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戦国異伝供書

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第四十三話 関東のことその二

「政は非常によいそうですね」
「はい」
 直江が答えてきた。
「武田殿も北条殿も」
「民と国をかなり大事にしているとか」
「戦でも民には手を出さず」
「手に入れた土地もですね」
「よく治めておられ」
「民を苦しめていませんね」
「お二方共善政です」
 そうした風だというのだ。
「そのこともまた確かです」
「そのことはいいです」
「民に対して善政を敷いていることは」
「奸臣なれど」
 幕府の意に逆らい勝手気ままをしている者達だがというのだ。
「それでもです」
「よいものもですね」
「あります、わたくしは最初武田殿はです」
 晴信、彼はというのだ。
「父君を追い出し信濃を攻める」
「悪人とですか」
「思っていました、ですが」
「その善政の話を聞かれて」
「不孝者の奸臣なれど」
 景虎はどうしてもそう思うがというのだ。
「しかしです」
「民に対してては名君である」
「そのことはわたくしにしても」
「見習わねばですか」
「ならぬと考えています」
「左様ですか」
「はい、ですが信濃のことも関東のことも」
「殿としては」
「成敗が必要とです」
 まさにというのだ。
「考えています」
「では」
「はい、ですがわたくしにはです」
 景虎はここで歯噛みをして言った。
「関東にしても甲斐にしても」
「不義を討つ大義がですね」
「ありません」
「大義がないので」
「はい、ですから」
 それでと言うのだった。
「どちらにもです」
「何も出来ませんか」
「そうです、無念なことに」
 彼が思う不義を目の前にしてもというのだ。
「何も出来ないです」
「そしてそのことがですね」
「無念で」
 それでというのだ。
「残念に思っています」
「左様ですか」
「これは天下の公のことです」
「それ故にことで」
「誰かが果たさねばならず」
「殿もですね」
「わたくしはこの国を治めています」
 越後一国をというのだ。
「討つ力はあります」
「越後一国で百二十万石で」
「三万の兵があります」
「そのお力で」
「甲斐と関東の不義を正せるというのに」 
 景虎はまた無念の声で述べた。 
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