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至誠一貫

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第一部
第二章 ~幽州戦記~
  十三 ~并州~

 行軍の最中。
 私は、月と轡を並べて進んでいた。

「月。并州について聞きたい。私は、ほとんど知識がなくてな」
「はい……お、お父様」

 当初は『歳三さん』と呼んでいたのだが……丁原の遺言を思い出したのか今朝方、何気なくそう口にした。
 慌てて真っ赤になり、しきりに謝ってきたのだが。
 ただ、呼び方は皆の自由に任せている。
 元々が我が娘同然に、と考えていた。
 それ故に月の好きに呼ぶように、と答えておいた。
 何度か呼んでは慌てるを繰り返していたので、詠が呆れ返るのみ。
 華雄はどうしていいかわからぬのか、右往左往していた。
 ……どうやら、やっと慣れてくれたようだが。

「并州は、大陸の北部に当たります。洛陽や長安にも近いですね。中心は晋陽という街です」
「ほう」
「また、異民族である匈奴に接している為、諍いも少なくありません。丁原おじ様はその点、彼らと上手く付き合っていたみたいです」
「風土はどうか?」
「決して、豊かとは言えません。冷涼なので、麦や蕎麦ぐらいしか育ちませんし、だから人もあまり多くはありません」
「ふむ。後は人材か……」

 丁原は、留守居の将は頼りにならぬ……そう言っていた。
 だが、全く人なし……と言う訳ではあるまい。
 仮にも、如何に朝廷の命とは申せ、この乱世に本拠地を空けているのだ。
 最低限、統治と治安に支障のないあたりにはなっている筈。

「月は、恋以外は并州の者とは面識がない……そうだな?」
「はい。刺史交替もまだ日が浅いですし、私に仕えてくれていた方々は、ほとんどそのまま、私の軍に来ていますから」

 私は振り向き、恋を見る。

「恋。留守居の将で、知っている名はないか?」
「……(フルフル)」

 ううむ、わからぬか。
 だが、丁原は并州に行けばわかる……そう言い残している。
 今際の際に、私を無意味に謀るような真似をするような人物とも思えぬ。
 第一、それでは月までもを危機に陥れる事になるだろう。
 そう考えれば、やはり誰かが、丁原の策を遂行している……そう考えるのが妥当。
 少なくとも、それだけの才覚があり、人望も備えていなければなるまい。

「お兄さん。どうやら、ご心配みたいですねー」
「……顔に出ていたか、風?」
「いえいえー。この程度、察するようでなければ。お兄さんの愛人は務まらないのですよ」
「へ、へう~。 風ちゃん、大胆だよ……」
「ちょっと風! 月の前で、おかしな事言うんじゃないわよ!」

 また、いつもの騒ぎか。
 緊張感ばかりでは身が持たぬが、どうにも調子が狂う事がままある。

「稟。事前に、晋陽だけでも様子を探っておきたいと思うが……どうか?」
「御意。では、間諜を向かわせ、様子を探らせましょう」

 やはり、この時代でも情報の重要性は変わらぬか。
 ……となると、山崎のような、諜報を任せる奴が必要だな。
 しかし、奴のような者が、果たしてこの世界にいるであろうか?
 もしいるならば、何とか我が麾下に招き入れたいものだ。

「主。私が参りましょう」

 と、星が名乗り出た。

「星。何もお主が出向かずともよいではないか?」
「ふっ、愛紗よ。私は主が一番の槍。常に、先駆けとなる事こそ本望なのだ。主、宜しいですかな?」
「……よかろう。風、手の者を数名、星につけよ。情報収集は、お前が得意とするところであったな?」
「ではでは星ちゃん。すぐに選抜しますので、その間に準備していて下さいねー」
「わかった」

 些か、大仰に過ぎるやも知れぬが。
 ただ、星は腕は無論の事だが、身軽さでは我が軍随一。
 それに、危機に陥っても切り抜けるだけの才覚を併せ持つ。
 ……むしろ、適任やも知れぬな。



 軍は、粛々と并州に入った。
 確かに、寒々とした印象を受ける土地だ。

「歳っち。誰か、向かってくるみたいやで?」

 霞が、地平線の彼方を指さす。

「見えるのか?」
「ウチらは、遠目が利かへんとあかんやろ。騎兵は、速さが命、ちゅうこっちゃ」
「どれ」

 双眼鏡で見てみると、確かに数名、此方に向かって来るようだ。

「お兄ちゃん、星なのか?」
「……いや、違うな。見慣れぬ将らしき男が二人。それに、兵が四名だな」
「どうするのだ、歳三。その人数では、どこぞの斥候ではないのか?」

 華雄は、落ち着いて言う。
 愛紗、鈴々、そして星に代わる代わる武を鍛えられ、私が将としての心構えを叩き込んだ。
 結果、次第に変化が現れ始めた。
 その一つが、このように冷静さを得た事。
 もともと、武の素養は高い上、心根も素直だ。
 ただ、誇りが高過ぎる上に、己の武を恃むあまりに、先走る傾向があった。
 それを少しずつ、だが確実に変えていく事にしたのだ。
 ……今や、月は、暴虐の象徴ではない。
 掛け替えのない、我が愛娘。
 ならば、その身の安寧を図るのが、親たる我が務め。
 詠が傍にいれば、悪辣な陰謀からは逃れる術もあるだろう。
 だが、武はやはり、優れた者が傍にいるべきだ。
 霞は武人としても超一流だが、彼女の本領はやはり、騎兵を率いての、将として在る事。
 華雄には、月の親衛隊長として、常に傍にあって貰いたい。
 それが、本人に取っても、一番だろうからな。

「いや、暫し様子を見よう。もし、不審な動きがあれば、その時は華雄に行って貰う」
「うむ、わかった」

 頼もしげに頷く華雄を見て、月も目を細める。

「月。晋陽に着いたら、華雄の名の披露目と参ろうぞ」
「ええ、お父様。……気に入って貰えるといいのですけど」
「心配要らぬだろう。佳き名と、私は思う」
「……ふふ、じゃあ、大丈夫ですね。お父様の美の感覚は、超一流ですもの」

 そう言って、月が微笑む。

「そうか?」
「はい。……あの、今度、詩吟を教えて下さい」
「詩吟? しかし、私が嗜むのは、俳句と呼ばれる短い歌だが」
「いえ、それがいいのです。朗々と歌い上げる詩吟もいいのですが、お父様の俳句というもの、私も覚えてみたいのです」
「わかった」

 私の拙い発句を、まさかあの董卓に伝授する事になるとは、な。
 ふふ、本当に人生、何が起こるかわからぬ。



「申し上げます。晋陽よりの使者が参りました」
「使者とな」
「はっ。如何しましょう?」

 伝令の兵を前に、皆は私を見る。

「いいだろう。ここへ通せ」
「ははっ!」

 入れ替わりに、先ほど双眼鏡で見た将二人が、入ってきた。

「土方歳三殿、ですな?」
「如何にも。貴殿らは?」
「はい。拙者は、高順と申します」
「私は、臧覇と申します」

 陥陣営に、八健将の一人か。
 ……丁原め、何処が信ずるに足りる者がおらぬ、だ。

「拙者の名を存じているところを見ると、丁原殿のお指図と見たが。如何?」
「はい。ご明察の通り、丁原様の遺命により、馳せ参じました」
「今後は、如何様にもご指示を」
「……そうか、では早速だが。我ら、丁原殿の遺志に従い、ここに参った。并州を頼む、との仰せであった」
「……はっ」
「無論、これは仮にお預かりしたもの。時が来れば、朝廷に返上せねばならぬが、今は民を安んじる事こそ第一。故に、このまま晋陽に進もうと思うが」

 二人は、ジッと私を見る。

「何か?」
「……いえ、丁原様の書簡にあった通りの御方と、お見受けしました」
「いかに丁原様の遺命とは言え、この目で確かめるまでは……我ら、そう思っていました」
「では、貴殿らの眼には、私は合格である、と?」
「はっ。拙者、武骨者なれど、存分にお命じ下され」
「丁原様は、私共を見込んで、あのような遺命を下されたのです。ただ、民の上に立つ術は知りません。貴殿を信じ、従うとします」
「わかった。ならば二人とも、頼りにさせて貰う」
「ははっ」

 私の知る二人の通りなのかはわからぬが、名の通った人物は、今のところ相応の才覚を見せている。
 ふむ……。
 何となく、私は恋に視線を向けた。

「……何、兄ぃ?」
「あ、いや……」
「……?」

 首を傾げる恋。
 恋の直属として、二人をつけるという手もあるな。
 勿論、二人の人物を見定めて、の話だが。

「歳三様。そろそろ、出立しても宜しいでしょうか?」

 稟だけでなく、皆が私を見ていた。

「そうだな。進軍を再開する、高順と臧覇は、案内を頼む」
「ははっ!」



 進軍の最中。

「こ、これを御大将に!」
「オラが獲った猪。皆で食べてけれ!」

 住民から、差し入れが頻繁に来ていた。

「高順。どういう事なのだ?」
「はっ。晋陽に着けば、おわかりかと存じます」
「だが、ここは丁原殿が治めていた期間はほんの僅かと聞いておる。……ふむ、月の威光がまだ生きている、という事か?」
「それもございます。董卓様が刺史としておられた間、この并州はよくまとまっていた、と聞き及んでいます」

 それならば、わからぬでもない。
 ……が。

「月」
「はい、お父様?」
「お前が治めていた時分だが、その間の、具体的な成果を教えて貰いたい」
「具体的、ですか」

 月は、少し考えてから、

「まず、飢饉が続きましたので、可能な限り税の減免と、食糧の配布を。ただ、それもあまり効果はありませんでしたが……」
「餓死者を防ぐ事はかなわなかった、そうだな?」
「はい」

 辛そうに、月は俯く。
 だが、こればかりは為政者の責任とばかりは言えぬのだ。
 自然の恵みがなければ、人は生きていけない……それは、太古から不変の事実。
 だが、自然は恵みばかりを与える訳ではない。
 干魃や洪水、嵐、地震……。
 そうした自然の脅威は、時として人々に牙を剥く。
 もっとも、そうした事態を如何に乗り切るかが、為政者として問われる事でもあるのだが。
 ……幕府には、そうした民の期待に応えるだけの者が欠けていた、と言わざるを得ない。
 そうでなければ、あのように一度に民の支持を失う事への、説明がつかないのだ。
 その事に対して、何も出来なかった私に、偉そうな事は言えぬが、な。

「その他は、治安の回復ですね。匈奴と接するせいか、人の出入りが多い土地なので。その分、盗賊の方も多かったんです」
「なるほど。こちらは、成果を上げたのだろう?」
「……そう、思います。霞さんや華雄さんが、頑張って下さいましたから」

 遠慮がちに言うが、恐らくは上々の成果を上げた、と見ていいだろう。

「聞く限り、月の治政には何の問題もなかった、そう思えるな」
「……いえ。刺史の権限では及ばない事もありましたし……」
「そうだな。税の減免、と言えども、刺史で全てが出来る訳ではないだろう。中央から命ぜられた分はそのまま送らねば、今度は刺史が罰せられるだろうからな」
「ええ。私はどうなっても構わないのですが、そうなれば困るのは民の皆さんですから」

 心優しき月のような為政者ばかりであれば良いが、今の漢王朝の腐敗ぶりを見る限り、むしろ稀な存在、と考える方が自然だろう。
 むしろ、己の私腹を肥やす、または中央での出世ばかりに目が眩んでいる輩の方が多かろう。

「お兄ちゃん! また差し入れなのだ」

 鈴々が、果実の詰まった袋を抱え、やって来た。
 ……民が、何かを私に期待している、それはわかる。
 だが、それは何であろうか?

「風。どう思う?」
「……ぐぅ」

 ……返事がないようだ。

「風! 起きなさい!」

 慌てて、稟が起こした。

「おおぅ! つい、日和に誘われてしまいました」
「寝ておったのか。暢気な奴だ」
「いえいえ。それで風に、何の御用でしょうかー?」
「……いや、いい」

 何となく、気が削がれてしまった。
 それに、晋陽に着けば全てがわかるようだ、焦る事もなかろう。



 やがて、行く手に城塞都市が見えてきた。
 この地に来てより、城というものをまだ見ていない事に気づいたのだが。
 城、と言うが、日本のそれとは相当に違うようだ。
 城そのものが巨大な街であり、その中に、軍事拠点としての城が存在する。
 嘗て、太閤秀吉が攻め滅ぼした、後北条氏の本拠地、小田原城がこれに近いのやも知れぬ。

「む? あれは」

 私は双眼鏡で、晋陽の街を見た。
 一条の煙が、城の付近から立ち上っている。

「高順、臧覇。あれは?」
「はい。民が、立ち上がったのかと思われます」
「恐らく、城はすっかり取り囲まれていましょう」
「民が? どういう事だ?」

 今、城にいるのは留守居役の将兵のみの筈。
 政務が滞っているにしても、煙とは穏やかではない。
 そもそも、月の治政には手抜かりは感じられぬし、丁原への不満と言うには、あまりにも早急過ぎるのだ。
 ……まさか、私への不満であろうか。
 だが、それならば道中での民の反応からすると、全くの不可解となる。

「稟。星は戻ったか?」
「いえ。その後、連絡は受けていませんね」

 星の事だ、万が一という事もないだろうが。
 ……だが、用心に越した事はない。

「霞、愛紗。一足先に、晋陽に入れ。何かが起きているようだが、このまま向かうには情報が足らぬ」
「任せとき」
「はいっ!」
「主、お待ち下され!」

 絶妙の間合いで、星が帰還した。

「申し訳ござりませぬ、主。直ちに、軍を進めて下され」

 息を切らせながら、そう告げた。

「星ちゃん。それではわからないのですが?」
「そうだぞ。晋陽で民が蜂起したと言うのは、真か?」

 口々に質問を発する将達。

「皆、落ち着け。星、まずはこれを飲め」

 私は、腰の水筒を外して、星に手渡す。

「忝い、主」

 蓋を外し、星は中身を一気に干した。

「ふう……。人心地つきました」
「では星、報告を」
「はっ。晋陽のみならず、周辺の村や邑からも、続々と民が押し寄せ、皆で城を囲んでおります」
「ふむ。原因は?」
「それなのですが……。高順殿、臧覇殿。もう、宜しいのでは?」

 星の言葉に、二人が頷いた。

「土方様。趙雲殿が申す通り、我らはこの事、存じておりました。申し訳ござりませぬ」
「騙すつもりはありませんでした。ただ、事が露見すれば、朝廷より討伐軍が派遣されましょう」
「……なるほど。全ては丁原殿のお指図、という訳か」
「はっ」
「ならば、躊躇する事はあるまい。霞、愛紗、月、詠、それに高順と臧覇、共に参れ。稟、風、鈴々、華雄、恋は城外にて待機。念のため、警戒に当たれ」
「御意!」



 晋陽城に着くと、取り囲んでいた群衆がサッと、道を開けた。
 城門のところには、何人もの役人が転がされている。
 皆、縄を打たれた状態で。

「こいつらは、税と称して勝手に収穫を巻き上げていった連中だ!」
「オラんとこは、娘を連れて行かれただ!」

 群衆が口々に、役人を糾弾する。

「お、おい! 貴様! 早く助けろ!」
「我々は陛下より任じられたお役目を遂行したまでだ!」

 見苦しく、手足を動かしながら訴えてきた。

「董卓殿! 愚かな民と我ら、どちらを信じるのですか!」
「そうですぞ。如何に中郎将とは申せ、我が一族は代々に伝わる家。それを見殺しにしたとあらば、貴殿にも害が及びますぞ!」

 そんな役人の抗弁に、更に群衆が騒ぎ立てる。

「月」
「はい」
「この場合、刺史の権限にて裁きは可能だな?」
「勿論です。ここにいるのは、県令以下の身分の方だけですから」
「わかった」

 私は、群衆を振り仰ぎ、

「皆、静まれ。私は、土方歳三と申す。この通り、并州刺史の印綬を預かる者だ」

 そう告げた。

「此度の事、并州刺史、丁原殿よりこの土方が処分を預かった、そう心得る。裁きは私が行う故、皆は解散せよ。無用な乱暴狼藉を働かぬ限り、特に咎め立てはせぬ」
「刺史の印綬など、出鱈目だ!」
「そうだそうだ! 土方などと言う名、聞いた事ないわ!」
「黙れっ! これは、丁原殿よりの厳命である。そうだな、董卓殿?」
「はい。私もその場に立ち会いました、この方の仰る事は、事実です」

 凛とした言葉に、あたりは静まり返る。

「では、参ろう。愛紗、霞、こいつらを引っ立てい!」
「了解や!」
「御意!」
「な、何をする! 離せ!」
「こ、このような事をして、ただで済むと思うな!」

 往生際の悪い輩共だ。
 取り調べの結果。
 皆、何らかの不正を働いていた事が発覚。
 証拠を突きつけても認めぬ輩もいたが、一切の情状酌量の余地など、ない。
 罪を書き述べ、市中に貼り出した結果、群衆は落ち着いた。
 悪質な者は、有無を言わさず処刑。
 それ以外の者は、一切の財産を没収して、追放。
 無論、取り調べの経緯は事細かに記し、都へと奏上させた。
 正しき沙汰が下りる望みは薄いが、月の名に置いて出せば、少なくとも公式なものとして通る筈。
 そして、臨時に月が并州刺史を務める旨も、一緒に書き添えさせた。
 いきなり、私が名乗りを上げれば、叛乱と受け取られる恐れがあるが、月ならば朝廷の高官、処罰の口実もあるまい。

「しかし、丁原殿も思い切った事をなされる。まさか、この機を利用して腐吏の一掃を図る、とはな」
「……ですが、これで私がやり残した事が、一つ片付きましたから」
「そうか」

 月に頷くと、私は皆に向かって告げた。

「まず、引き連れてきた黄巾党の者は、ここに残す。軍として希望する者は除くが、これで衣食住がない生活からは解放される。そう、全員に申し渡せ」
「はっ!」
「それから、月。その者達の自立を頼みたい。臨時の刺史として、領内の政務に専念するとなれば、ここにとどまる口実となろう」
「はい。ですが、お父様は?」
「黄巾党の討伐に戻らねばなるまい。霞が、代理として月の軍を率いれば良かろう」
「ウチか? それはええんやけど、歳っちは?」
「私は無位無冠。よって、引き続き義勇軍を率いる事になる。だから、形式上は霞の指示で動く事になるな」
「わかった」
「詠、恋、ねねは月のところに残れ。高順と臧覇は、恋を補佐し、丁原殿の軍をまとめて欲しい」

 皆が、一斉に頷いた。

「そして、華雄だが。月」
「はい。華雄さん、字と真名を与えます。字は廉銘(れんめい)、真名は閃嘩(せんか)。どうでしょうか?」

 月がそう言うと、華雄は全身を震わせ、

「……ありがたい。その名に恥じぬよう、全力で仕える事を誓う」

 そう言うと、人目も憚らず涙を流した。

「では、閃嘩。お前は、常に月の傍にいるのだ。親衛隊長として、月を守って欲しい」
「……応! 我が武にかけて」
「ではお父様。……くれぐれも、ご無事で」
「月も、頼む」

 この後、中央で何が起こるのかは予測できぬが……月を、理不尽に殺させはせぬ。
 私を信じてくれた、丁原のためにも。 
 

 
後書き
華雄の字、真名はもちろんオリジナルです。
にじファン時代に公募で決めたものです。 
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