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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百二十話 エル・ファシル星域会戦リターンズその2です。

 エル・ファシル星域会戦は総力戦の様相を呈している――。

 フィオーナ、そしてティアナ艦隊が包囲されている――。

 そのことは、前線で交戦中のケーテ、エミーリア、シャルロッテの3人に電撃的に耳に入った。

「何をやっていたんだ!?」

 ケーテが珍しく色をなした。日頃無口でシニカルな彼女が顔色を変えることは珍しい。その原因を知っているのは親友であるエミーリア、シャルロッテくらいだった。彼女たち3人は貧窮の家の出であり、一緒の寮部屋で暮らし、一緒に戦ってきた仲間なのである。そのため恩義は女性士官学校を設立したアレーナ・フォン・ランディール、そしてフィオーナにあった。
女性士官学校を立ち上げた時、一時期指導教官として卒業生であるフィオーナがやってきたとき、直接指導を受けたことがある。

 その時はシミュレーションによる艦隊決戦であった。連戦連勝続きのケーテが完膚なきまでにシミュレーションで敗北した相手がフィオーナだった。ケーテが不貞腐れながらポッドから出てくると、フィオーナが立っていた。その時、ケーテは相手が何を言おうとも聞く耳を持たない様子だったが、彼女が言った言葉はケーテの予想を裏切るものだった。

「もう一度、勝負しませんか?」

 その理由を聞くと、

「あなたと戦うのは楽しいからです。こんなにも高揚した勝負はティアナや教官以来でした。」

 と言ったのである。反射的にケーテは承諾の返答をしていた。一転、ケーテは不思議な感覚にとらわれながら再び対戦ポッドに入ったのである。
 それからの付き合いはずっと続いていた。ついに一度もフィオーナを下すことができないでいたが、ケーテはそれで満足していた。あの人は自分の上に立つべき人なのだと――。

 そのフィオーナ艦隊が包囲されている――。

 ケーテは怒り心頭に発していた。こんなことがあってたまるものか!!

「全艦隊正面の敵を突破後、大きくコースターンをし、本隊を包囲している敵の上方に突入するんだ!!」
「ちょ、ちょっとケーテ、いきなりそんな指令――。」

 エミーリアが声を上げようとした刹那、もう精密なコースが送られてきた。敵の2艦隊を突破後、恒星に突っ込み、恒星を回るようにして大きくカーブを描く。それは恒星の重力を利用した反動を利用して最大加速をし、敵に突入しようというのだ。

「続けェッ!!」

 ケーテの指揮する部隊は速力を上げた。敵の二個艦隊の一点に猛然と襲い掛かると、紙をぶち破る勢いで突破にかかる。その背後にエミーリア、そしてシャルロッテが続いている。

「エミーリア、仕方ないっしょ。ああなっちゃったときのケーテはアタシよりカッカしちゃうんだもの。」
「はぁ・・・・・・。」
「さ、アタシたちも続こう。エリーセル教官を死なせるわけにはいかないもの。」


* * * * *
「ヴァーミリオン・・・・・!!」

 フィオーナが漏らしたのは、ヤン・ウェンリーがラインハルト直属艦隊を巧妙な戦術で完全包囲下に置いたあの会戦の名前だった。まだ敵の体制は完全包囲になっていないが、それがそう遠くない未来に実現するであろうことを彼女は悟った。

「後方の敵はエレインさん、左の敵はティアナ、そして右は私が引き受けます。アースグリム改級の波動砲の一斉射後、高速艦隊をもって敵陣に斬りこみ突破します!!後の事は考えないで!!まずは突破することだけは考えてください!!最終合流地点、イゼルローン要塞!!」

 フィオーナが矢継ぎ早に指示する。彼女の指揮下にあって連戦を共に潜り抜けてきたアースグリム改級部隊を指揮するのは、シエル・マスケッタ准将。

「野郎ども!!姐さんに傷一つ付けさせちゃいけねえってのは分ってんだろうナァ!?カチコミにきた奴ら、一匹逃さず塵クズにしてやろうじゃねえか!!」

 レディ・リードと異名を持つ彼女は赤い短い髪に短すぎるスカートに分厚い編み上げブーツを履き、いつも右足を艦橋操艦計器類に踏みしめて指揮する姿が定番となっていた。どんなに激戦になってもその姿勢は崩れない。そのためクルーたちが専用の足踏み台をいつも踏みしめる場所に取り付けたほどである。
 彼女もまた貧しい極貧の出であり、間引かれそうになったところを女性士官学校に入校したのである。入校当初荒れていた彼女は誰彼構わず突っかかったが、同期であるフィオーナとティアナに「反撃」されてからは一転して二人に心髄する人間になった。ティアナはひそかに彼女を「ヤクザ」と呼んでいたが。
 そんな「ヤクザ」の彼女がタメを専門とするアースグリム改級を預かることとなったことに同期の皆が不思議がった。どちらかと言えば格闘戦のワルキューレか戦艦乗りがしっくりくる。ある日同期会でその理由を聞くと、

「タメにタメた鬱憤をブチまけて敵をなぎ倒すのは壮観じゃねえか!!」

 と言う答えだったので、同期の誰もが納得した。

「アースグリム改級、波動砲斉射準備に入りました!!」

 フィオーナはすぐにワルキューレ部隊に指示を飛ばした。

「その間アースグリム改級は無防備になる・・・・。ワルキューレ部隊は全力を挙げて敵からアースグリム改級を守り切ってください!!」

 フィオーナ本隊の正面に立ちふさがったのは、ヤン艦隊本隊であった。
フィオーナ艦隊はヤン艦隊に押し込められている。体勢を立て直す暇もなく、次々と部隊がすりつぶされるようにして消えていくのである。

 ヤン・ウェンリー率いる相手の攻撃は桁違いだった。何よりも重い。そしてこちらの攻撃を受け付けない。アムリッツァ星域会戦で10万隻の追撃戦をわずか一個艦隊でしのぎ切れたのはどうしてなのかとフィオーナは考えていたが、その要因がここにあった。ヤン艦隊は移動しているのだ。それも小刻みに、場所を変えて。
 砲撃までの時間はどうしてもコンマ何秒もの誤差がある。それはどんなに精密なコンピューターによるものであってもそうなのだ。だから砲撃は時に外れることがある。コンマ何秒の時間を最大限に利用するのがヤン艦隊の持ち味なのだ。
 
 ならば――。

「全艦隊、これから砲撃の指示を私自身が下します。」

 クルーたちが一斉に彼女を見た。全軍の総司令官が砲撃に関して直接指示をすることなど前代未聞である。だが、フィオーナは一度それを経験している。半ばリューネブルクが強引に彼女に艦隊の指揮権を引き継がせたヴァンフリート星域会戦である。

「砲撃時間及び地点を私の指示通りに順守してください!!」

 フィオーナはある結論に至っていた。
 艦隊運動でヤン艦隊に対抗するには限界がある。
 ヤン・ウェンリーに対抗するには、ヤン・ウェンリーの艦隊運動そのものを利用すればよいのだ、と。

* * * * *
 ヤン・ウェンリーはヒューベリオン艦橋で戦況を見守っていた。基本的な指示を下し、あとは戦局を見定め、適宜指示をするのがヤンだった。だが、戦闘を開始してほどなく、ヤンは眉をひそめることとなった。敵の砲撃がおかしいのである。

「敵の砲撃が・・・・艦隊左翼に!!」
「続いて、敵の砲撃がまた左翼に!!」
「また左翼!!」
「左翼に砲撃!!」
「左翼です!!」

 正面に相対した場合、まずは全面衝突が基本である。だが、敵の艦隊は損害が倍加するのにも構わず、こちらの左翼にのみ集中砲火を浴びせてきたのである。逆に右翼及び中央は無傷のままなのだ。
 いかに精強なヤン艦隊と言えども、全軍の3分の1にすぎない左翼に3倍以上の砲撃を浴びせられれば無傷では済まない。

「どういうことだと思う?」

 ヤンはムライ中将を振り返った。

「結論から申し上げますと、敵は一点突破を図ってきているのではないでしょうか。」
「一点突破、か。」
「敵はこちらの艦隊運動と砲撃に劣勢です。このまま推移していけば倒れるのはあちらが先でしょう。ですから活路を見出すために一点集中突破を図ろうとしているのではないでしょうか。」

 ムライ中将の発言は「常識的な」ものである。これは本人もよく承知していることであって、かつ、ヤンもまたそれを求めているのだ。それにしては砲撃の集中量が尋常ではない。一点突破を図る前にすりつぶされてはならないと、他の戦線についても砲撃をかけるのがセオリーなのだし、狙いを悟られないようにする手当ても行わなくてはならない。
 だが、敵は損害が倍加するにもかかわらず、それをまるっきり無視しているのだ。

「第七艦隊を左翼の増援に向かわせ、左翼を掩護するように伝えてくれ。」

 予備隊として後置しておいた第七艦隊をもって敵の砲撃を封殺すればよいと考えた。自軍の一部を動かせば、今度は手薄になった場所に砲撃が集中する可能性がある。包囲網を崩したくなかったのだ。

「第七艦隊の到着次第、こちらもスライドして敵の左翼から削り取っていく作戦に移行する。」

 第七艦隊はすぐに戦線に参加した。元々そのために後置していたということもある。
 これで敵の砲撃で生じた傷は癒える。各艦隊は連携し、包囲網を完了しつつあり――。

 ディスプレイを見ていたヤンの脳裏で何かがはじけた。

「駄目だ!!艦隊運動中止!!」

 ヤンは叫んだ。

「閣下?」
「何をおっしゃるのですか?」
「敵に誘導されているんだよ!!第七艦隊が我々の左翼に入ったことで・・・・・我々はその分相対右に動かなくてはならなくなる。」
「それは既定の戦略でしょう?実際閣下もそう指示されましたし。」
「そうさ、だが、タイミングはどうだ?私が自発的に発案したのではない。敵の動きに合わせて発案したんだ。それは――。」
「敵、後方一部隊より急速にエネルギー反応上昇中!!」

 ヤンたちの目の前のディスプレイの一点が急速に赤さを増す。そしてそのエリアが判明した時、ヤン艦隊は自分たちがまさにそこの地点に移動しつつあるのを察知した。
 だが、急には止まれない。敵の左翼を削り取るには、敵の意図を上回る高速で動いて雌雄を決しなくてはならず、これを達成するだけの速度が必要だからだ。何しろ第七艦隊がヤン艦隊左翼を埋めているので、元にも戻れない。

「この反応は・・・・要塞主砲クラスだぞ!!イゼルローン要塞が出現したとでもいうのか?!」
「いや、違う・・・・!!これは艦船だ。けれど、なんだって艦船がこれほどのエネルギーを・・・・!!」
「ヤン提督!!」

 幕僚やクルーたちが振り返ったが、ヤンにできることは、急速回避を指令することだけだった。だが、どこに逃げればいいというのだろう。
 ヤン艦隊は上下左右その射程内に抑えられているのだというのに。

* * * * *
「今です!!全部隊、散開して!!」
「今だァッ!!!アースグリム改級波動砲、斉射ァッ!!!」

 フィオーナとシエル・マスケッタが同時に叫んだ。この点二人の息はぴったりと合っている。特に指示をしなくともフィオーナが正確にシエルのタイミングを読み込んでいるからだ。
 散開した直後、姿を現したアースグリム改級の砲口から青い光が漏れ出るのが敵陣に映ったに違いない。まさに移動中のヤン艦隊はアースグリム改級の射線上にあった。

 銀蛇がのたうつように青白い閃光がアースグリム改級から放たれ、まさにピンポイント、ヤン艦隊の真ん中に直撃した。一瞬にして数千隻が蒸発し、数千隻が傷を負う。一瞬で蒸発しなかった艦は不幸だったかもしれない。天井がはがれ、恐怖に眼を見開きながら、青い閃光に吸い込まれる将兵たち。その瞬間にはシャロンの洗脳は解けているのだから。
 超高熱の閃光が走り抜け、艦のエアー・コンディションを麻痺させ、生きながら焼かれる将兵たち。阿鼻叫喚の地獄絵図が現出した。だが、それは敵である帝国軍側から見れば、敵の損害というただそれだけの事象でしかない。
 それは今まで自分たちが受けていたものだ。

「第二斉射、テェ~~~~~~~ッ!!!」

 周囲にかろうじて残存していたヤン艦隊及び両翼にいた艦隊を巻き込んでアースグリム改級波動砲は存分に威力を発揮した。ヒューベリオンはかろうじて脱出できたが、その余の艦隊の被った被害は甚大だった。もっともそれは帝国軍サイドにも言えることだろう。砲撃が始まるまでにフィオーナ艦隊が被った損害はそれまで彼女の艦隊が被った累積被害を軽く突破したものだからだ。

「な、7割以上が消失した・・・・・!!」

 ヤン艦隊ヒューベリオンのパトリチェフ少将は自艦隊の被った結果に声を失う。ヤン艦隊として第十三艦隊から引き継いだ艦隊のほとんどが姿を消した。それはすなわち、ウィトゲンシュティン中将から託された将兵の大半を犠牲にしたこととなる。
 
「敵が一点集中し、此方に向かってきます!!!」

 オペレーターが叫んだ。体勢を立て直した帝国軍が、今度は手薄になったヤン艦隊に向かってきたのだ。

* * * * *
「最大火力、最大戦闘速度で突入!!」

 この号令が全軍に下された。ここでフィオーナは予備兵力の投入を決断する。

「本隊が先陣を切り、続いてローメルド艦隊、アストレイア艦隊が殿を保ち、戦闘宙域を脱出します。・・・・・今です!!ルッツ、ワーレン、エーバルト提督!!」

 外周と内周。ヴァーミリオンにおけるミュラー艦隊とカルナップ以下の直属艦隊が包囲網を形成しているヤン艦隊に攻撃を行った状況と似ている。だが、あの時と根本的に異なるのは、兵力と、そしてヤン艦隊自身の残存戦力である。ヤン自身が掌握している戦力はヴァーミリオンの比ではなかったが、ヤン艦隊自身が壊滅的被害を受けて艦隊としての機能をほぼ消失してしまっている。
 だが、ヤン艦隊本隊を壊滅させても、その余の艦隊は健在だった。
 ヤン艦隊を除く自由惑星同盟の開戦参戦艦隊は次のとおりである。全軍ではないがエル・ファシル星域会戦を大きな前哨戦と位置づけていた自由惑星同盟側は9個艦隊を投入していた。


第二艦隊  クブルスリー大将
第五艦隊  アレクサンドル・ビュコック大将
第七艦隊  アントン・ピエット中将
第十艦隊  ウランフ大将
第十四艦隊 リュン・シアン中将
第十六艦隊 ティファニー・アーセルノ中将(再び当人が指揮権を持ち、代行ノヴァレット・リシュリュー中将は臨時に第十六艦隊前衛艦隊を掌握。)
第二十艦隊 ケイト・ウィンスレット中将
第二十二艦隊 イアン・レメリック中将
第二十七艦隊 オーシ・ヴォディバック中将

 このうち、第二、第五、第十艦隊は先遣隊としてのケーテ、エミーリア、シャルロッテ及びフィオーナ艦隊先陣と相対し、第十四、第二十二、第七、第二十、そしてヤン艦隊がフィオーナ艦隊本隊、ティアナ艦隊、エレイン艦隊を包囲している。
 一つ一つの艦隊戦力は帝国軍側が多いが、こと総兵力となると、自由惑星同盟側に圧倒的に有利である。
 フィオーナ艦隊以下損害を受けながら、ルッツ、ワーレン、エーバルトの援護を受け包囲網を突破しようとした刹那、新手の援軍が到着した。第十六艦隊、第二十七艦隊がルッツ、ワーレン、エーバルトの背後から襲い掛かったのである。

「あの旗印・・・・!!第十六艦隊!!」

 ティファニーの存在を知ったティアナは内心歯ぎしりしたい思いだった。強引に通信回路を向こうに向けたティアナは大声で叫んだ。

「踏みつぶしても踏みつぶしても何度も何度も立ち上がってくるなんて・・・!!アンタなんかさっさとくたばっちまえばいいのよ!!」
『私は一度だってあなたに踏みつぶされた覚えはない!!!この私を前にしてよくもそんなことをほざいたわね、ティアナ!!!!』
「あれだけ前世でギッタギタノメタメタにしてやったのに!?どこまで面の皮分厚いんだか!!その厚顔無恥な顔、宇宙の果てまで吹っ飛ばしてやるわよ!!!ブラックホールに堕ちろ!!!」
『黙りなさい!!裏切り者!!!あなたこそ、シャロン教官が出るまでもないわ、この私があなたをヴァルハラまで送り返してやる!!!』
「鬱陶しいっ!!・・・ルッツ、ワーレン、エーバルト!!あの第十六艦隊は私が相手をするわ!!手を出さないで!!今度こそ完膚なきまでに踏みつぶして宇宙の塵にしてやるんだから!!!」

 だが、ティアナが第十六艦隊に到達する前には包囲艦隊をどうにかしなくてはならない。ティアナもそれを十分知っていた。一方、同盟側が凱歌を上げるのには早すぎた。引っ返して来たケーテ、エミーリア、シャルロッテの3艦隊がさらにその二個艦隊の外から集中砲撃を仕掛けてきたのである。3艦隊の背後にはビュコック、ウランフ、クブルスリーの3艦隊が続き、幾重にも重なった混戦状態を現出しようとしていた。

 包囲側が攻撃され、その攻撃をする側もまた背後から狙い撃ちされ、さらにその背後から――。
 各艦隊とも相手を狙い撃つ間に別の艦隊から攻撃を受け、展開して迎撃しようとすればまた別の艦隊から仕掛けられ、その別の艦隊も相手の別の艦隊から狙い撃ちされるという――。

「まったく!!まるでミルフィーユみたい!!全然美味しくないけれどね!!」

 ティアナが毒づいた。ヤン艦隊以下の包囲艦隊の猛攻撃でティアナ艦隊と言えども無傷ではなかった。

「包囲されっぱなしなんて、私のポリシーに合わないっての!!」

 ティアナは積極攻勢を常とする。したがって、この場合包囲された態勢を逆に好機と見た。ビッテンフェルトやグエン・バン・ヒューの言葉ではないが「撃てば当たる!!」なのである。
 粘り強く部隊を再編して密集体形で敵を突き崩し、そして返す刀で別の敵に突っ込む高速戦法を繰り広げたのである。1万5000余隻のティアナ艦隊は縦横無尽、当たるを幸いに突入を繰り返し、包囲網を形成しようとする敵をその都度イラ立たせ、撃破し、穴をうがっていった。
 その横で、アースグリム改級から間断なく波動砲が放たれ、包囲艦隊に打撃を与え続けている。アースグリム改級を死守するフィオーナ艦隊の防御が予想以上に固く、同盟軍がその陣形に楔を打ち込めずにいる。

「・・・・・・・。」

 ヤンは自軍の状況を見てと息を吐いた。直属艦隊の被害率は甚大で、戦線復帰することはできない。だが、他の艦隊では帝国軍の防御網に有効な傷一つ付けることができていない。老練提督であるビュコック、ウランフ、クブルスリーは包囲網を突破しつつある帝国軍、あるいは外周から攻撃を仕掛けてきている艦隊の応戦に手いっぱいだ。

「敵の超兵器の威力は甚大で、既に包囲網形成が困難になってきています。」
「・・・・・・・。」
「撤退なさいますか?」
「アッテンボロー。フィッシャーと協力して曲芸運動はできるかい?」

 トリグラフ艦橋にいたアッテンボローはあきれ顔でスクリーン越しにヤンを見た。

「こんな時に何を言っているのですか?」
『冗談ではないよ。まぁ、話を聞いてくれないか?まだ、我が艦隊は全滅したわけではない。引くにしても敵に一矢報いなくてはね。』

 アッテンボロ―とフィッシャーは顔を見合わせた。


* * * * *
交戦から数時間が経過――。
 フィオーナは自分に問いかけていた。

(もうそろそろ潮時・・・・でも敵に引く気配がない。それはこちらの引くタイミングをみはからっているからではないかしら・・・・。となると・・・・・。)

「全艦隊に告ぎます。交戦を続けながら順次イゼルローン要塞に向けて帰投を開始。殿は私が務めます。ワーレン、ルッツ艦隊は側面から攻勢を倍加し、退却を掩護して――。」
「上方から同盟軍の攻勢が!」

 オペレーターの声に上を見上げたフィオーナに同盟軍の艦艇が逆落としに落ちてくるのが見えた。防御網を展開しているルッツ艦隊に同盟軍が攻勢をかけている。

「敵はまだ闘志を失っていないというの・・・・!!」
「前方から新手です!!」
「アースグリム改級、波動砲充填開始!!・・・・いえ、アースグリム改級は全艦ワープで撤退を開始!!」
『おい、姐さんそれはねえだろう!!アタシらが姐さん見捨てて後ろに下がれるかっての!!』
「これ以上戦ったら砲口が焼き切れるわ!!」
『まだいけますって!!戦わせてくださいよ!!』
「もう耐用限界に達しているはずよ!!あと一発でも砲撃したら――。」

 ズシン!!とヘルヴォールの艦橋が悲鳴を上げた。

「下からです!!ヤン艦隊が、下から、も、ものすごい速度で突っ込んできます!!」

 フィオーナが思わず下を見た。ヘルヴォールの一区画は対艦用強化ガラスによって外を見渡せるようになっている。その下からヤン艦隊が惑星エル・ファシルを背景に、猛速度で突っ込んでくるのが見えた。
 フィオーナの脳裏にこの世界での第三次ティアマト会戦の様相が浮かんだ。あの時も、たしか――。

『貫かれる!!アースグリム改級が、危ない!!フィオ!!』

 ティアナが声を上げたが、すでに遅かった。次々と護衛艦やアースグリム改級が爆沈していく。フィオーナにはなすすべがなかった。まともに中枢を直撃されたのだ。次々と下から上に突破していくヤン艦隊の艦船たちの姿が艦橋からも見えている。すぐわきを通過した一隻に味方戦艦が引っさらわれるようにして爆沈された。その光球の光を頬に受けながらフィオーナの顔は蒼白だった。
 ヤン艦隊のその勢いは尋常ではなく、ヘルヴォールはエネルギーの嵐に巻き込まれないように対処するのがやっとだった。

『させるかァッ!!!』

 大音声が聞こえた。猛進するヤン艦隊の進行方向、同盟軍が攻撃しているその背後から、猛速度で帝国軍の一隊が落下してきたのだ。ケーテ、エミーリア、シャルロッテの3人が直属艦隊を率いて襲い掛かったのである。老練の3艦隊がその背後から接近しつつあるが、彼女たちはそれをものともしていない。
 フィオーナの前方に各艦隊の状況が映し出されている。自軍を貫くように敵艦隊の赤いマークが動いて行き、それとともに自軍の消失速度が加速していく。

「アースグリム被害甚大!!」
「護衛艦隊の損傷率被害甚大!!」
「提督、艦を後方に下がらせてください!!」

 ヴェラ・ニール艦長が叫んだ。まだヤン艦隊の突進は続いている。猛烈な攻撃がヘルヴォールもろとも護衛艦隊を襲おうとしている。

「艦の操艦は艦長に一任。状況に応じて後退を許可します。」
「了解!!」
「全艦隊に告ぎます!!繰り返す、全艦隊に告ぎます!!フォーメーションFG体形のまま交戦を続けながら後退し、イゼルローン要塞方面に退却します!!」

 それだけ言うと、フィオーナはもう何も話さなくなった。ここまでくれば後は各艦隊の操艦技量と砲の集中にかかっている。それに自分にはやらなくてはならないことがある――。
 敵味方の砲撃が錯綜する中、ヘルヴォールは護衛艦隊と共に後退する。だが――。

「艦長!敵の砲撃が激しすぎます!!もう・・・・限界です!!」

 女性クルーたちが艦長に叫ぶ。

「たっ、耐久シールド限界間際・・・・!!」
「提督!このままではヘルヴォールの耐久シールドが破壊されます!!・・・・あぁっ!!」

 艦長が声を上げた。ヘルヴォールの耐久シールドが敵の砲撃で消失したことを示すアラームが艦に鳴り響く。

「艦長、シールド消失しました!!」
「わかってる!!見ればわかる!!艦内の動力をシールド機構に優先して振り分け、復旧急いで!!・・・・提督!!もう、後一発でも食らったら、艦が壊れますっ!!」
「砲撃、来ます!!」
「間に合わない!!」

 女性クルーたちの悲鳴が飛び交う。

「・・・・・っ!!・・・・・・・・?」

 艦長は観念して閉じていた眼を開け、不審がった。砲撃が直撃したはずなのに、艦内が静かなのはどうしてなのだと。
 フィオーナの身体から淡い青いオーラのような物が立ち上ったように見えたのだ。それと共に信じられない事が起こった。ヘルヴォールの耐久シールドはとっくにゼロになっているのに、そして、そのシールドアラームがまだ鳴り響いているのに、敵の直撃砲撃を弾き返していたのである。

 その現象はヘルヴォールだけでなかった。周囲の護衛艦隊も同様なのである。はじき返されたエネルギーはそのまま敵艦隊に跳ね返り、次々と命中し、風穴を開けていった。

「後退!!全速後退っ!!」

 艦長が叫んだ。この機を逃してはならない。ヘルヴォール以下撃ち減らされた護衛艦隊は急速後退を開始し、動揺する敵艦隊の風穴を突破した。

「艦長!!敵の艦艇が――!!」
「ヘルヴォール、主砲、斉射、3連!!撃てェッ!!」

 至近距離で命中した自由惑星同盟の艦艇が目の前で木っ端みじんになり、破片が降り注ぐ。その光景を見ながら艦長はちらっとフィオーナを見た。眼は閉じており、右手を胸に当てて、体から立ち上るオーラが見え隠れしている。

「敵との距離、安全圏に達しました!!」
「シールド復旧完了!!」

 その瞬間、淡いオーラが消え、崩れ落ちそうになるのを片手片膝をついて支えようとする総司令官の姿が見えた。慌ててサビーネとエステルが支えようとする。他のクルーたちも駆け寄ってきた。

「提督!!」
「総司令官!!」
「医療班!!すぐに来て!!」
「大事ない・・・わ。それよりも、ワルキューレ部隊の収容を・・・・早く・・・・!!急いで・・・・!!」
「でも・・・・!!」
「命令を伝達して・・・・!!それと、ワルキューレ部隊を収容次第・・・・ハイパージャンプで・・・・一気に撤退・・・・!!」

 必死に声を絞り出す総司令官の言葉にうなずいたサビーネとエステルがそれぞれの端末から矢継ぎ早に指示を送り始めた。

* * * * *
ワルキューレ部隊のパイロットたちは全力を挙げて艦隊を守ろうと努力していた。

「弾幕射撃!!艦と連携を取りながら、防御網に隙ができないように、敵を近づけさせないで!!」
「撃て、撃て、撃ちまくれ!!」
「させるかよ!!」
「敵が右翼に行ったわ!!右翼隊、気を付けて!!」
「わかってるって!!左翼にも来たぜ!!」
「ええい!!くそ忌々しい蠅野郎めが!!」
『ワルキューレ全部隊に告ぎます!!総司令官命令です。繰り返す、総司令官命令です。速やかに各隊は最寄りの母艦に帰還してください!!艦隊はハイパージャンプに移ります!!』

 ワルキューレ部隊の総指揮官は、フランツ・フォン・シュタイエルマルク准将である。33歳の少壮准将は若年の頃からワルキューレのパイロット一筋の人間だった。自身もパイロットであったケンプが推薦する最高の技量者とも言われている。180センチの偉丈夫であり、30歳を過ぎると衰えるといわれている技量は少しも色あせていない。

「了解、すぐに各部隊、母艦に帰投だ、帰投しろ!!・・・・・コーゼル大佐。」

 シュタイエルマルクのワルキューレの小型ディスプレイに黒髪の女性の姿が映し出される。

『なんでしょうか。』
「君は先に部下を引きつれて撤収しろ。」
『お言葉ですが、まずは司令官が撤退すべきです。全軍の長を失えば士気にどれだけ響くかわからないのですか?』

 静かだが強烈な皮肉を帯びた言葉だ。まだ20代のはずなのに上官であるシュタイエルマルクに堂々と意見するこの佐官はワルキューレ部隊の副司令官として長い付き合いだった。

「俺が簡単にやられるとでも?」
『少なくとも私は不安です。』
「もういい。わかった。話している時間はない。これは命令だ。」
『ワルキューレ部隊、退却を掩護する!』

 二人の会話に割り込むようにケーテからの通信が入った。同時にエミーリア、シャルロッテ、ティアナ以下の各艦隊は砲火を倍加した。フィオーナ本隊も総司令官が息も絶え絶えな状態ながらそれに続いた。
 この機を逃さじと同盟軍が迫ってくる。いったん包囲網を突破された同盟軍が再度包囲網を構築しようとしたその時――。

「全艦隊、前進!!」

 ティアナが叫んだ。彼女のフレイヤ以下が急速に迫る同盟軍の射線上に躍り出てきたのである。

「主砲、斉射、3連!!テェッ!!!」

 至近距離で強かに逆激を受けた同盟軍先頭集団は混乱に陥った。その頭上では、ケーテ、エミーリア、シャルロッテが来援し、下から貫こうとする敵艦隊の相対前面、つまり上方からものすごい砲撃を叩き付けている。異変に気が付いた他の自由惑星同盟艦隊が反撃をするが、3艦隊はものともせずに目の前の艦隊に集中砲火を浴びせた。
 ワルキューレ部隊の司令官二人は無言で通信を切った。シュタイエルマルクは直属の部下たちと前面に出て抵抗を倍加させ、その隙にコーゼル大佐は部下を引き連れて速やかに帰投の指示を各隊に下していった。

「よし、今だ!!いったん行き足を緩め、砲撃を倍加しろ!!」

 ルッツが叫んだ。敵が3艦隊に集中した一瞬の隙を見逃さなかったのである。ルッツ艦隊は重厚な砲撃をもって3艦隊を包囲せんとする敵艦隊に激しく挑みかかった。ワーレン艦隊もそれに倣う。ルッツ、ワーレン艦隊は遅れて参戦したため、比較的損害も軽微であり、士気も旺盛だった。満身創痍なフィオーナ本隊を掩護すべく、バイエルン候エーバルトの艦隊もフィオーナ本隊の正面に陣取って激しく抵抗し、エレイン・アストレイアの艦隊はティアナと協力して側面強襲を敢行し、敵に一撃を与えた。これらの援護を受けたケーテ、エミーリア、シャルロッテの3艦隊は敵中突破を敢行し、戦列に加わった。

「ここまで、かな。」

 ヤン・ウェンリーがつぶやく。敵の中枢に損害を与えた。こちらの損害も倍加したが、敵に一矢報いることができた。これ以上戦えば再戦までに時間がかかるだろう。ヤンは各艦隊に停戦の指令を下した。
 ビュコック、ウランフ、クブルスリーの3個艦隊は戦意旺盛でありこの命令に反発したが、他の艦隊はひとまず彼の命令に従ったので、敵中に孤立すると感じた3個艦隊も引き上げざるを得なかった。
帝国軍はルッツ、ワーレン艦隊の砲撃の手を最後まで緩めずに戦い、ワープのぎりぎりまで粘った。その結果が敵をして追撃せしむる能わずの現象を作り出したのである。


* * * * *
「・・・・・・・・・。」

 ともすれば、沈みそうになる意識を懸命に保ちながら、フィオーナは椅子に座っていた。顔色が蒼白であるのは、あれだけのオーラを張り巡らせたことなどなかったからである。
 だが、それ以上に別の要因が彼女をシートから動かさなかった。
 周囲に展開している護衛艦隊を含め、彼女の本隊はイゼルローン要塞を出立した時の面影はない。

「ここまでやられるなんて・・・・・私・・・・・・。」

 かすかに絞り出すような声は悔恨と自責をたっぷり含んでいた。

「・・・・・・・・・。」

 サビーネ、エステル、そして艦長以下クルーたちは総司令官(フィオーナ)の意識を気遣いながらも、それぞれの任務を無言で遂行していた。どう声をかけていいかわからなかったのである。

* * * * *

 エル・ファシル星域会戦は双方の損害が甚大であったが、どちらに勝敗があったかは定かではない。
帝国軍の参加艦艇16万余隻のうち、損害は3万隻以上に上った。特にフィオーナ本隊の被害は甚大で、アースグリム改級の損傷率は半数以上と壊滅的な打撃を被ったのである。この部隊の指揮官であるシエル・マスケッタ准将は無事生還したが、繰り返し例の足踏み台を蹴りつけては地団太踏んで悔しがったという。

 他方、自由惑星同盟の艦艇も参加艦艇22万余隻のうち、損害が4万隻以上に上った。中枢となるヤン艦隊そのものが7割以上の消失をしたため、全体として負けを認識した自由惑星同盟の将兵たちが多かった。

 帝国軍も同盟軍もひとまずそれぞれの根拠地に帰投し、艦隊の再編成を余儀なくされることとなったのである。

 
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