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魔術師ルー&ヴィー

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第二章
  ⅩⅡ


 ミルダーンは八つの区画に分かれ、それぞれを公爵が治めている公国である。
 しかし、首座にアムネス大公ことゴッドフリート=フィリップ・フォン・アムネスを据え、他七公は彼の意を汲む形で政を行っている。それはゴッドフリートの祖であるライオネル・アムネスが八つの国をまとめ上げ、善政を敷いて民を守ったことに由来し、現首座たるゴッドフリートもまた、祖を尊び、民を中心とした国造りをしていた。
 それでも王国としてではなく、飽くまで公国としているのは、他ならぬライオネルの意志であり、アムネス当主になる人材すら事細かく言い残している。
 現八公の中で、二つの家にはリュヴェシュタン貴族との血縁があり、互いに良好な関係を保って今に至る。
 その一つであるノイス家には、ルーファスを養子としたシュテンダー侯爵家との血縁があり、ルーファス自身も幼い頃に何度か訪れたことがあった。
 それ故、彼は一先ずノイス家へと向かい、当主であるマティアスと面会した。
「よぅ来られた。全く、こんなに大きくなってのぅ。最後に会ったのは…もう十年以上も前じゃな。ほんに薄情な奴め。」
「申し訳ありません。生憎、弟子と旅をしておりまして。」
「ほぅ。旅ならばこのミルダーンでも出来るではないか。時折マリアーナが手紙を寄越してくれるが、全く…放蕩息子めが。」
「本当に…申し訳ねぇからもう止めてくれよ!」
 ルーファスはもう我慢ならず、降参と言うように両手を挙げて言った。
 そんなルーファスを見て、ノイス公は大きな笑い声を上げ、ウイツもヴィルベルトも噴き出してしまったのであった。
 だが、懐かしき再開は束の間…ノイス公はルーファスらからアリシアの事と今の大陸の現状を聞かされ、余りのことに眉を顰めた。
「こちらにもコアイギス殿から詳細は伝えられておる。が…よもやそこまで大事になっていようとはのぅ…。」
「こっちにはまだ被害は出てねぇんだな?」
「少なからず妖魔は出たが、然したる被害はなかった。だが…遅かれ早かれ、アリシアと言う娘を見つけ出さねば、この国とて危うい。大公に直ぐ書簡を認める故、お主の魔術で届けてくれ。」
「分かった。」
 そう会話を交わした後、マティアスは机に向かい書簡を認め始めた。
 事は急を要する。それは誰しも分かってはいるが、何年も…いや何十年も念入りに仕立てられたアリシアの復讐劇は、そう易々とは止められない。それはルーファスだけでなく、ゾンネンクラールにいるマルクアーンも、リュヴェシュタンのコアイギスも、ゲシェンクにいるシュトゥフも…皆同じ様に考えている。そして各地で各々の役割を果たしているのである。
 だが、ここで思わぬ事態が起こったのである。
「旦那様、大変で御座います!」
 主の返答も得ず、急に扉を開いて駆け込んで来たのは、執事のマイケンであった。
「何事じゃ。ノックもせずに入って来るとは。」
「も…申し訳御座いません。ですが、只今緊急の連絡が入りまして、ダッカス公イェル・フォン・ダッカス様の館が妖魔の襲撃に遭い、ダッカス様始め…家人全てが亡くなられた様だと…。」
「…!!」
 これを聞き、ルーファスは自らの迂闊さを呪った。
「そうだ…ダッカス公はゾンネンクラール旧皇家の血縁…。っくしょう…!」
 ルーファスはその拳で壁を思い切り叩いた。
 考えてみれば、何故アリシアが大陸全土に罠を仕掛けたか容易に想像がついた筈なのである。

ー 旧皇家の血筋を根絶やしにする。 ー

 自分の出自、第二皇子の暴走から放たれた戦、実験で妖魔と成り果てた母…そのどれもがゾンネンクラール旧皇家が穢れた血筋だからだと考えたアリシアは、その血のせいで生まれ自分を憎み、嫌悪し、そして…その血の全てを呪ったに違いない。
 故に、アリシアは一滴の血さえ残したくはないと考えた筈である。
 そう考えれば、きっと彼女は全てを成し遂げて後…自らの生命をも消すであろう。
「一人よがりの正義…だが、責められんのぅ…。」
 全ての経緯を聞いていたマティアスは、遣り切れない表情を見せた。
「だが…止めねば、もっと大きな被害が出る。ルーファス、儂が許可する故、今直ぐ大公の元へ飛んでくれ。あと二人…アルテナム公とレーレン公もゾンネンクラール旧皇家の血が入っておるのだ。」
「分かった。二人は…必ず助ける。」
 そう言うや、ルーファスらは急ぎ館にある移転の間に入ると、直ぐ様詠唱を完結させ、その姿を消したのであった。
 転移先のアムネス大公の所は、正に蜂の巣を突いた様な有り様であった。
「我が主、もしや…。」
「ああ…またどこか襲撃を受けてるんだ。」
 ルーファスは三人を伴って移転の間からでると、右往左往する人の中から執事らしき人物を見つけて足を止めさせた。
「私はリュヴェシュタン王国シュテンダー侯爵が息子、アーダルベルト。大公に申し伝えたい事があり、ノイス公の元から参じた。お取次ぎ願いたい。」
 ルーファスがそう言うや、その初老の男は少しばかり驚いた表情を見せ、次には柔和な表情となって返した。
「貴方が…ルーファス様ですか。大公様より時折伺っておりました。今直ぐお取次ぎ致します。」
 彼は直ぐに四人を大公のいる執務室へと案内し、ルーファスが来た旨を伝えるや…大公は扉の外へと飛び出して来たのであった。
「よう来た!これもまた、天の采配か!」
 そう言ってルーファスの手を握りしめた。
 この老爺こそ、ゴッドフリート=フィリップ・フォン・アムネスである。
 彼の家系には、バーネヴィッツ家からの婿養子がおり、その縁から長きに渡り交流があった。現当主とも良好な関係を保ち、時を見ては互いに度々館へと招くこともあり、ルーファスも幼い時分に何度も会っていたのである。
「爺さん、元気そうだな。こんな時にしか来れねぇで悪かったな。」
「何を言うか。こうして大事の時に駆け付けてくれる…どんなに心強いことか。さ、早ぅ中へ。」
 四人は招かれるまま執務室へと入るや、大公にもノイス家で話した様に全てを話した。
「そうであったか…。来て早々悪いが、アルテナム公とレーレン公の元へ向かってはくれまいか。各々有能な魔術師団を擁しておるが、今回は妖魔の数が数だけに、かなり苦戦を強いられておる様じゃ。行ってくれんかのぅ…。」
「心配すんなよ、爺さん。なら、俺とコイツでアルテナム公んとこへ向かう。ヴィーとウイツはレーレン公んとこへ向かってくれ。」
 ルーファスがそう言うと、三人は何も返すことなく頷いて了承したのであった。
「万が一…お前達で抑え切れぬのなら、バーネヴィッツ公から王へ進言してもらい、こちらに応援を頼む手筈になっておる。故に、無茶だけはしてくれるな。」
 心配そうにそう言うゴッドフリートに、ルーファスは笑みを返した。
「分かってるって、爺さん。そんじゃ、行ってる。」
 そうしてルーファスらは再び移転の間へと行くや、初めにルーファスとアルモスが、次いでヴィルベルトとウイツがそれぞれの戦いの場へと飛んだのであった。
 その頃、レーレン公の館では、圧倒的な妖魔の数に危機を迎えていた。
「己…こんな老いぼれでも、昔はこの剣と魔術でお前達を数多屠ったものよ!そう易々と殺られてなるか!」
 そう叫びながら妖魔を端から倒しているのは、レーレン公サミュエルである。
 齢七十を越えてはいるが、その腕は衰えを知らない。しかし、数が数だけに、多勢に無勢であった。
「アッカム!そっちはどうじゃ!」
「ミラルがやられました!公は早くお逃げ下さい!」
 無数の妖魔が襲い掛かる中、サミュエルも魔術師達も必死で抵抗しているが、横で仲間が倒されても助けるだけの余裕はなかった。だが、サミュエルは諦めてはいない。
「馬鹿を言うな!仲間を見捨てたとあっては末代までの恥!」
 そう言うや、サミュエルは剣で妖魔を薙ぎ払いながら詠唱し、大規模な炎の魔術を行使した。それにより飛来する妖魔の数は減り、その隙にアッカムらの元へと駆けて行った。
「大丈夫か!?」
「はい、助かりました。しかし…。」
 空を見上げれば未だ数え切れぬ程の妖魔の群れ…地を見れば無数の妖魔の死骸と何人もの仲間の変わり果てた姿…。
 アッカムは絶望にも似た気持ちでサミュエルへと言った。
「公よ、どうかお逃げ下さい。貴方さえご無事なら、国は安泰なのですから。」
「まだ言うか!儂よりお前達の方が大切じゃ!未来を担うのは、お前達であって儂の様な老いぼれではないのだぞ!」
 そうしている間にも、妖魔は容赦無く襲い掛かるが、その場にいた全ての魔術師はサミュエルと共にそれを退けながら別の魔術師らの元へと向かう。
 そんな中、サミュエルと魔術師らの頭上で凄まじい魔術が行使された。
 一つはサミュエルが放った炎の魔術と同じだが、桁が違った。もう一つは風の魔術で、妖魔を切り裂いた。この二つが同時に行使されたため、数え切れない程の妖魔が灰燼に帰した。
「お主らは…。」
 彼らの前に現れたのは、ヴィルベルトとウイツの二人であった。ヴィルベルトが炎の、ウイツが風の魔術を行使したのである。
 見ず知らずの二人が現れたことに、サミュエルも魔術師らも驚いてしまったが、ウイツが事情を説明するや、サミュエルは溜め息をついて言った。
「そうじゃったか…あのアリシアがのぅ…。」
「アリシアがって…面識がおありのようですね。」
 ウイツがサミュエルへと問い掛ける。すると、サミュエルは済まなそうな表情を見せて返した。
「ああ…随分と昔の話じゃが…。先の戦の起こる前…もう半世紀程経つじゃろうか…。あの娘は、ゾンネンクラールの城に作られた地下施設に、半ば監禁同然の生活を強いられておった。それを知りつつも、儂には何も出来なんだ…。」
 皇国期最後の皇帝クリミアム=オットー・ファン・ゾンネンクラールの妃ヘレナは、十二の時にクリミアムに嫁ぎ、十八の時に第四皇子であるネヴィリムを産み落とした。その後、彼女は乳母に子を任せた切り、全く会いに来ることはなかったと言う。
 しかし、ネヴィリムが十一歳の時、何故か息子の寝室に入り…床を共にした。
 実の子を犯したのである。
 では、なぜそれが分かったかと言えば、ネヴィリムの寝室へとヘレナが入る所をメイドに目撃されていたからである。
 普通なら、ネヴィリムの方が気が触れて母に…会うこともなかった母と言う女性を犯したと考えられようものだが、何故そう考えなかったのか…?
 それは、この時には既に、ネヴィリムはマリアーナを好いていたからである。それはメイド達の中で知らぬものはなかった。そこにシュテットフェルトとマリアーナの婚約が正式に発表され、それを慰めようと…と言う経緯があったのである。
 だが、それを知ったクリミアムは怒り、ヘレナを地下牢へと幽閉したのであった。そこで生まれた女児は、地下牢とは反対側にあった地下の施設で乳母を付けて育てることにした。地下とは言え明り取りも多分にあり、かなり浅く作られていたと考えられる。
 子に罪はない…そうクリミアムも考えたであろうとは思うが、妻が息子と情を交わすなど穢らわしい以外の何ものでもなかった。故に…これが精一杯の温情と言えたのである。
 しかし…これが仇となった…。
 人知れず育てられたアリシアは、乳母の温もりしか知らずに育ったが、聡明で明るい女性に育っていった。心優しく、虫さえも殺すことを躊躇って外へと逃がす…それが本来の彼女の姿であった。それは偏に、今は名も知られてはいない乳母の愛情の賜物であった。
 しかし…アリシアが二十一歳の時、彼女は突如城から姿を消した。恐らく…育ての親である乳母が亡くなった事で、全てを知ってしまったと考えられた。
 当時は既に戦が始まっていたが、妖魔の研究は手付かずであった。故に小競り合い程度で済んでいたため、クリミアムは密かにアリシアを探させた。これ以上戦が大きくなれば、探せなくなることは分かっていたからであるが…結局見つけ出すことは出来なかった。
 親であるネヴィリムもまた、皇位継承権を父のクリミアムに返上して探しに出ようとしたが、それは強硬に止められている。これ以上国に揉め事が起これば、他国に侵略の機を与えかねない…シュテットフェルトを失っていることもあり、ここでネヴィリムまでも失う訳にはいかなかったのである。
 クリミアムには側妃も含め二十三人の子供がいたが、男児で成人したのは四人で、他十一人は全て女児のみが成人している。シュテットフェルトが亡くなった今、男児は三人しか残されておらず、戦が長引けばこの三人とて命が危うくなるのである。
「戦時中で女児は全て降嫁させられ、皇族以外に嫁いだ。アリシアとて、この子孫までは殺めまいて。だがのぅ…これだけ大それた事をする娘ではなかった。儂は十五の時と二十の時に会ぅとるが、実に聡明で愛らしい娘じゃった…。」
「では、彼女が出奔した時は…。」
「あぁ、儂の所にも直ぐに連絡が入ったがのぅ…。こちらも見動きが取れぬ状態で、幾人かの魔術師らを探索に向かわせたんじゃが…見付からなんだ。」
「そうでしたか…。」
 ウイツが眉を顰めてそう返した時、密かに探索魔術を行使していたヴィルベルトが口を開いた。
「ウイツさん、見付けました!この館の北西にある塔の中です!」
 ヴィルベルトが見付けたものとは、妖魔を召喚している陣である。彼は師であるルーファスが行った通りに妖魔自体を探査に掛け、湧き出す場所を探していたのであった。
 だがそれ以上に、ヴィルベルトはウイツと共に結界も張っているのである。故に、ウイツは彼の力量が自分を上回っている事に驚き、そして喜んだ。
 親友の愛弟子が優れた魔術師へと育っている…弟子のいないウイツにとっては、ヴィルベルトは特別な存在と言えた。
「よし、行こう!」
 そう言うや、ウイツはサミュエルに礼をとり、ヴィルベルトと共に北西の塔へと向かった。
 その途中には、妖魔の屍と人の屍が転がっていたが、ヴィルベルトはそれを見て何も感じていない自分を嫌悪したが、それを察したウイツはヴィルベルトに言った。
「ここは戦場だ。情は後回しにしないと生き残れないんだよ。亡くなった者達は後で必ず葬ってもらえる。だから、今は出来ることをしよう。」
「はい!」
 ヴィルベルトは自らを叱咤する様に大きな声で返答し、二人は共に先を急いだ。
 塔は五階はあろう大きなもので、その壁には蔦が這い、一番上は木々の間から僅かに見える程度であった。
「陣があるのは何階だい?」
「恐らく最上階だと。」
「分かった。それじゃ、行こう。」
 そうして二人は塔の中へと入った。
 不思議なのは、あれから…サミュエルらと別れた後から、ずっと妖魔が現れない。いや、現れはするが、然したる数ではないのだ。その上、塔の中は陣があると言うのにも関わらず、全く妖魔の気配は無かった…。
「不気味だな…。」
 ウイツはそう言うや、塔に罠が無いかを魔術で調べたが、それらしいものもまるでなかった。気にしても仕方ないと、二人は陣が描かれているであろう最上階を目指した。
 二階を過ぎた辺りから、二人は妙な気配を感じ始めた。威圧的な大きな力…上を目指す二人に妙なプレッシャーが掛かる。
「何だ…この肌を刺す様な…。」
「はい…。ずっと感じてますが、まるで師匠が怒った時の様な感じです。」
 ヴィルベルトの言葉に、ウイツは悪寒を感じずにはいられない。
 ルーファスが本気で怒ると手が付けられない。その上魔術の制御が出来なくなり、辺り一体を吹き飛ばすことさえある…。
 隣を歩くヴィルベルトは、そんなルーファスの感覚に似ていると言う…。
「なる程…。」
 ウイツは唸る様に言う。ただ、そう返すしか出来なかった。
 その後、その妙なプレッシャーと戦いながらも、何事もなく二人は最上階へと辿り着くことが出来た。
 しかし…そこに着くや、二人の目の前には妖魔ではなく、一人の赤毛の女が姿を見せた。
「貴女…アリアさん!」
 そこで待ち構えていたのは、ベズーフのギルドで受付をしていた女性…アリアであった。
「彼女が…!」
 ヴィルベルトの言葉に、ウイツも直ぐに反応して身構えた。
「なぁ〜んだ…三下しか来なかったんだ。残念…。」
 身構えている二人の魔術師にそう言うや、アリア…アリシアは二人に向かって軽く手を振った。すると、途端に二人は見えない力に吹き飛ばされ、そのまま塔の壁へと叩き付けられた。
「死んでもらうわね。どうせここのジジイから全部聞いちゃったんでしょ?マルクアーンに筒抜けじゃあ詰まらないし。」
 そう言うや、彼女は面倒くさそうに手を振る。すると、二人の肋は折れて肺に刺さり、声も出せなくなってしまった。二人の口からは血の泡が出て、魔術を行使しようにも痛みで精神が混濁し、術式を構築することすら二人には出来なくなっていた。
「ほんと、三下じゃ詰まらないわね。防御の魔術は使ってた様だけど、この程度なんてねぇ…。それじゃ、さようならっと。」
 そうしてもう一度彼女が手を振ろうとした時であった。
「光よ、矢となりて撃て!」
 何処からともなくそう声がするや、数十もの光る矢が現れてアリア…アリシアの体に突き刺さった。これには流石のアリシアも防ぐことが出来ず、叫び声を上げてその場に崩折れたのである。
 そこへ姿を見せたのは、アルテナム公の元へ行っていたルーファスとアルモスであった。
「ったく、無理すんなっつぅの!」
 ルーファスはそう言うや立て続けに詠唱し、瀕死の二人へと魔術を行使した。二人の体は忽ち回復し、それを見たアリシアは余りのことに叫んだ。
「馬鹿な!なぜお前がその術を行使出来る!」
「知らねぇよ!」
 ルーファスはそう返し、ウイツとヴィルベルトの前に立ってアルモスに「二人を護れ。」と命じるとアルモスは「お任せ下さい、我が主。」と返した。
 そうして後、ルーファスは睨み付けるアリシアと対峙して言った。
「二人を傷付けた代償、此処で支払ってもらうぜ?」
「ぬかせ、小童!」
 そうしてルーファスとアリシアは同時に魔術を行使したが、ルーファスの方が早く術が完成し、アリシアはもろにその術を喰らう事になった。
 その術は…。
「な…っ!」
 それを受け、アリシアは驚愕した。
「な…まさか…お前…」
 目の前のアリシアは、見る間に老いてゆく…いや、止めていた時が凄まじい速度で彼女に還っているのである。
 そう、ルーファスが行使したのは"解呪"の魔術であった。
「有り得ぬ!魔術師の解呪では魔は解け…」
 そこまで言ったかと思うと、彼女の躰は一気に朽ちてしまい、首が取れて床に落ち…それさえも塵となって霧散した…。
「だから…知らねぇっつってんだよ…。」
 ルーファスは溜め息混じりに、アリシアがいた場所を見詰めて忌々しげに言ったのであった。
 ルーファスの後ろで、ウイツとヴィルベルトは全てを見ていたが、余りのことに呆気に取られていた。
 アリシアの力は…恐らくコアイギスを上回っていた。いや…最盛期の大妖魔にも匹敵していた可能性があった。それを…解呪で倒したとなれば、ルーファスの力は途方も無いことになる。
 魔術には法則があり、格上には効きが悪いか通じないか…そうした術が多い。解呪も同じであり、同格以上でなくば作用しないのである。異例があるとすれば、相手が術を受け入れると宣言した時だけである。
 だが、目の前で起こったこれは、純粋に力によるものであった…。
 その事については、ウイツも考えていた。神聖術以外では不可能な「治癒」術からしても、ルーファスは完全に行使することが出来る。
 あのコアイギスにしても、ルーファスの様に治癒術を行使することは出来ない。だが、コアイギスはそれをルーファスには教えていない。ルーファス自身、未だ魔術の転用との理解なのである。
 いや…実際は気付いているのかも知れない…。
「師匠…ありがとうございます。」
「ヴィー、えらい目に遭ったな。ま、終わり良けりゃ全て善しってな。」
 そう言って弟子の頭を撫でながら笑うルーファス。
 しかし、ウイツは完全に回復した自らの躰を見て、彼が…末恐ろしいとさえ思ったのであった。何も言わぬアルモスにしても、主の力が特異なことは気付いているのであろう。
「んじゃ、帰っか。もう妖魔も出ないだろうしな。」
 そう脳天気に言うルーファスに、ウイツは苦笑しつつ「そうだな。」と返し、四人はそこから立ち去ったのであった。



 
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