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人徳?いいえモフ徳です。

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四十九匹目

カシャッ、と音を立てて机にガラスの少女が降り立った。

身の丈20センチ程の、ガラスの人形。

その手には手紙が握られていた。

見ようによっては杖のようにも見える丸められた手紙。

椅子に座り家の書類を処理していたタマモが顔をあげる。

「凝った式神じゃのぅ…」

タマモが差し出された手紙を読む。

「また面倒事を持ってきおって…」

そう言いながら、タマモは笑っていた。

「エリザー」

「はいこちらに」

部屋で控えていたエリザが即座に応える。

「倉庫にテントは幾つある?」

「40はあったかと」

「うむ。よかろ」

ふぅ、とタマモがため息をつく。

「さてと…、甘ちょろい孫の面倒を見るのもババァの務めじゃな」

タマモが席を立つ。

「馬車を五台用意せよ。メインストリートに行くぞ」













「お、お婆様!?」

「なんじゃ、儂が来たらいかんのか?」

「あ、いえ、そうではなくてですね…」

シラヌイは突然倉庫に入ってきたタマモに驚いていた。

「で? こやつらか?」

タマモがシラヌイの周りで未だに痺れて動けない子供達を見渡す。

「こやつらは儂の孫を拐った下手人じゃ! 引っ捕らえい!」

「ちょっとぉ!?」

「ふむ…こやつがリーダーか」

件の少女をタマモが脇に抱える。

「ほれ、行くぞシラヌイ」

「あー……はい」

倉庫から出て、路地裏を通りメインストリートへ出ると、そこにはシュリッセル家の馬車があった。

正確には人馬車、ケンタウルスが引いている。

「やぁ坊っちゃん、久し振りですねぇ」

「久し振り、リィン」

装具だけをつけた女性ケンタウルスがシラヌイに声をかける。

シラヌイは応えるが、その視線は他の馬車に向いている。

「坊っちゃんが心配せずとも、彼らを処したりはしませんぜ。
ですよね、御当主」

「そこら辺は中で話す。ほれ、はよう乗らんか」

シラヌイが馬車に乗り込む。

「出せ、リィン」

「あいよー」

馬車がガタガタと揺れる。

「さて、では話そうかの」

タマモはその言葉自分の隣に座らせた少女にも向ける。

「まずこやつらじゃが、家の庭のテントで暮らしてもらう」

「いいのですか?」

「うむ。監視できた方がいいじゃろう」

「わかりました…」

「食費は儂が出そう。読み書き計算も暇なメイドに教えさせよう」

「かなりの好待遇ですね」

「なぁに、先行投資じゃ。それにポップコーンの金の計算程度なら3日あれば覚えるじゃろ」

シラヌイの当初の計画では子供達にポップコーンを売らせ、その売上の一部をシュリッセル家に、一部を彼らの生活費に当てさせる予定だった。

「さて、少女よ」

「………ぁ……い」

「拒否権は無いぞ。儂の孫を拐った代償としてこきつかってやるから覚悟せぃ」

「あのー、お婆様。僕の計画じゃだめだったんですか?」

「お主は詰めが甘い。お主の計画ではこやつらが売上を他のアホに奪われて終いじゃ」

「そうですか…」

「シラヌイ、帰ったら仕事じゃぞ」

「まず何を?」

「屋台作りかのー」

「五基あればじゅうぶんですかね」

「そうじゃな」











side in

「………炭素製でいいか」

アイテムボックスから大量に取り出した木やら炭やらを取り出す。

例え生木でも構成元素の半分は炭素だ。

錬金術で木を水と炭素に分ける。

「ジェネレート」

炭素パイプで基本フレームを作る。

五基一気にだ。

「疲れるなぁ……ディアマンタイトよりマシか…」

次に車輪だ。

これもホイールを炭素で作る。

問題はチューブとかだけど…。

めんどいし全部ゴムでいいや。

フレームに軸と車輪をつけて基礎は完成。

後は布を被せればいい。

熱硬化性樹脂製の天幕を作って魔法で被せる。

それを紐で固定して……。

「よし、完成」

後はポップコーンの素となるトウモロコシを入れる籠と魔力コンロと鍋と金庫をつければ完璧だな。

天幕に広告やらイラストやらを描いていると、周りに子供達が集まっていた。

身なりが綺麗になっているし、服も清潔だ。

お風呂に入れられてたのかな?

「えーと……これ君らの屋台なんだけど、ちゃんと引けるかちょっと試してみて」

何人か呼んで、屋台を引かせてみる。

「どう?」

子供達はコクコクと頷く。

どうも怖がられているらしい。

「シラヌイ様」

「エリザ」

エリザがリーダー格の女の子を連れている。

「自己紹介を」

エリザが言うと、女の子が膝をついた。

「この身を御身に捧げます」

彼女の目の前に行って、顔を覗き込む。

「そういうのいいから名前教えて」

「ルイス…だ……です」

ちょっときつめだけど、茶髪の可愛い女の子。

あ、耳ふにふにしてる。

かわいい。

「んみゃぁぁぁ………」

喉を擽ってみる。

ごろごろ言ってる。どうやってるんだろ?

「シラヌイ様、そこら辺に」

「えー……」

仕方ない。

ルイスを可愛がるのをやめて、立ち上がる。

「で、何すればいいのエリザ?」

「シラヌイから彼女等へ挨拶せよ、とタマモ様が仰っておりました」

挨拶?

「これから貴方が彼女等の主なのですから」

そうか、そうなっちゃうのか。

当初の計画での『雇用主』ではなく『主』か。

うん、しかたない。

「僕はシラヌイ・シュリッセル。君達の主だ。
これからよろしく」
 
 

 
後書き
リィン・ホース
タマモの騎士をしているケンタウルス(♀)。
戦闘ではランスとバスターソードを持ち、鎧を纏って突撃する。
 
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