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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第202話「開戦」

 
前書き
第5章よりも長い戦いになります。
……さすがに大門の守護者のような一人に滅茶苦茶話数をかける事はないと思いますが。
 

 




       =out side=





 八束神社。
 そこに、神界に臨む者達が集まっていた。

「……準備は、よろしいですか?」

「……ああ」

 前に立つ祈梨が全員に尋ね、優輝が代表して答える。

「今一度、確認しておきます。神界への道を確保すると同時に、私が皆さんの“格”を昇華、攻撃を通じるように力を行使します。同時に私は一時的に戦闘不可になりますので、護衛を残してソレラさんの案内の元、攻め込む……よろしいですね?」

「はい……!」

 神界の存在には、他世界の者の攻撃は通じない。
 それを例外的に通用するように、祈梨は力を行使する。
 しかし、その力の行使も規模が大きく、神界の神といえど、力を使い果たしてしまう。
 その時、祈梨は無防備になる。それを守るための護衛も必要なのだ。

「椿と葵……たった二人で大丈夫か?」

「どの道、人数不足よ。守ってばかりじゃ勝てないのだから、同じよ」

「……そうか」

 戦力としては不安に変わりない。
 だが、それでも最低限は割かなければならなかった。

「いや、私達も残らせてもらおう」

「鞍馬ちゃん?」

 そこへ、鞍馬を中心とした式姫達が残ると言い出した。
 その事に僅かながら驚きを見せるとこよ。

「悔しいが、私達では強さが及ばない。まだ伸びしろがあるとはいえ、攻め手としては足手纏いになるだろう。ならば、ここで防衛に徹する方が向いている」

「……そっか。適材適所になるなら……」

 鞍馬の言葉に、とこよも納得する。他にも、葉月や那美、久遠も残る事にした。
 葉月と那美は鞍馬達と同じ理由で、久遠は那美と共にいた方がいいという判断からだ。

「では……ソレラさん」

「はいっ……!」

 祈梨の合図と同時に、ソレラが力を行使する。
 刹那、周囲の空間が歪むように“何か”が切り替わり……

「っ……!」

 ……直後には別の場所に移動していた。

「着きました。ここが神界への入口です」

「ここが……」

 そこは、言葉や文字では表現が難しい空間だった。
 宇宙のような、それでいて真っ白のような。
 全く違う表現が混ざり合ったような……そんな空間だ。

「あっ、あそこ……」

「もしかして……八束神社?」

 振り返ると、遠くの方に神社が見えた。
 そこだけは、普通の境内と同じ様子だった。

「はい。今、神界と八束神社を“繋げて”います。尤も、目に見えている距離はまやかしに過ぎません。そもそも、あそことの“距離の概念”がありませんから」

「……なるほどな」

 祈梨が軽く解説し、優輝が確かめるために適当に創造した小石を投擲する。
 小石は遠くまで飛んだが、それでも見えている八束神社に近づいていなかった。

「そして、“繋がっている”からこそ―――」

 そこまで言って、祈梨は一度深呼吸し……

「―――貴方達の世界の“格”を、神界に合わせて昇華できます」

 刹那、力の奔流が祈梨から放たれる。
 それはまるで嵐のようで、それでいて優輝達を打ちのめす事はなかった。

   ―――“祈祷魂格昇華(きとうこんかくしょうか)

 その奔流は光となり、優輝達を包む。
 それどころか、八束神社側から見える神界へ通ずる穴からも光が漏れ出し、やがて全ての次元世界をも覆いつくした。

「な、なにがどうなって……?」

「少し、辛抱してください。さすがに規模が大きいので……」

 一番最初に光に覆われた優輝達は、体感時間で長い事光に包まれる。
 何も見えない状態なので、何人かが困惑していた。



「っ………完了です」

「うぅ、目がチカチカする……」

 しばらくして、ようやく光が収まる。
 特に光に弱い葵は、若干目をやられてしまったようだ。

「……っ、ふぅ……はぁ……はぁ……これで、貴方達の攻撃が神界の存在にも通用するようになったはずです」

「……大丈夫……?」

 息を切らし、その場に膝を付く祈梨。
 力を使い果たし、戦闘不能になると事前に聞いてはいたが、それでも心配になるため、とこよが思わず尋ねる。

「……ええ。休めば回復します。それよりも、“格”を上げた事による変化は感じられますか?」

「変化って言われても……あれ……?」

 アリシアは特に何ともないと思って、ふと気づいた。

「……なるほど。“格”を上げた事により、理力や気配を感じられるようになったのか。今なら、何も感じなかった力の波動を感じる」

「……うん。全然気配がなかったと思ったけど、そんな事なかったね」

 優輝ととこよが代弁するように言う。
 つい先程まで、優輝達は傍にいる祈梨やソレラの気配も感じなかった。
 しかし、今は二人の気配どころか、神界の方から大きな力をいくつも感じる事が出来た。

「ッ……これ、は……」

「相当、やな……」

「古代ベルカ戦乱時代のようだな……尤も、その規模は桁違いだが」

「ああ。分かっちゃいたが、ここまでとはな……」

 はやてや、戦争経験者のヴォルケンリッターが声を上げる。
 他にも、声に出していないものの、全員が大なり小なり驚いていた。

「……回復次第、私達も後から追いつきます。では、予定通りに動いてください」

「私についてきてください。距離の概念がないので、普通に移動しても意味がないので」

 ソレラがそう言って、皆がその後について行く。
 神界に干渉出来るようになったとはいえ、神界での法則を理解出来た訳ではない。
 そもそも、神界に()()()()()()()()()()
 そして、その事は優輝達は知らず、祈梨達も説明していない。

「神界での戦いは、所謂“想い”の戦いと、既に説明は受けていますよね?……言っていませんでしたが、それは同時に自身の“領域”をぶつけ合う戦いでもあります」

「……それは、どういう……?」

 ソレラの案内の下、優輝達は神界を進む。
 既に、少ししか歩いていないものの祈梨と残った者達は見えない。
 距離の概念がないために、視界の距離も関係ないのだ。
 
 そんな時、ふとソレラが言っていなかった事を説明する。
 司は一瞬どういう事か理解できずに聞き返す。

「……えっと、例えるのなら、子供の意地の張り合いでしょうか?」

「……?」

 良い例えが見つからないのか、ソレラは歯切れを悪くする。
 その言葉に、奏は首を傾げる。

「……要するに、自分の方が上だと主張する訳か」

「似たようなものです。子供の時、友人とのふざけ合いでそう言った経験はないでしょうか?神界では、それが罷り通るのです」

 小学生低学年程の頃であれば、大体の人はやった事があるかもしれない。
 特撮やアニメに憧れて、“凄いビーム”や“パンチ”を繰り出す遊びを。
 そして、その相手もそれを防ぐ“バリア”を繰り出す。
 すると攻撃をした方は、今度はその“バリア”を破る攻撃を繰り出す。
 相手はその攻撃すらも防ぐ……と、後は無限ループに陥る。
 そんな、ふざけ合う遊びのような事が、強いて表現した際の“神界の法則”だ。

「……よく分からないなぁ……」

「そうだね……」

「うーん……」

「……あー、そっか。なのはちゃん達にはそんな経験なかったね……」

 しかし、その事が理解出来たのは奏以外の転生者を中心とした何人かのみだ。
 とこよや紫陽のような昔の人はもちろん、クロノ達も文化が違い、なのは達もそう言った行為をする無邪気な子供が通う学校ではなかったため、想像が出来なかった。

「……戦うのが最も分かりやすいと思います」

「ふむ……」

 ソレラが視線をどこかに向ける。優輝やとこよも同じく視線を向けた。
 そこには、感じられるようになった理力があった。
 ……神界の神が、近くにいるのだ。

「こちらからの干渉に気付き、何人かが接近しています。今は私の力で時間を稼いでいますが……元々、戦いには向いていない力です。長く保ちません」

「ッ………!」

 もうすぐ接敵する。
 その事に全員が警戒態勢に入る。

「……一つ、聞いておきたい。さっきの言い分だと、何かしらの能力があるみたいだが……今ここで説明出来るか?」

「……手短になりますが……。私は、姉妹でセットの神です。妹の私は“守護される妹”の性質を持っています。……今は、その応用で敵の手が及ばないようにしています」

「なるほど。確かに戦いには向いていないな」

 優輝がふと気になったソレラの能力を尋ねる。
 “守護される妹”の性質。その力は、自身を守る力に適している訳ではない。
 飽くまで“守られる”性質だ。守る存在がいなければ成り立たない。
 故に、能力を応用した所で、ソレラの力では大した事は出来ない。
 ……この場に、彼女を守る存在がいてこそ、その力は真価を発揮する。

「敵の強さは分かるか?」

「いえ……ただ、接近しているのは私達の動きに気付いた極一部の先兵のみです。とんでもなく強い、と言う事はないでしょう」

 その言葉を聞いて、何人かは不安に駆られる。
 それは、未知数と同義だからだ。

「…………」

 ……そして、それはソレラも同じだ。
 先程自分で言ったように、ソレラは戦いに向いていない。
 それは能力だけでなく性格そのもの含む。
 “守られる妹”と言う性質がある限り、ソレラは戦いに恐怖や怯えを抱く。
 その不安の大きさは、優輝達のものよりも遥かに大きい。

「っ……!」

 しかし、それでも彼女は覚悟する。
 神界の神故に。怯えて守られてばかりではいられないと。

「来ます!」

 その瞬間、何かが割れるような音と共に、数人の人影が現れた。
 三者三様の衣装を纏っているが、その誰もが異様な雰囲気を出していた。

「気を付けてください!洗脳されている状態は、正気ではありません!そして、心してかかってください。決して、一筋縄ではいきません!」

「ッ……!」

 ソレラの言葉を皮切りに、戦闘が始まった。
 初手で動いたのは優輝ととこよとサーラ。
 神界に来たメンバーの中で、特に戦闘に優れた三人だ。
 数瞬遅れて、現れた神達が動く素振りを見せ、続くように司達も行動を開始した。

「シッ……!」

「はっ!」

「せぁっ!」

 敵の数は五人。内、それぞれ一人に的を絞り、攻撃を仕掛ける。
 優輝は転移で背後に回り込み、とこよとサーラはそれぞれ霊術と魔法で身体強化をし、一気に懐に入り込んで武器を振るった。

「がっ……!?」

「ぐっ……!」

「ッ……!」

 優輝、とこよの攻撃は当たり、サーラの攻撃は防がれた。
 優輝は感情がない故の合理的思考による出が早い攻撃だったため。
 とこよは反応されても防御前に攻撃を届かせていた。
 唯一、サーラは敵の強さが他二人の相手よりも強かったため、防がれた。
 ……それも、武器を用いず素手で。

「(素手か……!)」

 即座に三人は距離を取る。
 優輝は創造魔法による弾幕を。とこよとサーラはそれぞれ魔法を置き土産に放つ。
 同時に、司や緋雪、紫陽やユーリなど、遠距離からも弾幕が放たれる。

「なっ……!?」

「たった三人で相殺か……!」

 しかし、その弾幕は攻撃されなかった二人とサーラの攻撃を防いだ一人に相殺される。
 力の放出。たったそれだけで防がれてしまったのだ。

「緋雪!」

「紫陽ちゃん!鈴さん!」

「ユーリ!」

 反撃を起こされる前に、間髪入れずにアリシアやなのはなどが砲撃を放つ。
 プレシアやリニスも弾幕を展開し、ユーノやクロノは相手の出方を見た。
 その間に、優輝は緋雪を、とこよは紫陽と鈴を、サーラはユーリの名を呼ぶ。
 最も連携を取りやすい相手をそれぞれ呼び、次の攻撃に移る。

「奏ちゃん!帝君!合わせていくよ!」

「ええ……!」

「数人で一人か……!とんでもないな!」

 それを見て、司も連携の取りやすい二人を呼んで一人に的を絞る。

「残り一人は私が……!」

「援護します」

 残り一人は、ソレラが相手をする事にする。
 その援護として、シュテルや手の空いている者がつく。

「『クロノ。出来る限り敵の動きを分析してくれ』」

「『分かった。無理するなよ』」

 全員でかからずに何人かはいつでも援護出来るように待機する。
 優輝達の戦いから、相手の動きを分析するためだ。
 相手の力は未知数。少しでも参考に出来るように、そうする必要があった。





「(不意打ちとはいえ、致命傷を与えたが……やはりか)」

 “それぞれが一人を相手にする”。
 そんな行動を取った瞬間、五つに分断された。
 “想い”が重要になってくるため、意志表示だけで勢力が分断されたのだ。
 尤も、分断したかった優輝達からすれば、ありがたい事だった。

「ッ!」

「ふっ!」

 緋雪の“破壊の瞳”が炸裂し、怯んだ所に優輝が斬り込む。
 しかし、その一撃は防がれた。
 ……寸前まで食らっていた攻撃を何ともなかったかのようにしながら。

「嘘っ!?」

「見た目の外傷などは無意味か。飽くまで“意志”を折らない限り、無限に再生する……故に、致命傷だろうとすぐに復帰する」

 緋雪は多少驚いたが、優輝は冷静に分析した。
 そして、同時に思う。“確かに一筋縄ではいかない”と。

「くっ……!」

「はぁっ!」

「ッ!?ぐ、せぇやぁっ!!」

 理力の放出により、一度優輝が引き離される。
 その瞬間に、敵は緋雪へと肉薄し、光の刃を放った。
 寸前、理力の放出で緋雪は怯み、その一撃を食らってしまう。
 だが、その上から全力で殴り飛ばした。

「っつぁっ!?」

 その瞬間、殴った緋雪の腕が斬り飛ばされた。
 一瞬見えたのは青い軌跡。目の前の神の基調としている色と同じ青い軌跡だった。

「ッ、ぁあああああっ!!」

   ―――“贄之焦熱地獄”

 それが何か確かめる前に、緋雪は反撃する。
 斬り飛ばされた腕を代償に、灼熱の炎を目の前に展開した。

「……ふっ!」

 優輝も援護として、矢や砲撃魔法を撃ち込む。
 だが、直後に気付く。

「(炎が弱まってる……?)」

「(しかも、どこか温度が……)」

 緋雪が繰り出した炎が弱まり、体感温度が下がっている事に。

「……ヒヒッ」

「っ!?」

 未だ残る炎の中から、笑い声が聞こえる。
 その瞬間、嫌な予感がした緋雪は避けようとして……

「っづ……!?」

 もう片方の腕も、斬り飛ばされた。

「ひゃは……!」

「これ、は……!」

 直後に優輝にも攻撃が仕掛けられる。
 僅かに見える青い軌跡。緋雪の腕を斬り飛ばしたものと同じと判断し、リヒトで弾く。

「(水の刃……!)」

 防御の最中、優輝は青い軌跡の正体を暴く。
 その正体は、水を圧縮した刃だった。

「(こいつの能力は、水に関する力か!)」

 しかし、種が分かればこの程度優輝に対処できない訳がない。
 最小限の動きで躱し、反撃の斬撃を飛ばす。

「……!」

「っ……?」

 だが、その魔力の斬撃は途中で勢いを衰えさせるように消えた。
 その様子を見て、優輝は違和感を覚える。

「がっ!?」

「隙あり……!」

 その最中に、腕を再生させた緋雪が背後から矢の攻撃を繰り出した。
 そのままシャルを杖の形態に戻し、魔力を纏わせて剣と成す。

「はぁっ!」

「せぁっ!」

 優輝が転移魔法を使い、上から斬撃を浴びせる。
 同時に緋雪も間合いを詰め、力強い連撃を浴びせた。

「っ……!」

「えっ……!?」

 その時、二人の体を異常な怠さが襲う。

「ひゃはぁっ!」

「ぐっ……!」

「ぅあっ……!」

 青い理力が衝撃波となり、優輝達を大きく吹き飛ばす。
 ダメージも大きいようで、体勢を立て直すのに少し時間が掛かった。

「……攻撃が通じないのならともかく、通じても倒せないというのは初めてだな」

「“想い”による戦闘……こっちのダメージも回復出来るのはいいけど……」

 優輝が転移で緋雪の傍に降り立つ。
 緋雪は敵の男から目を離さずに、ダメージの回復を行う。
 “想い”が重要となる神界においては、物理的ダメージはあってないようなものだ。
 そのため、何度かダメージを受けた優輝達も既に全快している。

「その程度かぁ?そっちから来た割には、大した事ねぇなぁ?」

「っ……!」

「ただの挑発だ。緋雪」

 ようやく口を開いた敵の神。
 その挑発に、思わず言い返しそうになる緋雪だが、優輝が制する。

「くっひっひっひ……」

「………」

 完全に正気のない目で、変な笑い声をあげる神。
 その間に、優輝は緋雪と次の行動を考える。

「『奴の攻撃手段は圧縮した水の刃だった』」

「『じゃあ、能力は水に関するもの?』」

「『……いや……』」

 見た目も青く、攻撃手段が水の刃。
 一見すれば明らかに水に関する能力と思えるだろう。
 しかし、優輝は引っかかるものがあり、緋雪の言葉に肯定しなかった。

「『さっきの斬撃が消された時。それと倦怠感。……この二つは水から繋げられない。……飽くまで水の刃は能力の派生による攻撃だろう』」

「『……じゃあ、相手の能力は……』」

 もし水の刃だけであったら、優輝も水に関する能力だと予測していただろう。
 しかし、それ以外の要素があったため、そうではないと考え直せた。

「『……幸い、一対一でも負けない程度の実力。緋雪、試せるか?』」

「『私で様子見、だね?……行けるよ』」

 妹を使って敵の能力を分析する。
 傍から見れば外道な戦法だが、実力を考えての行為なため、緋雪は反対しない。
 優輝も、緋雪があっさり負けるとは思っていないからこそ、この指示を出した。

「……“霊魔、相乗”……!」

 霊力と魔力を混ぜ合わせ、爆発的な身体強化を行う。
 緋雪の霊魔相乗は、優輝よりも制御が甘かったが、修行を経た今なら10割も可能だ。
 優輝も同じように、10割を負担なく扱えるようになっている。

「ひっひっひ……ひ?」

「ッ!」

 力の高まりに気付いたのか、男も笑い声を一旦止める。
 直後、緋雪が踏み込み……男の死角に転移した。
 何てことはない。優輝が設置した転送陣から転移しただけだ。

「ふっ!」

 一刀の下、男の首が斬り飛ばされる。
 しかし、それでは死なない。倒せない。
 何事もなかったかのように、首は元に戻る。

「ひゃはぁ!」

「はぁっ!」

 振り返り、男は水の刃を飛ばす。
 しかし、二度目……それも、身体強化をした緋雪には通じない。
 魔力の籠った掌底を放ち、その衝撃波で相殺した。
 水の刃は形さえ崩れてしまえば脅威ではない。故に、簡単に相殺出来た。

「っつぁっ!」

「ぐっ!?」

「せぇりゃっ!!」

 至近距離で水の刃を相殺し、そのまま緋雪は男の顎を蹴り上げる。
 そのまま回転し、回し蹴りを横からお見舞いする。

「はぁっ!」

 吹き飛ぶ事も許さないように、緋雪は魔力弾で男を叩きつける。
 間髪入れずに間合いを詰め、大剣にしたシャルで斬り刻んだ。

「ッ―――!?」

 その瞬間、緋雪を倦怠感が襲う。
 間髪入れずに動いていた緋雪は、その倦怠感で体勢が崩れる。

「ひゃはあっ!」

「あぐっ……!?」

 その隙を、男は逃さない。
 流れる水のような連撃を緋雪に与え、下から氷の棘が貫いた。

「っつ……!」

 負けじと緋雪も魔力弾を男に仕向ける。
 しかし……。

「(消えた……僕の斬撃と同じか)」

 先程の優輝の斬撃と同じように、勢いを衰えさせるように消えた。

「くっ……!」

 氷の棘に串刺しにされては動けないため、緋雪はすぐさま破壊の瞳で棘を破壊する。
 同時に、水の激流が太い縄のように緋雪の胴を打ちのめした。

「ぐぅ……!?ぁあっ!」

   ―――“呪黒剣”

 吹き飛ばされながらも、緋雪は霊術を発動させる。

「げひゃっ!?」

 足元から黒い剣が生え、男は打ち上げられた。

「(剣なのに、刺さらない……!術式が形を保てていない……!?)」

「(倦怠感に加え、弱まる魔力弾、砲撃、霊術……)」

 緋雪も異常に気付き、優輝はその様子を眺めて分析を進める。

「(体が怠い……気合を、入れ直さないと……!)」

   ―――“剛力神輿”

 霊力を練り、さらに力を上げる。
 それを切欠に緋雪は自身に喝を入れ、男に突撃する。

「(さらに、速く……!)」

   ―――“速鳥”

 続けざまに速度も上げる。
 急激な速度の変化に、男は反応出来ず……

「ごはっ……!?」

「はぁっ!!」

 腹に強烈な膝蹴りが入る。
 間髪入れずに緋雪は叩きつけるように両拳を振り下ろす。

「フォイア!」

   ―――“Belagerung pfeil(ベラーゲルング・プファイル)

 叩き落した所へ、魔力弾と共に肉薄。
 さらに拳による連撃を加える。
 無防備な所へ攻撃するのなら、大剣よりも拳の方が連打が速い。

「ふっ!」

   ―――“Aufblitzen(アォフブリッツェン)

 一際強い一撃を叩き込み、緋雪は浮き上がる。
 そのままシャルを構え、強力な一閃を放つ。

「………ㇶ」

「ッ―――!?」

 一撃を放つ。その瞬間に、緋雪はその身に纏う魔力と霊力を霧散させる。
 大剣の魔力はもちろん、飛ぶ事さえせずに墜落するように落ち始めた。

「隙だらけだぁ!」

 そして、その緋雪へ男の攻撃が叩き込まれ―――





「させん」

   ―――“Aufblitzen(アォフブリッツェン)

 ―――そうになった所を、優輝が斬り飛ばす。

「お、お兄ちゃん……」

「何があった?」

 そのまま緋雪を抱え、転移で距離を取る。
 そして、何があったのか、優輝は緋雪に尋ねる

「……わからない。でも、飛行が保てない程怠くなって……」

「……力の減衰か」

 緋雪の回答に、優輝は先程までの男の力からそう推測する。

「力の減衰……水の刃。……共通するなら、どちらもイメージカラーが青、か」

 男の動きが鈍いおかげで、優輝が推測する時間はあった。
 その間に、優輝は分析を進める。

「青……青……まさかだと思うが……」

 敵の男は、髪の色、瞳の色、服装で基調としている色、全てが青だった。
 そして、神界では概念がそのまま神になる事から、優輝は一つの結論に至る。

「“青色”に関するものを操る、のか……?」

「え……?」

 それは、色そのものの概念に通じる性質。
 神界の神ならば“ありえない”と切って捨てる事が出来ない推論だ。

「ひ、ひひ、その通り。この俺、カエノス様は“青の性質”を持つ……青色が関わっていれば、何でも扱えるぜぇ……?」

「……自分から明かしてくれるなんて、そいつはありがたいな」

 名前と性質まで自分で言ってくれた。
 手探りだった優輝にとって、非常にありがたい事だ。
 そして、同時に警戒も高まる。

「要所要所に倦怠感を与える事で、隙を作る。……おまけに、倦怠感ならば相手の心も折りやすい……厄介な」

「で、でも、倦怠感とか、魔力弾を消されたのは一体……?」

「倦怠感と減衰。どちらも色をイメージするなら、青色だろう?……つまり、そういう事なんだ。神界の神は」

「っ……!?」

 イメージカラー。たったそれだけで操れる対象になる。
 非常に効果範囲が広く、厄介なものだと緋雪も理解する。

「……他の神も同じようなものだろう」

「じゃあ、他の皆も……」

「苦戦、しているだろうな」

 神界における初戦。
 その戦いは、優輝達の不利から始まった。













 
 

 
後書き
祈祷魂格昇華…適当に漢字を6文字並べただけ()。存在の“格”を神界と同等に上げる読んで字のごとくな技。規模が大きいほど、使用後の戦闘不能時間が増える。

“守られる性質”…一言で言えば、後方支援特化のバフみたいな能力。本人の直接戦闘にはほぼ意味がない。味方がいると、味方の“何かを守る力”が強化される。

Belagerung pfeil(ベラーゲルング・プファイル)…“包囲攻撃”、“矢”のドイツ語。追撃、包囲攻撃用の魔力弾。主に近接戦の時に、間に挟むように相手に放つ。

カエノス…“青の性質”を持つ神。青色の概念を担う。青を基調とした容姿、服装をしており、性格や顔色が暗い。色を担う神は同色でも複数おり、カエノスの場合は負方面に性質が寄っている。名前の由来は“青”のラテン語とギリシャ語の組み合わせ。

“青の性質”…青からイメージ出来るものを扱う事が出来る。応用しやすいが、青=テンションが低いなどと言った、マイナスのイメージもあるために、常にデバフが掛かっている。


上記の通り、神界の神々は一部を除いてふんわりとした効果の能力ばかりです。
作者自身、一から説明しろと言われたら無理と即答出来るぐらいあやふやです。
一応、中には分かりやすい能力もいますが……。 
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