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Blazerk Monster

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レポート提出

 キヤリーグ地方の片隅にある研究所。人間とのコミュニケーションがポケモンに及ぼす影響についての研究が行われる場所であり、この地方におけるトレーナー達の情報を管理する場所でもある。
 そこの主任である博士・水仙は日付が変わり今日の研究を終えて他の研究員を帰らせた後、用途によって分けられたメールボックスのうちの一つを開く。すると彼の想像通り、三通のメールが届いているとの通知があった。豆を直に焙煎して挽くコーヒー機のスイッチを入れ、匂いたつ香りを感じながら鼻で笑う。

「ふん、説明も聞いていなかったから初回から出し遅れるかと思ったがな」

 巡のことである。旅が始める興奮に酔って自分の話をちゃんと聞いていなかった頭の悪そうな少年もなんとか今日の日付が変わるまでに提出はしたようだ。今年の旅は一人ではなく三人の上引率までいるのだから、誰かしらが指摘したのだろう。奏海、明季葉、巡の順にレポートが提出されている。博士は三つのメールを開き、今年のトレーナー最初のレポートを見ることにした。





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 差出人:奏海
 表題:川の有無によるポケモンの生態変化

                    


 序論
 場所によって存在するポケモンの種類が違い、水辺が多いところには水タイプが多いのは常識です。
 しかし、水タイプが多い地域では水タイプ以外のポケモンの生態はどうなるのでしょう。
 大きな海ならともかく、小川や池程度では水タイプに強い草タイプや電気タイプのポケモンが押し寄せて餌食になり、逆に全滅したりはしないのでしょうか?
 旅に出るまでの準備期間でおおよそどの地域にどんなポケモンがいるかは知識として知っていますので、それをもとに旅の中で実際のポケモンに触れ、観測と検証を行っていくつもりです。


 本論
 まず、研究所からフェロータウンまでの間、川のない地域で主に出会ったポケモンの系列を書きます。
・サンド(地面)
・ナックラー
・ミネズミ
・ニドラン(♂♀)
・スナバァ
・コラッタ

 道路は草もそれなりに茂っていましたが砂地も多かったです。その為に地面タイプが多く、水タイプや草タイプには弱いポケモンが多いようでした。キヤリーグの気候は寒くなりやすいのと乾燥していて、地面タイプが全体的に多いそうです。サンドが地面と氷、両種が生息するのもこの地方の特徴だそうです。
 そして、フェロータウンを出た後、川のある地域で新しく出会ったポケモンはこちらになります。

・ヤドン
・コイキング
・ハスボー
・パラス
・クルミル
・ピカチュウ
・ポッポ

 たくさんの川によって進む道は森の中となり、やはり水タイプと草タイプが増えました。しかし、草タイプのポケモンが水タイプのポケモンを襲う光景は見られませんでした。
 そもそも草タイプは他のポケモンを食べることはなく、光合成によってエネルギーを得ており、ハスボーが日の当たる水面に一カ所に集まったりしていてヤドンやコイキングには見向きもしていないようでした。パラスやクルマユの食べ物は落ち葉や木のエキスなどで、やはり水辺には近寄る意志すらなさそうでした。時折餌場を争って攻撃しあっているのを見かけましたが、負けたほうはすごすごと去って行くのみで思ったより平和だったのが印象的です。
 ピカチュウもどちらかと言えば木の実を電気で焼いて食べていることが多く、水辺に電気を流して狩りをするようなことはしないようです。また、そのように水タイプのポケモンを襲うものがいないからこそ、ハスボーやヤドンといった動きが遅くのんびりとしたポケモンが生活できていると感じました。

 調べたかったことは意外と簡単に解決してしまいましたが、調査の過程でポケモンの生態に関して興味深かったことについて記します。
 クルミルの進化系であるハハコモリは、自分の子供やちいさいポケモンの為に葉っぱを使って衣服を作るということは文献を読んで知っていました。しかし、自分たちとは関係のないポケモンの為に服を作って何の得があるのかが疑問でした。その答えが、この森にあったのです。

 森の中を歩いていると、ハハコモリが自分の巣の前でまだ小さいピチュー達に服を作ってあげているのが見えました。
 しばらく観察していると、空からピジョンの鳴き声がしました。クルミルは葉っぱのフードで身を隠し、ハハコモリが自分の子供を守るために庇いますが、草であり虫タイプのクルミル系にとっては飛行タイプは天敵です。今にも飛び掛かろうとするピジョンをはらはらしながら見ていると、駆け付けたピカチュウが電撃を放ちピジョンを追い払ったのです。
 そのピカチュウは、ピチュー達のお母さんの様でした。作ってもらった服をピチューが見せて、ピカチュウがハハコモリにお辞儀をし、ハハコモリもクルミルを守ってもらったことにお辞儀をしたようでした。
 前述の通りキヤリーグの気候は寒くなりやすいのでまだ電気を上手く使えないピチュー達にとってはありがたいのでしょう。それでハハコモリは服を作ってあげることで、代わりに天敵の飛行タイプから自分やクルミルを守ってもらう。一種の共生関係がそこにはありました。
 時折ミネズミやニドランのまだ小さいのもハハコモリの作ったであろう服を着ているのが散見されたのでそれらの種ともなんらかの協力関係を得ているのだろうと思いました。これは僕の推論ですが、ミネズミ系には鳥ポケモンに対する監視を頼んでおり、毒タイプのニドラン系には自分たちを襲わないことを見返りにやっているのではないかと考えます。
 

 結論

 タイプ相性の有利不利が必ずしも食物連鎖に結び付くわけではないこと、またその上で相性の不利を埋めるためにポケモン達は協力し合って生きることも多いものだと学びました。ピカチュウとハハコモリ、一見全く関係がないように思える種の共生が見られたことに少なからず感動しています。

 以上、川辺のポケモンの生態を観察した結果のまとめになります。残暑去り難く厳しき折柄、何卒お身体おいといください。
















差出人:明季葉
タイトル:初回レポート

 水仙博士へ。元気ですか。朝夕はずいぶん涼しくなりました。最初のレポートなので上手く書けなかったらごめんなさい。
 巡はうるさいし名前覚えてくれないし軽薄だし、海奏は頼りないし、引率のトレーナーは怖いし燃やされるかと思ったのでとても不安でした。あの時ヒトモシの炎を受けた時は、熱くはないけど明季葉の心が燃やされてしまったみたいに、男の子と旅をするのも引率のお姉さんも私を送り出したパパとおばあちゃんの事も何もかも怖くなって、落ち着くまでは死んでしまいたくなるような気分でした。
 3日経っても巡達は変わらないけど、チャンピオンの言葉でいろんな人と話したり、歩いたてポケモンと触れ合って、少しこの旅に向き合え始めた気がします。このレポートも、書き方のわからない明季葉に涼香さんが色々教えてくれました。涼香さんは自分もレポートを書くのが下手だって博士にずっと怒られてたから参考にならないって言ってたけど、それでも質問には答えてくれました。
 
 旅の話をします。
 研究所を出た後、まず共同生活の時のルールを決めました。
・野生のポケモンと戦う時は1人が戦って残りの3人が周囲を警戒。進化系の強いポケモンが出てきたら3人いっぺんに戦って、涼香さんが見張りをします。

・ご飯は交代制で作ることになっていますが、巡と奏海は台所に立ったことがほとんどないらしいのでほとんど明季葉が作っていますしこれからもそうなりそうです。今のご時世男性でも料理の経験くらいしておくべきだと思います。なので涼香さんが作るときは2人も手伝わされています。
 旅だと家のように食材を用意できないので、メンバーの好みを踏まえつつ栄養バランスを考える必要があります。明季葉は好き嫌いはないのですが、巡はかなり嫌いなものが多いし奏海も苦手な食べ物はある様です。涼香さんはないと言っていましたが麻婆茄子を作った時はいつもよりも渋い顔をしていたので茄子が嫌いなのかもしれません。今度からやめておきます。

・野宿の際は10時間を休みを取って、5時間は涼香さんが見張りをしてくれると言っています。残りの5時間は奏海と巡で交代でやるそうです。まだ旅慣れない女子が一人で見張りは危ないのと、ご飯を作っている分休みなさいとの事です。まだ1回しか野宿をしたことはありませんが、少し申し訳ないような気がします。
 なのでその代わり、明季葉が夜の間に服の繕いをすることにしました。涼香さんが起きている5時間のうち1時間を使っています。裁縫は昔から教わっていて得意。移動中に枝に引っ掛けたりしてほつれたりしたところを直せる範囲で直します。巡と奏海は軽装なのにエプロンドレスの明季葉よりボロボロなのでもっと無駄のない動きをしてほしいところです。
 涼香さんが一人で旅をしていた時は、適当なミネズミやオタチを捕まえて夜の見張りにさせていたそうです。また、居合切りや岩砕きなどの技を使わせることで道を切り開くことも多かったと聞きました。明季葉にそれが出来たかと言われると自信はないので尊敬します。

・町についた時は、決めた時間にポケモンセンターに集合することを条件に自由行動となりました。それぞれ興味のあるものも違うし、町の中なら危険は少ないので羽目を外さないように、だそうです。
 この三日間でついたのはフェロータウンなので、そこでの散策結果を書きます。新しい町や人に触れるのも旅の大事な要素だと言われたので。 

 フェロータウンはモノづくりの盛んな町でした。工場と工場が併設されていたり、黙々と煙が昇る煙突があったりしました。ただ新技術の開発ではなく、一般流通しているものを大量生産したりするのがメインだと工員や作業員さんが教えてくれました。電気タイプのポケモンが多かったのでフクスローで応戦すると、華麗な戦いをするお嬢さんだと褒めてもらえたのが嬉しかったです。ただフクスローは毛が静電気で逆立って苛々してしまったのであまり長くはいられなかったのが残念です。モココと一緒にいるのは慣れたのに不思議です。
 レストランや洋服屋は、全国規模で展開しているようなチェーン店がほとんどでした。また、居住区も団地やマンションアパートが多く、なんだか建物のおもちゃをたくさん並べたような町だって思ってしまいました。失礼かもしれませんが。
 ……後、涼香は自由行動を告げた後ポケモンセンターに集まるまでずっと町の外に行っていたと言っていました。あまりこの町にいたくなさそうに見えたのは明季葉の気のせいでしょうか。でも、いたくないなら明季葉たちにさっさとこの町を通過するよう言うことも出来たはずです。わかりません。


 纏めますと、旅は思っていたよりは楽しく、周りの人もいい人です。でも、これから辛いこともたくさんあるだろうこともわかる出来事もありました。それでも、将来振り返ったときに良い旅だったと思えるような。そんな旅を、巡達としていきたいです。
 もっと書きたいことはあるけど、涼香さんが最初からたくさん書くと後々色々求められて面倒だと教わったのでこの辺にしておきます。残暑去り難く厳しき折柄、何卒お身体おいといください。





差出人:巡
タイトル:初回レポート、俺たちのポケモンについて!

 
 水仙博士へ。元気ですか。朝夕はずいぶん涼しくなりました。さやわかな季節を迎え、皆様ご清祥にお過ごしのこととお喜び申し上げます!レポートっていうと、俺がどんな風に旅をしたかを書いていけばいいんだよな。
 てことぜ、涼姉に教わったこととか俺の思いついた作戦を書いてくぜ!レポートってあんまりいろんなことを書きすぎるとダメで、テーマを絞ったほうがなんかそれっぽくなるんだよな!
 まず自分たちよりレベルが低い相手との勝負。これは無暗に威力の高い技を使わず、体当たりとか水鉄砲とか、怪我が残らないような技を使うべし! 力の差があるのにクロイトが噛みつくとか使ったら相手が大怪我するし、最悪死んじゃう可能性もあるから、無暗な殺生は倫理的な問題だけじゃなくて自分たちが怨みを買うこともあるからやめておきなさい……って涼姉が言ってたぜ!クール!!
 同じレベルの相手と戦う時は自分でどうすればいいか考えろって言われたから俺の考えた戦法を書くぜ!俺の手持ちはアリゲイツのクロイトとオオスバメのスワビー。クロイトは結構腕白で、よく奏海のフォッコをおどかして遊んでるんだけど。それでバトルでも相手を睨みつけたり怖い顔で脅したりして相手をビビらせてから大顎で噛みつく戦法を思いついたぜ!

 自分で気づいたんだけど、怖い顔をしてからあいてに噛みつくと相手が動けなくなることが多くなるんだ!涼姉によると噛みつく攻撃には相手を怯ませる(状態異常の亜種っぽい)効果があってそれは相手のスピードが遅いほど発動しやすいから、怖い顔でスピードを下げてから使うとコンボ攻撃になるんだってさ。そんな戦法に自力で気づくなんて、俺ってすごいトレーナーになれるんじゃねえかな。奏海は相変わらず兄さまは家を継いでくださいってうるさいけど……それは俺もわかってるからいいや。奏海に夢があるのも知ってるしな。

 話が逸れたけど、次はスワビー。こいつは素直ですげーのみ込みが早くて、ほんとはもっと進化するのに時間がかかるらしいんだけどクロイトと同じくらいの時に進化したんだ。とにかく動きが早くて電光石火で一気に突っ込んだり翼で相手を切る燕返しが得意技なんだぜ!ホントは電光石火が相手に突っ込んでそのまま燕返しで斬れたりしたらいいんだけど、それをやるのはスワビーもしんどいみたいだ。人間だって全力疾走の直後にキックとかパンチしろって言われても難しいもんな。
 
 で、自分より強い相手と戦う時なんだけどさ!今日すっげー嫌な奴にあったんだ! 千屠っていう俺と同じくらいの年のやつで、じっーと隠れてこっちを見てたと思ったら気づかれるの待ってたみたいで……ポケモンバトルするのはいいけど、なんか涼姉に突っかかるし。あの時、涼姉がすっごく辛そうな顔してた。理由はまだ説明できないって言ってたけど……なんにせよ、出会い頭にわざと相手の嫌がるようなこと言うなんてロクな奴じゃないぜ!

 ……でも、そいつポケモンバトルはすっげー強かった。俺たちのポケモン6匹がかりで戦ったけどほとんどみんな一撃でやられて、しかもあいつかなり手加減してた。この地方じゃ野生にはいないオオタチっていうポケモンを使って、長い体を蛇みたいに巻いた態勢から一気に居合切りをしたり突進したり。普通水タイプじゃないと使えない波乗りまでやってきたんだ。
 でも俺はあんな奴に負けたくなかったら作戦タイムを取って何とか勝つ方法を考えたんだ。奏海のサンドはアイスボールが得意技だから、それを使って川の上流から転がして、川の水を氷にして纏えばすごいでっかい氷の球になるからそれを使えばいくら強くてもひとたまりもないはずだって思った。
 だけどあいつはアイアンテールっていう強力な技(奏海によると鋼タイプの技の中でトップクラスらしい)で氷の球をぶっ壊したんだ。今までもポケモンバトルに負けたことは何回かあるけど、あんなに悔しかったし勝てないと思ったの初めてだった。
 涼姉が止めに入って、千屠の奴も素直に退いた。でもあいつはアイアンテールを使った時サンドを斬り殺すつもりだったって言ったんだ。それが当たり前みたいに……。怒ったらあいつは俺たちのアイスボールだって喰らったら死ぬ可能性があるんだから文句を言う権利はないって。涼姉も極論だとは言ったけど間違ってるとは言わなかった。ポケモンバトルは命の危険がある……だからこそ相手を必要以上に傷つけない配慮が必要だって教わったけど、逆に殺すことが当たり前だって思ってるやつもいるし、相手が死んでも何とも思わないやつだっている。それが痛いほどわかった。

 ポケモンバトルってテレビとかゲームだと楽しそうだし実際楽しいんだけど、すっごく難しいんだな……って思った。それと、次は千屠をコテンパンにやっつけてやりたい。その為にも、旅をしてもっと強くなりたい。
 第一ジムまではまだ結構かかるから、旅をしながら作戦とかもっと考えたりクロイトたちと特訓するぜ。レポートってこんな感じでいいんだよな?
 



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 三人分読み終えるのに、五分もかからなかった。要点と、書いた人間の気持ちさえ知れればそれでいい。ポケモントレーナーの中で研究者を志すのはごく一部の人間だけだし、ましてや最初のレポートに出来栄えなど求めていない。敬語で文章を整えることすらしていない巡は勿論、残る二人もレポートというより作文の類である。

「……まあ、赤点というほどではないか」

 そうした考えを前提としたうえで、水仙博士は呟く。三者三様、レポートというものに対していい加減にやっているわけではないことは伺えたからだ。自分の考えを偽りなく書いていることは経験から読み取れる。気合を入れすぎてやたらめったら書くこともしていない。その辺は引率者が入れ知恵したようだ。

「あいつが人に何かを教えることなど想像もできなかったがな」
 
 涼香はレポートに対してかなり適当な方だった。基本的に一週間に一度のぎりぎりに出し、内容もひたすらあったことをごっちゃに埋めるだけの見るに堪えないものがほとんどだった。一方四葉は提出頻度こそ低かったがそれは病気のせいであったし、体の調子がいいときは一万文字程度で助手の修士や知り合いの博士が唸るほどのレポートを出してくることもあった。子供をそう簡単に褒めない水仙博士でさえ、旅が終わったら研究者になるのを勧めたことがあるほどだ。

「四葉が王者となったことでこの地方は安定し始めた。涼香もこの旅で新しいトレーナーと触れ合うことでこれからの人生を見つめ直せるかもしれん。だが、これでよかったのか……?」

 涼香がチャンピオンの地位に求めたのは弟を治す金と技術だ。チャンピオンといえどやりたい放題ではないのだが、可能な限りの権力を使って弟の病気を治そうとしただろう。それよりは王者として国をよくすることを望んだ四葉がチャンピオンになったのは大多数の人間にとっては喜ばしいことなのは違いない。
 そんなことを考えながら博士はレポートの添削を始める。字脱字の指摘及びレポートとして相応しくない部分をメールで返信することで将来必要な文章力や情報伝達能力をつけさせるのもトレーナーを管理する者の役目だ。だが、部屋に響いたインターホンの音によって中断された。博士は怪訝な顔をする。
 今日の研究は終わりもう日付もとうに変わった。研究者が用事など考えにくい。博士が一瞬答えに迷う間にも、更にインターホンの音がする。

「……お前はどこの誰だ?」

 夜には研究所全体にセキリュティがかかっていて関係者以外は入れないようになっているし、研究員の中にこんな若い少年はいない。その不吉さにも冷静を保ちつつ、ボタンを一つ押し問いかけた。

「もしもーし!四葉姉の弟で千匹の千に屠殺の屠と書いて千屠でーす!この地方を巡るにあたって、ポケモンを頂きに来ましたー!!」

 研ぎ澄まされて光を反射するむき出しの刃のように明るい声。ピンポンピンポンピンポンと品性のかけらもない呼び出し音。そして博士が答える前に──ドアは、真っ二つになった。 
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