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色を無くしたこの世界で

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ハジマリ編
  第32話 再戦VSザ・デッド――潰し

 ベンチに戻る雷門イレブンの足取りは重かった。
 他のメンバーに支えられ戻ってきた倉間と速水に、マネージャーの葵と水鳥が手当てに向かう。

「二人共、大丈夫か?」

 サッカー部の中では比較的二人と一緒に行動している事が多い浜野が、心配そうに尋ねる。
 そんな彼に心配をかけさせまいと強がりを見せた倉間と速水に、円堂は「ダメだ」と一蹴すると、地面にしゃがみこんだ二人を見詰め言葉を続けた。

「倉間と速水はベンチで休んでいろ。後半からは代わりに、影山と浜野が出てくれ」
「! ッ…………」

 円堂から告げられた言葉に倉間は一瞬悔しそうに顔を歪ませるも、すぐさまその表情を消し去り影山と浜野の方へと視線を移す。

「影山、浜野。あとは任せる」
「はい!」
「おぅっ!」

 倉間、影山、浜野のやり取りを見ていた天馬はふと、視界の隅に映ったアステリへと視線を映す。
 何やら深刻そうな面持で相手チームのベンチを見詰める彼に近づくと、天馬は声をかけた。

「アステリ?」

 名前を呼ばれ振り返った彼は、先程までの表情とは一変。普段の様な優しい表情で天馬を見ると「何?」と言葉を返した。

「どうしたの? 深刻そうな顔をして……」
「いや……。……この試合、絶対勝たないと……って思ってさ」

――何だ、そう言う事か

「あぁ、世界を護る為にもこんな所で負けていられないね」
「うん、それもある…………けど」
「……他にも何か気になる事があるのか?」

 天馬の言葉に意味深に答えたアステリを神童が問いただす。

「アイツ等は、ただボク等を潰そうとしているんじゃない。きっと、ボク等を心身共に壊そうとしているんだ。……二度とサッカーが出来ないくらいに……」

 低くハッキリとした声で告げられたアステリの言葉に、天馬は目を見開いた。

「確かに……前半の奴等のプレーを見て、そうじゃないかと思っていたが……」
「ッ……」

 スキア達の行動を思い返し言葉を吐いた神童。態度こそ冷静な彼だったが、その言葉の裏にはスキア達の卑劣な行為に対する不快感が滲み出ていた。
 『二度とサッカーが出来ない』……過去、足の怪我により大好きなサッカーが出来なくなってしまった兄の不遇を思い出させるその言葉に、あまり感情を表に出さない剣城も眉間にシワをよせ、憤りの表情を浮かべている。

「ここで負けたら、クロトの野望を阻止出来なくなる……皆がサッカーをやって『楽しい』と言う思いも、負けて悔しいと言う思いも、全部……世界に溢れる色と共に消えてしまう。……だからこの試合は、必ず勝たなきゃいけない」

 両の拳を強く握り言葉を並べるアステリ。
 誰よりも真剣なその表情からは、彼の中に何を持ってしても動かす事の出来ぬ程の堅固な決心がある事をうかがわせた。

「アステリ……」



 後半戦は倉間の代わりに影山が、速水の代わりに浜野が、それぞれのポジションに入り開始された。
 試合開始直後、ザ・デッドからボールを奪った影山が天馬に向けパスを放とうとした時。マッドネスは猛然と走り込んでくると、強烈なタックルを繰り出した。

「うわあッ!!」
「輝!」

 容赦の無いその攻撃に影山の体は宙を舞うと、勢いよく地面に叩きつけられる。
 叫ぶ天馬の言葉をよそに、マッドネスはボールを拾うと強力なシュートにも似たパスを放つ。
 衝撃波を纏いながら飛ぶボールはディフェンスに入った神童を打ち倒し、激突の反動で跳ね返ったボールは今度は錦を激しく打ち付けた!

「あの野郎!」
「ついに仕掛けて来たか……!」

 ディフェンスエリアで怒気を含んだ様に声を上げた狩屋。それに続き、アステリが眉をひそめ吐き捨てる。
 フォンセは自身の元に渡ったボールを一瞥すると、突っ込んできた天馬、浜野に目掛け思いきり蹴り込む。二人を吹き飛ばしたボールはザ・デッドイレブンの間を目まぐるしく飛ぶのと同時に、雷門イレブン一人一人を攻撃し、その肉体を少しずつ傷付けていく。
 天馬達の顔を、腕を、腹を、胸を、背中を、足を、サッカーボールと言う凶器を駆使し、容赦なく潰して行くザ・デッド。
 衝突した部位に痛みが走り、筋肉が悲鳴を上げても雷門は立ち上がる事を止めなかった。皆、轟然と突き進むボールに食らい付き、なんとか奪おうと挑み続けるも、そのたびに体は傷付き、体力は削がれていく。
 途中、怪我の酷い天城が交代し、車田が入るも、すぐさまザ・デッドの猛攻に襲われ、倒れていった。

 技を出す事も、立ち上がる隙すら与えない。ゴールを狙うつもり等、毛頭無い。
 ただ雷門イレブンを倒す為。その為だけに、ザ・デッドはボールを蹴り続けた。

「悲しいですね……」

 ゴール前、ボールを持ったスキアが退屈そうに呟く。視線の先には、傷付いた雷門イレブンが倒れ、動けないでいる。

「カオス様を負かした方達だから、どれくらいのモノかと思いましたが……とんだ期待ハズレです」

 先程までの嬉々とした表情等微塵も無い。まるで天馬達を軽蔑するかの様な冷めた感情の無い瞳を持ったスキアは、ぐるりと視線を三国の方へと移し囁いた。

「なので、さっさと終わらせましょうか」

 スキアは強く地面を蹴り上げるとボールと共に高く跳躍し、必殺技の構えをとる!

「ッ、やめろォ!」
「ビーストラッシュ!」

 アステリがたまらず叫んでいた。
 蹴り落とされたボールは黒い獣の影を纏わせ、唸りを上げながらゴールキーパー三国の元へと迫っていく。
 迫りくる超必殺シュートを見詰めると、三国は両手を強く打ち鳴らし自身の闘気を高めた。

「うおおおおッ!! 無頼ハンドッ!!」

 高まった闘気を集約し具現化した《無頼ハンド》。
 禍々しいエネルギーをはらんだその巨大な手は、スキアの放った超絶シュートを受けるのと同時にその力を失い、木っ端微塵に砕け散ってしまった。

「三国さぁーんッ!!」

 痛む体を無視し、天馬は叫んだ。
 ザ・デッド、2点目。 
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