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【完結】猫娘と化した緑谷出久

作者:炎の剣製
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猫娘と最終章:さらに向こうへ
  NO.111 家庭訪問

 
前書き
更新します。 

 




爆豪によって慰められてとりあえずなんとか出久が立ち直った翌日の事。
オールマイトと相澤は家庭訪問と称して各生徒の家へと訪問をしていた。
各々が各々の家庭で大小あれど雄英高校に対して実の息子、娘をこのまま通わせてもよいものかという問答が課題になったが、なんとか今の所は相澤とオールマイトの説得などもあって順調に事は進んでいた。

そして場所は現在爆豪家。
そこでは爆豪の母・光己が爆豪の頭を叩きながら、

「あっ、大丈夫です。むしろもっと扱いてやってください」

と言っていた。

「はぁ……こちらとしましてはすぐにお許しが出たのはありがたいのですが、よろしいのでしょうか?」
「まぁ、はい……実際勝己は聞いた話では合宿時にヴィランに腕を切断されたとかいう話を聞いた時はあたし達も顔を真っ青にはしましたけどね。
でも、それも出久ちゃんの個性のおかげでこうしてなんとか五体満足のまま帰ってきてくれたことに関してはとても出久ちゃんには感謝しています。
……まぁそれと雄英高校に関しては別問題だというのは分かっていますが、それも含めて勝己を鍛えなおしてほしいというのがあたし達的には本望なんです」
「奥さん……」
「確かに世間の風当たりはまだひどいと思いますが、それでも勝己はそれを望んで自分から飛び込んでいったのですから出来る限り応援したいんです。
それに学校関係で何があったのかは詳しくは聞いておりませんが、あたし達から見た今の勝己は前より少しですが大人になったような気がしてならないんです。…………言葉遣いはまだまだ荒っぽいですけどね」
「うっせ……」

思わずそう愚痴る爆豪の頭をまた叩きながらも、

「ですからこれからについてはこちらもまだ様子を見させてもらいます。果たして雄英高校だけの問題なのか、それとも今の社会全体で対策に乗り出してくれるのか……。
勝己の将来を見据えてしっかりと雄英高校の皆さんには同じ過ちを繰り返してもらわないためにも、あたし達もしっかりと協力はしていきます。
だからうちの愚息をこれからもどうかよろしくお願いします」

そう言って頭を一緒に下げる親子たちであった。父親の勝に関してはほぼ空気扱いであったが、それでも同様に頭を下げていた。
それでオールマイトと相澤は外に出ていく中で、

「オールマイト……」
「爆豪少年? どうしたんだい?」
「あんたと出久の秘密……後でしっかりと教えてくれな? もう知っちまったから……」
「それは……ッ!?」
「言いふらしたりはしねーよ。でも改めて教えてほしいだけだ」
「…………、分かった。ちなみにその事を知っているのは……?」
「後で全員連れていく」
「了解した。それじゃ落ち着いたら緑谷ガールとともに指定した部屋に来てくれ」
「わかった」

そんな感じで爆豪とオールマイトはもやもやした空気の中、別れた。
移動する車の中で、

「爆豪少年はどこまでを知ってしまったのか……」
「恐らくですが、緑谷救出に向かった面々……爆豪、飯田、轟、切島、八百万、麗日の六人は少なくとも知ってしまったのでしょうね。ああ、くそ……オールマイトが引退していなければ緑谷と意識が戻っていなかった耳郎に葉隠以外の全員は除籍にしているんですがね……」
「まぁまぁ……落ち着いてよ相澤くん。大丈夫だ、しっかりと後で言い聞かせておくから」
「俺も同伴しますよ。ただでさえ知られたらまずい話なんですから」
「だよねぇ……」

微妙な空気を感じながらも仕方ないと納得するしかない形で二人は次の家庭訪問の場所へと向かう。
爆豪家から一番近い家はというと言わずもがな緑谷家である。
ここが一番の難関だろうとオールマイトは思う。

「相澤くん。ここは私に任せて他の家に行っても大丈夫だよ」
「いいんですか……?」
「うん。個人的にも話をしないといけないと思っているからね」
「わかりました」

後ろ髪を引かれながらも相澤は他の生徒達のもとへと向かっていった。
緑谷家があるマンションをオールマイトは見上げながらも、

「よし!」

と、気合を込めるオールマイト。
そして呼び鈴を押して中に入らせてもらうと、

「お、オールマイト……よよよようこそ……」
「ど、どうぞ中に入ってくだささい」

と、言う感じでがちがちに緊張している出久と引子に迎え入れられたオールマイトだった。
だがやはり気がかりだったのは、

「……緑谷ガール、しっかりと眠れているかい? 目の下に少し隈が出来ているが……」
「は、はい……かっちゃ……爆豪くんに昨日に慰められてなんとか建前だけでも立ち直れました……」
「そうか……それならばいいのだがね……」

そのままの流れで家庭訪問となって、

「それでですが、雄英高校は全寮制をするという話なのですが……」
「ハイ……その件に関してなんですが…………私は、イヤです」
「お母さん……!?」

引子の言葉にオールマイトは「やはりか……」という感情を抱いた。
そもそも今回の雄英の失態の件がなければ出久はもしかしたら誘拐などされていなかっただろう。
それでこのまま通わせてもいいものかと不安になる気持ちはわかる。

「色々と考えたんです。ですが今回の件で出久はひどく傷つきました。すべてが雄英高校のせいと言う訳ではありませんが、こう言ってはなんですが、出久の持つ“個性”はとてもではないですが異常の一言です。
もう出久本人が受け入れているとはいえ、親である私としましてはこのまま雄英に通わせてもいいものかと常々思っていました。
そして、それが最悪の形となって誘拐にまで発展してしまいました。
私の考えとしましては、どこの学校に通わせてもどこかで出久の個性の情報が洩れれば同じように誘拐騒ぎになっていたとは思います。
ですが! 出久が誘拐される以前にはすでに雄英高校は出久の個性について大まかにではありますが知っていたというのはもう聞いています。
なのに、ただ情報を規制しただけで、これといった対策も取らないままにこういう事態にまでなったのは雄英の落ち度だと私は確信しています」

長々と喋り続けたのか喉が付かれたのか一回水を飲む引子は、それでもその眼には雄英に対する不安がありありと浮かんでいた。
出久も出久で引子の言葉が否定できる部分が見つからずにただ黙っているしかできないでいた。

「……出久はあなたに憧れています。そして先日の戦いの映像も見させてもらっていました。一市民としましては感謝の思いでいっぱいです。ですが、それとこれとは別問題で出久もこのままヒーローになってあなたのような過酷な道を歩まれる事になるんでしたら…………私は無個性のまま、ヒーロー達を応援するだけの傍観者としてのままの方が幸せだったんじゃないかって思うんです」
「お母さん……」
「確かに出久の個性によってたくさんの人達が命を救われたのは事実です。私も出久に倣ってネットなどで出久の事などを見る事も増えました。中には出久に対する感謝の言葉など好意的なものが多く見られました。でも、それ以上にオールマイトの引退の原因になったという批判や中傷の声も少なからず見られました」
「ッ……」
「…………」

それで出久は苦い顔になり、オールマイトはそれでも聞きに徹しているのか無言のままであった。

「そして今のヒーロー社会は、もう出久をなにがなんでも必要としている事も自覚してしまいました。あそこまでの奇跡的な“個性”……放っておく手はありませんからね。出久はもうヒーローになる以外の道は無くなってしまったという感想もあります。
それも踏まえて、また同じことが起こるかもしれないという思いがあるんです。
どこの学校に通わせても同じような気はしますが……それでも、少なくとも今の雄英高校に出久を通わせてあげられるほど私の肝は据わっておりません」
「お母さん……」

引子は涙を流しながらそうオールマイトに訴えた。
それは親ならだれでも思うであろう帰結でもあった。

「あなた方がどれだけ素晴らしいヒーローでも関係ありません。幾度もヴィランに襲撃されてまともに授業も続けられない……生徒達への被害を抑えられない……そんな学校に私は出久を、娘を通わせたくありません……」
「お母さん! でも、僕は……」
「緑谷ガール、座ろうか」
「でも……」
「いいから」
「はい……」

オールマイトの説得によって着席する出久。
引子は落ち着いたのを見計らってまた話し出す。

「モンスターペアレンツかもしれません。むしろモンスターでいいです。私は、出久の夢を奪いたくありません。
どうしても、ヒーローになりたいのなら別の学校だっていいと思っています」
「ッ!」
「(辛い事だな……私に憧れ、私を追ってきた君にとって“雄英で学ぶ”というのは……大きな意義がある。そこを断たれるのは――――……)」

オールマイトは言葉を失っている出久を見た。
だが、そこでオールマイトは自身の思い違いを感じた。

「――――……いいよ。雄英でなくたって……」
「出久……?」
「緑谷ガール……」

出久はなにかの覚悟を決めたような顔になっていた。

「お母さん、聞いて……神野区でね、僕はたくさんの感謝の言葉を貰ったんだ……確かに僕を中傷する人もいるだろうけど、そんな事はもう覚悟の内だよ。ヒーロー社会に出るっていうのはそういう事なんだって直に思い知った……そして神野区では確かに僕も少しでもヒーローになれていたんだって……」
「出久……」
「だから、雄英でなくたっていい。僕は、どこででもヒーローの道を進み続けるから」
「(そうか……。君はもう―――……)」

オールマイトは一度立ち上がった。
そしてもうなるのも辛いであろうマッスルフォームになりながらも、その場で土下座をしていた。

「……順序が間違っていたことをまことに申し訳ありません。私は、緑谷ガールが私の後継にふさわしいと……すなわち、平和の象徴になるべき人間だと思っております」
「えっ……なっ!? ちょ、やめてください! なんですか!?」
「平和の象徴……だったものとしての謝罪です。彼女の憧れに甘えて教育を怠ってきた事を謝罪いたします!」

そしてボンッ!という音とともにオールマイトはトゥルーフォームに戻ってしまう。
それでも言葉を続ける。

「そして、雄英教師としての懇願です。確かに私の道は血生臭いものでした。否定はしません。
だからこそ彼女に同じ道を歩ませぬように、横に立ち、もう二度と今回のようなことが起こらないように守り、共に歩んでいきたいと考えています」
「オールマイト……」

「『今の雄英』に不安を抱かれるのは仕方のない事です。私もお母さんの言い分は正しいと思っていますから。
しかし、雄英ヒーロー達もこのままではいけないと……変わろうとして努力しています。
どうか、『今の』雄英ではなく、『これから』の雄英に目を向けて頂けないでしょうか!!」

そして一回息継ぎをして、

「出久少女に私のすべてを注がせてもらえないでしょうか!! この命に代えても守り育てます!!」

そこまでオールマイトが言い切った瞬間、引子は足に力が抜けたのか座り込む。
出久は慌てて支えるが、少しして、

「…………やっぱり、嫌です。だって、あなたは出久の生きがいなんですよ?
決して雄英が嫌いなわけではありません。
出久に……ただひたすらに幸せになってもらいたいだけなんです。
ですから……命に代えないで、ちゃんと生きて守り育ててください……。それを、約束してくれるのなら、私も折れましょう……」
「お母さん……!」
「必ず……必ず約束いたします!!」
「出久も……分かっているね?」
「うん! もう心配させないよ!」

引子は吐き出したい思いがまだたくさんあったが、それを敢えて胸にしまって出久を送り出すことを決めた。
その決断が実に尊いものであっても、言葉にしてしまったら出久の将来を狭めてしまいかねないから……。










…………そしてまだ外出が許可されていないので玄関先で、

「いい、お母さんを持ったな……」
「はい……」
「お師匠……どことなく、私の先代に似ているよ……」
「お母さんが……?」
「うん。髪型とか……」
「髪ですかぁ……」
「強い人って事さ!」

と、話している中で、

「それと、緑谷ガール」
「はい」
「色々と落ち着いたら爆豪少年達……ワン・フォー・オールの事情を知っているもの達と私のもとに来なさい。知ってしまった以上は話さないといけないからね」
「わかりました」
「それじゃ、また雄英高校で待っているよ」
「はい!」

二人は雄英での再会を誓ってその場で別れたのであった。


 
 

 
後書き
結構長く書いてしまいました。
引子にどんな言葉を言わせるか考えるのに大変でしたね。 
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