| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

二十四 昨日の敵は今日の友

 
前書き
大変お待たせしました!

 

 
室内で騒がしい物音がして、シカマルは眉を顰めた。

呼び出されたものの、既に先客がいるようだ。出直そうか、と思ったところで、「入れ」と中から火影の指示があった。

綱手の声に従い、火影室を開けると、執務机を挟んで誰かが火影である彼女に直談判している。見知った顔に、シカマルは眉間に皺を寄せた。


「私も天地橋の任務に同行させてください!」
「お前は砂隠れの任務から帰ってきたばかりだろう」
「それを言うならナルもでしょう!」

シカマルの幼馴染たる山中いのが鬼気迫る勢いで、綱手に交渉している。
いのの並々ならぬ威勢に、シカマルは無意識に部屋の隅へ後退した。触らぬ神に祟りなしならぬ、触らぬいのに祟りなし、だ。
幼馴染だからこそ、彼女の剣幕にげんなりしつつも、何事か、と疑問を抱いていると、綱手の視線がシカマルに留まった。


「話は以上だ────シカマル」

急に話を振られたシカマルが動揺しつつも、綱手の許へ向かうと、いのが苦み走った表情で火影に叩頭する。
すれ違い様に、じろりとねめつけられ、シカマルは肩を竦めた。




「───いいんスか?」

いのが火影室から遠ざかってゆくのを見計らってシカマルが訊ねると、綱手は執務机で手を組んで、深々と溜息をつく。


「どうも天地橋への任務に、あやつも行きたいらしい」




【暁】に攫われた風影の我愛羅奪還の任務に就いていた波風ナル・山中いの・日向ヒナタ、そしてはたけカカシ。
その際、いのは、サソリ、正確にはナルトからの情報で、大蛇丸のもとにいるサソリのスパイと接触する機会を得た。

草隠れの里にある天地橋。
其処に、大蛇丸の部下と落ち合う事になっていたというサソリの話に乗り、指定された日にちと時間に向かう手筈となっている。その任務に、いのも加わりたいと志願してきたのだ。


サソリとの闘いで、チャクラも体力も本調子ではないはずなのに、やけにしつこく食い下がってきたいのに、綱手は頭を掻いた。

「仕方ないっスよ…いのはサクラと仲が良かったっスから」


木ノ葉の里を抜け、大蛇丸の許へ向かったのは、うちはサスケと春野サクラ。
サスケは、実は木ノ葉のスパイとして大蛇丸の許へ潜り込んでいるのだが、その真実を知っているのは極わずか。
一方のサクラはサスケについて大蛇丸の許へ行ってしまったので、こちらは抜け忍として扱われている。

どちらにせよ、サスケがスパイだという事実は機密事項なので、世間一般的には、サスケもサクラも抜け忍と思われている。だから彼らがいる大蛇丸の手がかりを、ナルもいのも欲しているのだ。

ナルは同じ七班としての仲間であるサスケとサクラを。
いのは想い人であるサスケと、恋敵であり親友のサクラを。
大蛇丸の許から取り戻す為に動いている。

火影である綱手に直談判する事からも、いのの本気が窺えた。


「いのは同行させちゃダメなんスか?」
「木ノ葉は常に忍び不足だからこれ以上人員を割くわけにもいかない…それに医療忍者として言わせてもらうと、疲労がかなり溜まっている。このまま向かっても足手まといになるだけだ」

流石、医療忍術のスペシャリスト。
一瞥しただけで、いのの体調を見透かした綱手は「きっちり休息を取って体力が戻ればまだ考えるんだけどねぇ…」と肩を竦める。

サソリとの戦闘の爪痕が疲労となってまだ残っている。
それだけ激しい闘いだったのがいのの体調から察した綱手は、彼女が立ち去った方向に気づかわしげな視線を投げた。



「それで、俺を呼び出したわけはなんです?」

本題に入るべく問うたシカマルに、綱手は顔を一変させる。周囲を厳しい視線で見渡し、誰の気配もないことを確認すると、「お前の任務に関してだ」と重々しく告げた。


「奈良シカマル────お前には、天地橋へ向かってもらう」
「お、俺ですか…!?」

つい先ほどいのが綱手に一蹴された任務を自分が受け持つ事になり、シカマルは眼を白黒させる。だが同時に、ナルと同じ任務につける事に内心喜んだ。

新しいチームメンバーとして以前ナルから協力を頼まれた身。
その時は断ったが、彼女の心底ガッカリした様子に良心が痛んだのは記憶に新しい。
その後、犬塚キバの登場、及び、色白の青年に襲われて、メンバーの話はうやむやになったものの、あれからナルはどうしたのか、気がかりだったのだ。


「しかし…中忍試験の係員の任は、」

自分と同じくナルに恋心を抱いているキバに対して、若干の優越感を覚えつつも、シカマルは怪訝な表情で綱手に訊ねる。
ナルのメンバー勧誘を断らなければいけなかったのは、まさに目の前にいる火影から中忍試験の係員に任命された事が原因だ。
シカマルの質問を耳にして、今思い出したかのように「ああ、そういえば頼んでいたな」と綱手は椅子に深く腰掛けた。


「中忍試験の係員の件は、誰か別の者に頼むとしよう…そうだな、ネジにでも頼むとするか」

上忍になった日向ネジに申し訳なく思いつつ、シカマルは「そうまでして、俺をナルと同行させる理由はなんです?」と詰問した。


「言ってはなんですが、俺は戦闘向きじゃない。せいぜい後方支援できる程度ですよ」
「お前にはその頭脳があるじゃないか」
「買いかぶりすぎです。他にも理由があるんでしょう」
疑問形ではなく確信めいた発言に、綱手は「やはりお前は話が早いね」とバツが悪そうに苦笑した。


「天地橋へ何故向かうかは聞いているな?」
「【暁】のメンバーのひとりの部下…大蛇丸の許でスパイしているヤツと会うんですよね?」
「そうだ。それに関して、【暁】が待ち伏せしている可能性はないと言質はとった」

綱手の言葉に片眉をぴくりと上げたシカマルは「……サスケ、ですか?」と確認に近い質問を投げた。

「そうだ。天地橋で落ち合う相手…【暁】のメンバーのひとりであるサソリの部下は、」


サスケからの情報だと肯定した綱手は、そこでいったん、言葉を切った。
シカマルの目をひたと見据える。


「カブトだ」






中忍試験にて、一度、ナルを始めとした木ノ葉の忍びに友好的であった音隠れの忍び。
そして、綱手を木ノ葉隠れの里へ連れ帰る際に、ナルと敵対した大蛇丸の部下。

温厚そうでありながら、眼鏡の奥に隠しきれない影があったカブトの相貌を思い出して、シカマルは「また、あの人ですか…」と溜息をついた。

「さほど驚いてはいないようだな」
「カブトが大蛇丸の部下だったということはナルから聞いてましたから…どことなく疑わしい人柄でしたしね。しかし二重スパイとは流石に予想できませんでしたが」

今でこそ五代目火影の座についている綱手だが、かつては放浪の旅をしている真っ最中だったので、ナルが彼女の師である自来也と共に、里へ連れ帰ってきたのだ。
その間、何が起こったかをナルから聞いていたシカマルは、当然、カブトのことも耳にしていた。


「ということは、天地橋にはそのカブトが来るということですか」
「だといいが…」

渋った物言いの綱手の話を、シカマルは視線で促す。
無言の催促に、綱手は頭をガシガシと荒々しく掻きむしった。

「サスケの話によると、大蛇丸が出てくる可能性も無きにしも非ず、とのことだ」
「…っ、それは」

一瞬、声を呑んだシカマルの前で、綱手は大きく手を振ると、「可能性の話だ」と付け加える。

「ですがもし、大蛇丸自ら出てくるとなると、俺とナルでは荷が重すぎます」
「わかっている…だからカカシの代役として、ある忍びを此度の任務につける」

風影奪還の任にて写輪眼の使い過ぎにより、病院で療養中のはたけカカシの代わりとして選抜した忍びの名を、綱手は告げた。


「三代目在任の時からの暗部の一番の使い手だ。名を、ヤマト」
「ヤマトさんっスか…偽名ですか?」

シカマルの何気ない問いに、「相変わらず、察しが良いな…」と綱手は苦笑した。

「三代目火影から与えられたコードネームだよ。本名ではない」
「三代目からの火影直轄の暗部ってことっスか。それは心強いですね」

大蛇丸に対抗すべき人材を用意している綱手に、シカマルは一度頷き、ややあって「そのヤマトさんには、サスケのことは?」と直球で訊ねた。

「話していない。秘密を共有する人数は少ないに越したことはない」
「それで、俺が同行するというわけですか…」


たとえ元暗部であっても、サスケが木ノ葉のスパイだと、綱手はヤマトに知らせていない。
つまりシカマルがこのたび、天地橋へ赴く理由は、サスケが潜入捜査を続行できるようにうまく根回ししろ、ということだ。何故なら、現時点でサスケがスパイだと知っているのは、五代目火影である綱手と、五代目風影の我愛羅、そしてシカマルのみ。
仮に天地橋にサスケが現れた場合、彼がスパイだとバレないように、真実を知っているシカマルが上手く誘導する必要がある。


「簡単に言ってくれますね…」
「保険だよ。そんな事態にならないことが一番だ」

理想としてはサソリの部下であるカブトを生け捕りにして大蛇丸の情報を得ることだ。
大蛇丸が自ら現れる可能性もサスケがスパイだとバレる可能性も無いとは言い切れない故、事情を知っているシカマルが天地橋へのチームメンバーに抜擢されたのである。


「ただし、何か異変が起きたら逐一報告してくれ。場合によっては増援を送る」
「わかりました」

了承したシカマルは、そこで不意に、ナルに襲い掛かった色白の青年を思い出した。


確か、サスケが里抜けをする以前、火影の座をかけて綱手が志村ダンゾウと争っていた時期。
あの時、サスケの傍でよく見かけた少年と、色白の青年の顔立ちはよく似ている。
同一人物ではないかと思い当たって、シカマルは先ほどの出来事を綱手に語った。


墨で描いた狛犬を使っての攻撃だと耳にして、綱手はついと形の良い眉を吊り上げた。


「おそらく【根】の者だろう…しかしどういうつもりだ?ダンゾウが指名した人数は二名のはずだが…」

思案顔を浮かべる綱手に、シカマルは「どういうことっスか」と訝しげに訊ねる。
ダンゾウの顔を思い浮かべて渋い顔をした綱手は、今回の任務で上層部になんとかナルが天地橋へ向かうことを承諾させたものの、追加の班員に関しては【根】で用意した忍びをつけさせる、と条件をつけられたことを語った。

実際、現状第七班は、うちはサスケと春野サクラが里抜けしている為、ナル、ただひとり。
はたけカカシが倒れた今、だれか追加の班員が必須。


「だからこそ俺と、火影直轄の暗部であるヤマトさんがメンバーになったんじゃないんですか?」
「上はそれじゃ納得しないんだよ…特にナルは九尾の…」


そこで綱手は言葉を切る。
彼女が口ごもった理由を、シカマルは知っていた。

波風ナルが九尾の人力柱であるという事実。
幼い頃は、彼女が里の人間から何故疎まれているのか不思議で仕方がなかった。
少年の頃にはそれとなく理解し、現在ではそれは確固たる真実だととっくに把握している。
だけどナルが九尾の人柱力だからといって、それがなんだというのだ。


「要するにナルを監視するための人員ってことっスか」
「まぁ…そういうことだな」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる綱手の答えに、シカマルは顔を顰める。
シカマルの不機嫌を感じ取ったのか、綱手は「だが、ダンゾウが指名した相手はいわば、大蛇丸に殺されに行くようなもんだがな」と不明慮な言葉を続けた。


「どういうことっスか」
「見ればわかるさ」

綱手の曖昧な返答に、シカマルの眉間の皺が益々深く刻まれる。
シカマルの怪訝な表情を前に、綱手は苦笑した。





かつてサスケの里抜けに助力し、結果的に『根』に捕らえられた『音の五人衆』。
他三人は死亡を確認したが、唯一生存していた彼らの生け捕りに成功した話は、五代目火影である綱手も耳にしていた。『根』ではなく、木ノ葉が保護すべきだと再三申し出たが聞き入れてもらえなかった忍びの子ども────左近と鬼童丸。

要するに、あの時、サスケを追跡するメンバーの一員であり、『音の五人衆』と対峙したシカマルやナルにとっては、死人も同然。

つまり、今回の天地橋へ赴く際、【根】の者としてダンゾウに指名された左近と鬼童丸を一目見れば、ナルやシカマルが驚愕するのは間違いない。




「あ~…ひとつ言えることは死人が同行するってことだな」
「は…?」


先ほどまでの気難しい顔とは一転して、ぽかんとするシカマルの肩を、綱手はぽんっと労わるように叩いた。



































「いったい、どこにいるんだってばよ!新しいメンバーは!?」


サソリの部下であるスパイが天地橋に現れるまで、もう時間がない。
早速、天地橋へ赴く為、木ノ葉の里を出発したナルはぷんぷん憤慨しながら、木から木へと跳んでいた。

里内で待ち合わせ場所に訪れたのは、シカマルと、そして綱手に選抜された元火影直属の暗部であるヤマト。

昔からの幼馴染であるシカマルとの任務に、ナルの喜びようと言ったら言葉にできないほどだった。
はしゃぐナルを宥めつつも満更ではないシカマルの様子に、ヤマトは内心(青春だねぇ…)と眩しげに眼を細める。


初対面のヤマトに対してもすぐ気を許したナルだが、他にも同行すると言われていた残り二名の姿は見当たらない。どうやら、里外で会う手筈になっているらしい。

万物の始まりと終わりを示す『あ』と『ん』の文字が連なる重厚な門を後にする。
木ノ葉の里を出ても一向に姿を見せない見知らぬ二人に、ナルが腹を立てている隣で、シカマルは後ろを振り返った。


(木ノ葉の里では大手を振って歩けない相手ということか…?)

里外じゃないと姿を見せられないということは、何かしら事件を起こした罪人という事だろうか。

木から木へと跳躍しながらシカマルが思案に沈んでいる矢先、ナルが苛立ち雑じりに先へ向かう。ヤマトが呼ぶ声を振り切って、ナルは木の枝を強く蹴った。


「なんなら、もうオレとシカマルとヤマト隊長だけで天地橋へ向かうってばよ!!」


一向に姿を見せない相手に焦れて叫んだナルの声は、両隣から聞こえてきた声にかき消された。


「「つれねぇなぁ」」



いきなり聞こえてきた声にビクリと肩を跳ね上げたナルの足が着地に失敗する。ずるり、と木の枝から滑って、身体が真っ逆さまになる。


落下しかけたその瞬間、足首を何かがつかまえた。
人間の手ではない。なにか細くて粘り気がある────蜘蛛の糸。



「落ち着くぜよ」

どこかで聞き覚えのある声が真下から聞こえてきて、ナルは宙ぶらりんになったまま、視線を落とした。




「お、お前らは…!!??」
「よお」

逆さまになったまま、驚愕するナルの前で、鬼童丸が悠然と手をあげる。
里を抜けたサスケを追い駆ける際に対峙した『音の五人衆』のひとりである彼の登場に、ナルは口をぱくぱく開閉させた。


鬼童丸の蜘蛛の糸で落下せずに済んだものの、逆さま状態のナルの許へ向かったシカマルはようやく姿を見せた二人を視界の端で認める。



『音の五人衆』の子ども達は何れも死んだことになっていた。


一つは、土砂に埋もれ、窒息死した死体────ナルと闘った次郎坊
一つは、『終末の谷』の下流で浮かんでいた水死体────ネジと闘った君麻呂。
一つは、首を掻っ切り、自害した死体────キバと闘った多由也。

そして、いのと闘った左近も崖から墜落死し、ヒナタ&シノと闘った鬼童丸も蟲によって死んだはずだった。


だからこうして生きている二人と会って眼を白黒させるナルの隣で、シカマルは綱手の意味深な言葉を思い出して、眉を顰める。



(なるほど……死人、ね)


実際は君麻呂・多由也・次郎坊が生きているとは露知らず。
事前に火影からそれとなく聞いていても、鬼童丸と左近をこの目で実際に見たシカマルの口から「生きていたのか…」と思わず呟きが零れた。



「昨日の敵は今日の友っていうだろ?」

にやり、と口元に弧を描いて左近が笑う。


人気のない深い森の中でようやく対面した新メンバー。
死んだとされている人間ならば、確かに木ノ葉の里で大っぴらに顔を出せないだろう。
故に里を出た後もなかなか姿を見せなかった二人に対し、困惑顔だったナルの表情が次第に変わってゆく。


「おっせーんだってばよ!!」

生きていたのか、と訊ねる前に、やっと姿を見せた鬼童丸と左近に文句を言う。
鬼童丸の蜘蛛の糸から逃れて、シカマルに助け起こされたナルが早速左近と鬼童丸にかみついている光景を、ヤマトは遠い目で見やった。






「こりゃ、前途多難かな…」
 
 

 
後書き
今回、急いで書いたから雑な仕上がりとなっております…申し訳ありません(汗)
でもこれからも続けたい所存ですので、どうかよろしくお願いします!! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧