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色を無くしたこの世界で

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第二章 十三年の孤独
  第38話 青空

 あの後、話合いは終わり。フェイの『考え』の事もあってモノクロ世界への出発は明日になった。
 幸いにも全員の怪我は入院する程の物では無く、円堂の「明日の為、家に帰り体を休めろ」と言う言葉に従い天馬達はその場で解散。
 用事があるからと言ってどこかに行ってしまったフェイとワンダバの事を考えながら、天馬は木枯らし荘への帰路をアステリと並んで歩いていた。

「ねぇ、天馬。怪我……本当に大丈夫?」

 道中、アステリが心配そうな顔で天馬に尋ねた。

「全然平気だよ! 試合中はもっと痛かったんだけど、なんだかもう平気なんだ」

 そう笑う天馬の様子にアステリは安心したように「よかった」と呟く。
 歩を進めながら、天馬はちらりと隣を歩くアステリの姿を見た。
 やはりイレギュラーと言うモノは人間に比べ丈夫に出来ているのだろうか。
 試合中はボロボロだった彼の体も今は治っているように見えて、天馬も安心する。

「そう言えばアステリ。屋上で何をしていたの?」

 天馬の言葉に、アステリは「あぁ」と微笑みを浮かべると立ち止まって上を見上げた。

「空を見てたんだ」
「空?」

 首を傾げ呟いた天馬にアステリは一つ頷くと語り出す。

「ボクの世界――モノクロ世界の空はね、灰色や黒色で……こんな綺麗な色の空……ずっと憧れだったんだ」
「アステリ……」

 そう言って空を見るアステリの顔はどこか寂しそうだった。
 自分達にとって当たり前のようにそこにある、青い空。
 それもイレギュラーの彼にとっては凄く珍しい事で
 憧れであり、夢でもあったのだろうと天馬は思った。

「あのね、天馬」
「ん?」

 ふと声をかけられ、天馬は視線を下ろす。
 移した視線の先には、先程空を見詰めていた時と同じ、寂しそうな瞳のアステリが立っている。
 どことなく深刻そうなその表情に、天馬の顔にも自然と陰りが出来る。
 「どうしたの?」と尋ねた天馬に、アステリは重たい口を開く。

「今まで、言わなかったんだけど……。ボク、無理矢理この世界に来たせいか昔の……モノクロ世界で暮らしていた時の記憶が、所々抜けてるみたいなんだ……」
「え?」

 重苦しそうに放ったその言葉に、天馬の脳裏に彼と初めて会った時の記憶が蘇る。

 ――「えっと……その……君、道で倒れてたから……」――
 ――「ぇ……」――
 ――「? 記憶に無いのかい?」――
 ――「いや……」――

 ――「君はどうして、あんな場所で倒れていたの?」――
 ――「……ごめん。覚えてないんだ……」――

 あの時は、目覚めたばかりで記憶が曖昧なだけだと思い、気にしなかった天馬。
 だが、もしアステリの言う様に、この世界に来たショックで記憶がなくなっているんだとしたら、あの時の会話も理解出来る。

「だけど、この空の事は忘れてない……。モノクロ世界で暮らしていた時、ボクは確かに見たんだ! こんな風に透き通るくらい綺麗な青空を」
「モノクロ世界で……?」
「うん。……本当はあの世界の空も、こんな風に綺麗な色をしていたのかも知れない……」

 モノクロ世界の主、クロト……
 色を奪い、廃化させた世界を自身の理想とする世界の材料にするとアステリは言っていた。
 もしそれが本当なら……アステリの故郷であるモノクロ世界も、元は色のついた世界であった可能性が高い。

「だったら! なおさらクロトの野望を止めて、モノクロ世界を元に戻さなきゃ!」

 拳を握り力強く叫んだ天馬。
 それにつられるように、アステリも強く頷くと同様に拳を強く握り絞めた。

「あぁ。絶対、クロトの野望を止めよう」

 そう決意を固め、二人は木枯らし荘への道を歩きだした。 
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