| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ナナシノゲエム抗

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Episode0
  episode0-3『姉貴分』

7月26日・呪いを受ける前日
16時37分 南都大学・工学部第一講義室

達樹の思った通り、TSは理工学部の講堂にあった。
さっきまで座っていた席の机を漁ると、イエローのTSが出てきた。
「あったあった・・・。」
達樹は一息つくと、メールを確認する為にTSを開いて電源を入れた。
メールボックスに一件だけ新規メールが見つかったので確認する。相手は、「張宮まり(はりみや まり)」からだった。
メールの題名は『帰るのが遅くなる』。
内容を確認すると
「ごめんね。今日の晩御飯担当あたしなんだけど、仕事が多くて帰るのが8時くらいになりそう。先に適当に作って食べててね。あたしの分、作り置きしてくれてたら嬉しいかも」
と、砕けた文面で記されていた。

まりは、達樹が在籍している南都大学工学部の助手で、かつ昔からの幼馴染である。
達樹たちの家族が住んでいる家のお隣さんで、一人っ子であった達樹とは、よく遊んでくれた。いまでも達樹は「まり姉」、一方のまりは「タツ」と呼び合っている。もっとも同じ学校に勤務・登校している今では、公私を付けるべく「張宮先生」「笹部君」と呼んでいるのだが。
達樹が南都大学への進学が決まったとき、同じ学部だと喜んだまりは、同居を快く引き受けてくれた。なので、達樹の現住所は、まりの自宅である。

「・・・材料はまだ足りてるよな。」
冷蔵庫の中身を思い出しながら、帰りがけに足りない食材を買いに行こうと思いながら、達樹は講堂を後にする。工学部の講堂は三階にあり、階段へ向かおうとした途端、下の二階の方から声が聞こえた。聞き覚えのある声に、達樹は耳を澄ます。
一つは女性の声。この声は、まりの物だ。
もう一人は男性の声だが、これは人文学部の教授・川越悠之助(かわごえ ゆうのすけ)の声の物だろう。川越は違う学部の教授だが、同僚のまりを通じてその存在を知っている。

(この声、まり姉と・・・川越先生?また怪談を話してからかってるのか?)

オカルト好きな川越は、まりに対して怪談を話す時がある。
その怪談の内容は「人がいると思ったらいなかった」「廃屋に行ったら幽霊がいた」といったものがほとんどで、別に人が祟られた訳ではない、特に大したことのない話ばかりなのだが、怖い話が苦手なまりには効果覿面だ。
なので、この場面が達樹の近くで起こった場合、達樹は川越の話を中断させたり、まりを退避させたりしている。川越とまりが、達樹の目の届かない離れた場所にいる場合は仕方がないが。

(なんにせよ、今回も止めたほうがいいな)

やれやれと思いながらも、達樹は階段を降り始めた。

「・・・ずいぶん前から流れている話だ。一時期、この大学ではその噂で持ち切りだった」
「・・・でも、そんなの、ある訳ないじゃない・・・だって・・・」
「・・・嫌でもお前は、一度は耳にしているはず」
「・・・!」

いつもは嫌がって抵抗しているはずのまりの声が、弱々しい。
一方、川越の声はからかっている様子にしては少し硬い。

達樹は異変を感じた。
彼らの様子が、いつもとは違う。

「プレイすると一週間以内に死ぬといわれる『呪いのゲエム』のことを」
川越の何気ないような一言が、急激に重くのしかかった。
達樹がそれを聞くや否や、衝動的に駆ける。

しかし、間に合わなかった。
下の二階の廊下から、乾いた音が響いた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧