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ソードアート・オンライン ー合わさる剣は2つの世界を一つにしてー「ある科学者とある剣士の物語」

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最終話「ゲームクリア」

「ゲームクリアおめでとう。片桐 謙也くん」
 その男は当然のように現れた俺のよく知る男、茅場 晶彦だ。
「ああ、茅場さん、あんたやっぱ死んでないのか?」
「いや、私の肉体はもうこの世にない、これは私の残滓だよ」
「ふうん、そうだ、アスナさんとキリトさんは?」
「大丈夫、クリアしたのはあの二人も大きく関わっている。それにアバターの本人の肉体が死ぬのはHPバーがゼロになって24時間後だ。多分知ってると思うがこのゲームには時間制限とかなりの高難易度の蘇生アイテムも存在する。まあ、ナーブギアの性質上、仮想空間内でのアバターのHPバーと本人の肉体の生命活動を連動させると面倒なことになるのでね、システム上2つは、いろんなシステムを介在してつながってはいるがアバターのゲームオーバーイコール肉体の死というふうには出来なかった」
「じゃあ、なんでこのゲームで死んだやつは死ぬんだ」
「それも結局ナーブギアの性質なんだよ、この仮想空間を現実のものに近づけるため、脳をすっぽりと高密度のマイクロ素子で覆ったのはそれによって得られた脳波を仮想空間でアバターに反映させるためだよ、リアリティの追求がプレイヤーの死を招く、矛盾はしていないだろう」
「茅場、あんたは一つ間違いを起こした。人の空想は他人の血で汚れるとそれは空想ではなくなる、それは狂喜思想というものになる。ナチズムとか魔女狩りとか知ってるだろ?
あんたの空想の城の話は俺は好きだったけどこんなことが本当にあんたの描いた世界なのか?それであんたの世界は完成したのか?」
「片桐くん、私はどうすればよかったのかな?私は空想家として君の心に残ったのだろうが私にはその副産物、ナーブギアがあるのだよ、ナーブギアは恐ろしい道具だ、人に仮想世界とかいう現実と遊離させた世界をみせる、その技術を悪用すれば、本当にSFによくあるような話が未来に起こることになる。現実と夢がごっちゃになり、自分と他人の境界線が曖昧になれば人の精神性など意味をなさなくなる」
「そうだな、あんたには責任がある、こんな道具を作ってしまった責任が、けど俺ならもう少し違うものを作ったろうな」
「何?」
「アナログだけど、自分の記憶やイメージをそのまま、形や空間、世界に投影する技術。アニメとか映画とかゲームとかどれもすごいんだけど、臆病な俺には眩しい世界だった。
それよりも自分の世界をそのまま、ひっそりと残せるような技術を俺は思い描いていた。俳優や大金のかかる大掛かりなものではなく個人が自分のイメージや記憶をそのまま、この世界に異世界を作るように作り出す。それがどんな形をしているのかはわからない俺もこの世界でいろんなことをやりながらそんなものがもしあったらと思いついただけだけどな」
「なるほど、私よりも具体性にかける意見だが考慮してみる価値のある意見だ。新たな表現方法の確率が人間の可能性を次の次元へ、か。まったく世の中を知らない若造の発想だ。がそういう何者にも縛られない感性を忘れていたかもな。まるで子供のような。どうしてかな私も持っていたはずなのに」
「茅場さん、ぼくはまだ子供なんですよ、あなたのように自分の世界をこの現実に本気で創り出そうとしたとき物質世界はいろんなものをあなたに背負わせたはずだ。あなたは世界を創り出せる側に行ったんです。それで大人になれてなければ、このナーブギアだって初期不良でこのデスゲーム自体に致命的な欠陥を残すはめになる。空想を形にするのは、子供から大人になる、そういう二面性を持ってるんだと思います。だからといって子供の気持ちを忘れているわけではない。結局、上昇思考、自分は人よりも優れたものになろうとする。それよりも下降思考、人と自分は同じ人間である。別に人より優れたものになろうとせず、いつも人といやそれより下の目線で人と付き合う世界に向き合う。そんな思考があってもいいと思うまあ、だってそんな人ばかりだと疲れませんか?こっちが疲れてんのに「何ネガティブになってんの?ポジティブにいこう!」とか少しは休ませてくれとおもいませんか?」
「ふむ、くっくっくはっはっはやはり君の話は面白い、実はね、君と仕事の帰りにお茶をする時間はいい私の気分転換のひとときだったよ。君の子供っぽいところがかなり助けられた、しかし肉体がなくなってまだ私は君の話を楽しみにしている」
「で、ぼくの前に現れるとき。あなたはいつも話すべきこと、話題を一つは絶対に用意している。今までの話はただのおしゃべり、あなたはぼくから聞きたいんでしょう、なぜあのシークレットコードをぼくが使えたかそうじゃなきゃこの物語は終わらない」
「そうだ、私はこのコードは誰にも教えてない。どうしてあのとき、「内蔵上げ」をする余裕があったんだ、私はコンマ0秒に近い速さで動いたはず、内蔵上げは準備二時間のかかる技だと思うが」
「なんのことはない、私も加速世界を体験したことがあるんですよ、ていうかそれそんなに特別なことですか?よく風邪で寝込んだとき、周りがものすごくゆっくり感じたり逆にはやくかんじたり経験したことありませんか?体が危機に瀕するとたぶん脳が活性化するんだと思うんです。で、ぼくが実験のとき、一度だけものすごい高エネルギーがぼくのナーブギアに流れたことあったでしょう、あのときぼくは加速世界を体感し同時に未来視を体感したのです。そこでは加速世界を舞台にした対戦ゲームをナーブギアのようなものにインストールして遊ぶそんな未来のヴィジョンを見たんです」
「ふむ、そのゲームの作者は?」
「いや作成者がわからないんです」
「くっくっくそうか、そうだったか、いやこれは」
「あと、ぼくのもう一つの力、ステータスの裏コードの可視化、茅場さんはユイというAIプログラムを知ってますね」
「ああ、感情のサポートを目的につくられたものだ、わたしが創った世界も現実ではない、似ているだけで違う、この仮想現実に違和感を感じてものすごい精神をやられる人間が出たときのためのAIだった。けどうまくカーディナルもわたしも使うことをしなかった。このソードアート・オンラインに絶対の自信があったからね。それは私自身がログインした時に実感した」
「そのユイはキリトさんたちの感情パラメータの数値の高さに自分を崩壊させるまえに二人の前に現れたんですよ、ぼくはその時彼女のステータスの裏コードがあるのか確認してもらったのさ、そしたら、ぼくのアカウントに可視化された全ログインされた全員の裏コードとこの世界に使われてる基本的な変数のいくつかを表示させる機能を拡張してもらったのさ」
「なるほど、開発段階で私のチームにいただけのことはあるな、プログラミングには素人の君がそこまでやるとは負けたな」
「あなたが世界を構築する側なら、その世界を感知し予知する存在は必然的に必要になる、それがキリトさんたちの前に現れたことは不幸中の幸いだった」
「そうか、まもなくだ、全プレイヤーのログアウトが終了する。何ヶ月も君は実際の肉体を動かしてない、向こうでいきなり無茶をしないことだ」
「分かってるさ」
「それでは、さようならだ、片桐くん、いやジン」
「ああ、茅場先輩、いやヒースクリフ」
 気がつくと、暗い病室で視界がだんだんはっきりしていく。俺は帰ってきた。
「やあ、君が片桐くんだね?」
「あなたは?」
「わたしは大宮という、君のナーブギアからログインのランプが切れているのを知らされてねここの医者だよ」
「ああ、そうですか、ここはどこの病院ですか?」
「ああ、ソードアート・オンライン開発研究室に併設された病院だよ」
「!な!?」
「静かにしたまえ、となりに君の恋人が寝ているんだから」
(な、レイ!?)
「君は知らなかったろうが、開発研究に携わっていた未成年は君の他にもうひとり、超天才AIプログロマー、量子力学の博士号をもつ才女。雨宮 光(あまみや ひかり)彼女は有能すぎた、研究室で彼女を知らないものはいなかったし、やっかみもひどかった、いやあ、わたしなんか助手たちの前でこっぴどくフラレてね、私のような不健康で鬱屈した人間は大嫌いだというんだ、仕方がないじゃないか、わたしは医者で毎日毎日、患者の悩みや苦痛を否応無しに聞かされる、挙句の果てには「先生は結局わたしがどうなってもいいんでしょ」だあ!ふざけやがって、俺だって必死に患者のために睡眠時間だって削ってきたのにみんなおれに感謝すらしない。なぜだ、俺はエリートだ!人よりも何倍優れている、医者だぞ、誰でもなれるわけじゃない、選ばれた奴だけがなれるんだ。何がデスゲームだ、てめえら、自分はものすごい世界から生きて戻ったとか思ってんだろ?残念でした、ここでお前の人生は終わるんだ。おらあ、肉体がまだうごかねえだろ?そりゃそうだ、おまえは何ヶ月も寝たきりだったんだ!武術家としては結構な腕前らしいなあ、さあ、最後は剣士さまらしくメスで殺してやらあ」
「うあああ!」
 俺がとっさに出した技、無刀取り、俺の体はたしかに寝たきりだった、けど死ぬ気で練習した技は死なないもんだ、どんな状況でもこれだけは俺を裏切らない、瀕死の戦士をなめてかかるとどうなるか。
「う、ううう!メスを!どうやった?何故動ける?」
「ふう、きついな、体の筋力が衰えるとこうも動けないもんか、けど俺はな、向こうで自分のリミッターを外す方法を知ったんでな、ちょっとそれをつかってみた。ふうんメスか初めてもったけどこんなもんで体を切り刻んで病気が治るのか、で?おまえは俺にどうしてほしい?俺の専門は人をどう切り刻んだら死ぬのかってことなんだが?」
「ひ、ひいいい!」
「この病院は、うんこれか」
 俺は緊急呼び出しのナースコールを押した。この病院は普通の病院と違って最低限の医者しかいないはずだ、だから他の病院にこのボタンで急病患者の知らせが届くはずだ。あとは、
「よ、レイ」
「ん、あれ。あ、ジン!」
 そこには、レイの面影のある女の子が寝ていた。たった今、眠りから覚めたようだ。しかし、髪の色は金色、目は青い、けどどことなく東洋人の顔つき。ハーフだったのか……
「おまえ、博士号とか聞いてねえぞ。」
 レイは何も言わずにそこに微笑みながら自分を誇らしそうに見ていた。
「ヒースクリフに挑んだジン。かっこよかったよ。それに」
 レイが俺の頬をやさしく触る。
「刀傷。これ、それにここ、SAOの研究室だよね。ていうことはあの医者の併設された病院だよね?ここ、ということは。ああ!やっぱりあなたは私の騎士なんだね……!」
 そしてぽつりぽつりと自分の生い立ちを話し始めた。
「わたしね?自分の才能に誇りを持ってた、けどよってくる人たちはみんな私を肩書とか才能で見るの、そんな毎日が嫌で引きこもろうとしたときにこの研究室で作られているこのゲームを知ったの、当然ベータテスターにはかなりの運と時間が必要だけど私の能力があれば、一台くらい一般のテスターとして貸してくれるかもって思ったのわたし、昔はひきこもりだった。お父さんはポーランド人で物理学者でお母さんは日本人、レイピアの英才教育で私を拘束したわ。ハーフの私は、日本で生活するには人一倍教養やいろんな素養が必要だって言ってた。でもそんなの嫌だった。死にたいほど。結局、部屋に引きこもって一日中パソコンで自分の一番興味のあることを調べる毎日だったわ。この世の中は自分の見方一つで、なんとでもなるという量子力学の世界に。それで量子力学の知識をあさっていたらある日ネットに出した論文がそのまま、賞をとったわ、そしたら、ものすごいお金とそれからいろいろな機関からオファーが来て引きこもっていた自分に愛想がつきてたとき、こんなに自分を必要としてくれる人が画面の向こうにいることを知ったの、私は決心して家を飛び出したわ。で、今こうして自慢の彼氏に二度目の命を救ってもらっちゃった。ありがとう」
 二人で見つめあっている時間はしばらく続いた。なんだか二人は気恥ずかしくなった。よく考えたら実際に会うのは初めてなんだよな。こうやって二人でいるだけでここは現実であっちは夢みたいなものだった。そんなふうに改めて実感したからだった。
 そして、ちょっと照れながらジンがいった。いや、ちょっとじゃないか。顔が真っ赤だ。
「なあ、レイ。その、おれがちゃんと責任がもてるまではって思ってたけどそれって俺のことを信じてるお前のこと信じてやれてなかったってことでさ。でも今なら、大丈夫どんなことになっても俺はおまえの手を離さない、だから・・・・・・な?」
「うん、……しよ?」
「ああ」
そのまま、倒れ込むように唇を重ねた。
「あ、あれ」
「ん?どうしたの」
「い、いやたつものはたつのだが。か、体が動かん」
「はあ、わたしもそうね、あれだわ、寝たきりだったんだもんね」
「なんだよ、ちくしょう」
「いいじゃない、こうして体を重ねているとホッとする。私達帰ってきたんだね」
「ああ、これでもう本当に終わりだ」
 遠くでサイレンの音がなっている。僕らを保護するための救急車の音だろう。
 なんだか安心してぼくらは意識を失った。
 あ、あの医者がまだいるんだよな。
「片桐さん、雨宮さん大丈夫ですか?救急員のものです!大丈夫ですか?」
 たくましい女性の声だ。ああ、大丈夫だ。
 
 あれから結局いろいろあった。俺たちは一緒の病院に移送された。あの狂った医者はおれたちだけをSAO関係者として隔離するべきだとわけのわからない論理で、あの病院に移したらしい。俺たちの家族がかなり毎日見舞いに来るのであの医者なかなか手がだせなかったらしい。
 結局、俺の証言と雨宮(まだ光と呼ぶのは抵抗がある)の証言で警察に事情聴取されたとき、あっさり犯行を認めたらしい。
 それから俺はSAO関係者をまとめて置いたほうがいいという政府の意向によって特別処置でSAO被害者の学校に雨宮と通っている。(そのえっちはまだできてない)
「よお、待った?」
「ううん、謙也くんは?」
「今きたとこ、雨宮、今日はここに行きたいんだ」
「しかし、ひかりが、ハーフだったとはな。俺、初対面の時すごく驚いた」
「母方のおばあちゃんがイギリス人なのよ」
「へえ、そうなんだ。でも綺麗だぜ。その髪と目」
「えへへ。ありがと」
「さ、行こうぜ」
「うん、でも日本武道館?古武道演武会?あのねえ、レディをつれてくところかしら」
「い、いや他流の型を見るのはとてもいい稽古に」
「デートでしょ、稽古じゃなくて」
「あ、うん」
「じゃあ、こうしよその雨宮っていうのを下の名前で呼び捨てで呼べたら付き合ってあげるでもそのあとわたしの行きたいところにも付き合ってよ」
「わかったよ、その、ひ、ひかり」
「ようし、じゃあいきましょ謙也くん?」
「な、なあひかり?お前の行きたいところって?」
「量子力学の権威が日本に初来日なのこの講演は見逃せないわ」
「そ、それって」
「なにか?」ひかりの笑顔がこわい。
「わ、わかった。付き合うよ」
「ちゃんと聞いててよ?あとで意見交換したいから」
「へ、へーい」
 その日の空は雨上がりで虹がかかっていた。ひこうき雲が夏の積乱雲にすうっと消えていった。僕たちの剣の閃光は夏の空に2つの違う軌道を描いていた。     完
                                       
 

 
後書き
この後、もう少し続きます。乞うご期待! 
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