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ロックマンX~Vermilion Warrior~

作者:setuna
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第123話:AXL

イレギュラーハンターとレッドアラートの共同戦線から1年が経過した星1つ見えぬ夜であった。

月はなく、代わりに輝いているのは高層ビルの照明のみで青白い光が街を包み、ぼうっと浮かび上がるように見せている。

そのビル街を縦断せんと造られたハイウェイがある。

そこはかつて史上最強のイレギュラーハンターが反乱を起こした時、壊滅的な被害を受け、今ではすっかり元通りの高速道路だ。

過去の爆破テロの反省によってその道路の下には厳重な関門がある。

序盤はレイ・トラップ、次にランナーボム(爆破任務用レプリロイド)が控えており、最後には堅固な扉が侵入者を阻むという、並みのレプリロイドでは誰も突破出来ないと思われる関門。

その入り口に1人の少年がいた。

漆黒のアーマーと胸部とヘッドパーツに大きなコアを宿した少年…1年前にイレギュラーハンターと共同戦線を張ったレッドアラートの戦闘員であったアクセルはバレットを構え、前を見据えた。

「さようなら、レッド…絶対にハンターになってやる!!」

数秒後、夜の帳に銃声が響いた。

ランナーボムの1体が投擲した手榴弾が炸裂する一瞬の間を走り抜けると、爆弾の放たれた方向から敵の場所を見抜いてショットを放つ。

短い悲鳴がして手榴弾の攻撃が手緩くなるのはアクセルのショットが確実に敵を撃破している証拠だ。

だが、思っていたよりも敵の数は多い。

「へへっ、数に物言わせて倒すつもり?無駄だよそんなの!!」

ランナーボムの手榴弾の爆発を軽やかにかわしながら少年は不敵に笑う。

窮地に追いやられても屈しない意志、不敵な笑み、敵の真っ只中に突っ込む度胸。

レッドアラートの主力の戦闘員であるだけあって子供であるにも関わらず、並の戦士ではない。

「コピーショット!行けえ!!」

バレットから特殊弾が放たれ、ランナーボムに直撃すると破壊されたレプリロイドが特殊弾のエネルギーに覆われた破片を落とす。

レプリロイドの精製情報の塊、DNAコアである。

「早速これを使わせてもらうよ!!」

コアを掴んでランナーボムのDNAデータを解析すると少年の体は発光し、次の瞬間にはランナーボムへと姿を変えていた。

ランナーボムは爆破任務用レプリロイドのために、そのボディは高い耐久性と耐熱性を有している。

「これで爆弾なんかへっちゃらだね!!」

ランナーボムの低い声にアクセルの子供特有の高い声が混じったような声が響く。

アクセルは爆炎を潜り抜け、強固なる扉を破り、全ての始まりのハイウェイに辿り着いた。

ビルの照明に明らむ主幹道路だ。

「はあっ…はあっ……流石にここまで来れば…大丈夫かな…?」

流石にここまで突き抜けるのはきつかったらしくアクセルは息を切らしていた。

鼓動が速く、乱れた息のまま、アクセルは辺りを見回して体力温存を考えてゆっくりと歩き始める。

直後、後方で大きな“音”がし、驚いて振り返った彼はすぐさま前を向き、全速力で走りだした。

一方でハンターベースでもこの騒動を察知しており、エックスがバスターの調整を終えるとライドチェイサーに乗り込んだ。

『エックス、シティ・アーベルのハイウェイで大型メカニロイドが暴れているの!すぐに現場に急行して!!』

「了解…あのハイウェイか…またあそこで事件が起きるなんて……」

脳裏に当時の記憶が過ぎるが、エックスはライドチェイサーのブースターを噴かして一気にハイウェイに向かう。

そして場所はハイウェイに戻り、アクセルは必死に走っていた。

「(レッドが差し向けた刺客…!?)」

バレットを連射しながら、少年はそんなことを考えた。

かつては兄とも父とも慕った戦士である彼はどこまでも自分を利用しようというのか。

ならば抗うだけだ。

「やっ!!」

逃げながらもアクセルはショットを浴びせるが、頑強なメカニロイドの装甲はそれを容易く弾いてしまった。

「嘘!?」

メカニロイド、メガ・スコルピオがお返しだと言わんばかりにアクセルに向けて尻尾から赤い光弾を放った。

「くそ!!」

アクセルは地面に雪崩れ込むようにかわし、バレットを構えるとスコルピオは咆哮を上げ、鋏を天に掲げている。

それはまるで戦いに歓喜しているかのようだ。

「いい気にならないでよね?」

不敵に構えたが、同時に自身の不利を悟った。

ここはハイウェイで、地上とは100mも離れている。

いくらレプリロイドでも落ちればただでは済まない上に先程の赤い光弾が道路に穴を開けてしまっている。

「(ここはまずいな…。もっと安全な場所、この先に避難しなきゃ!!)」

ハイウェイの奥には確か地上に通じる道がある。

そこまで行けばまともに戦えるだろうと判断し、身を翻した。

「さあ、鬼ごっこの始まりだよ。」

恐怖はない。

“どんな時にも揺るがない心を持て”

昔慕った戦士の言葉だ。

メガ・スコルピオはアクセルの後を追い掛けながら光弾を放つ。

「…っ、やばっ…!!」

光弾をかわしながら逃げるのは簡単ではなく、光弾の回避に気を取られて瓦礫に足を引っ掛けて転んでしまう。

早く起き上がろうとするが、それよりも早くメガ・スコルピオが鋏を振り下ろす。

「っ!!」

咄嗟に目を瞑るアクセルだが、痛みが何時までもやって来ず、体を思いっきり引っ張られた。

「大丈夫か?」

ライドチェイサーに乗ったエックスがチャージショットでメガ・スコルピオの鋏を粉砕し、アクセルをすれ違い様に引っ張り上げたのだ。

「エックス!?」

「お前は確かレッドアラートの戦闘員だったな。何故お前がレッドアラートが所持しているメカニロイドに追われているんだ?」

「えっと…実は…」

どう説明しようかとアクセルが頭を悩ませるが、メガ・スコルピオが光弾を放ってきた。

「くっ、事情を聞こうにもこれでは無理か。アクセル、捕まっていろ」

ライドチェイサーのブースターを噴かして絶妙な距離を保ちながら安全地帯に向かう。

人気がない場所に辿り着くと、エックスとアクセルはライドチェイサーから降りた。

「まずはあのメカニロイドを処分するのが先だ。アクセル、悪いが手を貸してくれ」

「OK!でもあいつ装甲が滅茶苦茶固いんだ。エックスのバスターでもキツいんじゃないの?」

「いや、そうでもない。この手のメカニロイドには……いや…口で説明するより見せた方が早いな。論より証拠だ」

メガ・スコルピオは残った鋏を振り回し、尾から光弾を放ってきた。

エックスはバスターのチャージをしながら攻撃をかわし、チャージショットをメガ・スコルピオの脚部関節に叩き込んで粉砕する。

そこにショットを連射してダメージを蓄積させ、ダメージを全身に広げる。

「あのメガ・スコルピオがあっという間にやられてる…」

アクセルもショットを放って尾を破壊しながらエックスの戦いを援護する。

「何でもパレット…俺達の仲間が言うには多脚の重量級のメカニロイドは重い体を支える為に柔軟性を損なわないようにしているために関節部分が他の関節部分より脆いらしい。そこを重点的に狙えば威力が低い通常弾でも効率良くダメージを与えられるそうだ。」

そう言いながら精密な射撃で同じ箇所にダメージを蓄積していくと、メガ・スコルピオの強靭なはずのボディに亀裂が入っていき、そこにチャージショットを叩き込むとあっさりと爆散した。

「さて、まずはハンターベースに来て事情を説明してもらおうか?」

「あ、うん。分かったよ…」

エックスは簡単な報告を送るとアクセルを連れてハンターベースに帰還すると司令室に向かってハンターベースの通路を歩く。

「ここがハンターベースの指令室だ。」

しばらく歩くと目的の場所に着いたエックスはアクセルと共に司令室に入った。

司令室の中には現時点のイレギュラーハンターの重要人物達が勢揃いしていた。

「連れてきたぞ。彼がこの事件の関係者だ」

「…そいつがか?」

「あれ、お前アクセルじゃんか?エックス、こいつがどうしたよ?」

ゼロは怪訝そうな表情でエックスとアクセルを交互に見つめ、ルナはアクセルの姿に疑問符を浮かべた。

「彼はレッドアラートが所持している戦闘型メカニロイドのメガ・スコルピオに追われていたんだ。取り敢えず事情を聞くために連れてきた」

「ご苦労だった。では、アクセルと言ったな?まずはレッドアラートの戦闘員であるお前が何故レッドアラートが所持しているメカニロイドに追われていたのか…その理由を教えてもらおう」

エックスに労いの言葉をかけるとシグナスはアクセルに事情を聞くことにした。

「…逃げ出して来たんだ。レッドが…レッドアラートが変わっちゃったんだ。昔は悪い奴にしか手を出さなかったのに、今はただの殺し屋集団…もう耐えられなかったんだ。」

悲しみと怒りで拳が震え、握り締めた親指が痛くて、しかしアクセルはずっと拳を固くしていた。

こんな痛みで根を上げぬ程にアクセルの苦しみは大きかった。

そんな時、隣から差し出された手がそれを止めた。

「え?」

「そんなに握り締めたら手を痛めちゃいますよ。銃を使うなら手は大事にしないと」

パレットは笑顔でそう言うとアクセルは少し戸惑うが礼を言うことにした。

「え?あ、うん…ありがとう…えっと、君は…?」

「私はパレットです。エイリア先輩の後輩で、つい最近この司令室でのオペレートを任せてもらえるようになったオペレーターなんですよ」

「何だパレット。いたのかよ」

「いますよ!!私だってオペレーターですからね!!」

「けっ、へっぽこオペレーターの間違いだろが」

「コホンッ、お前達…喧嘩は止めろ」

最早ハンターベースの日常風景となっている喧嘩にシグナスは咳払いを1つして止める。

それを苦笑しながら見ていたアイリスはアクセルを見遣りながら少しだけ思考する。

レッドアラートは、レッドが率いる非合法組織。

彼らに利用されていたというのなら、アクセルが組織の重要人物であることは察しがつき、それにアイリスはゆっくりと呟く。

「総監、彼は恐らくレッドアラートの重要人物です。ですから逃げ出したアクセルをレッドアラートのレプリロイドが見逃すはずがありません」

「最近のレッドアラートのやり方は問題がありすぎる。流石に市街地に大型メカニロイドを投入してきたとあってはイレギュラー認定は避けられんな」

「しかし、俺は少し疑問を感じるよ。少なくともあの時に会ったレッドは見境なく人を襲うような男には見えなかった…」

実際に会ったことのあるエックスは最近のレッドアラートの暴走に奇妙なおかしさを感じていた。

その時、司令室のモニターがザッと音を出し、全員がモニターに視線を向ける。

「エイリア、何が起こった!?」

「発信源不明の通信よ。画像全モニターに出力するわ!!」

少しして砂嵐の画面に画像が映し出された。

右目に深い傷が走り、精悍で堂々とした戦士でその男の名は誰もが知る所。

「マジでレッドかよ」

「レッド!!」

忘れるはずがない。

兄とも父とも慕った戦士である。

そんな彼は堂々とハンター達に宣告する。

『聞こえているかハンター共、俺はレッド。ご存知の通り、レッドアラートのリーダーだ。わざわざ表に出て来たのは他でもない。逃げ出しやがった俺達の仲間が、事もあろうにお前らの所に転がり込みやがった。そう、そこにいるアクセルだ』

レッドはアクセルをぞっとする目で見て、少年の心中を見出だそうとした。

アクセルは毅と見据える。

「レッド、僕は帰らないよ。レッドとレッドアラートが変わった今、もう僕の居場所はない。僕は僕の心に従ってここに来たんだ。絶対に戻らない!!」

迷いなき眼でアクセルはレッドに言い放った。

アクセルの心は既に決まっている。

『そうか。帰らない、か…ならばハンター対決ってのはどうだ?真のイレギュラーハンターを決めてみないか?最後まで生き残った方が勝ちだ。悪いがこっちは、今まで捕まえてきたイレギュラーを仲間として使わせてもらうぜ、文句は無しだ。俺達が負けたら、アクセルはお前らにくれてやる。当然だが、俺達が勝てば…』

それを聞いたエックスは激昂する。

エックスからすればアクセルとはあまり接点はないが、まだ幼い子供の意思を無視するようなレッドのやり方はとてもではないが許せるものではなかった。

「ふざけるな!!市街地に大型メカニロイドを解き放って街を荒らした上に彼の意思を無視した挙げ句、そんな理由で戦いを引き起こすつもりか!?」

怒りの表情と共に全身から吹き荒れる闘気にアクセルは密かに戦慄する。

『そんな理由か…』

彼は遠い目でぼそりと言う。

普段の彼をよく知るアクセルは普段とは違う彼に目を丸くした。

『俺にとっちゃ、大事なことなんだがな…』

「…?」

アクセルにはレッドの真意が分からない。

何故このような戦いを挑んだのかも、何故レッドアラートが変わってしまったのかも。

『とにかく、アクセルは意地でも取り返す…絶対にな!!』

レッドは一同を見遣ると、笑って通信を切った。

「早速動き出したようね。各地でイレギュラー発生!被害の出たエリアを調べてみるわ。」

即座にモニターに世界地図が映し出され、被災地エリアが赤くポイントされている。

「ごめん、僕のせいで…」

「あなたは何も悪くないわ。悪いのはあちらの方だもの…でも…」

「面倒なことになったな。ハンターも人手不足で今ではまともに組織として機能していない。奴らを止められる実力者も少ない…」

「だな、さて…どうするかねえ……こう言う時にルインがいてくれればなあ…」

こう言う時ほどルインがいてくれればと思うが、それを聞いたアクセルに1つのアイディアが浮かんだ。

「(人手不足!!)」

彼の頭に名案が閃く。

「そうだ、僕をイレギュラーハンターにしてよ!!こう見えても得意なんだイレギュラーハント、ルインって人の代わりになるだろうし、僕はレッドアラートのメンバーのことなら知ってるから任せてよ!!」

「ああ、そう言えばお前結構強かったよな。共同戦線張った時も速かったし。なあ、エックス?」

「そうだな…彼は少し視野が狭いのが気になるが、戦闘力…特に機動性能が高い。イレギュラーハンターの部隊制があった頃なら…17部隊入りも有り得たかもな」

「ほう」

第17精鋭部隊はかつてエックス、ゼロ…現在行方不明のルインが以前所属していた部隊だ。

読んで字の如く、VAVAやフレイム・スタッガーと言った問題児こそいたものの、腕利き揃いでエックスが隊長を勤めた時期もある。

余談だが、ゼロは17部隊を抜けた後、第0特殊部隊、通称忍び部隊の隊長になっていた。

ハンターの数の激減で部隊制が解体された今となっては“元”がつくが。

「なあ、エックス。アクセルの加入は俺達にとってメリットがあるんじゃねえか?1人でも強い仲間が欲しい時だろ今は」

ルナの言葉にエックスはアクセルを見定めるように見ると口を開いた。

「そう、だな…彼はとても真っ直ぐでいい目をしている。」

「エックス…!!」

「だが、アクセル。ハンターというのは簡単に務まるような仕事じゃない。非常時にも最善の判断が出来る冷静さと敵に屈しない強さ。そして命をかけて人々を守る心が無ければ務まらない。君にそれがあるか?」

鋭い視線で言うエックスにアクセルも強い視線で返す。

「分からないよ…でも、僕はエックス達に憧れてここまで来たんだ。僕の罪滅ぼしのためにもイレギュラーハンターになりたいんだ!!」

アクセルの言葉に彼の強さを見出だしたエックスは溜め息を1つすると苦笑を見せた。

「覚悟はあるか…分かった。シグナス…」

「うむ、ただし今はイレギュラーハンターにしようにもハンター試験を受けさせる暇がないため保留の形にしてお前は民間協力者という立場になるが、構わないな?」

「勿論!!ハンターにしてくれるの…約束だよ!!」

「よし、そうと決まったらおかしくなったレッドとレッドアラートの奴らをぶっ倒してやろうぜ!!」

ルナの声が小気味良く指令室に響き渡り、そしてアクセルを加えたハンター達が出撃する。 
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