている四人の元に雇い主が来た。

ケンタウルスに乗り、腰に剣を挿している。

「や、頑張ってる?」

トン、とシラヌイが降りる。

その時シラヌイを乗せていたケンタウルスのリィンが少し残念そうな顔をした。

「シラヌイ様ー!」

「ご主人様!」

「売れてますー」

「黒字だにゃー」

シラヌイは四人それぞれの頭を撫でる。

「そうかそうか」

そこで売り子の一人が気づく。

「ご主人様、血の匂いがします」

「ああ、これはさっきあっちの通りの屋台で騒ぎを起こしたバカ共が居てね。
僕が少し懲らしめたんだよ」

シラヌイが服についた血を見せた。

「私がやると言っても聞かなかったんです。坊っちゃんはやんちゃですねぇ」

リィンがやれやれ、とジェスチャーをする。

「僕の部下が怖がってたんだから僕がやるべきだろう」

「まー、それが道理ではあるんですが。それでも私はタマモ様の騎士として坊っちゃんを護るよう言われてましてね?
私にも私の道理があったんですよ」

「わるかったよ…」

バツの悪そうな顔でシラヌイが謝った。

シラヌイが猫っ娘達に向き直る。

「じゃ、残りの屋台も見回ってくるよ」

「「「「いってらっしゃいませ、ご主人様」」」」

シラヌイがトン、とリィンの背に乗る。

「あ、そうだ」

シラヌイがアイテムボックスから筒を取り出した。

「お前達。水魔法使えるよな?」

「使えますよ」

「ないとこまるもん」

「ならこれを渡しておく」

シラヌイが投げた筒には、球が縦に三つ入っている。

スライム・コアだ。

「ティアが調伏したスライム・コアだ。もし何かあったならばこのガラスの筒を割って中のスライム・コアに水をあげるといい。
そうすれば心強いガーディアンが助けてくれる」

「ありがとうございます!」

と四人のうちの班長が礼を言う。

「なに、防犯は義務だよ。よし、出してくれ、リィン」

「だしまーす」

カツカツとリィンの蹄が石畳を叩く。

売り子四人が見送った。










四半刻前、別の通りにて。

「おいガキィ。誰に断ってここで商売してやがんだ!」

「ひゃっ!? お、御役所の書類ならご主人様がもってます!」

「ほー? ご主人様なぁ? 役所だぁ? ああ、そうだな。役所の書類は大事だ。
でもよぉ、ここら一帯を治めてる俺様に挨拶もねぇたぁどういう事だ?」

シラヌイが作った屋台でポップコーンを売っていた第二班はガラのわるい連中に絡まれていた。

ここはスラムが近く、他の場所と比べて治安が悪い。

「あ、あの、えっと、私達は…」

売り子が紙袋に刻印された家紋を見せるが、男は見もせずに破り捨てた。

「貴族だろーが何だろーが、知った事じゃぁねぇんだよ!」

男が売り子を殴った。

ガシャンと屋台につっこむ。

並べられていたポップコーンやジュースが散乱する。

「ショバ代も払わねぇよーな奴等が商売なんざしてんじゃねぇよ」

男が剣を抜き、屋台を壊そうと剣を振るった。

が、しかし。

キィン! と剣が支柱に弾かれた。

「んだコレ!? 堅!?」

男の配下も屋台の支柱を切ろうとしたが、そちらは剣が半ばから折れた。

「当たり前だろう。分子結合魔方陣を仕込んだカーボンナノチューブを幾億にも重ねた炭素棒だ。お前達の粗末な剣では欠けもすまい」

声変わり前の、男か女かわからないような声。

男達が振り向くと、そこには狐の獣人の子供がケンタウルスにまたがっていた。


「で、その屋台僕の物なんだけど、何か用かな?」

「そうかいそうかい…貴族様の道楽って訳だ………」

「んー。なんかもう、テンプレ乙っていうかやられ役っていうか…。
うーん……。まぁいいや。とりあえず王国の騎士には年齢に関わらず平時でも逮捕件があるから傷害罪と営業妨害と器物損壊の罪で現行犯ね」

トン、とシラヌイがリィンの背から降りる。

「おい聞いたか! 騎士だとよ!」

シラヌイを見て嗤う男達。

「嘘つきなガキにはお仕置きしないとなぁ!」

「まぁ騎士っていうのが嘘だとしても貴族特権で罰する事ができるけど……」

男はさすがにまずいと思ったのか、納刀して殴りかかった。

「レイヤードウォール」

男の拳の全面に幾層もの水の壁が現れる。

一枚一枚では拳など防げようもない壁だ。

「凍れ」

ピシィ! と水が氷に変わる。

男の手に層状にまとわりつく氷の枷。

体積が増えたそれが男の手に食い込み、皮膚を突き破った。

じわりと血が滲んだのと同時に、男は氷の重さで倒れた。

「メルト」

塞がれていた傷口が解放され、鮮血が溢れる。

「お坊っちゃま? 後は私が」

「いや、僕がやる」

シラヌイが倒れた男を氷で地面に縫い付ける。

そして人差し指を上に向ける。

「クリエイト・アクア」

シラヌイの真上に現れる巨大な水球。

「全員逮捕だ」

水球から伸びる水の触手。

スライムの緩慢なそれとは違い、一瞬の事だった。

巻き付き、絡み付く。

ギチギチと締め付ける水が凍り、いっそうきつく締め上げる。

「あとは巡回の兵にでも任せればいいかな」

シラヌイは売り子に治癒魔法をかけて労うと、アイテムボックスからスライムコアを取り出した。

「クリエイト・アクア」

水を得て、スライムが復活する。

「ティア。護衛を頼みたい」

「仰せのままに。ですが戦闘であればあと2つほどコアをいただきたく」

「わかった」

シラヌイがコアを追加で2つ放り込む。

「はい、服」

ティアが渡された防水服を着る。

「あとを任せる」

「はい」







【狐の知恵の実】は開店初日にして莫大な利益とリピーターを手にいれた。 
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