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ユキアンのネタ倉庫

作者:ユキアン
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宇宙戦艦ヤマト2199 元爆撃機乗りの副長 7




「ぜえ、ぜえ、今、はぁ、何人、はぁ、抜き?」

「今ので17人ですけど、これ以上は危険です副長!!」

「ルール、だから、しょうがないだろ!!決めたのオレだけど!!」

原田君に水を貰ってうがいをする。口の中を切りまくっていてかなり染みる。

この前の開戦の事実を知り、不満を溜め込んでいる乗員のガス抜きとして勝ち残りのボクシング大会を開催した。チームは開戦の事実の肯定派VS否定派の戦いだ。肯定派の方が少ないが、ベテラン組はほとんどが肯定派として頑張っている。否定派に着きたい奴もいるんだろうが、それを腹に収めて肯定派に着いてくれている。あとで酒を奢らないとな。

リングの上では完全な無礼講を、観客もヤジなら無礼講を宣言しているので日頃のストレス分もまとめて上官を殴れる滅多にないチャンスと賭博にガス抜き自体は成功している。まあ、それでも結構キツイ。既に3回負けて合計で60人近くを沈めているが、そろそろ限界だ。保安科の7割も沈めたが弱すぎだろ。

「次は、テメエか、加藤!!」

「堂々と副長を殴れる機会っすからね。存分にやらせてもらいます!!」

「来やがれ、加藤!!伊達にスタントマンとしてアクションもやってねえぞ!!」

ゴングと同時にお互いコーナーから飛び出し殴り合いが始まる。











「痛ってぇ、二日酔いのほうがマシだ」

「4、5、6」

「二日酔いなんかしたことないわ」

二人してマットに倒れ込んでいる。これは立ち上げれんな。

「くそっ、連戦で疲れているはずなのに」

「若い奴らに負けてたまるかよ。もう3回負けてるけど」

「9、10」

ゴングが鳴り響き、引き分けに終わる。

「古代君、手を貸してくれ」

「航海長、すみませんが、オレもお願いできませんか」

オレが古代君に、加藤が島君にリングから降りるのを手伝って貰えないかと頼めば、渋々だが頷いてリングに上ってきてくれる。そして、オレと加藤が同時に古代君と島君の足を刈って、素早く転がって実況席につく。

「副長!?」

「赤コーナー、戦術長、古代進一等宙尉。青コーナー、航海長、島大介一等宙尉。先日の会議では、殴り合いを始めようとしたところでゲンコをかましてやった。現在は罰として艦内清掃の罰を受けているが、副長権限で強制参加な。お互い親友だと思っているみたいだが、本当に腹の底を見せたことはあるか?ないだろう。よって、この機会に全部吐き出しちまえ」

古代君と島君に無理矢理準備をさせる中、加藤と共に実況席で手当を受ける。

「タフにもほどがありますよ、副長。口の中を切っているのが一番の怪我です。骨なんかは大丈夫みたいですね」

「無茶な飛び方はよくやるからな。その分、体はしっかり鍛えてある。加藤も似たようなものだろう」

「そうっすけど、副長程タフってわけでもないですよ」

「若い奴が何を言ってるんだ。そんなんじゃあ、女を満足させられんぞ。オレの妻はマジで怪物だった。エンジントラブルとか空中分解より死の恐怖を味わった」

普段は豪快な性格、酒が入ると更に豪快、そして夜も豪快。でもデートの時は精一杯のお洒落をしてしおらしくなるのがもうね。ギャップにやられたんだよな。懐かしい。







古代君と島君の試合は既に8ラウンドが経過した。疲労と酸欠で思考がまともに整っていないな。なんでこんなことをやっているのかすら曖昧になっているだろうな。ただ、自分の意見を曲げる訳にはいかない一心で殴り合っている。

「いいかげん、倒れろ!!」

「お前の方こそ!!」

躱すことも防御することも出来ずに一発ずつの殴り合いになっている。

「オレは、お前が羨ましい」

「何がだよ」

「オレの父さんは、普通の人、だった。お前のところみたい、周りに自慢、できるようなことはなかった」

古代君の一発で島君がダウンしてカウントが取られ始める。

「話も出来た。それが羨ましい。オレは、いきなりだった。父さん達は、何も残せず、残して欲しかった」

まあ、そんな奴の方が多いさ。こんな時代だ。船乗りとしての思いを残してくれた島は幸運だ。オレ達おっさん世代なんて残す側だからな。

「お前には、お兄さんが居ただろうが!!」

「ああ、そのとおりさ!!」

8カウントでどちらも立ち上がりファイトポーズを取る。

「そのお兄さんが殺されたってのに、なんでガミラスを倒すことにためらうんだよ!!」

「兄さんは軍人だった。死ぬのも覚悟していた。だから、そのことでガミラスを恨むことはない。ガミロイドやメルダのことも副長や副長補佐の話で余計に個人の恨みで戦うようなものじゃないと思うようになった!!」

「じゃあ、何のために戦う!!」

「この旅を続け、地球を救うためだ!!オレ達は、そのためにイスカンダルを目指している!!木星の前線基地や、冥王星の基地を攻略し、ヤマトはガミラスと戦えることが分かった。だが、ヤマトの目的にガミラスと戦うことは含まれていない!!ヤマトの目的の障害になっているから戦っているだけだ!!目を覚ませ、島!!死んだ親父さんの思いを踏みにじりながら、地球で待つ家族を助けれなくなってもいいのか!!」

古代君の言葉にガードが緩んだ島君の顔面に綺麗にストレートが入り、島君が完全にダウンする。

「皆も聞いてくれ。今は、ガミラスとの開戦については考えないでいよう。いや、個人で悩むのは良い。だが、騒ぎ立てずにいよう。オレ達は地球を救う。そこだけは絶対に忘れずに、航海を続けていきたいと考えている。だから、ここで一度全部を吐き出して貰いたい!!」

そこまで言って古代君もロープに身体を完全に預けてしまう。ある程度回復した奴らが古代君と島君をリングから降ろして野戦病院化している端の方に担いでいる。

「副長、交代時間です」

艦橋にいた瀬川君がこちらの方に駆け寄ってくる。時計を見れば交代時間を少し過ぎていた。

「了解した。ここの管理は任せる」

「はい」

幾らかのガス抜きに加えて古代君のお陰で皆もある程度は落ち着いただろう。これで任務も続行できるだろう。

「遅れて申し訳ありません、艦長」

「構わんよ、皆の様子はどうだ?」

「ある程度は落ち着きました。ここからは、一人一人に委ねるしかありません」

「そうか。出来る限りのフォローを頼む」

「了解しました」













虫の知らせとでも言うのか、今日に限って嫌な予感がひしひしと感じられる。乗組員の士気は悪くはない。戦闘に支障はないだろうが、気を抜けない。

「レーダーに感!!8j」

艦が大きく揺れ、コンソールにしがみ付く形で耐える。

「被害状況!!」

「左舷、24番装甲を抜かれました!!付近の隔壁を閉鎖!!」

「ダメコンは後だ!!レーダー!!」

「8時の方向距離500、何もない場所から突然現れました!!」

「対空警戒!!総員戦闘態勢!!航空隊は待機!!島、近くにあるデブリの影に隠れろ!!」

「了解!!大田!!」

「2時の方向、デブリ帯の中に一際大きなのがあります!!」

「取舵20」

「第2派、7時の方向、距離800、数2」

「対空防御!!」

「撃ち落とせ!!」

パルスレーザーが魚雷を撃ち落とし、ヤマトがデブリ帯に侵入する。一先ずの混乱と危機から立ち直った所で艦長の指示を仰ぐ。

「艦長、どうされますか?」

いつもならすぐに返ってくるはずの声が聞こえない。振り返ると艦長の姿が席から見えない。立ち上がり、回り込むと胸を抑えた状態で席から放り出される形で艦長が倒れていた。慌てて駆け寄り、医務室への回線を開く。

「佐渡先生、艦長が負傷した!!ストレッチャーを!!」









「瀬川君、佐渡先生はなんと?」

「緊急手術が必要だと言ってすぐに手術に入られました。絶対に揺らすなとも」

「真田君、敵の正体は掴めたか?」

「おそらくですが、次元潜宙艦かと」

「潜宙艦?」

「分かりやすく例えるなら、潜水艦と考えてもらっても構いません。ただ、こちらから向こうへの有効打は何とも言えません」

「爆雷、対潜ミサイル無しで潜水艦とやり合うという形で間違いないな?」

「状況的には近いかと」

状況はかなり悪いな。

「う〜む、これが本当に潜水艦とならやり合う方法がないとも言えないんだけどな。潜宙艦か。古式戦術の潜望鏡の破壊で対応するしか無いな」

『レーダーに感!!魚雷です!!』

意見を取ろうとした瞬間、会議室に通信が繋がったのですぐに壁に備え付けられた通話機を取る。

「慣性制御を医務室を最優先に。波動防壁を左舷に集中準備。迎撃はするな」

「副長!?」

『波動防壁、左舷に集中準備!!魚雷、デブリに阻まれました』

「魚雷は全て同じように対処せよ。向こうもこちらを完全には捉えていない。今は艦長の手術が最優先だ。絶対に揺らすな」

向こうもこちらを完全に捉えては居ないようだが、時間の問題だな。向こうはここに居ると決めて撃ち込んできたな。

「真田君、向こうの制約は分かるか?」

「データが少ないので何とも言えませんが、向こうとこちら側は全くの別次元でしょう。そうでないのなら双方のレーダーに反応があるはずです。それを解消するための潜望鏡のようなものか、フロープだけをこちら側に出現させていると思われます」

「まあ、当然だろうな。ふむ、潜宙は技術的には難しいか?」

「少なくともワープよりは難しいでしょう。言うならばワープ中の空間に居続けた上で自由に動くのですから」

「ということは魚雷はガミラスの使う通常の物だな。特殊なフィールドの効果が切れるとこちら側の通常空間に姿を現すと」

「そう考えて間違いないかと」

少なくとも魚雷は置き土産ではないということか。

「敵艦の索敵に使えそうな物は?」

「技術部が開発した亜空間ソナーとそれを応用した亜空間ソノブイがあります」

「特徴は?」

「亜空間ソナーは大型で大出力のアクティブソナーです。この宙域全てを索敵可能です。逆に小型で低出力のパッシブソナーです。ピンポイントになりますので数を投下する必要があります。数はある程度用意してありますが、今回で全て使う必要もあるかと思われます」

「情報部といたしましては亜空間ソナーを推します。相手の場所を早期に特定することこそが、被害を最小限に押されられると考えます」

「いや、それは駄目だ。戦術科としてはソノブイの使用を考えます。アクティブソナーではこちらの居場所を知らしめてしまいます。ソノブイならその可能性は低くなり、相手も慎重に動かなくてはならなくなります」

「古代君の言うとおりだな。ヤマトを戦闘に参加させる訳にはいかない。ソノブイを使用する。人員の選抜は任せる。航空1個隊にシーガルの護衛と、敵潜望鏡、またはフロープの撃破を任せる。ヤマトは現在地で待機。2時間後に作戦を開始する。総員直ちにかかれ!!」

全員が敬礼を返し、メインとなる古代君と加藤君が一番に作戦室から飛び出す。オレは瀬川君に艦橋を任せて手術室へ向かう。佐渡先生に今後の予定の手術の予定を確認する必要がある。手術室に入り、切りが良い所まで待機する。

「佐渡先生、手術の方はどうです」

「あと4時間はかかる。その後もしばらくは入院じゃ。そっちの方は?」

「2時間後に航空隊を使った作戦に入ります。その後、安全圏へ移動する予定です。4時間は絶対に死守しますが、緊急時には一報を直前に出します」

「おぅ、分かった。そこは任せるよ」

「すみませんがよろしくお願いします」

手術室から出た後は一度自室に戻り、航空隊の常装を脱ぎ、将官用の常装とコートを羽織る。この航海中、初めて袖を通す。本来なら袖を通す気はなかったが、緊急時だ。これを纏っている限り、オレはファルコンに乗ることはない。選択肢を最初から削る行為だが、ひよっこ共のためにもオレが踏ん張らなくてはならない。最後に帽子を被り、鏡を見て身だしなみを整える。

艦橋へ上がると、何人かがこちらを見て驚いている。瀬川君は艦長席の隣に立ち、回線の準備を整えてくれていた。艦長席に座り、マイクを受取、回線を開く。

「私はヤマト副長の永井だ。先程の被弾で艦長が指揮を取れない状態に陥ったために、復帰なされるまで私が指揮をとる。1806より、敵潜宙艦に対し反撃に移る。それまでは第一種警戒態勢を維持せよ」

回線を切ってから瀬川君に伝達する。

「艦長が復帰なさるまで副長に繰り上げだ。それに合わせて階級を一つ上げる」

「復帰後は?」

「階級はそのまま据え置きで構わん。役職はオレと共に戻ることになる」

「了解しました」

艦長席に深く座り、目を閉じてこれから先のことを考える。思っていた以上にガミラスの技術はこちらを上回っている。普通の艦船や艦載機は量産のために質が劣っているのだろう。その分、一点物の性能はヤマトを上回っている。となるとデータベース上の旗艦型戦艦より上の戦艦もあるはずだ。

楽はさせてくれないな。まだ半分も進んでいないのにな。三式弾やミサイルの製造工場が艦内に無いのが痛い。工作機械を地表上で展開すれば製造は可能らしいが、ラインを組み立てるだけで時間がかかりそうだな。いずれは補給する必要があるだろうが、真田君に相談しておかなくてはな。

2時間の間にも何度か魚雷が撃ち込まれるが全てデブリに阻まれてこちらにまでは届かなかった。そして、作戦開始時間になる。

『こちらシーガル。発艦準備整いました』

「この2時間の攻撃で敵がいると思われるポイントを大まかにだが絞り込んである。ソノブイの温存は考えなくていい。この場を切り抜けることを最優先とする」

『了解。シーガル、発艦します』

「隼もすぐに下ろす。気をつけろ、古代。加藤、隼をゆっくり下ろす。気取られるな」

『了解。各機、シーガルから送られてくるデータに目を凝らせ!!篠原、エスコートは任せるぞ、行くぞ!!』

それから30分ほどで潜望鏡の破壊に成功する。

「対空警戒を厳に。ヤマト、発進」

「ヤマト発進します」

「航空隊はヤマトの直掩に回れ。シーガルを収容後、現宙域より離脱する。なお、ワープは行わず巡航速度での航行を行う。島、航路は任せる」

「了解」

コスモファルコンの直掩を受けながら宙域を離脱する。

「どうやらガミラスは本気になったようだ。先程の潜宙艦は特務隊に類する部隊にのみ配備されているのだろう。一隻しか居なかったようだから最新鋭か試験用の艦だな。今回は様子見だろうな。叩き上げの、狩りに慣れた奴が艦長だな」

知り合いのハンターがそんな感じだった。そう言えば、あいつは今頃何処に居るんだろうな?死んではいないと思うが。

「厄介ですね。何時襲われるかわからないのは」

「真田、ソナーの改良を頼みたい。今回みたいな状況に陥らないようにな」

「出来る限りはやってみますが、こればかりはデータが少ないですから何とも」

「構わん。無いよりマシ程度でも良い。今回のような最初の一撃を察知して防御できるようにしたい」

「やってはみます」

「頼む。それから主計科の平田と相談してソノブイの量産も頼む。今回撒いた分の倍の量を確保してくれ。場合によっては航路から少し外れてでも鉱物資源の確保に動いても良い」

「了解しました」

「新見、航路上の惑星、小惑星を問わず、物資が補給できそうなものをリストアップしてくれ島と太田はそれらを元にコースを変更する際の航路を提出」

「「「了解」」」

「古代と南部、これから先は激戦が予想される。武装のチェックは念入りにしておけ。無論、対応速度も上げるための抜き打ち訓練も行え」

「「了解しました」」

「先程も通達したが艦長が復帰されるまでは繰り上がりで私が艦長に、瀬川が副長を務める。各員の奮闘に期待する」








『サーカス1、サーカス1、聞こえていたら返事をしなさい!!』

「っ!?こちらサーカス1!!」

妻の怒鳴り声に慌てて通信機のスイッチを入れて返答を返す。

『どうしたのよ?急に会話が途切れるから驚いたじゃない』

「すまない。意識が飛んでいたようだ」

『大丈夫なの?』

「分からん。よってこれより帰投する」

『了解。ちゃんと帰って来なさいよ』

妻からの通信を切り、機体を反転させて空港への航路を取る。自動操縦なんて物は付いていない骨董品だが、愛着のある機体だ。

「サーカス1?ああ、撮影中の映画のコールサインだったな。駄目だ、頭の中がぐちゃぐちゃだ。帰って酒を飲んで寝よう。それが良い。疲れてるんだよ、馴れないことばっかりやってるから。切り替えないとまずいな」

空港に戻り、妻からの小言と心配する声に迎えられる。格納庫には様々な空飛ぶ骨董品が置かれている。中には最新鋭のコスモファルコンやコンペティションに敗れたブラックタイガー、映画のためだけに作られたコスモゼロなんてものも置いてある。どの機体にも乗ってきたが、こいつが一番愛着が

「どうしたの?本当に変よ」

「……なあ、この機体、いや、忘れてくれ。オレの勘違いだ」

こいつはスタントマンとして初めて空を飛んだ時に乗ってた機体だ。その映画は空戦アクションが世間に大好評で映画史に残ると評判だ。うちの会社もそれから仕事が増えて

「もういいから休みましょう。何も心配事なんて無いわ」

妻に支えられて機体から降ろされる。そのまま車に乗せられて自宅へと走る。そのままベッドに寝かされる。おかしい、頭が割れるように痛い。

「大丈夫よ、何も考えなくていいの」

壁にかけられている写真に写る彼らは、誰だ。知っているはずなのに、おかしい。戦友?オレは兵士じゃない。ただ、空を飛ぶのが好きな男だ。酒だって、本当は好きじゃない。アレはただのルーティンなんだ。アルコールが回れば寝れる。そう思い込んで寝るんだ。ああ、そうだ。だから、今酒を用意している妻の姿をした誰かを、サイドテーブルに置かれていたナイフで突き刺す。









「優樹、どうしたんだい?」

兄に肩を軽く叩かれて意識がはっきりする。

「……いえ、少し疲れているだけでしょう」

「今の仕事がうまく行ってないのか?」

「いえ、そんなことはありませんよ。トラブルは多いですが、充実しています。信頼できる上司にも恵まれていますし」

まあ、私生活が酷いですが。はて、何故私生活の酷さを知っているのでしょうか?飲み会で倒れたのを連れ帰ったんでしたっけ。奥さんが亡くなってから掃除が殆どできていないんでしたか。

「おやぁ、優樹にもとうとう春が来たのかな?」

「一回りも年上相手にそんな感情はありませんよ」

「本当にそうかな?ただ単に諦めてるだけなんじゃないのかな?」

「さぁ、どうでしょうね」

さて、どうしましょうね。私は子供が嫌いだ。憎いとすら思っている。それが普通に抱っこして、しかも兄に男のことでからかわれる。あり得るはずがない。兄は私より不出来な人だった。いつも私に嫉妬し、両性具有で種も卵もない私を見下すことでしか心の安定を保てなかった男だ。それと笑い合っている。冗談でも笑えない。だから、抱っこしている赤ん坊を目の前にいる兄嫁に叩きつけて首を踏み抜く。








「あの、艦長、副長。そろそろ抑えてもらえると助かるのですが」

真田君が珍しくどもりながら話しかけてくる。

「人には、絶対に触れられたくない物がある。それを土足で踏みにじられてまだ1時間だ。分かるな」

「大変不快でした。ええ、それはもう人生の中で一番不快でしたね」

高確率で家族に関する夢だろうな。ほとんどの奴らがそう答えている。家族との思い出を利用されたのだ。この手で殺してやりたかったが、波動防壁に焼き払われたらしい。一応加藤にお祓いも任せた。他にも心得のある奴らは総動員でやらせている。

「今回の件は本気で怒っている。だが、そのことでこの旅の目的を変えるつもりはない。イスカンダルに赴き、地球を再生させる装置を受領して、地球に持ち帰る。私怨で行動するつもりはない。ただ、ちょっと今日は抑えられそうにない。同じような攻撃が再び来ないとも限らない。すまんが我慢しろ」


 
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