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八条学園騒動記

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第五百十三話 素晴らしきかな文学その六

「死んでいくからね」
「自業自得と言ったがな」
「それでもっていうのね」
「悲しい結末だな」
「オセローにしてもね」
「奥さんを殺した」
 嫉妬と憎悪に心を支配されてだ、ヤーゴの姦計に惑わされ。
「そうして真実を知ってな」
「絶望してね」
「自害したがな」
 己の腹を刺して死ぬ、何処か日本の武士の様な死に様だ。
「やはり悲しいな」
「そうよね」
「愚かさ故に身を滅ぼす」
「それも真実よね」
「そしてその結末は悲しいな」
「そうね」
 これもまた真実、真理だというのだ。
「まさに」
「自業自得でもな」
「同情するっていうかね」
「感情移入してな」
「悲しく思えるのよね」
「リア王もオセローもな」
 それぞれの愚かさが故に破滅した彼等だがというのだ。
「不思議な位にな」
「読んでる途中何だこの馬鹿はって思うわよね」
「本当に思う」
 心からとだ、洪童も答えた。
「周りを見ろとかな」
「それリア王よね」
「周りをよく観たらな」
「自分がどう思われるかわかってね」
 上の娘達や彼女達の周りには嫌われていた、老人性ヒステリーや頑迷さによってそうなっていたのだ。
 しかしだ、その彼でもだったのだ。
「本当に大切に想ってる人もいるってね」
「コーデリアもそうだな」
「道化でもね」
「あの道化もあれでな」
「実は凄くリア王を大事に思ってたわよね」
「思っていたからな」 
 それも本気でというのだ。
「おどけた調子でも厳しくな」
「リア王に忠告してね」
「考えや行いをあらためる様に言ったな」
「そうよね」
「それに気付かなかったからな」
「ああなったにしても」
「悲しいな、俺はオセローが特にな」
 今のそのオセローを読んでいる、丁度宴の場で妻を罵る場面だ。
「馬鹿な奴だと思う」
「リア王も愚かでね」
「オセローもな」
「何でこんなに馬鹿なんだってね」
「思う位だな」
「ええ、私もオセロー読んだけれど」
 ナンシーは眉を顰めさせて答えた。
「有り得ないまでにね」
「愚かだな」
「それで奥さんを殺して」
「最後に真相を知るからな」
「後悔先に立たずね」
「舞台の作品だが」
 シェークスピアの作品は全てそうだ、だからこそあの大袈裟で芝居がかった台詞があるのだ。これもまたシェークスピアの味であろう。シェークスピア節と呼ぶべき。
「舞台を観ていてオセローに言いたくなるかもな」
「奥さんを信じろって」
「ヤーゴを疑えとな」
「そうよね、あんなに愛してるならね」
「あれだけ信じていたからな」
 物語の最初の頃はそうだった。
「そうだったならな」
「もうね」
「最後の最後までな」
 それこそというのだ。 
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