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八条学園騒動記

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第五百十四話 真理の実行その一

               真理の実行
 オセローを読みつつだった、洪童はナンシーにまた言った。
「オセローみたいになるまい」
「それがオセローの真理ね」
「書かれているな」
 まさにそれだというのだ。
「愚かになるな」
「憎しみや嫉妬、疑いに囚われずね」
「愛する人は何があっても信じろ」
「誰が何を言ってもね」
「それがオセローの真理だな」
「そうよね、マクベスもね」
 ナンシーは自分が読んでいる作品の話をした。
「唆されてもね」
「悪いと思っている方には行くな」
「そうよね」
 マクベス夫人に唆されてもというのだ。
「自分の中に悪い心があってもね」
「誘惑に乗るな」
「それが真理よね」
「これはコリオレイナスもリア王もな」
「それぞれの作品に真理があって」
「その真理を知ってな」
「オセローやマクベスみたいにならないことね」
 勿論リア王やコリオレイナスの様にもだ。
「それが真理ね」
「そうだな、けれどな」
「そういう風にするってね」
「難しい」
 洪童は言い切った。
「さっき言ったが俺はオセローを嘲笑出来ない」
「それは私もよ」
「俺がオセローと同じ立場にいたら」
 そうならというのだ。
「本当にな」
「ああなりそうよね」
「多分そうなる」
 愛する妻を疑い憎んでしまうというのだ。
「俺もな」
「そこ絶対にって人言えないわよね」
「言えるならな」
 それならと言うのだった。
「ある意味凄いな」
「そうよね」
「本当に奥さんを疑わないとな」
「絶対の自信がある人ね」
「そこまで強い意志があるか」
 それかとだ、洪童は眉を曇らせて述べた。
「根拠なく言えるか自分を過信しているか」
「そんな人よね」
「鋼鉄みたいな意志の人か」
 若しくはと言うのだった。
「何もわかっていない馬鹿だ」
「どっちかよね」
「馬鹿でもだ」
 それこそというのだった、そうした者でも。
「桁外れの馬鹿だ」
「オセロー読んで言えたらね」
「舞台や歌劇を観てもな」
 そちらでもというのだ。
「恐ろしいまでの馬鹿かな」
「とんでもなく意志の強い人ね」
「オセローは確かに愚かだ」
 このことは否定出来なかった、オセローは軍人としては優秀であった。だがそれでも世事のことには疎かったと見える。その世事に疎いことがこの場合愚かである理由の一つと言えるのだ。だがだった。
 洪童はここでさらに言った。
「奥さんを疑った」
「そして憎んでね」
「そうした感情をどうしようもなく膨らませていったからな」
「あんな馬鹿な人はね」
「そうはいなかった」
 洪童はオセローを批判していた、だがその顔には歯噛みがあった。オセローを批判していても嫌悪はしておらず悲しく残念に思っているからだ。 
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