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英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

作者:sorano
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プロローグ

エレボニア帝国内戦―――

「四大名門」と呼ばれる大貴族を中心とし、その莫大な財力によって地方軍を維持し、自分たちの既得権益を守らんとする伝統的な保守勢力である《貴族派》の軍である通称”貴族連合軍”によって勃発した内戦。

オリヴァルト皇子の計らいによってトールズ士官学院に留学したメンフィル帝国の貴族の子息であるリィン・シュバルツァーも内戦に巻き込まれ、様々な辛い経験をし、最後は大切な友を失う事になったが、それでも友の遺言に従って前を向いて生き続けた。そしてエレボニアの内戦終結から二日後に異変が起こる。

それは―――メンフィル帝国大使リウイ・マーシルンの名の下でリィンと、数奇な出会いをして”パートナードラゴン”の契約を結び、また恋人の一人でもあるセレーネ・L・アルヘイムのメンフィル帝国本国への”帰還命令”の書状が来た事だった。突然の出来事に困惑したリィンとセレーネだったが、初代メンフィル皇帝にして現メンフィル皇帝の父親であるリウイの命令に逆らう訳にはいかず、書状が来たその日にクラスメイトであるアリサ達に説明をした後翌日、トリスタから去り、異世界にあるメンフィル帝国の本国へと向かった。

すぐに帰って来ると思われた二人だったが、4日経っても帰って来ず、その事にアリサ達が心配し始めている中リィンとセレーネのクラスである”Ⅶ組”にある人物が訪れた。



ゼムリア歴1205年1月7日

同日、AM8:20―――

~Ⅶ組~

「―――失礼します。」
「アルフィン殿下…………!?こんな朝からどうなされたのですか…………!?」
教室に入ってきた人物―――アストライア女学院の制服を身にまとったアルフィン皇女の登場に驚いたラウラはアルフィン皇女に要件を訊ねた。
「実はリィンさんに訊ねたいことがありまして…………あの、リィンさんはまだ登校していらっしゃらないのでしょうか?」
「そ、その…………実はリィンさんもそうですけど、セレーネさんもメンフィル帝国から来た”帰還指示”によってメンフィル帝国の本国に帰還していて、まだ帰ってきていないんです…………」
「リィン達がメンフィル帝国の本国に向かってもう4日は経っているんですけど、何の連絡も来ないんです…………」
「え…………それじゃあリィンさんとセレーネさんもメンフィル帝国の本国に帰還して、戻っていらっしゃっていないのですか…………」
自分の問いかけにそれぞれ不安そうな表情を浮かべて答えたエマとエリオットの説明を聞いたアルフィン皇女も二人同様不安そうな表情を浮かべた。

「”リィンとセレーネも”?」
「その口ぶりでリィンに用があったって事は、もしかしてエリスも同じ状況なの~?」
アルフィン皇女が口にした言葉が気になったフィーは真剣な表情を浮かべ、ミリアムはアルフィン皇女に訊ねた。
「はい…………5日前にリベールのロレント地方にあるメンフィル帝国大使館より、リウイ陛下によるエリスに対する異世界にあるメンフィル帝国の本国への”帰還指示”の書状が届いた為、翌日にメンフィル帝国の本国へ向かったのですが、4日も経っていますのに、帰って来るどころか何の連絡も来ないんです…………」
「エリスもリィンとセレーネと同じ状況か…………」
「リィン達の話だと、異世界にあるメンフィル帝国の本国へ向かうにはリベールのロレント地方にあるメンフィル帝国の大使館に設置されてある異世界への転移魔法陣を使えばすぐにメンフィル帝国の本国の帝都近辺に到着するって言っていたから、メンフィル帝国とエレボニア帝国との往復の時間がかかっているという訳でもないしな…………」
アルフィン皇女の説明を聞いたガイウスとマキアスはそれぞれ考え込んでいた。

「…………殿下、帝都(ヘイムダル)にあるメンフィル帝国の大使館に問い合わせ等はしたのですか?」
「それが…………元々帝都(ヘイムダル)―――いえ、”エレボニア帝国の領土にはメンフィル帝国の大使館は存在しない為”、メンフィル帝国と連絡を取り合う為には唯一大使館が存在しているリベール王国に仲介してもらうしかないのです。」
「ええっ!?帝都どころか、エレボニア帝国の領土のどこにもメンフィル帝国の大使館は本当にないんですか!?」
「そういえば帝都でもメンフィル帝国の大使館は見た事がないな…………リベール王国やレミフェリア公国は当然として、エレボニアと犬猿の仲のカルバード共和国の大使館すらもあるのに、”百日戦役”時に現れたメンフィル帝国の大使館が”百日戦役”後に建てられたという話は聞いたことがないな…………」
ユーシスの質問に不安そうな表情で答えたアルフィン皇女の答えを聞いたエリオットは驚き、マキアスは考え込んでいた。
「…………元々メンフィル帝国はメンフィル帝国にとっての異世界であるわたくし達ゼムリア大陸の国家への接触は慎重にしているようでして…………現状メンフィル帝国の大使館が存在しているのはリベール王国にある大使館のみなのですわ。実際、メンフィル帝国―――いえ、異世界に存在している人間以外の種族である”異種族”の方々もリベールや、リウイ陛下の正妃であられるイリーナ皇妃陛下の縁で親交ができたクロスベル以外の国家や自治州などに姿を現していないそうなのです。」
「…………確かに私達、今までの”特別実習”もそうだけど、内戦でもエレボニアの様々な場所を回ったけど、異種族の人達とはセレーネやリフィア殿下、それにエヴリーヌさんとメサイアを除けば一度も会ったことがないわよね?」
「ええ…………リィンさん達の話では異世界にはそれこそ”ゼムリア大陸には存在しない空想上の種族”―――森人(エルフ)鉱人(ドワーフ)、それに悪魔や天使、神々や魔王すらも存在しているとの事ですし…………」
アルフィン皇女の話を聞いたアリサとエマはそれぞれ不安そうな表情を浮かべて考え込んでいた。
「た、大変だよ、みんな!ヴァリマールが…………ヴァリマールがメンフィル帝国軍に徴収されようとしているよ!」
するとその時トワが慌てた様子で教室に入ってきてアリサ達にある事を伝え
「ええっ!?」
トワの言葉にアリサは驚きの声を上げ、周りの者達もそれぞれ血相を変えた。その後アリサ達はエマの連絡を聞いて合流したセリーヌと共にヴァリマールが保管されている技術棟の近くの外に向かった。

~技術棟付近~

「ですからさっきから何度も言っているように、ヴァリマールはリィン君を起動者としている為、メンフィル帝国軍が回収しても誰も扱えませんし、そもそも他国の軍がエレボニアの士官学院であるトールズ士官学院が保管している機体を徴収するなんて、おかしいですよ!」
アリサ達が格納庫に到着するとメンフィル帝国兵達を引き攣れた機械仕掛けの人と思わしき存在―――メンフィル帝国軍の機工軍団を率いるシェラ・エルサリス元帥にジョルジュが必死に反論していた。
「ジョルジュ先輩が反論している女性は一体…………」
「―――メンフィル帝国軍”機工軍団”団長シェラ・エルサリス元帥。”百日戦役”時、シェラ・エルサリス元帥率いる”機工軍団”はエレボニアの軍どころか砦や基地も易々と破壊し続けたことから”破壊の女神”の異名で恐れられている。」
「あの女性がかの”破壊の女神”…………」
「げ、”元帥”だって!?」
「そ、そんな軍でもトップクラスの立場の人がメンフィル帝国軍を率いてどうしてヴァリマールを…………」
ガイウスの疑問に答えたフィーの説明を聞いたラウラは真剣な表情でシェラを見つめ、マキアスは驚き、エリオットは不安そうな表情を浮かべた。そこにアンゼリカから騒ぎを知らされたサラがヴァンダイク学院長とアンゼリカと共に姿を現した。
「サラ教官…………!それに学院長とアンゼリカ先輩も…………!」
「あんた達もトワから連中の件を聞いてこっちにやってきたのね。…………状況から考えてリィン達の件とも恐らく無関係ではないのでしょうね…………」
「うむ…………エレボニアとメンフィルの関係が”最悪の事態”に陥っている事を覚悟せねばならぬかもしれぬな…………」
二人の登場にエマが明るい表情を浮かべている中、サラはアリサ達を見回した後厳しい表情を浮かべてシェラ達を見つめ、サラの言葉に重々しい様子を纏って頷いたヴァンダイク学院長はサラと共にシェラ達に近づいた。

「サラ教官…………!ヴァンダイク学院長も…………!」
「よく頑張ったわね、ジョルジュ。ここからはあたし達に任せなさい。」
「はい、お願いします…………!」
そしてシェラ達の応対をしていたジョルジュと交代したサラとヴァンダイク学院長はシェラ達と対峙した。
「”Ⅶ組”の担当教官のサラ・バレスタイン並びにトールズ士官学院長ヴァンダイク名誉元帥を確認。私はメンフィル帝国軍”機工軍団”団長シェラ・エルサリス元帥です。」
「貴女があの”破壊の女神”と名高いエルサリス元帥閣下ですか………我々の事もご存じのようですから、自己紹介は省かせて頂き、早速本題に入らせて頂きますが…………何故何の連絡もなく突然ヴァリマールを徴収すると言った暴挙をメンフィル帝国は行おうとしているのですか?」
「それ以前に今回の件、エレボニア帝国政府に話は通しているのですか?」
シェラが名乗るとヴァンダイク学院長は重々しい様子を纏ってシェラを見つめた後表情を引き締めてシェラに問いかけ、サラもヴァンダイク学院長に続くように真剣な表情でシェラに問いかけた。

「メンフィル帝国政府が”灰の騎神”の徴収の件でのエレボニア帝国政府への通達をしている事については不明ですが、リウイ・シルヴァン両陛下より”灰の騎神”の回収を命じられている為、我々は本日この場に現れました。」
「よりにもよって”英雄王”と現メンフィル皇帝の命令とはね…………幾らメンフィル帝国の皇帝の命令であろうと、他国の士官学院が保管している”騎神”―――いえ、”兵器”を徴収するなんて、そんな非常識な事がまかり通ると思っているのですか?」
シェラの説明を聞いたサラは厳しい表情を浮かべたままシェラに指摘した。
「”灰の騎神”の起動者(ライザー)であるリィン・シュバルツァーは我が国に所属している為、”灰の騎神”の所有権は当然我が国にあります。そして”騎神”を操縦が可能なのはその”騎神”に適応している”起動者”のみとの事。よって、エレボニアの”灰の騎神”の所有権の順位はリィン・シュバルツァーが所属しているメンフィル帝国よりも下になります。」
(チッ…………”騎神”についても随分と情報を集めていたみたいですね…………)
「(うむ…………)…………そのリィン・シュバルツァーの事で伺いたいことがあるのですが…………今回の件、リィン君にも伝え、了承の答えをもらっているのでしょうか?」
「そ、それに…………リィンさんとセレーネさんは、それにエリスさんはいつトールズとアストライアに戻ってくるんですか?リィンさん達が帰還命令に従って異世界にあるメンフィル帝国の本国に向かってもう4日は経っていますよ!?」
シェラの正論に反論できないサラは舌打ちをし、ヴァンダイク学院長は静かな表情でシェラに質問し、エマも続くように必死の表情で質問をした。

「リィン・シュバルツァー、セレーネ・L・アルヘイム、そしてエリス・シュバルツァーの3名は、別命あるまで本国の帝城の客室にて待機指示が出ています。」
「ええっ!?リィン君達がメンフィル帝国のお城の客室に…………!?」
「それってどう考えても”軟禁”じゃないですか!?」
「そ、それにエリスまで…………!」
シェラの説明を聞いたトワは驚き、マキアスは真剣な表情でシェラを見つめて反論し、アルフィン皇女は不安そうな表情を浮かべた。
「どうしてあの子達がそんな状況に陥っているのよ!?」
「…………まさかとは思いますが、彼らがメンフィル帝国の許可もなくエレボニアの内戦終結に貢献した件でしょうか?去年の夏至祭での帝国解放戦線の襲撃でエリス君が拉致されかけた件で、エリス君とアルフィン殿下がリウイ陛下より注意を受けたと聞いておりますが…………」
サラは怒りの表情でシェラに問いかけ、心当たりがあるヴァンダイク学院長は真剣な表情でシェラに訊ねた。

「―――メンフィル帝国が問題としている点はその件ではありません。」
するとその時その場にエリゼが現れ
「あ…………」
「エリゼ…………!」
エリゼの登場にアリサは呆け、ラウラは驚きの表情を浮かべた。そしてエリゼはヴァンダイク学院長達に近づいて上品な仕草で挨拶をした。
「―――お初にお目にかかります、ヴァンダイク学院長。私の名はエリゼ・シュバルツァー。若輩の身ではありますがリフィア皇女殿下付き専属侍女長を務めさせて頂いております。」
「うむ…………エリゼ君の噂もかねがね聞いておる。それでエリゼ君…………本当にメンフィル帝国はヴァリマールを回収する為に、エルサリス元帥閣下たちを派遣したのか?」
「はい。これがその指示書です。―――どうぞ。」
「拝見させてもらおう…………―――!?何と…………」
「『現メンフィル皇帝シルヴァン・マーシルン並びにメンフィル大使リウイ・マーシルンの名の下、エレボニア帝国トールズ士官学院に保管されている”灰の騎神”ヴァリマールを回収せよ。なお、回収の際学院の関係者達が拒めば、”強制徴収”――――学院の関係者達を制圧し、回収する事も許可する』ですって!?」
エリゼから渡された指示書の内容を読んだヴァンダイク学院長は血相を変えた後信じられない表情を浮かべ、サラはその場で指示書の内容を読んだ後厳しい表情で声を上げた。

「が、”学院の関係者達を制圧して回収する事も許可する”って事は………!」
「まさかとは思いますが、貴女方は私達を殺してでも、ヴァリマールを回収するつもりなのですか?」
指示書の内容を読んだサラの話を聞いたアリサ達がそれぞれ血相を変えている中トワは信じられない表情をし、アンゼリカは厳しい表情でシェラ達を見つめて問いかけた。
「―――その必要があるのならば、貴女方を”殲滅”するだけです。」
アンゼリカの問いかけに淡々とした様子で答えたシェラは腕の一部を変形させて砲口をヴァンダイク学院長達に向け、シェラに続くようにシェラの背後にいる兵士達もそれぞれの武装を構えた!
「う、腕が砲口に…………!?」
「まさかとは思うが”破壊の女神”も”劫焔”のような化物の類なのか!?」 」
「まあ~、ユーシスの言っている事は一応当たっているね~。”破壊の女神”は生きた人間じゃなくて、異世界の古代兵器らしいよ~?」
「ええっ!?それじゃあエルサリス元帥閣下は人形兵器の類なのですか!?」
「それにしては今まで戦った人形兵器とは何もかもが”格”があまりにも違いすぎる…………」
「ミリアムの話から推測して”破壊の女神”は間違いなく”存在自体が古代遺物(アーティファクト)”レベルなのでしょうね。」
シェラが腕を砲口に変形させた事にエリオットは驚き、ユーシスの疑問にミリアムは真剣な表情で答え、ミリアムの答えを聞いたエマは驚き、ガイウスとセリーヌは厳しい表情でシェラを見つめた。

「―――私もできれば兄様達がお世話になった方々を”斬る”事はしたくありません。ヴァリマールを回収すれば、私達は何もせずこの場から去りますので大人しく回収を見守って頂けませんか?」
そしてエリゼも太刀を鞘から抜いてシェラ達と共にヴァンダイク学院長達と対峙し、それを見たアリサ達は血相を変え
「エリゼ君、君まで…………」
「………っ!エリゼさん、どうしてメンフィル帝国は突然このような事を―――いえ、一体メンフィル帝国とエレボニア帝国の間に何があったのですか!?」
エリゼの行動を見たジョルジュが複雑そうな表情をしている中、アルフィン皇女は悲痛そうな表情でエリゼに問いかけた。
「…………よりにもよって貴女自身がそれを仰るのですか――――ユミルが”北の猟兵”達に襲撃された原因であったアルフィン殿下、貴女が。」
「え…………」
「ユ、ユミルが”北の猟兵”達に襲撃された原因がアルフィン殿下って………」
「っ!!やはり…………メンフィル帝国は父の愚行を見逃していなかったのだな…………」
厳しい表情を浮かべているエリゼの指摘にアルフィン皇女が呆けている中マキアスは不安そうな表情をし、心当たりをすぐに思い出したユーシスは息を呑んだ後辛そうな表情で肩を落とした。

「ユーシスのお父さんの”愚行”って………」
「まさか…………メンフィルは内戦時アルフィン殿下を拉致する為にアルバレア公が雇った”北の猟兵”達によるユミル襲撃を今更蒸し返して、エレボニアに戦争を仕掛けるつもりなの!?」
「あ…………」
「そ、そう言えばクレア大尉もユミルの件でメンフィル帝国が国際問題にしてエレボニアに賠償や謝罪とかを求めてこない様子を不思議に思っていたけど…………」
ユーシスの話を聞いたエリオットは不安そうな表情をし、厳しい表情を浮かべて声を上げたサラの推測にアリサは呆けた声を出し、トワは不安そうな表情を浮かべたてエリゼ達を見つめた。
「正確に言えばメンフィルが問題としている件は一度目の襲撃―――アルバレア公が雇った”北の猟兵”達による襲撃だけでなく、一度目の襲撃の際のエリスの拉致監禁やユミルの領主である父様の負傷、”二度目の襲撃”―――パンダグリュエルによる襲撃によって兄様を脅迫してパンダグリュエルに向かわせ、軟禁した事も問題としています。―――それとメンフィルは”一度目の襲撃が判明してから、既にリベールの王都にあるエレボニアの大使館に抗議や謝罪、賠償を求め続けてきました。”」
「い、”一度目の襲撃が判明してからずっと抗議や謝罪、賠償を求め続けてきた”だって!?だったら何で今頃動き出したんだ!?」
「いや、むしろ”今”だからなんだろう。恐らく内戦の最中貴族連合軍が大使館に対してまともな対応をしていなかった事もあるだろうが、内戦によって正規軍、貴族連合軍共に疲弊している”今”のエレボニアが戦争を仕掛けられれば一溜まりもない。―――ましてや12年前の”百日戦役”でエレボニアを圧倒したメンフィルならば、ただでさえ高い勝率はほぼ100%に近い勝率になって自国の被害をできるだけ少なくしてエレボニアに勝利できると思われるだろうからね。」
「後はエレボニアの新兵器――――”機甲兵”の性能を探る為にも内戦中は様子を伺っていたかもしれないね。」
「あ…………」
「そ、それじゃあリィンさん達をメンフィル帝国の本国の帝城に軟禁している理由は…………」
「リィン達―――自国の貴族の関係者達がメンフィル帝国とエレボニア帝国の戦争に巻き込まれない為か…………」
「後は戦争の件を知ったリィンが”騎神”―――ヴァリマールを使って何らかの介入をする事を防ぐためかもしれないわね…………」
エリゼの説明に仲間達と共に驚いた後反論したマキアスの指摘に対して答えたアンゼリカとフィーの推測を聞いたトワは呆けた声を出し、ある事に気づいたエマは不安そうな表情を浮かべ、ラウラとサラは重々しい様子を纏って推測を口にした。

「…………っ!―――誠に申し訳ございません、エリゼさん、エルサリス元帥閣下!ユミルの件は先程エリゼさんも仰ったように、ユミルが襲撃される原因となったわたくしも”元凶”の一人です!わたくしの身はどうなっても構いませんので、どうかメンフィル帝国にエレボニア帝国との戦争を考え直して頂けるよう取り計らって頂けませんか!?」
「ユミルの件は皇女殿下の責任ではございません!全ては父―――”アルバレア公爵家”と貴族連合軍の”主宰”であるカイエン公と”総参謀”の兄上です!俺達”アルバレア公爵家”はどうなっても構わん!だから、皇女殿下にまで責任を追及しない事と俺達”アルバレア公爵家”の首や財産をメンフィル帝国に対する”謝罪の証”として戦争を止める事を俺自身が強く望んでいる事をリフィア殿下を通じてリウイ陛下達に伝えてくれ!―――頼む!!」
「アルフィン殿下…………ユーシス…………」
メンフィルとエレボニアの戦争を止める為にアルフィン皇女とユーシスはそれぞれその場で頭を深く下げて自分達の意思をエリゼ達に伝え、その様子を見たガイウスは辛そうな表情を浮かべた。
「…………一応お二人の意志はリフィア殿下やシルヴァン陛下達に伝えてはおきます。ですがもはや”手遅れ”でしょう。今頃、メンフィル・エレボニア両帝国間の戦争へと勃発させない為のエレボニア帝国に対するメンフィル帝国の要求内容が帝都(ヘイムダル)の帝国政府にも伝わっている頃です。奇跡的な生還を果たして政府に復帰したエレボニア帝国政府の代表者の性格を考えると、とてもメンフィル帝国の要求を呑むとは考えられません。」
「き、”奇跡的な生還を果たして政府に復帰した帝国政府の代表者”って………!」
「”鉄血宰相”ギリアス・オズボーンだね。」
「た、確かにオズボーン宰相の性格を考えるとどんな内容なのかは知らないがメンフィル帝国の要求をそのまま呑むとは思えないけど、クロスベルの件もまだ終わっていない上内戦でエレボニアは疲弊している状況なんだからさすがに他国との戦争は避ける交渉とかはするんじゃないのか…………?」
「んー……………」
エリゼの答えを聞いたトワは不安そうな表情で声を上げ、フィーは真剣な表情で呟き、マキアスは不安そうな表情を浮かべながら推測を口にし、ミリアムはエリゼを見つめながら真剣な表情で考え込んでいた。

「そういう訳ですので、ヴァリマールは回収させて頂きます。その指示書は今回の件の”証拠”としてそちらに差し上げますので、どうぞそのままお持ちになってヴァリマールが回収された件で政府や軍に追及された際に、その指示書によってメンフィル帝国が”トールズ士官学院の関係者達との戦闘が起こる事も承知の上でヴァリマールをトールズ士官学院から強引に回収した”という内容で政府や軍に説明してくださって結構です。」
「…………あいわかった…………皆、そういう訳ですまないがメンフィル帝国軍の回収作業を決して邪魔したりしてはならぬぞ。」
「が、学院長…………」
「…………っ!エリゼ、あんたは本当にそれでいいの!?メンフィルとエレボニアの戦争なんて、リィン達は絶対に望んでいないし、もし知ったら猛反対するわよ!?」
エリゼの説明に目を伏せて重々しい様子を纏って頷いたヴァンダイク学院長はアリサ達に指示をし、ヴァンダイク学院長が自分達にとっても大切な仲間であるヴァリマールを強引に回収しようとするメンフィル帝国の要求に従った事にトワが悲痛そうな表情を浮かべている中サラは唇をかみしめた後怒りの表情でエリゼに問いかけた。
「いいも何も、リウイ陛下どころか現メンフィル皇帝であられるシルヴァン陛下が決定した以上メンフィル帝国政府内の発言権を持たない”メンフィル皇族専属侍女長如き”の私ではどうする事もできませんし、それに…………―――(エリス)の拉致監禁や兄様への脅迫、父様が北の猟兵達によって重傷を負わされた事、2度に渡るユミル襲撃、挙句の果てにはそれらの件に対して何の謝罪や賠償もしなかった”貴族連合軍を含めたエレボニア帝国”に対して私が”怒り”を抱いていないと思っていたのですか?」
「………………っ!」
「エリゼさん…………」
しかし全身に静かなる闘気を纏わせて答えたエリゼの意志を知り、エリゼのエレボニアに対する”怒り”が故郷の為に猟兵稼業を続けている”北の猟兵”もその原因である事にサラは辛そうな表情で唇をかみしめ、自分達にとってクラスメイトであり、大切な仲間でもあるリィンの妹であるエリゼが自分達の祖国であるエレボニアに対して怒りを抱いている事にアリサは悲しそうな表情を浮かべてエリゼを見つめた。

「―――ヴァンダイク学院長達への説明の為の時間を取って頂きありがとうございました、エルサリス様。―――それでは始めて下さい。」
「了解。―――転移陣の準備を。」
「ハッ!」
闘気や太刀を収めて気を取り直したエリゼに視線を向けられたシェラは頷いた後メンフィル兵達に指示をし、指示をされたメンフィル兵達はヴァリマールの周囲で作業を始め
「―――自己紹介が遅れましたが、私はリィンの義妹にして婚約者の一人でもあるエリゼ・シュバルツァーと申します。急な事で申し訳ございませんがヴァリマールさんはしばらくの間、メンフィルが用意する保管場所にて待機して頂きます。」
メンフィル兵達が作業している間エリゼはヴァリマールの正面に近づいてヴァリマールに挨拶と説明をした。
「エリゼノ事は、リィンやセレーネカラモ聞イテイル。ドウヤラリィンハ準起動者達ト決別セネバナラヌ状況ノヨウダガ、アリエナイトハ思ウガ、メンフィルトヤラハ、我ニリィン以外ノ起動者ヲ用意スルツモリナノカ?」
「ヴァリマールさんを兄様以外の方が操縦するような事は絶対にない事はシルヴァン陛下やリウイ陛下も確約なさってくださっていますので、この場でお約束できます。そして兄様が再びヴァリマールさんを駆り、その刃を向ける相手は…………兄様次第でしょう。」
「…………ソウカ。」
エリゼの答えを知ったヴァリマールは何も反論する事なく目を光らせて淡々とした様子で答えた。そしてエリゼはヴァンダイク学院長とアルフィン皇女に近づいてヴァンダイク学院長には二通の封筒を、アルフィン皇女には一通の封筒を手渡した。

「この封筒は一体…………?」
「エリスのアストライア女学院の退学届けです。ちなみにヴァンダイク学院長に渡した二通の封筒は兄様とセレーネのトールズ士官学院の退学届けです。」
「!!」
「そ、そんな!?」
「…………リィン君達の退学の理由は…………やはり戦争勃発になりかけているメンフィルとエレボニアの国家間の問題が関係しているのかの?」
エリゼの説明を聞いたアルフィン皇女は目を見開き、アリサは悲痛そうな表情で声を上げ、ヴァンダイク学院長は重々しい様子を纏ってエリゼに訊ねた。
「…………―――”メンフィル帝国政府の政治的判断によるものです。”――――それでは私達はこれで失礼します。本日はお騒がせしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。」
ヴァンダイク学院長の問いかけに静かな表情で答えたエリゼは既に作業を終えたメンフィル兵達やシェラと共にメンフィル兵達が用意した転移魔法陣によってその場から消え、トールズ士官学院から去って行った!

「き、消えた……」
「まさか”騎神”を転移魔法陣で移送するなんて…………」
「あんな大規模な転移陣…………それも一度しか使えない片道のみとはいえ、転移陣が一般兵にも伝わっているって事は、メンフィル帝国は相当魔法技術に長けているようね…………」
エリゼ達が去った後エリオットは呆けた声を出し、エマは信じられない表情で呟き、セリーヌは目を細めて転移の際にエリゼ達と同時に跡形もなく消滅した魔法陣があった場所を睨み
「わたくしが…………軽はずみにも他国の領土であるユミルに滞在し続けたせいで、こんな事に…………っ!」
「皇女殿下の責任ではございません…………!全ては”アルバレア公爵家”の責任です…………っ!」
アルフィン皇女は悲痛そうな表情でその場で崩れ落ち、ユーシスはその場で土下座をしてアルフィン皇女に謝罪し続けていた――――

そして1週間後、アリサ達は更なる衝撃の事実を知る事になる。それは―――クロスベル占領の為にクロスベルへと侵攻した”パンダグリュエル”をエレボニア軍の旗艦とするルーファス・アルバレア率いる正規軍と領邦軍の混合軍がクロスベルによって”返り討ち”に遭って”全滅”すると共に”パンダグリュエル”は奪われ、ルーファス達の全滅にはクロスベルと連合を組んだメンフィルも関わっており、ルーファスを討ち取った人物はメンフィル帝国軍に所属するリィンであるという新聞の内容であった――――
 
 

 
後書き
この話は光と闇の軌跡シリーズの設定の一部は同じですが、運命とも灰とも設定が異なります。まず閃2終章終了時点でのリィンの使い魔は運命や灰と違ってベルフェゴール、リザイラ、アイドスはいなく、トールズに来る前に出会って契約したという設定のメサイアのみで、閃1のヘイムダルでの特別実習でのセレーネとの出会いやリウイ達の乱入の件、ローエングリン城で出会ったアイドスの件を除けば全て原作通りで、エリゼは運命同様既に”剣聖”の一人にして運命で登場した”ヴァイスリッター”の操縦者でもあり、リィンの恋人(もとい肉体関係を結んでいる女性)は現時点ではエリゼ、エリス、セレーネ、メサイアの4人のみで、アリサやアルフィン達とはまだアリサ達の片想いで、恋人関係にはなっていない設定です。また、プリネ達も留学していない為、ケルディックもエレボニアの領土のままで原作通りになっている状況です。なお、次にこの話を書く内容はリィン達側で、リィン達がメンフィルに軟禁されてからルーファス殺害へと結びつく経緯の予定です。それと、この話はアリサ達からは戦死者を出すつもりはありませんが、アリサ達の関係者達からは戦死者が出る予定となっており、恐らくリィン達とアリサ達は最後まで、もしくは最終決戦直前までずっと敵対関係にする事を考えています(ぇ)また、この話は3や4のイベントをフライング発生させる予定ですので、3や4で初登場となるキャラがフライング登場して仲間になったり敵になったりすることも考えています。…………少なくても現時点でアルティナとミュゼ、クルトはリィン側、ユウナはロイド側の仲間としてそれぞれ加入させることは決定しています(ぇ) 
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