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吸血鬼になったエミヤ

作者:炎の剣製
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034話 日常編 自問自答とカウンセリング

 
前書き
せっかくやる気になったので最近書いていなかったのでリハビリに一話更新して反応を見ます。 

 


…………私は、愚かで浅はかでダメ人間でした。


そう、綾瀬夕映は何度もそんな思考に陥っていた。
きっかけはやはりというべきか、あの悪魔事件での一件である。
そこで知る事になったシホの凄惨なという言葉では軽すぎて深くは語りつくせないであろう過去の出来事。
シホは夕映に何度か魔法に関わることに関してあまり快く思っていない事は分かっていた。
夕映もそれでなぜなんだろうと?考えたことはあったが、まさか箱を開けてみればシホは魔法関係で深い傷跡を負う事になったというのには夕映も含めてあの場にいた全員は思い知ったことになった。
シホ自身はあの時、

『確かにさっき悪魔が言ったように酷い魔法使い達がいて私は今こんな事にされてしまったけど、でもそれは極一部のものだけよ。
だから魔法の世界そのものを嫌悪し嫌いにならないであげて…。
そして願わくば魔法と関わりを持つという事のその本質を見抜いて行動して。ただただファンタジーの世界の出来事だと思っていると私みたいに足元すくわれちゃうから』

と、自身のことも含めて皮肉も込めてそんな事を言っていたが、内心では色々な感情が綯い交ぜになっていたのだろうと夕映は思った。
なにせその言葉を発している時に表情は自分達の精神状態を鑑みてか薄っすらと笑みを浮かべてはいたが、自分の過去の事を知られてしまったのだから後ろめたい感情もあったのだろう、眉が少し下がっていて目も揺れていたから……(夕映はそう感じたのだが、実際は失っていた記憶を思い出したために感動面もあったとの事)。

だから夕映は自身が無知で愚かであったと思わざるをえないのであった。
翌日にはシホはなんでもない顔をしていたが、それがどうしても作り笑いにしか夕映の目には映らなかった。
そんな事を考えていたために中間テストの勉強にも気が入らずに、結果ビリにはならなかったが思いっきりバカブラックとして目立つことになってしまった。
三人部屋で同室のハルナにも心配され、のどかにまで気を使われている自分が情けなくて仕方がなかった。

「ちょっと、ユエ吉どうしたのさー? いつにも増して表情が暗いぞー?」
「ハルナ、うるさいです。私は少し気持ちが塞ぎこんでいるのです……」
「そう言われてもね。のどかもなんか少し最近表情が固い事があるし、もしかしてネギ先生絡みでなにかあったのかなってね?」
「…………ノーコメントで」
「夕映、やっぱ調子悪いみたいね。いつものあんたなら即座にその言葉を返していたよ?」
「…………」

反論のし様がなかったと認める夕映。
その後も何度かハルナに絡まれたがなんとか逃げ出すことに成功して、でも寮部屋から出てきてしまっては行く当てもなく彷徨う事になった。

「(…………せっかくですから謎ジュースでも探りに行きますか)」

そんな事を思いつつ足取りは気づけばネギ先生達の部屋へと向かっていた。
扉をノックすると中からいつも通りに『はいな』とこのかの声が聞こえてきて、

「あれ? 夕映、どうしたん?」
「このかさん、その……今平気ですか?」
「なにやら重大そうやね。いいえ。今はせっちゃんも来とるから相談事なら任せとき!」

そう言って胸を叩くこのかの姿に夕映は少しだけ気持ちが和らいだ。
それで部屋の中に入らせてもらうと、刹那を含めてアスナもいた。
ちなみにまだネギはエヴァとの修行のために帰ってきていない。
ネギの姿が今ないのは逆にありがたいと思う夕映であった。
こんな惨めな事を相談できないだろうから、女子会でもいいだろうと、それにちょうどこの間の事件の関係者だけであるから余計に好都合である。

「夕映ちゃん、どうしたの?……やっぱりまだこの間の事が頭から抜けない……?」
「アスナさん……」

珍しくアスナに気持ちを言い当てられて夕映は顔を俯かせる。

「私は……愚かだったんでしょうね」
「ユエー?」
「綾瀬さん?」

その言葉にこのかと刹那が首を傾げる。
だけども夕映は言葉を続ける。

「ネギ先生を通して魔法の事を知って気持ちが舞い上がっていたのは認めるです。
でも、ただただファンタジーなんだろうという気持ちもあったわけで、シホさんの事を通して現実の世界と何ら変わらない非常識ながらもれっきとした日常というものがあり、そしてシホさんはそんな非日常の犠牲者の一人なんだと…………。
考えだしたらそれが何度も頭をリフレインしてしまい、あの悪魔が語った以外にも凄惨な事をシホさんは20年という言葉では表現できないあれこれを受けていたんだと考えると……自分が如何に無知で愚かだったのかと思い知らされてしまうです……」

自身の気持ちを隠さずに三人に話すと、アスナ達もどこか他人事ではないような顔をしていて、アスナは「あはは……」と苦笑いを零しながらも、

「やっぱユエちゃんもそうだよね……。あたしもまだ気持ちの整理が出来てなくてシホとの距離感を測りかねてんだ」
「ウチもや。いつも優しいシホがそんな事を受けていただなんて……事前に知っていたとはいえ、ウチも無知やったと思い知ったんよ」
「私は一度、シホさんが暴走する姿を目撃することがありましたが……あれは当然だったんでしょうね」
「「「え……?」」」
「あっ……」

刹那はつい言葉が滑ってしまったという顔をしてしまい、即座に「忘れてください!」と言ったのだが、アスナ達は刹那に詰め寄って、

「刹那さん、そこんところ詳しく教えて?」
「せっちゃん、隠し事は嫌やよ?」
「さすがに聞き逃せません。教えてくださいです」

それで刹那は淡々しながらも、ゆっくりと春先にあった大停電の時の出来事を話し出す。
ネギとアスナがエヴァと戦っていた時の同時間に西の刺客によって魑魅魍魎が学園に攻め込んできていた時の事であった……。
そこまで話していると三人は改めて東と西は仲が悪かったんだなと思う事になる。

「まぁ、そうですね。まだネギ先生によって書状が渡される前でしたからギクシャクしていたのは認めます。
それで私やシホさん達も含めて魔法先生や生徒達が対処に当たっていたのですが、その時にふらっと一体の悪魔が姿を現したときに、その……これを話すのは少し遠慮したいのですが……シホさんのもう一つの人格が暴走しまして……」
「もう一つの人格!?」
「もしかしてシホさんは!?」
「多重人格やったの!?」

驚く三人。
まぁ今まで知らなかったのだがらしょうがないが、改めてシホの心の傷の一端を垣間見れた瞬間であった。

「…………20年も色々とやられていて心に障害が残らないのもあり得ない話でして……はい」

刹那もそれ以上はシホの事を思い言葉を噤んだ。

「それで、その悪魔はどうなったのですか?」
「シホさんのもう一つの本物の吸血鬼とも言える残忍な人格に還されることもなく抹殺されました……」
『…………』

京都での一件でこのかの魔力によって大量召喚された鬼達は、それでも全員無事に還っていったと聞いたが、還る事も出来ずに殺されるのはどういう気持ちだろうと考えて、夕映はそれ以上は怖くて考えるのを脳が拒否した。
アスナとこのかも同様のようで少し震えていた。
それから細々な事を刹那から教えてもらい、アスナは天井を見上げながら、

「そっか……。あの翌日に学校に来なかったのはそんな理由だったのね……」
「やはり、私達は無知だったのでしょうね……」
「せやね……」

落ちこむ三人。
刹那もやはりまだ話すのは早かったかと反省していた。
それからしばらくして、

「ネギと……いや、シホともこれからも魔法関係で関わっていくとしたら……もう無知ではいられないよね?」
「はいです」
「せやな」
「そうですね。私も裏の関係は関わっている身としては要警戒しないといけません」

そう結論が着いたところで、

「刹那さん。この事はネギには……?」
「まだ、話さないほうがいいと思います。ただでさえ自身の事でもネギ先生も心の傷を抉られましたから他の人の事を考えている余裕はないでしょうし……」
「ネギくん。最近ただでさえ落ち込み気味やもんね」
「私もそれがいいと思うです。シホさんもですが、ネギ先生も心労は計り知れないと思うですから」
「それじゃこの話はこの場限りってことで。朝倉や古菲、本屋ちゃんにも内緒でね。
夕映ちゃんもそこんとこよろしくね?」
「わかりました……ですが」

そこで夕映は少し歯切れを悪くして、

「その、のどかはそんな事はしないと思うですが、もしアーティファクトで気持ちを覗かれたら……」
「のどかに限ってそんなことはないと思うえ?」
「はい。のどかさんは誠実な方ですからそのようなことはないと思います」
「心配しすぎよ」
「そう、ですね……また愚かです。親友を信用できないとは……」

もう何度目になるか分からないほどに夕映は表情を曇らせていた。
さすがにアスナ達も今の状態の夕映を捨て置けないと感じたのか、

「あー……それじゃさ、一回シホ本人に確認を入れてみようよ?」
「シホさんに、ですか? さすがにご迷惑ではないでしょうか……?」
「ウチも賛成や。今のままのもやもやした気持ちのままシホと接するのはなんや違うと思うし、それに気持ち悪いわ……」
「私も賛成です。今なら寮の部屋にいると思いますから行ってみましょう」

そう決まって急がば回れと言わんばかりに四人はシホの寮の部屋へと歩いて行った。
呼び鈴を鳴らせば『どうぞ』という声が聞こえてくるので、

「シホ。その……今平気……?」

アスナが代表してそう扉を開けて声をかける。
そしてシホが中から歩いてきて、

「今更でしょ? なにか悩み事があるんでしょ? 大方私の過去の事で悩んでるんだろうけどね」
「あ、やっぱりバレてる?」
「そりゃーね。もう古菲と朝倉にのどかは一回私に相談しに来たし……みんなもそのうち来るだろうとは思っていたし」
「のどか……私も一緒に誘ってほしかったです……」

落ち込む夕映にシホは肩に手を置きながら、

「そう言わないであげて。のどかものどかで色々と限界だったみたいだし……。
どうせだからと私のアーティファクト『贋作の王』でいどのえにっきを出して本音トークをしていたし……」
「それはまた、控えめなのどからしいやり取りやねー」
「シホさんももうアーティファクトを使いこなしていますね」
「それなりにはね。で? 四人はどうする? いどのえにっき使う……?」

四人は少し考えて、やめておきますと揃えて言葉を出した。
さすがに今の正直な気持ちをシホ本人には知られたくないという感情の方が上回ったらしい。

「そう……。それじゃ中に入って。タマモー? 夜食四人追加でお願いねー?」
「わかりましたー♪」

と、御勝手の方からタマモの声が響いてきた。
どうやら当然だがタマモもいたらしい。

「さて、それじゃ今夜はまだこれからだから溜まっている気持ちを吐き出してしまいなさいな。私は受け入れるから」
『はい……』

それから夕映の気持ちを中心にシホに隠さずに伝えて、そのたびにシホが言葉を紡ぐなどを繰り返して、しばらくしてようやくすっきりしたのか、

「シホさん……相談に乗っていただき、感謝します。それで、その……」
「ん? なに?」
「改めて言わせてもらえないでしょうか? シホさんの言う現実も含めて私は受け入れて魔法に関わってもよろしいでしょうか……?」

そのどこか後ろめたいような、遠慮がちにそう言う夕映。
それに対してシホはというと、一回ため息を吐きながらも、

「その道を夕映が選ぶんだったら私はもう止めないわ。でも、やっぱりのどかと親友なだけはあるわね。のどかも夕映と同じような事を言っていたわよ?
まぁ、のどかに関してはネギ先生に対する思いの方が強いんでしょうけどもね」

そうクスクスと微笑ましいのか笑みを浮かべるシホ。
そんなシホの笑みを見て四人は、なにかが溶けるような気持ちになってこう感じた。

『やはりシホ(さん)は自分達より貫禄ある大人なんだな』と……。












その後に、夕食もともに食べて見送りしようと思った時であった。

「でも、やっぱりまだネギ先生だけは訪問してこないのよね……色々と溜まっているだろうし、カウンセリングはしておきたいんだけど……」
「それじゃあたし達でネギに言っておこうか? あたし達もシホと同じ感想だし」
「お願いできる? ネギ先生はただでさえ溜め込みがちだし、私としても心配なのよね」
「子供は素直に白状しておくものです。シホ様が寛大な精神で説き伏せてやるものですよ?」

それから少しして解散したのであった。
ちなみに夕映は色々とシホの本音の言葉を聞けて幾分気持ちが和らいだために、部屋に戻ったらのどかと正面切って話し合いをしたそうな。


 
 

 
後書き
原作の続きを書く前にまだ癒えていないであろう他の人たちの描写などを……。
リハビリで5000文字は書けた方かな。 
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