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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──

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緋神の巫女と魔剣《デュランダル》
  幼馴染の異変

(くだん)の騒動から1週間ほどが経過した。その間にも引き起こされてきた騒乱や事件といったものは少なからずあれど、結局は誰かしらの手によって鎮圧・解決されていくものだ。
武偵殺し騒動はさしずめ、武偵界隈に於ける卯月一大騒動──といったところだろうか。とはいえそれ以降の現在は、物々しい話を耳に入れることも激減した。個々人の話は抜きにして、表層的には平穏無事を取り戻したらしい学園島──これに過ぎたことはないだろう。

自分の周辺にも、平穏の2文字が浮かび現れているように思える。アリアとキンジとの間にも遺恨めいたものは存在しないし、周辺との関係も良好だ。そうして何より、彼──遠山キンジと星伽白雪との関係性が、どうやら以前よりも好調に向かっている傾向の見られることが、つい今しがたの平穏2文字を助長させる要因に成り得ていることも、否定は出来ない。


「なるほど、キンちゃんの昼食はお肉類の確率が高い──っと」
「おい、武偵校でその呼び名と変なメモは止めろって言っただろッ! 恥ずかしいんだよ!」


昼下がり、喧騒の渦中にある武偵校の食堂の片隅で──自分とアリア、キンジと白雪とは昼食を摂っていた。白雪のマイブームは、どうやらキンジと食事メニューの傾向を押さえておくことらしい。今も小型のメモ帳とペンとを手にして、達筆に何事かを書き記していた。そうしてキンジが自らの愛称と彼女のその奇行とを咎めるまでが、お約束の光景になってしまっている。

微笑ましいやら何やら──などと笑みを零しながら、自分は適当なパスタを、アリアは当然ももまんを、キンジはやはり焼肉定食を、白雪はサバ味噌定食を、めいめいに楽しんでいた。最近はこの4人で行動することが増えている。というのも先日、白雪がまたしても手料理を我が家に持ってきてくれたところを、偶然にもアリアが出迎えたらしい。自分やキンジとの関連もあり、白雪と何度か話すうちにすっかり意気投合したようで、今ではこんな感じだ。


「えっ、でも──キンちゃんはキンちゃんだよ? だよね? 2人とも」
「……うん、まぁ。それもそうだね」
「アタシも彩斗に同意よ。恥ずかしがらなくていいのに」
「ほらキンちゃん、2人ともこう言ってるよ!」
「あー、はいはい。分かった分かった……」


本来ならば美味しいはずの焼肉定食を、ここまで不味そうに食べられる人間が何処に居ようか。
取り敢えずはまぁ、2人はどう見ても仲の良い幼馴染ではある。ある、けれども──やはり女嫌いとか根暗とか昼行灯とか、悪い方に噂されているキンジにとって異性の幼馴染は吊り合わない存在だ、と考える人間も少なからず存在するらしい。彼本人も自覚しているらしく、『ここ最近、男子共の俺に対する当たりが強い。相手するのが面倒だ』とのことである。因みにその男子たちの共通点が《星伽白雪ファンクラブ会員》だ、ということを小耳に挟んだのは今朝の話。


「そういえば、武偵校って男女問わず人気生徒のファンクラブ会員があるんだってね」
「へぇ、そうなの?」
「小耳に挟んだから、ちょっと気になって聞いてみたんだ。男子だと強襲科の不知火くんが人気があるみたいでね。女子は男子の比じゃないみたいで、それこそ君たち2人の他にも居るみたい。探偵科の理子とか、狙撃科のレキとか、装備科の文とか、色々とね」


苦笑しながら、空になった食器をテーブルの傍らに仕舞う。さりげなくアリアと白雪の名前を出したところには、2人の反応が気になった──という下心が無かったわけではない。
案の定、彼女たちは怪訝な顔をするなり、小首を傾げるなり、どうやら自覚の無さそうに疑問符を浮かべていた。そもそも、そんな愛好会の存在すら認知していなかったのだから、その反応も当然のことだろう──行き着く先が、同胞への嫌悪にならなければよいのだけれど。


「……まぁ、あまり実感は湧かないよね。むしろ気にしないくらいが良いと思うよ。下手に気にしちゃうと、そのファンクラブを好意的に思えるならまだしも、嫌悪してしまうと──ほら、関係の無い他の生徒までも、嫌悪してしまう恐れがあるからね。そこらへんは自己の裁量で」


そんな具合の釘打ちだけをしておいてから、食器でも戻しに行こうかな──と思いかけた矢先だった。この食堂一帯に、喧騒よりも甲高い校内放送のチャイム音が鳴り響いたのは。
『2年B組、S研の……あー、生徒会長の星伽白雪ぃ。今から教務科の綴まで早急に来るように。……繰り返すぞー。2年B組、S研の星伽白雪は、綴のところまで早急に来るように』
「白雪、お前……何かやらかしたのか?」放送終了を告げるノイズ音に被せるようにして、キンジは驚愕と危惧とを綯い交ぜにした声を、白雪へと投げかけた。


「ううん、何も……。キンちゃんたちは待ってて。取り敢えず行ってくるね」
「あぁ、行ってこい。食器は片付けといてやるから」
「うん、ありがとうっ」


キンジはそう告げると、小走りに去っていく白雪の背中を見送っていた。そうして自分と白雪の食器とを両手に持つと、そのまま食器返却口まで歩を進めていく。ふとアリアの方を見ると、それなりの数があったももまんも、いつの間にか全て無くなっていた。


「何となく、キンジと白雪の関係は、以前よりも親密になった気がするんだよねぇ」
「そうなの? ……でもまぁ、アタシと話す時とは違うなぁって思うけど」
「それでも、初日から見れば改善したでしょう」


磊落に笑みを零しながら、不意に腕時計の文字盤を見る。昼休みが終わるのには、まだ数十分ほどの猶予があった。「そうだ。……どうせなら、白雪に何があったか見に行ってみない?」
食器を戻してきたキンジと、傍らに座っているアリアとに声を掛けてみる。その2人が一拍の間を置いて、「……はぁ?」と仲良く声を揃えながら訝しんだのは──言うまでもない。 
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