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人理を守れ、エミヤさん!

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ガチャを回せ、決めに行くぞ士郎くん!





 コロラド州東部の冬は過酷なものだ。尤もグレートプレーンズに入る前の土地の方が厳しいのだが、こちらも大概である。
 夜の気温は-18度から-23度。寒さには慣れている現地の人々だが、防寒着と暖炉は不可欠の物となる。が、生憎と防寒着や暖炉の持ち合わせはない。服装は厚着をしてなんとかするにしても、暖炉の代わりとなるものを用意する必要があった。
 故に例によって例の如く、俺は投影による火を吹く魔剣を多数鍛造した。量産化に当たり剣としての機能は限りなく削減し、含有する神秘は存在を維持する最低限度にまで劣化させた。代わりに長時間投影魔剣の魔力燃焼効率を上げ、最大で二日間火を吹き続けられるようにする。その改造劣化魔剣の投影を、完全な冬に入る前から始める事で『人類愛』の居城に五百ぴったしの魔剣を貯蔵出来た。無論、日課としてこの魔剣を五十ずつ投影して、寒さに堪えられない夜には五十ずつ使用するのだ。
 石壁で囲われた城塞の四方を囲むように三十本。それが松明代わりにもなるし、外からの冷気を防いでくれる。残りの二十本は城塞内部の人々が寒さにやられないようにする為のものだ。当たり前だが、流石にそれだけでは千人を超える群衆を完全に暖める事は出来ない。故に後はアルジュナの炎属性の魔力放出で焚き火台に火を熾している。

「まさか私の力をこのように使うとは……」

 と、アルジュナは呆れ顔だったが。生憎と俺は使えるものは親でも使う主義だ。それに戦闘にしか役に立たない訳ではないのなら、アルジュナは寒さという自然から人を守れるのだと誇るべきである。

「確かにその通りですね。幸いマスターの魔力は聖杯からくるもの……使い惜しむものでもない」

 そういう事だ。しかし俺が留守にした場合も考えなくてはならない。流石に改造劣化魔剣に関しては、毎晩使うという訳にはいかなかった。その場合は発火装置アルジュナが奮闘しなくてはならない。

 アルジュナに護衛させた群衆による人海戦術でトウモロコシ、大豆、小麦、綿花、テンサイなどの穀物を収穫させた。この綿花は下着や布団、枕などの材料とする。種子などは厳重に保存した。対象を氷結させる類いの魔剣があれば冷蔵庫を作れて楽でいいのだが、流石にそんな剣はない。氷結の魔術も使えない。冬はいいが、夏は厳しくなるだろう。なんとか対策を取りたいが……。
 それと当然の事だが、群衆を護衛するアルジュナには、敵影が見えたら即座に撤退するように指示していた。アルジュナのみで速やかに全滅させられる規模なら問題はないが、敵サーヴァントなどがいたら群衆を巻き込むかもしれない。農地にもダメージが入ったら最悪だ。故に大規模な戦闘になりかねないのなら、迅速に収穫班を撤退させる必要がある。
 俺達の敵はこの世界そのものと言える。何もかもに備え、態勢を磐石にし、きたる反撃の時まで牙と爪を磨いでおかねばならない。そして領袖である俺は、麾下の軍民を養う事だけを考えればいいわけではないのだ。エドワルド・シュピッツに民の仕事内容と、その方針を伝え、彼にその方面の仕事は丸投げする。補佐というか、雑用としてクリスト少年をつけた。いつぞやの借りを返してもらう時が来たのである。
 アルトリウス・カーターには平時の軍の維持を任せた。作成した訓練マニュアルをこなして貰わねばならない。そして俺には最も重要な任務がある。

 カウンター・サーヴァントの捜索だ。

 守るべき人々を確実に護り、斃すべき敵を必殺するにはまだまだ戦力が足りない。必ず殺す技と書いて必殺技は冗談抜きで必要だ。確殺パターンは最低十は欲しい。今は沖田の奇襲からの必殺しかない。それも、上手く嵌まれば殺せるというだけで、嵌まる可能性は努力と地形次第で八割しかないのだ。十割殺す技の開発は不可欠である。

 どのみち俺達の拠点は近い内に判明するのだ。
 『人類愛』はここに定住する。逃亡生活はもう無理だから。流石に数が多くなりすぎているし、まだまだ増えるだろう。全員を連れての逃避行では、三国志の劉備が長坂橋の戦いで曹操軍の追撃部隊にやられたように蹴散らされてしまう。
 最早この地を中心に生活圏を広げ、絶対に死守しなければならない。絶対防衛線のラインはここだ。死守する為にはサーヴァントは多ければ多いほどいい。
 が、生憎と俺と破損聖杯の魔力許容量的に、そう何人もサーヴァントと契約は出来ない。俺の戦闘力を半減させてまでパスを繋げられるのは最大二騎……。内一騎はラーマを狙いたいのだが……。
 まあカウンター・サーヴァントはマスターがおらずとも最低限のスペックは発揮できる。多くを味方につけても悪い事ではない。今まで現地のサーヴァントと出会う機会は余りなかったから、そこまで期待していいかは曖昧だが、いないよりはマシだろう。有害になりえると判断すれば、味方に組み込まなければいいだけの話だ。

 俺はカウンター・サーヴァントを探す。一ヶ月ごとに城に戻る。何よりも優先すべきは戦力の拡充だ。
 食料問題とか人手不足とかをなんとか出来るカウンター・サーヴァントを引けたら御の字で、それはさながらガチャである。ガチャを回すのは俺の脚、歩いて回す。そして課金する金はないので担保は俺の命だ。糞である。やはりガチャは悪い文明、誰か破壊して。
 カルデアー! 早く来てくれー! どうなっても知らんぞ! まあどう足掻いても、カルデアが来るのは最速で五年から十年先なんだが。俺がこの特異点に飛ばされてもう三ヶ月ほど……か?
 正確な日時は忘れた。濃すぎて記憶が飛んでいる。別に固有結界を切り売りした代償とかではなく、素で忘れてしまった。希望的観測として後四年九ヶ月でカルデアは来る。……はずだ。来たらいいなって。
 まあ余り頼りにはせず、なんならカルデア勢は俺だけで攻略してやる気概でいよう。……いやその場合はどうなるんだ? 人理定礎を復元したら、歴史はもとに戻るが……俺はその場合、カルデアに帰る事になるのだろうか。……いや、そんな片手落ちのような事をレフなんちゃらがやるとも思えない。
 復元したら帰還できず、修正されて歴史に巻き込まれて消滅してしまうかもしれなかった。特異点で死ぬもよし、攻略して帰還できずに死ぬのもよし……その程度の二段構えは有り得そうだ。というか俺が敵側なら絶対にそうする。やはりカルデアが来るまで現状維持が堅実か……。

 いや無理だろ。現状維持とか至難の技だぞ。攻略はするな、だが負けるなとか鬼畜か? 相手はケルトなんだぞ……。
 最悪、伸るか反るかで攻略に賭ける気構えでいるべきだ。負けるのは論外、この特異点を攻略して諸共に消えるのが、嫌だがギリギリ及第点だろう。いずれにせよ戦力の拡充は不可欠か。

「――留守は任せたぞ、カーター」
「は……」

 そんな訳でアンドロマケに騎乗し、俺は金髪の青年にそう告げた。
 カーターは不安げに俺を見上げてくるが、淡々と言い聞かせるしかない。

「防衛の要としてシータとアルジュナを置いて行く。大抵の輩はアルジュナが始末してくれるだろう。雑魚散らしはシータだ。城壁まで近づかれそうならお前達が銃で撃て。弾薬は山ほど用意してある。それ以外への対処法はマニュアルに書き記したが、あくまで目安でしかない。いざという時の判断は臨機応変にお前が下すんだ」
「は、しかし……果たしてBOSSの留守を預かる任が、私などに務まるか――」
「カーター」

 俺は上体を屈め、馬上からカーターの肩に手を置いた。

「お前が副司令だ。男なら腹を決めろ」
「……」
「他の誰でもない、お前にだから留守を預ける。アルトリウス・カーター大尉、『フィランソロピー』を頼んだぞ。なに、一ヶ月後には必ず戻る。有事の際にも駆けつけると約束しよう」
「……は。了解しました」
「帰ったら『人類愛』内での階級でも考えるか? そうしたらお前は大佐だぞ」

 手綱を握って馬首を転じる。アンドロマケのご機嫌は上々。というよりいつもいい。駆け出すとカーターの悲鳴が聞こえた。
 「大佐なんて私には無理ですBOSSぅ!」と。俺は笑いながらアンドロマケを走らせた。階級、大佐などは冗談としても、カーターを『人類愛』のNo.2にするのは規定路線だ。その為にも奴にも佐官教育が必要だろう。いずれ奴が主導して作戦の立案、計画の進行を取れるようにしたい。俺が楽をしたいから。同時に、俺が他の仕事に専念出来るようにする為に。

「シロウさんっていっつも忙しないですよね……」

 俺の前に座っている沖田がそう溢す。

「戦って、守って、此処まで来て。かと思えばまた二人旅なんですもん。流石の沖田さんも、呆れてものも言えませんよ」
「いいじゃないか、二人旅。俺とお前だけなら、どんな地獄だろうがどうとでもなる」

 風を切って走るアンドロマケ。その風は冷たい。
 沖田は何故かこっちを見ない。耳を赤くしている。そんな彼女のぼやきに普通に返すと、沖田は口を噤んで無口になった。
 ……? どうしたんだ?
 名前で呼ばせるようになって以来、どうしてかこんな態度に変わった。悪意とか隔意が生まれたわけではなさそうで、どう接したらいいか悩んでいるようにも見えるが……。それに何かを持て余しているのか、もどかしそうにしている姿を目撃した事もある。
 そういえば『フィランソロピー』の連中、妙に沖田の事を微笑ましそうに見るようになっていたな。それに何か関係があるのだろうか。

「なあ、春」
「……なんですか?」
「あんまり悩むなよ。相談ならいつでも乗ってやるから。俺はお前のマスターで、お前は俺のサーヴァント……一心同体、一緒に戦い抜く仲間なんだ」
「……いいですよ、もう。シータさんに、相談には乗ってもらいましたから」
「そうなのか?」

 女の子同士、いつの間にか話す関係になっていたらしい。その光景はさぞ麗しいものだろう。
 生憎と俺は忙しくて、誰ともコミュニケーションが取れてなかったが……一度帰ったら、シータやアルジュナともしっかり話そう。思えば俺は少し焦りすぎていたかもしれない。新しい仲間を、戦力を求めるあまりに、今いてくれる仲間を疎かにしてはいけなかった。
 反省だな、と胸中に溢す。そして何気なく沖田に訊ねた。

「で、シータとどんな話をしたんだ?」
「……分かんないんですか」
「女同士の話なんかが俺に分かるわけないだろ」
「……ばかなんですね」
「酷いな」

 沖田の背中から体温が伝わる。段々熱くなってきていた。まさかまた発作か? そう思うも、特に顔色は悪くない。なんなのだろうか。
 俺の知ってる女同士をイメージの中で並べる。
 アルトリア、オルタ、マシュ、ネロ、アタランテ、アイリスフィール、玉藻の前、桜、チビ桜、イリヤ、イリヤ二号、美遊、遠坂、ルヴィア、バゼット、シエル、キアラ……その他。彼女達がどんな会話をするのか想像してみるも、大乱闘スマッシュなんとかが始まる様しかイメージ出来なかった。なんでさ。
 遠坂とルヴィアから火種が熾り、それが感染爆発するように乱闘が始まり拳で競う女の宴。うーんこの、ここにキアラをぶち込むとか想像の中でも地獄絵図になりそうだ。特にキアラと桜を会わせてはならない気がする。

「ばか」

 沖田は呟き、下を向いていた。

「……」

 なんとも言えない空気のまま、暫く進んだ。
 とにもかくにも新しい戦力の発掘は急務。誰かサーヴァントを紹介してほしいと思い、出会い系ガチャというパワーワードを不意に思い付く。
 そうして一人笑いを溢すと、なぜか沖田から肘鉄を腹に食らった。

 な、なぜ……?










 
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