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戦国異伝供書

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第四十五話 影武者その一

               第四十五話  影武者
 武田の軍勢が再び来たと聞いてだ、小笠原は村上に言った。
「間違いなくな」
「うむ、武田殿はな」
 晴信自身はとだ、村上も言葉を返した。
「先の戦の傷でな」
「出陣しておらん」
「間違いない」
 村上は確信を以て言い切った。
「それはな」
「あれだけの傷じゃ」
「それでは命を拾ってもじゃ」
「そうそうな」
 まさにというのだ。
「動ける筈がない」
「そうじゃ、武田の軍勢は確かに強いが」
 それでもとだ、小笠原はさらに話した。
「幾ら何でもじゃ」
「総大将がおらぬとな」
「違うのう」
「それだけで兵の士気が違う」
 そうなるというのだ。
「だからじゃ」
「この度は」
「武田殿はおらぬ」
「その分戦いやすいな」
「幾ら武田の軍勢でもな」
 彼等が強いことは確かでもというのだ。
「それでじゃ」
「楽に戦えて」
「そのうえでな」
 さらにと言うのだった。
「守りきれる」
「今は守りきり」
「そして機を見て」
 そうしてというのだ。
「領地を取り戻そうぞ」
「武田の攻めを凌ぎ相手に隙が出来れば」
「その時にな」
「今はそれがよい」
「そうじゃな」
 こうした話をしてだった、二人も出陣の準備に取り掛かった、しかし出陣しても誰もが安心しているところがあった。
「武田は総大将が出られぬ」
「前の戦で怪我をした」
「なら大丈夫じゃ」
「その分戦いやすい」
「今回は楽じゃな」
「楽な戦になりそうじゃな」
 こんなことを話していた、出陣しても。それで何処か緩みがあった。
 だが武田の軍勢は違っていた、晴信はまずは軍を林城に入れてそのうえで己の前に揃っている諸将に話した。
「ではな」
「はい、これよりですな」
「これより戦ですな」
「砥石城に向かう」
「そうしますな」
「既にじゃ」
 晴信はさらに話した。
「敵は出陣しておる」
「そのことですが」
 山本が言ってきた。
「村上殿と小笠原殿は主力を以て」
「こちらに来ておるな」
「その数七千」
 これだけの数だというのだ。
「この度も我等の半分以下です」
「数では相変わらずこちらが優勢じゃな」
「しかしです」
「やはり士気は高いな」
「かなりのものです」
 晴信にこのことを言うのだった。
「ですから上田原の時と同じくです」
「迂闊に攻めてはな」
「思わぬことになります」
「だからわしはあの時傷を負った」 
 その上田原での戦のことをだ、晴信は自分でもわかっていてそのうえで山本に対して確かな声で返した。 
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