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魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。

作者:エギナ
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第一部
  第49話 選択

『———システム起動。三十秒後、地下牢獄ハ崩壊シマス。繰リ返シマス。地下牢獄ハ崩壊シマス。構成員ハ直チニ地下牢獄ヲ出テ下サイ』

地下牢獄内に無機質な声の放送が響き渡った。
なんだこれ? そう問う前に、琴葉と響、グレースの顔が、一気に青ざめる。放送を聞いて焦って居るのだろうか。

「……嘘、ですよね?」
「って、嘘じゃないっぽいんだけど。敵さんに仁が倒されちゃったっぽいね」
「んな事言ってる場合か! 如何するんだよ、これ」

やっぱり。マフィアの構成員であるこの三人が慌てる程なんだから、あの放送は本物。で、三十秒後にマジでここは崩壊する。
……やばくね? 生き埋めって事でしょ?

「何があった?」シンが問う。
「説明するのは後です! 兎に角、此処を出ないと……‼︎」


『ステップ1。全テノ扉ヲ閉鎖シマシタ。取リ残サレタ構成員ハ、ステップ2開始前二転移シテクダサイ』


二回目の放送。“ステップ1”と言った辺り、段階的に壊されて行くのか。それとも、段々と出来る事が制限されて行くのか。

ただ、どちらにせよ此処から出なければ死ぬ。出ても死ぬかもしれないけど。

「六人とも、来て下さい。取り敢えず、貴方達だけでも助ける。六人程度なら転移魔法で……」
「琴葉は如何すんだよ!」
「如何にかします‼︎だから取り敢えず寄って下さい‼︎ 私が転移する場合、私だけしか転移出来ないですから」

魔法は、自分に干渉するのに適した魔法と、他人に干渉するのに適した魔法がある。自分に干渉するのに適した魔法が他人に使えない事は無いが、消費魔力が大きくなる。どれだけ頑張ったとしても、差は小さくなっても、無くなる事はない。
転移魔法は他人に干渉するのに適した魔法。だから、琴葉は自分以外の六人を一気に転移させられても、自分を転移させようとすると、自分だけしか転移させられない。

『貴様等は、苦渋の決断を強いられることになるだろう。今の内に、自分の命か、黒華の命、どちらを救うか、決めておく事だな』

神白さんの言葉が蘇る。
この事だったのか?

「琴葉ちゃん、分かってんの⁉︎ 此処で死んだら蘇生は出来ないんだ‼︎」
「でも、一人の命より六人の命の方が大切です‼︎ 私なんて如何でも良いんです! ステップ2が始まる前に早くして下さい‼︎」

グレースと琴葉が睨み合い、悲しそうな表情をしながら叫ぶ。


『私なんて如何でも良いんです‼︎』

違う、如何でも良くない。
なんで、なんでなんで。


「なんで琴葉は自己犠牲ばっかり選ぶんだよ‼︎‼︎」


気付いたら俺は叫んでいた。

よく分からないけど、新年魔法大会の時、俺の近くで爆発が起きた。体が動かせなくなって、意識が朦朧とした。
だけど、聞いた。

『私と一緒に、もう一度マフィアに戻ってくるって言うのなら、今後一切此の第一魔法刑務所には手出ししないと誓おう。此の大会に関係している、マフィアの人間が殺した人間も蘇らせてあげよう。如何だい? 刑務所側に多く利益があ……』
『分かった……分かりました。わたしを、連れて行って……これ以上、だれも殺さないで……』

あれはマフィア首領と琴葉の声だった。

琴葉は第一魔法刑務所を守る為に、第一魔法刑務所を裏切って、マフィアに居る。
沢山の人を助ける為に、自分を犠牲にして。

「え……?」
「とにかく、絶対琴葉が助かれよ‼︎ 俺達は十分にお前に助けて貰ったよ‼︎」

自分の手を見る。
ガラスで切って、血が流れていた場所。

「これだって、お前が治療してくれなきゃまだ血は止まってないし、細菌入りまくっていつか死んでたかもしれない。それを琴葉は助けてくれたんだ。窓ガラスを勝手に割って、勝手に部屋に侵入して、勝手に怪我した俺を」


あと何秒で、三十秒経ってしまうのだろうか。

あと何秒で、琴葉を助けなければいけないのか。

あと何秒で、琴葉と別れなければいけないのか。

あと何秒で、俺は死ぬのか。


全部、分からない。


「だから、琴葉。お前が助かって」


琴葉の肩を押して、俺達と距離を取らせる。
直後、琴葉の体が青白い光に包まれ、フッと消えていった。


“魔法の強制発動”。漸く上手くいった。


『ステップ2。地下牢獄内ノ魔力ヲ全テ消去シマシタ。取リ残サレタ構成員ハ、ステップ3開始前二体内魔力デ転移シテください』


「これで良かったのか? お前ら、助からなくて」

振り返って、五人を見る。
俺が勝手にやってしまった感じがあったから。

「大丈夫だ。ありがとう、レン」シンが言う。
「琴葉ちゃんが助かってよかったぁ!」ハクが言う。
「琴葉が無事ならそれで良いんじゃないかな? よく頑張ったね」要が言う。


『ステップ3。地下牢獄内ノ生物ノ体内魔力ヲ全テ消去シマシタ。構成員ハ地下牢獄二近付カナイデクダサイ』


「マフィア幹部として、死はいつも隣にあるもの。今更、怖いとは思わないよ。此れは正しい選択だ」グレースが言う。
「琴葉を助けてくれて有難うな。俺はメイドだからよ。御主人様の為なら何回でも死ねる」響が言う。


『ステップ4。地下牢獄ト地上ヲ分離シマシタ。地下牢獄二近付カナイデクダサイ』


「……あと崩壊まで何秒くらい?」
「十秒!」
「じゃあグレース、一発殴るから歯ぁ食い縛れ」
「え」

「「「せーの‼︎」」」
「ぎゃぁぁあ‼︎ 痛い‼︎ 痛いでぇす‼︎」

目標達成。


———そして。


足元がグラリと揺れ、床にひびが入る。
再度天井が崩落し、目の前が真っ暗になった。


『ステップ5。地下牢獄ハ崩壊シマシタ。繰リ返シマス。地下牢獄ハ崩壊シマシタ』


遠くで放送が聞こえて、俺はゆっくりと眠りについた。


 
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