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戦国異伝供書

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第三十八話 意識する相手その一

               第三十八話  意識する相手
 長尾家の主となった景虎はすぐに自身の跡継ぎの問題も解決し家を落ち着かせることにも成功した、だが。
 越後はそれでも完全には落ち着いていなかった、景虎はこの時一向一揆との戦に出陣して即座に打ち破った。
 そのうえでだ、諸将に対して告げた。
「捕らえた者は切らずにです」
「赦す」
「そうされるのですな」
「はい、そして村に帰し」
 そうしてというのだ。
「田畑の仕事をさせるのです」
「殿、それではです」
 政景が景虎に言ってきた。
「門徒達がです」
「再びですか」
「そうです、またです」
 赦されて村に戻ってもというのだ。
「一揆に参加します」
「だからです」
「捕らえた者達はです」
「全て切るべきですか」
「そう思います」
 絶対にというのだ。
「何としても」
「いえ、それはです」
 景虎は政景のその問いに静かに答えた。
「門徒達を心から従わせることになりません」
「だからですか」
「そうです、彼等を心から従わせなければ」
「ならないからですか」
「そうです、ですから」
 それ故にというのだ。
「彼等はです」
「切らずに」
「従わせる為に」
「ですが切らねば」
「いえ、彼等は越後の民です」
 一向宗でもというのだ。
「ですから」
「それで、ですか」
「切ることはしません」
 決してというのだった。
「絶対に」
「従わせるのですか」
「心から」
「だからですか」
「赦すのです」
「はい」
 二言はない言葉だった。
「まさに」
「諸葛孔明ですね」
 ここで言ったのは直江だった。
「三国志演義の」
「あの書のことですね」
「南蛮の王孟獲のことですね」
「意識してはいませんでしたが知っています」
 景虎は直江に顔を向けて答えた。
「わたくしも」
「左様でしたか」
「そうですね、あの時の孔明の様に」
「何度も破り解き放ち」
「そうしてです」
「門徒達を心から服させるのですね」
「そうします、若し一向宗達を殺しても」
 例えそうしてもというのだ。
「民を殺すだけ、それでは自分の首を絞める様なもの」
「だからですね」
「それはしません」
 今政景に言った通りにというのだ。
「断じて、それよりもです」
「何度も破り解き放ち」
「その心を服させましょう」
「それでは、ただ」
 ここで直江は景虎にこうも言った。
「それだけでは足りないかと」
「といいますと」
「はい、門徒達を動かしているのは本願寺です」
 この寺だというのだ。 
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