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色を無くしたこの世界で

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第二章 十三年の孤独
  第40話 助っ人

 部室に行くと、そこには監督やマネージャーを含めた全員が揃っていた。
 その中にはアステリの姿もあり、天馬は一つ胸を撫で下ろす。

「おはようございます!」
「おはよー、天馬!」
「よし、これで全員揃ったな」

 メンバーの存在を確認し呟いた円堂に続き「さっそく」と口を開いた神童。その言葉を遮るようにフェイが突然声を上げた。
 途端に周囲の目線がフェイの方へと向けられる。
 フェイは全員の視線が自分に集まるのを確認すると、ニコッと笑顔を浮かべ話し出す。

「その前に、皆に紹介したい人達がいるんだ」
「紹介したい人?」
「入って来て」

 不思議そうに呟いた霧野の言葉を横目に、フェイが言葉を発すると、ウィーンと言う無機質な音と共に部室の扉が開いた。
 開いた扉の向こう側を見るや否や、一同の顔が驚きの色で染まる。
 ワンダバを先頭に部屋へと入ってきたのは、かつて天馬達と共に戦った仲間――白竜と黄名子だった。

「みんな、ちーすっ! お久しぶりやんね!」
「黄名子!」
「フッ」
「白竜、お前まで……」

 いつものような決めポーズで元気良く挨拶をする黄名子。
 腕を組み、静かに笑みを浮かべる白竜。
 予想外の二人の登場に天馬は満面の笑顔で出迎える。
 いつもは冷静な剣城も、かつてのライバルである白竜の登場に驚きを隠せないようだ。

「二人には今回、助っ人としてチームに加わってもらおうと思って来てもらったんだ。ね、ワンダバ!」
「うむ! 彼等であれば戦力に申し分無いと思ってな!」

 短い腕を掲げ意気揚々と話すワンダバの言葉に、天馬は昨日からフェイが出掛けていた『用事』の正体も二人に事情を説明する為だと理解した。
 一方黄名子は、以前より大分人数の減った部室内を見渡していると、少し離れた場所で、自分と白竜を見詰めるアステリの姿に気付き近付いていく。
 近付く黄名子に少しだけ警戒するアステリに彼女は人懐っこそうな笑顔で話しかける。

「あなたがアステリやんね? ウチは、菜花黄名子!」

 「よろしくやんね」と言葉をかけると、少しの沈黙の後、アステリも警戒を解き「よろしく」と笑って見せた。
 そんな二人の様子を見ていた白竜は周囲に視線を移し、「ところで」と話を始める。

「モノクロ世界……と言ったか。フェイから聞いた話によると、過去でも未来でも無い全くの異世界だと言うが、そんな所にどうやって向かうつもりなんだ」

 腕を組み訝しげに尋ねた白竜の言葉に周囲の視線がアステリに集まる。
 昨日、アステリは自分の力を使えばモノクロ世界に行く事が出来ると言っていた。
 具体的にどのような方法で行くかは分からないが、敵の企みを潰えす為には彼の力に頼る以外無い。
 アステリは周囲の様子を確認すると一つ頷き、「じゃあ」と言葉を発した。

「皆さん、準備は良いですか」

 静まり返った部屋に響いた彼の言葉に一同が強く頷く。
 両腕を胸程の高さに掲げ、深く息を吸い込む。
 吸い込んだ空気を外に吐き出すのと同時に、掲げた二本の腕からモノクロ色の気がオーラのように立ち上り、天馬達の足下を通りすぎていく。
 ひんやりとした冷気にも似た感覚を感じるのと同時に、ふわりと自身の体が浮遊する感覚に襲われた。

「え」

 直後、全身に風を感じ天馬は目を瞬かせた。
 足下を見てみるとそこに地面はなく。ブラックホールのような暗い空間が下へ下へ続いているだけだ。

「うわああああ」

 突然の事態に驚く天馬達に、アステリが声をかける。

「安心して。これはワープホールのような物。このまま落ちていけばモノクロ世界にも無事到着するから」
「そ、そうなの?」
「でもこれ……どうやって着地するんだ……」

 比較的冷静な様子で剣城が尋ねる。

「あ」
「え、『あ』ってまさか……アステリ……?」

 全員の頬に冷や汗が伝う。
 まさか、まさか、まさか……

「……着地の事、考えてなかった」
「ええぇ!?」

 しばしの沈黙の後告げられた言葉に、その場の全員が声を上げる。
 その間にも落下する速度は上がり続け、天馬達は黒い空間を落ちていった。 
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