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ナナシノゲエム抗

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Episode0
  episode0-1『悲しき真実を見た左目』

午後7時25分 山道・土砂崩れ事故現場前


TSを置いてきてよかった。そう思ったのはここへ来て初めてだった。
今、雨が降っていた。
もし耐水性の無いTSを持ってきていたら、面倒な事になっていたであろう。



「・・・これが・・・」

一人の青年が地面に(ひざまず)き、呆然と呟く。彼は傘を持ってきてはおらず、薄紫色の髪の毛も服もその下も、全て雨でびしょ濡れだった。

特に、白い薄手のワイシャツは雨によってその下の素肌が透けていて、他人から見ればとても寒々しい姿だ。だが、彼はそんなことは一切気にならない。否、その事をすっかり忘れている。


「・・・これが、ほんとの・・・今まで隠れてた・・・」
彼の左目の先にいる、男が頷いた。悲しそうな顔で。男の後ろには、がけ崩れで積もった岩と土砂の瓦礫の山だ。現在この場所は通行止め及び、立ち入り禁止となっている。


これは、あらかじめ決まっていた宿命だったのだろうか。
自分の求めていた真実、それがこんなにも残酷なものだったなんて。
「ふ、ふふ。ふふふ・・・・・・」

青年の口から、声が溢れる。何でだろう、笑っている青年でも理由が分からない。

――この悲しい現実から逃れられるのであれば、何だっていい。
――心が狂ったっていい、壊れたっていい。

嗚呼、これが『陽狂(ようきょう)』というやつか。

「ふ・・・・は、は・・・ははははははははははっ!!あははははははははははは!!!」

突如、雨の矢が降り注ぐ天を仰いで、青年が大声で笑い出した。崩れたままの道路には人も車もいなかった。いるのは青年と、自身の左目でしか見えない男だけ。


やっと人並みの生活を過ごせたと思っていたのに。

あの屑共のせいでまともに作れなかった親友たちもできたのに。
もしかしたら、自分の本心を受け入れてくれたかもしれない恋人だってできたのに。

それが全部ぶち壊された。

あの忌まわしい「呪いのゲエム」が。
あの憎らしい「人間ども」が。

「は・・・ははは・・・・・・は」

笑い声は止んだ。雨は止まない。目じりに、雨とは違う熱い雫が零れ落ちる。

「・・・ユルサナイ」

ゆるさない。ユルサナイ。
許サナい赦サなイい赦さなイ許サないユルサナイ。

人間を、ゲエムを、それらを生み出したこの世の全てを。


壊せるものなら、全部跡形もなく壊してしまいたい。


倉乃小路清二が帰路に着いた頃には、土砂降りの雨は止んでいた。 
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