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ソードアート・オンライン 宙と虹

作者:ほろもこ
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13

「んで、件の部屋の主はどうだったんだ?」

 二人の無謀はともかく見た目から何かしら敵について推理することは出来るだろう。蟹っぽいとか、騎士風とか、そういう情報だけでも多少は対策のしようがあるというものだ。

「えーっと、見た目は悪魔風だったな。パッと見、武装は大型剣だけ。もちろん、これだけじゃなんの参考にもならないだろうけどさ……」
「これだけ上の層だから、特殊能力もあるだろうし……。青い炎の台座とかもあったから、ブレスとか持ってるかも」

 キリトの挙げた情報に追加する形で、アスナも自身の推理を述べていく。今回のボスは悪魔系モンスターということだが、今までボスモンスターに悪魔型はいなかった。これまでもそうだが、今回もまた苦戦を強いられる可能性が高そうだ。

 悪魔の特殊能力とすると、俺に思いつくのは呪いなどの鬱陶しい類のデバフ攻撃だろうか。別に直接的なHPに干渉する毒系のデバフではないが、全身にずっしりとした倦怠感と、著しい筋力と敏捷のパラメータの低下が厄介だ。ソロで食らうと文字通りの絶体絶命に陥る。

「なるほどな……今の話だけだと、タンクが結構必要そうな感じか。それも盾持ちの」
「だろうな。ガードしてスイッチして、を繰り返していくしかなさそうだ」
「あ、そういや、名前は見なかったのか?」
「見たよ。確か……The Gleameyes だったかな」
「The Gleameyesね。直訳だと……光る眼、か」

 脳裏に浮かんだのはギョロっとした眼を持つ、典型的な悪魔羽を広げたモンスター。しかし、それでは大剣の説明がつかない。そういう悪魔は大抵、ひょろ長いことが多い。大剣を持つような膂力があるようには思えないからだ。ということは、二足歩行型の、山羊頭な悪魔だろうか。それだと、一応大剣を持っているようなイメージは出来る。

「大剣持ちだったら、俺は打ち合えるかもしれんな。相手のステータスにもよるけどよ」
「エネバの筋力値は、反則級だからな。まあ、確かにあり得るかもしれない」

 苦笑しながらキリトは肯定する。俺の筋力値は、攻略組の中でも飛び抜けている。かの聖騎士ですら、エネバというプレイヤーの筋力値だけは認めているという噂が流れるほどらしい。自身ではそんな自覚はないのだが。

確かに高いのは高い。今の俺の愛剣、ブラッド・ツヴァイの装備要求値を攻略組最古参のキリトが満たせないのだから。もちろん、能力構成に違いがある、という点では装備できなくて当然なのだが。とはいえ、現在のキリトの主武器であるエリュシデータも大概な化け物だ。初めて持たせてもらった時は、片手剣でこの重さは異常だ、と感じた。

「そういや、二人はもう飯食ったのか? もしないっていうなら……ってそんな心配はいらねえか」

 一応いつでも食事に困らないように簡易調理器具はいつでもストレージに入っている。ないなら適当に作るという意味での提案をする前に、二人の片割れのスキルを思い出した。

「大丈夫よ、エネバ君。私、お昼持ってきてるから」

 ニコッと微笑んだアスナは右手を宙に走らせる。グローブが明滅して消えると、今度はバスケットが実体化した。どうやら俺の予想した通りらしい。勿論、その中身も。

「なぬ。聞いてないぞ。いや、ありがたいけど。そ、それで……手作りですか」

 キリトの言葉にアスナは返事をしなかった代わりに、澄ました顔で少しだけ口元を綻ばせる。バスケットの蓋が開くと、そこには俺の物とよく似たサンドが数個収められていた。

「ちゃんとグローブ外してから食べるのよ」
「お、おう」

 キリトとアスナは少し遅め———といっても俺と大差はないが———の昼食を取り始めた。二人が食べているのはどうやら俺と同じくサンドのようだ。当然ながら味付けは違っているはず。

 二人が食事を取っている間は、自分のスキル上昇具合を確認したり、今日の探索でドロップしたアイテムの処理等をしていた。メインメニューの窓を閉じると同時に、キリトがなにやら興奮している様子で、俺に力説してきた。

「何をそんなに騒いでるんだよ」
「エネバ!! アスナはすごいぞ……天才かもしれない」

 興奮した面持ちで、キリトは半分以上無くなったサンドを見せてくる。

「キリト君、持ち上げすぎだって」

 少し頬が赤くなっているアスナは、キリトの肩を軽く叩いて抗議しているが、当の本人はまるで聞いていないらしい。

「ふーん?」

 かなりの興奮具合だ。アイツがここまでの喜びというか、感激に近い感情を表すのはかなり珍しいので、俺も意識しないうちに眉が持ち上げる。

「このサンドウィッチの味付け、醤油ベースなんだって!!」
「何!? 醤油だと!?」

 あぐらをかいて座っていた俺は、その単語一つだけで衝撃が走り、思わず立ち上がった。

何を隠そう、このゲーム、もちろんモデルはいわゆるファンタジー世界だ。そのため、和食といった概念がほとんどない。醤油や、現代的な調味料であるマヨネーズやケチャップ、ソースというのは滅多にお目にかかれない、下手をすればS級食材よりも貴重なものなのだ。

「アスナ……お前、マジか。天才じゃねえか。俺でも醤油は作ってないぞ」
「うん……でも、これだけの試行回数を重ねると、ね」

 ウィンドウを開いて、可視化して見せてくれた料理履歴には、うんざりするほどの回数の履歴が残っている。これには、さしもの俺も白旗を上げざるを得ない。

 その後、同じく料理スキルを持つアスナと意見交換した。醤油の味見や、同時に持ってきていたマヨネーズに感動したり、また、こちらの調味料を提供したりと短い間ながらも、非常に楽しい時間だった。

 安地部屋は、原則モンスターは発生しない。加えて進入不可だ。そこに入れるのは、プレイヤーだけである。今しがた、俺たちのいる安地に入ってきたのも、俺たちの知り合いだった。

「おぉ! キリトじゃねえか! なんだ、エバも一緒か」
「なんだとはなんだ。酷い言いようだな、クライン」

 ちなみに、彼は俺のことを唯一、エバと呼ぶプレイヤーだ。その名をクライン。ギルド《風林火山》のギルドリーダーで、中層時代にレベリングを一緒にしたこともある友人。ちなみに、エバと呼ぶのは単に言いにくいから、だそうだ。確かに言われてから、エネバという名前は言いにくいな、と気づいた。これならまだリアルネームを使った方がマシだったかもしれないとさえ思ったほどである。やはり日本人には少し響きが特殊だったのかもしれない。

「まあ、なんだ。ギルメンも揃い踏みか。ここまでお疲れさん」
「おう、サンキュ。この先はもうマッピングしたのか?」
「ああ、ボス部屋までな。俺は見てないけど、こいつ等は見てきたらしい。チャレンジ精神旺盛なこって」

 俺は苦笑交じりに親指で二人を示す。

「ほぉ……で、どんなボスだったん……」

クラインがキリトの隣に立つ人物を視界に収めた瞬間、奴は固まった。そこに立つのは言わずもがな、血盟騎士団副団長であり、現在キリトとコンビ中の女騎士ことアスナだ。

「おい、どうした、クライン。ラグってんのか?」

VRならではの皮肉を投げかけるが、未だ反応がない。俺は、肩を掴んで揺らすか、と思い近づく。しかし、俺が肩に手を掛ける前に、クラインは目にも止まらぬ速度で、アスナの眼前に移動していた。AGI型と言われた方が信じられるくらいの速さだった。

「こっここ、こんにちは!くく、クラインという者です二十四歳独身」

 どさくさに紛れて始まったクラインの唐突な自己紹介は彼が言い終わる前にキリトが一発パンチを叩き込んで黙らせた。

 しかし、クラインだけには留まらず、彼のギルドメンバーである他の五名さえ次々に自己紹介をし始める始末。男衆に囲まれるアスナを助けるのは、キリトの役目であろうと思って俺は一歩引いて傍観していたが、流石にこの状況には呆れてしまった。

 しかし、楽しい雰囲気を壊してしまう出来事が、すぐそばにまで迫っていることを、俺は聞き耳スキルで悟った。奴らとの邂逅は、間違いなく穏便に終わるわけがないのだから。 
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