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人理を守れ、エミヤさん!

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卑怯卑劣は褒め言葉だねジャックさん!




「赤原を征け、緋の猟犬――!」

 魔力のチャージはマックスで四十秒掛かる。しかしそれだけの時間を掛ければ瞬く間に接近され、殴り殺されるだろう。いや拳を振るうまでもなく、足枷のようなものである二振りの魔剣で叩き切られる。
 林の境界、その境目からの狙撃。距離は七百。緋色の少女を意外にも優しく地面に横たわらせて捨てるとベオウルフは一直線にこちらに駆けてくる。筋骨粒々の、全身に傷跡を持つ凶相の竜殺しが迫る迫力は凄まじいものがあるが、それで肝を潰してしまうほど繊細ではない。冷徹に距離と間を見計らい、ベオウルフに狙いを絞り魔剣を投射する。
 チャージに要したのは二十秒。本来の威力の半分。ベオウルフが動き出すのに十秒、距離二百五十まで来るのに十秒。速いが、想定以上ではない。彼の竜殺しの賢王だからこそ、俺のいる場所まで来るのに掛かる時間も計算に織り込めた。

 威力は然程重要視するほどでもない。重要なのはその能力、速度。マッハ四以上で飛翔した赤光が、本来の担い手に食らいつく。

「オラァッ!」

 ベオウルフはオリジナルのフルンディングを振るいこれを弾いた。余波で地面が抉れ、ベオウルフの後方に衝撃が広がり、扇状に陥没した地面から砂塵を舞わせる。弾かれた魔剣は虚空で乱回転し、射手の狙いを読み取るや即座に切っ先をベオウルフに向けて噛みついた。だがこれもまた弾き返される。
 ベオウルフは獰猛に嗤い、苛立ち紛れに足を止め、全力の迎撃でこれを破壊せんと力を溜める。しかし牽制で放った矢に、完全な死角からの射撃であるにも関わらず反応して叩き落とした。

「しゃらくせぇ……俺の剣を矢に改造してんのも、チマチマ刺して来やがる矢もうざってぇな……ああ、ああ! 気に食わねぇが気に入った! 今からぶん殴りに行ってやらぁ!」

 ――流石に鋭い。アルトリアほどではなさそうだが、春の奇襲にも対応してしまいそうだな。

 淡々と矢を放ちながら分析する。あろうことかベオウルフは、俺の矢とフルンディングを平行して捌いてしまいながら俺へ接近してくる。分析の必要すらない原始の闘争本能、本当にお前は史実に属する王なのかと呆れてしまうそうになる。神代の英雄と言っても通じる闘志だ。
 俺は嘆息して弓を消し、双剣銃を投影する。狂猛な笑い声には戦闘への愉悦と苛立ちがある。それらを引っくるめて愉快なのだろう。俺は自ら接近しながら銃撃を浴びせる。矢による速射よりも射撃の回転率が高く、弾速の速い銃弾でベオウルフの接近を止める。無論の事これだけなら足止めも叶わない。フルンディングがベオウルフに噛みつき続けるからこそ足止めが出来ている。

 ベオウルフは露骨に舌打ちした。笑みは消えていない。射手が人間で、宝具を使う。毛色の違う面白い奴だと嗤っている。
 己を前にしていながら遠距離に徹さず、自ら近づき最適の距離を取るところも気に入った。臆病者ではない、殴り甲斐のある面をしてやがる――言葉にせずともその顔が雄弁に語っていた。

 赤い弓兵ほど俺は巧くない。センスもない。足りないものは頭と度胸で補うしかない。それだけの事だった。――ベオウルフやフェルグス相手なら、あの弓兵は単騎でも互角に戦い、或いは勝利してしまえるのかもしれない。それほどに両雄について知悉している。癖を、呼吸を、戦法を。知り抜いている。故に格上だろうが勝機を手繰り寄せられるかもしれない。
 だが少なくとも俺には不可能だ。最大パフォーマンスは足止めが限度。ベオウルフが投影魔剣を破壊できないように牽制の弾丸を放ち続け、間を外し続ける事だけしか出来なかった。しかしそれとてベオウルフが多少の負傷を厭わず、割り切って俺を殺しに来れば十合交えず殺されるだろう。そしてベオウルフは手傷を負うのを恥とはしない。後数秒としない内にその戦法を選択するのが見えていた。

 故に、その前に白い剣銃を過剰強化する。オーバーエッジ形態へ移行させ、それを黒銃剣で射撃を加えながらベオウルフへと腕の振りだけで投げつけた。ベオウルフが投影魔剣を弾いた瞬間にだ。
 足元に投擲されてきたそれを、鈍器じみた魔剣で弾かんとして……ベオウルフは俺の狙いへ直感的に気づき後方に飛び退いた。白剣銃を銃撃する。ただでさえ銃の機構を埋め込まれた短剣を過剰強化しているのだ。そこに銃弾を撃ち込まれれば爆発は避けられない。ベオウルフは回避せしめるも、爆風の煽りを受けてやや体が浮く。更にそこに食らいつかんとした魔剣を、ベオウルフが瞬時に迎撃の刃を振りかざした瞬間、

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 贋作の魔剣を自壊させる。俺は顔を顰めた。

「――これだから勘の鋭い英雄って奴は……」

 完全に詰ませたはずの爆撃だ。布石も充分、俺の宝具が投影による贋作だと初見で見抜ける眼力がなければ、まず俺が宝具を使い捨ての爆弾とする戦術に面くらい、成す術なく倒せてしまえる。勿論俺が遠距離に陣取り、先制攻撃を仕掛けられたなら、だが。
 しかし常識を塗り替えてしまえる英霊は、そんな結末を容易く乗り越えてしまう。ベオウルフは投影魔剣を迎撃しようとする寸前、瞬時に理屈ではなく勘に従い防禦を固めたのだ。フルンディングを楯に、棍棒じみた魔剣を迎撃の矛に。鈍らの魔剣は『壊れた幻想』に直撃した瞬間破損し、代わりに莫大な衝撃波を放って威力の殆どを相殺。フルンディングでの防禦のみで俺の爆撃を殆どダメージなく凌ぎきったのである。
 出鱈目だ。だが彼なら防ぐだろうと確信していた。そして目的は達した。完全に足を止めさせ、防禦で動きを鈍らせ、次の瞬間に叩き込まれる必殺を凌げなくなったのだ。

 勝利の為の布石はこの為に。今、その隙を狙い澄ましていた秘剣が煌めく。

「無明――」

 ベオウルフを愛刀の間合いに捉え、忽然と姿を現す天才剣士。魔剣使い沖田総司。それでも――ベオウルフは驚愕しながらも反応していた。フルンディングを楯にした体勢のままその刺突を防がんとしたのだ。
 しかしそれは悪手である。事象飽和現象を纏うその剣先は防御不能、剣先に触れたモノを『破壊』するのではなく『消滅』させる人智の極限。

「――三段突きッ!」
「ぐォッ、」

 魔法の域にすら踏み込む対人魔剣は、宝具である彼の魔剣フルンディングの刀身をも刳り貫いたように貫通した。そしてそのまま強固な天性の肉体を捉え、霊核である心臓を破壊してのける。
 確実に仕留めた。如何なベオウルフとはいえ、死は確定したものとして消滅の末路を決定付けられる。
 しかし、ただでは終わらない。霊核を破壊されて尚一矢報いんと損傷した魔剣を捨て、ベオウルフは拳を一閃する。沖田に残心の抜かりはない、技巧も何もないその拳擊を見てから躱す。一足跳びに真横に跳んだ沖田は死に体の英雄を斬らんと刃を翻し、

「コ、フ……ッ!」

 口を抑え、吐血する。俺は分かっていたよと吐き捨てて、隙を晒した沖田に拳を振りかぶるベオウルフに銃弾を叩き込む。背中、振り上げた腕。ベオウルフは苦笑して、力の抜けた拳を下ろした。

「チッ、容赦のねぇ奴だなテメェ……」
「生憎だったな、ベオウルフ。生き汚い手合いには慣れっこでね」
「そうらしいな。心臓ブチ抜きゃちったぁ油断すると思ったんだがよ……ったく、してやられたぜ」

 金髪を掻き毟り、ああ、やってらんねぇと悪態を吐いてベオウルフは消滅した。その間際に、今度会ったら取り敢えず殴ってやると笑いながら。唐突な奇襲で斃されたにも関わらず、全く後腐れなく。
 俺は暫しその様を見届け、沖田を助け起こす。また吐いたなお前、全く気の抜けない奴だ。そう愚痴ると沖田はバツが悪そうに目を逸らした。休んでろとだけ告げ、俺は目的のサーヴァントの元に寄る。

「今自由にしてやる」

 手足を縛る鎖を黒銃剣で発砲して砕く。
 華奢な少女だ。十代半ばの年齢で現界している沖田より、更に幼く見える。緋色の少女は手足の具合を確かめながら立ち上がった。

「――ありがとうございます。まさかあの恐るべき竜殺しを、奇襲したとはいえ一方的に斃してしまわれるなんて……」
「まともにやれば、(アイツ)と俺だけだと百回やって十勝ちを拾えたら充分な手合いだからな。初見殺しのパターンで嵌め殺させてもらった」

 驚くやら感心するやら、目を真ん丸とさせる様は、およそ英雄の称号()とは無縁のものに見えた。
 しかし外見や第一印象で決めつけるほど、サーヴァントに対して迂闊なものもない。俺は名乗り、手を差し伸べた。

「俺はジャック、『人類愛(フィランソロピー)』という弱小団の領袖をやっている。お前の名を聞かせてくれないか?」

 少女は凛とした眼差しで、その小さな手を俺の手に重ねる。握手を交わし、彼女は俺の瞳を真っ直ぐに見据えて応じてくれた。

「私は、シータ。コサラの王ラーマ様の妻……だった者です」
「シータ? コサラ……ああ『ラーマーヤナ』の……」

 名前だけはなんとか分かったが、実を言うと『ラーマーヤナ』については余り詳しくはなかった。
 というのも、二大叙事詩であるもう片方にばかり興味が引かれ、そちらばかり読み耽っていたからだ。勉強不足だなと苦笑する。しかしまあ、概要だけはなんとか覚えていたが。

 それにしても、シータは肌の露出が多い。ベオウルフとの戦いで服が破れているのだろう。さりげにコートを投影してシータに渡した。
 首を捻られ、小脇に抱えられる。ああ……俺の気遣いが……。

「はい。しかし英霊としての私は『ラーマ』でもあります。通常の聖杯戦争では私かラーマ様が『ラーマ』として現界する……そういう存在です」

 彼女の言葉に、気を持ち直した俺は納得する。
 シータの纏う霊格は極めて強大だ。しかしそれに反して余りにか弱い印象があるのは、ラーマとしての霊基を持つが、同時に戦う力の弱い存在だからなのか。
 ラーマと同じ性能はある、しかし戦いとなったら、それこそ格下の霊基にも遅れを取る。そんなアンバランスさがシータを構成している。
 二つの存在が同じ座を有する。稀な例だ。という事は、シータがいる以上ラーマ本人はいないという事になる。

「いえ――ラーマ様はいます」
「?」
「私には分かるんです。この地に、ラーマ様がいるのが」
「そうか」

 感じると言われても俺には全く分からない。しかし同じ座を共有するシータだから感じられるのか。
 しかし朗報だ。あの頭がおかしいほど規模のデカイ叙事詩の英雄がいる。シータがいるなら仲間になってくれるだろう。これほど心強いサーヴァントはあまりいない。そう溢すと、シータは顔色を曇らせた。

「……私達は、会えません」
「なんでだ?」
「呪いがあるんです。『離別の呪い』が」

 曰く、ラーマはその生前の行動によって、魔猿バーリの妻に掛けられた呪いがあるらしい。死して英霊となってもなお、彼らの身を縛り続ける呪いは、効果が薄れる事はない。在り方としては沖田の持つ病弱のスキルと同じで、聖杯ですらこの呪いを破棄させる事は出来ないだろう。聖杯で呪いを消すには、そもそもそんな呪いに掛からなかったという過去改竄を行うしかないが、その場合今のラーマの人格にも改変を来す事になる。
 ――サーヴァントとして召喚される場合に彼と彼女は『ラーマとシータは「ラーマ」という英霊枠を共有する』「ラーマとシータは同時に召喚できない』という制約を課せられるようだ。通常の聖杯戦争では巡り会える可能性は完全に零。人理焼却の異常事態下でのみ例外は有り得るが、それでも決して出逢えないのだという。

「……なるほど。だがいいものだな」
「……?」
「その呪いは互いが互いを愛する限り続くんだろう? 離別の呪いってのは、つまるところ不変の愛の証明であるとも言える。ロマンチックでいいじゃないか」
「……」
「マスター、ちょっとそれは流石に無神経じゃあ……」

 シータはなんとも言えない表情となった。愛の証明と言われて悪い気はしないが、それでも呑み込めないのだろう。休んでいた沖田だが、傍に来れはする。俺の言葉に渋い顔をする沖田に俺は肩を竦めた。

「シータ、取引をしよう」
「取引……ですか?」
「ああ。俺は多分、その呪いをなんとか出来るぞ」
「!!」

 王女は目を見開く。咄嗟に反応を返せないほどの驚愕が彼女を襲っていた。

「等価交換、ギブ&テイク、呼び方はなんでもいい。俺の仲間となり『フィランソロピー』を守ってくれるなら、俺はその『離別の呪い』をなんとかしよう。流石に座にいる本体はどうしようもないが、この特異点内でなら会えるようにする事は出来る」
「それは! ……本当ですか?」
「ああ」

 『破戒すべき全ての符』は無駄だ。あれは対魔術宝具であり、結ばれた契約や魔力によって構築された生命の初期化、魔術で強化された物体を初期値に戻す類いのもの。俺にはどうしようもない。担い手本人なら呪いを契約の一種だと拡大解釈して解除出来るかもしれないが、俺は魔術師としては雑魚である。メディアのような大魔女でもなければ成し得ない。
 そして『破魔の紅薔薇』も無駄だ。あれは宝具殺しの宝具。魔力で構成されたもの、構築中の術式の破壊は出来るが、結実した魔術そのものを破壊する事は出来ない。更に言えば俺の投影した剣にも効果はない。投影宝具は『完成して其処に在る』モノ故に、破壊対象とはならないのだ。よって完結している呪いには、これもまた無力である。

 ではどうするか。

「どうする? シータ、俺と契約してくれるなら、なんとかしよう」
「……その前に聞かせてください。どうやってこの呪いを打ち消すんですか?」
「打ち消しはしないさ」
「?」

 恐らく、というよりも確実にだが。俺が思い当たるぐらいなのだから、正統な魔術師なら誰でも同じ発想に至るだろう。別に勿体ぶる必要はない。
 簡単に講義することにした。

「いいか? 呪いというのは、縛りだ。ある意味で法律みたいなものだよ」
「……そう、なんでしょうか」
「そうなんだ。あれをしてはいけない、これに抵触する事は赦されない……そういった形に強制力を加えたのが呪いというもの。だがな、完璧な法というものは存在しない。必ず抜け道はある」

 例えばだ、と俺は思い付くままに例を挙げた。

「シータかラーマ、どちらかが意識不明の状態に陥っていたら、顔を見たり触れたりするぐらいは出来るんじゃないか?」
「……それは、多分可能です。だってそれは、再会できたという事にはなりませんから」
「そうだな。それは『再会』ではなく『発見』だ。そんな感じで、本人同士が遭遇したという自意識がなければ呪いは発揮されない。お前に掛かっている呪いのトリガーは『両者が互いを認識すれば』発動する類いなんだろう。片方が眠っていれば顔を見れるし触れる事もできる。強固な呪いほど、逆に抜け穴を見つける為の粗は出てくるものだ」
「……つまり、なんですか?」
「『片方に意識がなければ発動しない』のなら、発想を逆転させてしまえ。結論を言うと『片方が死んでいれば呪いは発動しない』わけだ」

 意味が分からないと首を捻るシータと沖田。俺は魔術に造詣が浅い二人なら仕方がないかと苦笑する。

「つまり、シータ。お前の状態を偽る。宝具なんざ必要ないんだよ。礼装で事足りる。俺が世界を巡ってる時に目にした魔術師の礼装……追っ手の追跡を誤魔化す為に、生命反応を消す短剣があった」

 言いつつ、飾り気のない短剣を投影する。

「これを持っていれば、所有者は『死んでいる』と判定される。所謂仮死状態だと見なされる訳だ」
「――」
「一流の魔術師ならこんなものがなくても似た真似は出来るだろうが、俺は三流だからな。道具に頼らなければ何も出来ない。ちなみにその礼装の欠点は、おおよその呪いや魔術探知を素通り出来る代わりに、生の視覚は全く誤魔化せない事だ。俺が魔術の探知で追ってきていると油断していた奴を、普通に目視して普通に殴り倒したよ。
 ちなみにお前の対魔力なら、ちょっと意識されれば簡単に弾かれてしまう程度のものだから、いい感じに無視しておいてくれないといけない」

 例えばアルトリアなどは、極めて高い対魔力を持つが、自身の意思などによって魔術効果を受け入れることが出来る。そうでなければマスターからの令呪や回復魔術なども弾かれてしまうだろう。
 それと同じで、シータ本人がこの……英霊からすればがらくたじみた短剣を受け入れてくれれば、彼女は魔術や呪いには『死んでいるモノ』として判定される。『離別の呪い』はそうした抜け道があるだろう。

「……ほんとうに、私のこの呪いにも、効果はあるんですか?」
「ある。神秘の世界の鉄則で、神秘はより大きな神秘に塗り潰されるが、呪詛の類いはある意味魔術よりも厳格な現象だ。『こういうモノ』と定めたものには絶対に譲らないが、その線引きに抵触しない抜け道には意外と無力なんだよ。法律と同じでな。現に『片方に意識がなければ顔を見れる、触れられる』というガバガバっぷりらしいじゃないか。まあお前とラーマの場合、同時に召喚されてはじめて使える方法だがな」
「……」

 シータは絶句していた。彼女に魔術の知識がない故の、まさに想像の埒外にある『呪いの騙し方』で、青天の霹靂なのだろう。
 年相応の少女にしか見えないから、なんだか悪い大人の世界のやり方を見せてしまったような罪悪感が湧いてきそうである。俺からすれば、どうして気づかなかったのかと不思議になるレベルだが。現代の魔術師なら割と簡単に思い付きそうなやり方なのに。

「で、どうする? 俺の味方になってくれるなら、この短剣をお前に譲ろう」
「なります。だからそれ、ください」

 即答だった。

 恋に殉じ、愛を抱く王女は、最愛の人に再会できるなら、迷う必要はないとばかりに果断だった。
 改めて握手を交わし、サーヴァントの契約を結ぶ。アーチャーのサーヴァント、シータが仲間になった。
 『ラーマ』としての彼女の性能を、マスターとしての権限で閲覧し。また彼女から出来る事を聞く。
 ラーマの性能を持つが、戦う術に疎い彼女は固定砲台として運用するのがいい。インドにありがちな大火力で薙ぎ払い、沖田で奇襲し、俺が合わせる。一気に戦術の幅と、対応できる状況が増した事を確信して。

 俺は感じた。

 流れだ。今まで逆風に次ぐ逆風、逆境の中でもがき苦しんでいたのが――今、確実に流れが変わったのを感じた。
 シータと出会えた。そして、打算的で悪いが、シータがいるなら、そのシータと再会できたとなれば、あのラーマーヤナの主人公、大英雄ラーマも味方になってくれるだろう。

 流れが、確かに。風が――追い風に変わりつつあるのを、感じる。俺は、静かに笑みを浮かべた。







 
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