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人徳?いいえモフ徳です。

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四十三匹目

四月初旬。

今日は王立学園の入学式だ。

始まるのは十時半から。

そう、時間がはっきり決まってるのだ。

この学園には至る所に時計が置いてある。

アーティファクトと呼ばれる道具群で、時計と同じ動きをする物もある。

だがこれはとても高価だ。

数を揃えられるのはそれこそ公爵家クラスだけだ。

え? シュリッセル家? ほとんどの部屋にありますが何か?

ていうか作ってるのお母様だし。

それを言えばお母様が理事長を務める王立魔導学院の下位互換と呼べる王立学園に時計が配備されていても不思議ではない。

そして現在時刻は9時ちょい過ぎ。

「くゅ~ん…」

「どうしたのシラヌイ?」

僕はクーちゃんの腕に抱かれている。

そしてクーちゃんの取り巻きのようにメリーちゃんとシャクティが控えている。

高位貴族は側近をつけるのが習わしなんだそうだ。

で、クーちゃんが選んだ側近がメリーちゃんとシャクティ。

そして僕。

クーちゃんは僕のもふもふを独占する気らしい。

要するにペット枠だ。

せっかく騎士になったのに!

扱いが変わってない!

「ぬいちゃんどうしたの?」

「くゅー……」

「お姫様の腕のなかなんて、普通の人じゃ無理だろうし、役得と思えば、いいんじゃない?」

「そうだぞ。それに騎士なら私も居るしな」

シャクティが腰の刀を叩く。

うん。騎士って僕だけじゃないんだよね。

ちなみにメリーちゃんは一応参謀らしい。

クーちゃんが適当に側近を決めたのは置いとくとして…。

「くゆーん…」

「ダメよ。もうしばらく狐でいなさい」

主の命令っていう強権でさっきから延々もふられている。

ぼくは狐としても大きい方だけど、魔力強化で無理やり持ち上げられている。

「いい強化の練習になるのよねー」

僕はダンベルか何かか。

暫く学園内を探索した後、講堂へ向かった。

特にこれと言った事はなく割りとすんなりと入学式は終わった。

流石に式のときはちゃんと人型だった。

式の間はアストラル・ポーチ内の本をよんでいた。

そして案内された教室は、日本の学校に似ていた。

たぶん、大勢に教えるのにはこのスタイルが一番なのだろう。

席は、事前に決まっている。

まぁ、貴族様(僕もだけど)の学校だし。

だいたい教室の真ん中辺り。

僕の右隣にクーちゃん。

後ろにメリーちゃん。

クーちゃんの後ろにシャクティだ。

「シラヌイ、ちょっとこっち来なさい」

「?」

クーちゃんに呼ばれた。

「椅子ごとね」

クーちゃんの隣に椅子を持っていく。

「私に背を向けて座りなさい」

なるほど尻尾もふらせろって訳か。

「むぅ…王女ずるい」

「私の翼でももふるか?」

「それでいいや……」

メリーちゃんが不満っぽい。

「あらあら、このくにの王女様はぶかに慕われてませんのね」

隣に女の子が立っていた。

人間の女の子だ。

その後ろに二人引き連れている。

「ん? シラヌイ、彼女らは?」

「僕に聞かないで」

「私もしらない」

「知らんな」

クーちゃんが臣下(要するに僕ら)に聞くが誰も知らなかった。

だって知らないんだもん。

「はっ! この私を知らないなんて聞いて呆れますね! わたしはミズガリア王国のパシフィア公爵家が長女、マーガレット・O・パシフィアでしてよ!」

留学生さんらしい。

クーちゃんが臣下を手招き。

顔を付き合わせる。

「知ってる人挙手」

「お婆様が国外貴族の家名とか教えてくれるわけないじゃん」

「ミズガリアには色々卸してるけど国外貴族はあんまりしらない」

「これと言って武勲ある家ではないな」

「それより長女にしては若くないかしら?」

「代替わりしたばっかりなんじゃない?」

「ぬいちゃんの言うとおりだと思う」

と話していると…。

「ちょっとぉ! わたしを無視しないでくださいな!」

クーちゃんが解散のハンドサインをした。

「あー。すまないなマーガレット。君の事はあまり知らない」

「はっ! 所詮奴隷種族の娘ですね!」

「おいお前今何て言った?」

ダークエルフは、エイルヴァイオンにおいて奴隷種族として虐げられてきた。

それを見て正義を成したのが、クーちゃんの曾お爺さん。

トレーネ様のお爺さん。

つまり現スヴァルティア国王。

そしてミズガリアは、スヴァルティアとは国交を結ばず、事実上エイルヴァイオンの属国だ。

マーガレットに開いた手を向ける。

マーガレットの首の周囲に、氷の短槍を作る。

「貴様、この国でその言葉が何を意味するか解っているのか?」

ゆっくりと、手を閉じていく。

それに合わせるように、氷の槍を首に近づける。

「貴様ミズガリアの貴族と言ったな」

ミズガリアは、人間の国だ。

"忌々しい人間達"の国だ。

「エルフやダークエルフに魔力で劣り我ら獣人種族に肉体で劣る人間風情がよくもまぁ」

「シラヌイ。そこまでにしておきなさい」

「わかったよ…クーちゃん」

手を握る。

氷を散らす。

「この国が気にくわないなら今すぐ帰って祖国で仲良しこよししていろ」

「まぁ、そういう事だマーガレット。
私はシラヌイの尻尾をもふるので忙しい。
文句があるなら魔法実技で捩じ伏せてやるからそのときまで待っていろ。
気に食わんならお仲間を連れてきても構わんぞ」

マーガレットは泣きながら教室から出ていった。

「あー…やり過ぎたかな?」

「私は嬉しかったわよシラヌイ」

「シラヌイがやってなかったら私が剣を抜いていただろうしな」

「僕が動いて正解だったね…」

「ちゃんと峰打ちだぞ?」

「このアホカラス風刃抜刀構えてた」

「「おい」」

僕とクーちゃんににらまれてシャクティが顔を背けた。

殺る気満々じゃん……。

暫くして担任の先生が入ってきた。

「あれ?」

入ってきたのは担任と副担任。

担任の方はたぶんヒューマンの女性。

でも副担任は……。

「ドルス教官……?」

ギルドの昇級試験で戦った人だ。

たしかこの人王立魔導学院の教官じゃなかったっけ?

「皆さんこんにちは、私は皆さんの担任のレイ・デンドロビアです」

「副担任の、ドルス・バルバリンだ。あー…こんな顔だが小心者でな、泣かれると困る」

担任、副担任の挨拶のあと簡単なSHRがあり解散だった。

まぁ、初日はこんな物だろう。

「シラヌイ君はすこしのこってください」

「はい」

皆が帰ったあと、教室にはレイ先生とドルス教官とくーちゃんと臣下が残った。

「あー、久しぶりですシュリッセル様」

「畏まらないでくださいドルス教官。それはそうとなぜこちらに?」

「シェルム様の命です」

「それはどのような?」

「……………………………………」

あれ? なんで黙るの?

「いえ、そのー、えっとー……」

「ぬいちゃんと我儘姫のお目付け役」

メリーちゃんがボソッと呟いた。

ドルス教官が冷や汗を流している。

「あー……心中御察ししますドルス教官」

そっかー…ドルス教官からすれば僕は上司の息子っていう非常にやりにくい相手な訳か。

「えっとー……僕の事はシュリッセルとかそういう家柄とか考えず、一生徒として扱って頂ければ」

「すいません無理です」

「えぇー……」

どゆこと………。

ドルス教官が壁に手をついてぶつぶつ呟きだした。

内容を纏めると、自分より強い奴のお目付け役とか嫌だ的な。

「こ、氷が…氷が降ってくる……!」

終いにはカタカタ震えだした。

なんか、例のバトルがトラウマになってるらしい。

「えっと……レイ先生」

「はいわかりましたシラヌイ君。後は私がどうにかしておくので、帰っていいですよ」

「アッハイ」











家に帰ってお母様にドルス教官の事を話してみた。

「やはりですか、まったくドルスときたら学院生時代からのチキンぶりが再発してますね。
学生時代私が直々に叩き直したはずなんですけどねぇ……」

「えー…なんでそんな人を僕らのお目付け役にしたの?」

「荒治療のつもりですよ。まぁ、数日もすればドルスも慣れるでしょう」

お、鬼だ! 鬼がいるッッッ!?」

「誰がオーガですって?」

耳元でしっとりと囁かれた。

「きゅぴぃっ!?」

「これこれ、シェルム。あまりシラヌイを虐めるでない」

「そうですね」

ぱっとお母様がはなれた。

「はっはっは。シェルムは変わらないなぁ」

「ブライ? 貴方もたしか耳が弱点でしたよね?」

「え? あ、えっと、その……」

お父様弱っ!?




翌朝、お父様が何故かげっそりしていた。

お母様は艶々してたのでナニがあったかは一目瞭然だった。 
 

 
後書き
ドルス教官のイメージ? 勿論宇宙攻撃軍の中将閣下ですよ。まぁ、あの人ほど豪胆ではありませんが。
閣下いいですよねぇ。 
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