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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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ある外交官の独白・2

 私がホワイトハウスから事情を説明された翌日には、ブルネイ鎮守府からの非公式な会談の要請が届いた。勿論公的な文書ではないので拘束力は無いが、綺麗な書体で『来なければどうなるか、わかりますね?』と走り書きがされていた。その時点で私には拒否権という物は存在し得なかったのだろう。それに、こちらとしても交渉には出向かなければいけなかったので私に否はない。政府から指示されたのは鎮守府側の要求してくるであろう賠償金の減額……そして、可能ならば例の遺体の引き取りだ。深海棲艦に化してしまったとはいえ、元は我が合衆国が秘密裏に研究していた新型兵器。回収して利用できそうならば国を挙げて研究し直すのが望ましい。その為にも、今回の極秘会談は好機と言える。

「私は所用で少し出てくる。万が一戻らない場合はホワイトハウスに指示を仰げ」

「了解しました、お気をつけて」

 公用車ではなく私物の車に乗り込み、部下に見送られつつブルネイ鎮守府へ向かう。部下にも詳細は話していないが、私の思い詰めた表情で何かしらの不味い事態が起きていると察しているのだろう。不安そうな顔で見送られてしまった。ブルネイの首都・バンダルスリブガワン市街地から暫く走り海岸線へ抜ける。そこから更に東に向かって走り続けると、急に開けた広大な敷地が目に飛び込んで来る。ここがブルネイ鎮守府だ。元々は艦娘の量産化について研究するための施設だったらしいが、その役目を終えた後に正式な鎮守府として整備されたとの事。今のカネシロ提督になってからは、更に周辺の土地を買ったり埋め立て工事などを行って敷地が広くなっているらしいが。基本的な鎮守府の施設は勿論、飛行場や訓練施設等も充実しているらしい。そして何より、食糧の生産拠点が施設内に存在するとか。国と対立でもする気なのだろうか?そんな事を考えつつ、車を走らせる。やがて入り口に辿り着くと、そこには一人の少女が立っていた。

「セドリック・モリソン大使ですね。お待ちしておりました」

 深々と頭を下げる黒髪に眼鏡の少女。アジアンビューティという言葉が頭を過るが、その可憐な見た目に騙されてはいけないという事を私は事前調査で知っていた。彼女も艦娘……それも、この巨大組織を裏で支える参謀の様なポジションにあると。

「こちらこそ、今回はこの様な機会を設けて頂き、感謝の言葉しかーー」

 ありません、と言いかけた所で目の前の少女に言葉を制される。

「今回の極秘会談は提督からの厚意です。感謝の言葉は私に言うべきではない……違いますか?」

「……その通りですね。私が間違っておりました」 

 少し考えれば当然の事だというのに、そんな事にすら思い至らない程に私は狼狽していたらしい。反省しつつ、頭を切り替える。

「では、提督の下へご案内します。こちらです」

「ボディチェック等はしなくてもいいのかね?」

 私がそう尋ねると、少女は可笑しそうにクスクスと笑い出した。

「大使は交渉にいらっしゃったのでしょう?であれば、持ち歩いているのはせいぜい護身用の拳銃くらいでしょう。まさか、交渉の席で発砲したりはしないでしょうし、お預かりする必要はありません。それに……」

 眼鏡の奥で、笑っていた少女の眼がすぅ……と細められる。

「たかが拳銃程度で、私達が制圧されるとでも?」

 気負うでもなく、威圧するでもなく。当然の事だとでも言うかのように少女はそう断言した。





 少女(オオヨド、と言う艦娘らしい)に先導されて会談の行われるという応接室に向かう。その途中の廊下には、防弾ベストを着込んでアサルトライフルやサブマシンガン、果てはショットガン等を携行した少女達が険しい顔付きで闊歩していた。

「物々しい雰囲気ですな」

「一応の備えです。以前、そちらの国の大使館職員を名乗るテロリストが侵入した事がありましたから」

 サラリと言ってのけるオオヨド。テロリストが侵入した、という事実は日米両政府の公式見解であり、日米安保条約には何の揺らぎもなく、両国は信頼できる同盟国である……というのは建前で、本当の所は今回のトラブルを引き起こした一派の勇み足というか、完全なる独断専行。要するに暴走が引き起こしたトラブルだ。その件でもここには借りがあるというのに、儲けに眼が眩んだ馬鹿共のお陰で胃がキリキリしてきた。

「こちらです。どうぞ」

 オオヨドが扉を開け、中に入る。中を見渡せば……成る程、応接室に相応しいだけの調度品が置かれている。そして部屋の中央、テーブルを挟んで向かい合わせになっているソファの上に『それ』は横たわっていた。

 黒い上下の軍服(帝国海軍の第一種軍装という奴らしい)に身を包んだその巨体は、靴を履いたままテーブルの上に脚を投げ出し、顔に軍帽を被せている。肩が一定の間隔で上下している所から見て、恐らくだが眠っているのだろう。

「提督?」

 オオヨドが声を掛けるが、反応はない。余程熟睡しているのだろうか。はぁ……とため息を漏らしたオオヨドが、顔に被さっていた軍帽を剥ぎ取って額を平手打ちにした。ベチン!と痛そうな音が響く。事実、その音が響くのとほぼ同時に

「いでっ」

 という小さな声が聞こえたのがその証拠だろう。

「もう、お客様を呼びつけておいて何で寝てるんですか!?」

「仕方ねぇだろうがよぉ、ここん所寝不足続きなんだからよ」

 怒鳴っているオオヨドをよそに、眠そうな声が響く。テーブルに乗っていた脚が床に降り、ソファに横たわっていた身体がムクリと起き上がる。生欠伸を噛み殺しながら、頭をガリガリと掻き毟っている目の前の男こそ、ブルネイ鎮守府の提督であるレイジ・カネシロ。暗号名(コードネーム)『evilking』と呼ばれる怪物だ。





「……ん?おぉ、あんたがモリソン大使か。遠路はるばるようこそ、ブルネイ鎮守府へ」

「あ、あぁ。よろしく」

 簡単な挨拶をし、握手を交わす。私は正直面喰らってしまった。前任の大使の時代から勤めている大使館職員には『アレは人の皮を被った悪魔だ』とか『下手をするとその場でミンチにされかねない』などとさんざん脅かされたのだが、目の前の男はその身体と顔付きで威圧感はあるものの、その顔は常に朗らかに笑っている。こんな穏やかそうなのが悪魔だと?笑わせてくれる。

「大淀ぉ、コーヒーとお茶請け、2人分大至急~」

「はい、間宮さんに頼んできます」

 見ろ、今も暢気に会談中のコーヒーなど注文している。こんな奴にマトモな交渉など出来る筈もない。

「さて、と。会談の前に注意事項を1つ。この会談は撮影されています」

「何ですと!?これは秘密裏に行われる事前調整の為の会談では無かったのですかな?」

「まぁまぁ、話は最後まで聞いてください。後々この場限りでの発言だったと意見を翻されても困りますんでね、記録用ですよ記録用」

「まぁ、それならば……」

「では、改めまして。コーヒーが来る前にそちらの要望を伺っておきましょうか」

「要望……ですか?」

「えぇ、ウチも随分好き勝手にやらせてもらってるとは言え、日本という国に属する組織の一部です。日米関係を悪化させるのは本意ではない……そこで、このような場を設けさせてもらいました」

 成る程、能天気な男かと思いきや長年鎮守府の長を勤めているだけの事はある。噂ではこの男の武勇ばかりが目立つが、政治的手腕も中々の物なのだろう。

「であれば、遠慮なくホワイトハウスからの要望を伝えさせていただきます。ブルネイ鎮守府には、今保管しているネームレベル……個体名『リバースド・ナイン』及びその統轄ユニットである『ヴェスタル』の遺体を此方に返還頂きたい」

「ほぅ?『引き渡し』ではなく『返還』、と来ましたか。それはまた何で?」

「はぐらかさないで頂きたい。アレは深海棲艦へと堕ちる前には我が合衆国の実験体……その位は調べているのでしょう?言わば国家の機密事項です。それを同盟国とは言え、他国の軍組織が所持していていいハズがない」

「成る程、成る程……筋は通っていますなぁ」

 面倒そうに、しかし少し面白がっているかのような喋り口でそんな事を語りつつ、胸ポケットに手を伸ばし、そこから煙草を取り出すカネシロ。1本咥え、火を点けて紫煙を吐き出す。わざとらしく私の顔に向けて煙を吐きかけて来た。段々と苛立って来る。

「そうでしょうとも。さぁ、早くこの場で返還の同意書にサインをーー……」

「ノーだ」

「……は?」

「耳が遠いのかね?大使殿。答えはノーだ、って言ったんだよクソッタレが」

 その瞬間、私は理解した。先程までの優しそうな中年男性はこの男の演技。そして、今の眉間に皺の寄った此方を射殺さんとばかりに睨み付けて来るこの恐ろしい顔こそ、この男の正体なのだと。 
 

 
後書き
まぁ、仮想敵国(笑)相手にハイハイ言うこと聞くようなタマじゃないよね、ウチの提督さんはwww

次回からは提督さんのターンです、メシウマ展開になると思いますので、沢山ご飯を準備しておきませうwww 
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