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ロックマンX~Vermilion Warrior~

作者:setuna
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第117話:RUIN STAGE Ⅳ

オメガを何とか撃破したエックスとゼロは壁に背を預けながら荒い息を吐いていた。

「な、何とか勝てたな…」

「ああ、だが正直この結果は情けないな。いくらシグマ以上の怪物とは言え、本命の前にお前はファルコンアーマーとガイアアーマーを失って、俺はシールドとロッドを失った…」

勝利と引き換えに失った物は決して安くない。

ダメージやエネルギーは回復させてもらえるが、流石に破壊されたアーマーや武器までは直してはもらえないようだ。

「(…この回復がなければこのオメガとの戦いで死んでるんだろうな…)」

エックスは苦笑しながら治癒されている体を見つめる。

ルインの気まぐれなのかは分からないが、この回復があったからこそオメガを倒せたと言っても過言ではない。

「(ルインはオメガを自分の分身と言っていたな…つまりルインはオメガよりも強いと言うことか…一度ハンターベースに戻ると言う手もあるが、そうすればルインは何をするか分からん)」

つまりこのまま進むしかないわけだ。

しかしエックスはアルティメットアーマーが残っているし、ゼロはセイバーとバスターショットが残っているので戦闘の支障はあまりないだろう。

「行こうゼロ。ルインを助けるために」

「ああ、そして何度も勝手なことをしたことをきつく説教してやらないとな」

「…………」

「何だエックス?」

ゼロの言葉に思わず苦笑してしまったエックスは悪くないはずだ。

何せゼロはハンターの中では独断行動がかなり多い方で逆にルインは余程のことがない限り独断行動は極力控えている方なのだ。

「何でもないよ。さあ、行こうゼロ」

「…釈然としないが…そうだな」

回復を終えたエックス達は次のステージに向かい、襲い掛かるイレギュラーの攻撃を跳ね除けながら前進していく。

消える足場をゼロは空円舞を使って移動し、エックスはアルティメットアーマーによるブースター飛行で向こう岸に到着して奥へ向かう。

「ゼロ……感じるか?」

「ああ、オメガよりも凄まじい…当たって欲しくない予想だけは当たりやがる…」

苦々しげに呟くゼロにエックスと思わず拳を握り締めた。

正直オメガの強さも桁外れだったが、ルインから感じるエネルギー反応や威圧感はそれを凌駕している。

それでも退くことは出来ない。

ここで退いたら入り口付近のトラップにやられそうになった時、残りの意識を使って自分達を助けてくれた自分達が知るルインに申し訳ない。

深呼吸をして奥に進むと、見覚えのあるカプセルなどのホログラムがある部屋にルインが佇んでいた。

「良く来たなエックス、ゼロ」

「ルイン……君を連れ戻しに来た。」

「イレギュラーの人格にはさっさと消えてもらってな」

「ふふふ、少し前まで腑抜けていた奴が良く言う…だが、シグマとオメガとの戦いを潜り抜けたことでお前達は確かに強くなった。これなら私も本気を出して良さそうだ。知っての通りこの空間は私がウィルスの具現化能力を使って創り出した。その気になればオメガを復活させることも容易い…が」

ホルスターからアルティメットセイバーを抜き放ち、光刃を発現させる。

「それでは何の意味もない。自分の手でエックスを破壊しなければ本当の意味で使命を達成したことにはならんし、それにもう1人のゼロをこの手で破壊出来る千載一遇のチャンスを逃すような馬鹿はしない」

「そうか、やはり俺と言うべきか。理解したくないが、俺もお前の立場ならそんな馬鹿はやらん」

何となくだが、ルインの思考を理解出来るゼロ。

自分もまた何かの目的を達成するなら自分の手でカタを着けたいと思うからだ。

「………君を倒して…俺達の知るルインを取り戻す!!プラズマチャージショット!!」

「アースクラッシュ!!」

エックスの放ったプラズマチャージショットをアースクラッシュで相殺し、セイバーを構えてゼロに突進する。

「はあっ!!」

油断なくセイバーを構えていたゼロはルインにセイバーを振るって彼女のセイバーを受け止める。

「ほう、以前より遥かに重みがある。どうやら吹っ切れたようだな、剣に迷いがない」

「イレギュラーに褒められても嬉しくも何ともない…なっ!!」

強引にルインを弾き飛ばすと、トライサンダーをセイバーに纏わせる。

「電刃!!」

「おっと!!」

ギリギリでゼロの跳躍斬りと電撃をかわし、ルインは上空のゼロにバスターショットを向けた。

「隙だらけだぞゼロ!!」

「貴様がな!!」

「何…?むっ!?」

ゼロの言葉に目を見開くルインだが、その理由を即座に理解した。

いつの間にかエックスがルインの懐に入り、バスターブレードを構えていた。

「チャージブレード!!」

「チッ!!」

チャージブレードをセイバーで受け止めるルインだが、ゼロは炎を纏わせたセイバーを下に構えて落下してくる。

「断地炎!!」

「っ!!」

彼女のボディが灼熱の業火に焼かれるが、しかしルインは呻くこともせずにエックスを弾き飛ばしてゼロにショットの連射をしてゼロとの距離を離す。

「……良いぞ、シグマとオメガとの戦いを経て貴様らは予想以上に私の力に限りなく近付いた。やはり戦いはレベルがある程度近い相手でないと面白くない。そうは思わないかエックス?」

「俺はそんなことはどうでもいい。君の中で眠るルインの意識を起こして彼女を取り戻す。ただそれだけだ」

「やれやれ、付き合いの悪い堅物め」

エックスの言葉に対して呆れたように溜め息を吐きながら言うルイン。

「行くぞ!!」

再びルインに向けてプラズマチャージショットを放つエックス。

それに対してルインは掌にエネルギーを発生させてそれを片手で受け止める。

プラズマチャージショットの特性は知っているため、素手で防ぐことはしなかったが、エックスにとってそれは予想の範囲。

「喰らえ!!」

バスターショットから放たれるゼロのチャージショットだが、ルインは余った片手でそれも受け止める。

「もう1発だ!!これは防げないだろう!!」

両手が塞がっている今ならと、ストックしておいたもう1発のチャージショットを放つが、それを見たルインは嘲笑を浮かべる。

「甘いな、クロスチャージショット」

「なっ!?」

何とルインは両腕に力を込めて受け止めていた2つのショットを押し返した。

しかもただ押し返しただけではない。

押し返したショットを合体させ、強大な一撃としてエックス達に返してやった。

「ぐああああ!!!」

「うわああああ!!!」

まともにクロスチャージショットを受けてしまったエックスとゼロ。

しかもプラズマチャージショットの特性を引き継いでいるのかプラズマによる追加ダメージをエックスとゼロに与えていく。

「利用出来る物は例え敵の攻撃だろうと何でも使う。これは戦いにおける基本だろう?」

「チッ…」

「くっ…」

舌打ちしながら立ち上がるゼロと悔しげに立ち上がるエックス。

やはりルインは強い。

ある意味彼女はゼロとルインの戦闘センスを併せ持ち、様々な工夫をして攻撃をしてくる。

「小賢しい手は私には通用しない。来るなら真っ向から来るんだな。」

豪語し胸を張ると、ルインはエックスとゼロを鋭く睨み据えた。

「…なら!!」

エックスはバスターを構えながらダッシュでルインに接近する。

「至近距離でバスターを喰らわせるつもりか?チャージもしていない攻撃など避けるまでも…」

ダッシュで間合いを詰めてショットを放つのはエックスが多用する戦術の1つであり、剣術における居合いに似ている。

しかしバスターのチャージがされている様子もないために、ルインが余裕を持って言うと…。

「プラズマチャージショット!!」

「なっ!?」

チャージなしでプラズマチャージショットが放たれ、完全に虚を突かれたルインはまともに喰らってしまい、プラズマの追加ダメージも受ける。

「もっと喰らわせてやる!!」

絶え間なくプラズマチャージショットを連発するエックスにルインは為す術なく攻撃を受けてしまう。

「(ど、どうなっている…?パワーアップパーツを使った様子はないと言うのに。なのに何故チャージなしで放てる!?)」

「(上手くいった…!!レイジングエクスチャージを部分的に発動させることを!!)」

レイジングエクスチャージをバスターにのみ発動させることでチャージ時間もなしにプラズマチャージショットを放てるようになった。

おまけにレイジングエクスチャージの恩恵の1つなのかアルティメットバスターのような発射後の次の発射までの僅かなタイムラグもない。

「ぐ…おおお…!!」

レイジングエクスチャージでバスター性能を極限まで高めた今のアルティメットアーマーはガイアアーマー以上のバスター性能を誇るため、流石のルインも表情を歪めた。

「ノヴァストライク!!」

怯んだ隙にエックスがレイジングエクスチャージを解除し、ルインにノヴァストライクを叩き込み。

「滅閃光!!」

それと同時にゼロが滅閃光を繰り出してルインに直撃させた。

「ぐっ……!!」

ノヴァストライクと滅閃光の同時攻撃にはルインも吹き飛ばされてしまう。

「(やった…か?)」

いくらオメガより強かろうと彼女は標準の人型レプリロイドだ。

流石にあの超巨体のオメガ程の防御力はないと思いたいが…エックスの望みを裏切るかのようにルインはゆっくりと起き上がりながら微笑を浮かべた。

「ク…ククク…今のは良い攻撃だった。中々器用だなエックス。レイジングエクスチャージを部分的に発動することで負担を最小限に抑えつつ攻撃性能を極限まで高めるとは…お前も能力強化を使うなら私も遠慮なく使うとするかな?オーバードライブ…これはゼロにもない私だけの能力だな」

紅いオーラを纏ってエックスとゼロを睨み据えるルインに対してエックス達は油断なく構えた。

オーバードライブは発動中はルインの戦闘力を2倍にまで高める能力強化技。

しかもオーバードライブにはレイジングエクスチャージ程の甚大な負担がない。

いよいよ彼女が本気になってきたのをエックスとゼロは肌で感じた。

オーバードライブの紅いオーラを纏いなからルインは戦いの呼吸を取った。

「……さて、エックス…ゼロ。第2ラウンドと行こうか?」

そう言った直後にルインの姿が掻き消えた。

「っ!!」

悪寒を感じたエックスはブレードを構えるとルインのセイバーを受け止めた。

「この速度に反応するとは、やるなエックス!!」

受け止められたと言うのに嬉々としてセイバーを振るうルイン。

「ぐっ…くっ…!!」

ルインの剣撃を必死にブレードで受け止めるエックス。

部分的なレイジングエクスチャージで腕力とブレードの出力を上げていると言うのに防ぐので手一杯だ。

「エックス!!」

援護しようと滅閃光のエネルギーを纏わせた拳で殴り掛かるが、ルインはそれを片手で受け止めるとそのままエックスに叩き付けた。

「ぐあっ!?」

「うぐっ!!」

「ダブルアースクラッシュ!!」

追撃のダブルアースクラッシュを繰り出し、エックスとゼロに同時にダメージを与える。

「乱舞っ!!!!」

セイバーを構えて一気に距離を詰めるとゼロを凄まじい速度で繰り出す連撃で斬り刻む。

「ぐああああ!!!」

「はあああ!!アークブレードッ!!!」

最後の龍炎刃から繋げて繰り出されるアークブレード。

氷属性の衝撃波を数発まともに受けたゼロの体の所々が凍結する。

「ゼロ!!プラズマチャージショット!!」

「真空刃!!」

ゼロを助けるためにプラズマチャージショットを放つが、何時もは主にダブルチャージショットとの連携で繰り出される電撃を纏う衝撃波を放ってプラズマチャージショットを相殺。

もう1本のアルティメットセイバーを抜いて二刀流となると真空刃を交互に連続で繰り出す。

「くっ!!ギガブレード!!」

無数の衝撃波をギガアタックの衝撃波で粉砕するが、ルインはセイバーを構えて接近していた。

「それを待っていたぞ!!ダブルチャージセイバーを喰らえ!!」

「ぐあ…っ!!?」

ダブルチャージショットのセイバー版とも言うべきダブルチャージセイバーをギガアタック発動直後と言うこともあってまともに受けたエックスは吹き飛ばされる。

「これもまたあっちのゼロでは出来ないことだな。」

「(くっ…何て強さなんだ…)」

良く良く考えてみればルインはイレギュラー化前からハンター入隊試験の際にゼロ同様、一発で特A級ハンターとなる程の成績を叩き出し、以降は優秀なハンターとしてイレギュラーと戦い続けて来てレベルアップをしてきたのである。

そのルインにゼロの戦闘センスが加われば鬼に金棒と言っても過言ではない強さとなるのは至極当然だ。

「どうしたエックス?私を倒してルインを連れ戻すんだろう?なら、さっさと起き上がるんだな!!」

嘲笑を浮かべながらバスターショットから放たれるセミチャージショットの嵐。

「プラズマチャージショット!!」

セミチャージショットの嵐にプラズマチャージショットで穴を開けると、エックスは全身にエネルギーを纏って突進した。

「ノヴァストライク!!」

「滅閃光!!」

対するルインは滅閃光を繰り出して衝撃波とエネルギー弾でノヴァストライクの軌道を上にずらす。

「龍炎…」

「疾風!!」

「うぐっ!!?」

上空のエックスに龍炎刃を繰り出そうとした時、ゼロが分身を飛ばしてルインに直撃させるとオーラを纏う。

「双幻夢!!」

オーラを纏った状態でセイバーを構えて突撃し、ルインに斬り掛かる。

「己…」

「三日月斬!!」

衝撃波を纏った回転斬りを繰り出してきたので、ルインはセイバーで受け止めるが…。

「!?」

受けたのは一撃…のはずだが、数撃受けたような感覚に目を見開く。

「飛水翔!!」

特殊ジェルのバリアを纏った体当たりを喰らわせる。

これもまた一撃にも関わらず数撃受けたようなダメージを与える。

「これは……なるほど、半実体の残像か。ゼロの動きを模倣して相手に追加ダメージを与える技か」

「(もうこの技の性質を見破りやがった…)」

ルインの好戦的でありながら即座に技の性質を見抜く観察眼に思わず舌打ちするゼロ。

「その手の技はあまり長続きはしない。エックスのソウルボディのようにな!!」

距離を取り、ゼロに向けてアースクラッシュを繰り出す。

「くそ!!」

空円舞でアースクラッシュをかわすがルインはそれを待っていた。

「墜ちろ!!」

跳躍し、アースクラッシュのエネルギーを纏わせた拳でゼロの顎に強烈なアッパーカットを叩き込む。

その威力は凄まじく、ゼロを勢いよく吹き飛ばした。

「ゼロ!!」

「次はお前だエックス!!」

「くっ、うおおおおお!!!」

「はああああ!!!」

エックスのチャージブレードとルインのチャージセイバーが激突し、あまりの出力に広範囲に放電現象が起きる。

「うっ…く…」

アースクラッシュの拳をまともに受けたゼロは仰向けになって倒れ、意識が朦朧としている。

あまりの衝撃で電子頭脳が揺さぶられてしまったのだろう。

意識を失う寸前に声が聞こえた。

『やれやれ、わしの最高傑作があんな訳の分からない小娘にやられおって』

「(誰…だ…?)」

何時もの夢に出てくる老人の声だが、意識が朦朧としているゼロには理解出来ない。

『本来のお前と力を解放しろ、そうすればあのような小娘など容易く叩き潰せるわ』

「(止め…ろ…俺は…)」

ボロボロのゼロに老人の介入を抗える訳がなく、そうしてゼロの意識は途切れた。

「ん?」

エックスを蹴り飛ばしたルインはゼロのエネルギー反応の増大に気付くと振り返る。

「全てを…破壊…する…」

漆黒のアーマーと髪の色が元に戻るが、代わりに紅いオーラを身に纏ってゆっくりと起き上がる。

「覚醒したか…ゼロ!!」

「あ、あれが…ゼロ…なのか…?」

ゼロの様子にルインは微笑み、エックスはゼロの変わりように目を見開いた。

データの反応は自分の知るゼロと変わらないが、今のゼロは今までのゼロにはなかった邪悪さを感じさせた。

「全てをゼロにするために…」

開いた目は何時もの蒼ではなく血を思わせる紅であり、今のルインと同等の悪を感じさせるゼロはルインを見据えると微笑んだ。

「随分と舐めた真似をしてくれたな。倍にして返してやろう」

「ほう?どうやってだ?」

ゼロの微笑みながらの言葉にルインもまた微笑みながら返した。

「こうやって…だっ!!」

拳を握り締め、一瞬でルインの眼前に現れるとゼロの拳がルインの顔面に突き刺さり、それによりルインは勢い良く吹き飛ばされてしまう。

「は、速い!?」

あのルインが全く反応出来ずに殴られ、吹き飛ばされてしまったことにエックスは目を見開いた。

「飛燕脚!!」

エアダッシュで吹き飛んでいるルインを先回りし、その背中に強烈な蹴りを叩き込んで床に叩き付けた。

床に数回バウンドし、ようやく止まった。

「まだ終わらん!!真月輪!!電刃零!!」

使えないはずのZバスターから巨大な光輪を発射し、次にセイバーを振るって強烈な電撃を纏った衝撃波を放って来た。

「ダブルチャージウェーブ!!」

ルインもまたダブルチャージウェーブを繰り出して真月輪と電刃零を相殺しようとするが。

「無駄だ」

「っ!!」

ダブルチャージショットと真空刃の衝撃波は真月輪と電刃零に力負けした。

「チッ」

舌打ちするとルインはそれを防御するが、あまりの威力に腕が痺れた。

「真・滅閃光!!」

「裂光覇!!」

ゼロが滅閃光の強化版である真・滅閃光を繰り出し、ルインは裂光覇を繰り出す。

滅閃光を遥かに上回る威力が激突し、凄まじい衝撃が発生して周囲を吹き飛ばす。

「だああああっ!!!」

「はああああっ!!!」

真・滅閃光のエネルギーを纏わせた拳と裂光覇のエネルギーを纏わせた拳が何度もぶつかり合う。

「だあっ!!」

「ふん…真・滅閃光!!!」

渾身の一撃を喰らわせようとするが、ゼロは屈んでそれをかわし、真・滅閃光を直撃させた。

衝撃波とエネルギー弾をまともに受けたルインは上空に打ち上げられる。

「喰らえっ!!」

真月輪2発と電刃零の次にチャージショットを乱射し、ルインに直撃させるとまともに受けたルインは床に落下するが、ゆっくりと起き上がった。

「まだ起き上がれるか、そうでなくてはな!!」

「ふんっ!!」

同時に駆け出し、打撃による乱打戦に持ち込む。

しかしスピードもパワーもゼロが上回っており、拮抗はあっさりと崩れてゼロはルインに拳と蹴りを何度も叩き込む。

「フハハハ…!!ハァーッハッハッハッハ!!」

「ルイン……!!ゼロ…!!」

このままではルインがゼロに殺されてしまうと思って立ち上がったエックスだが、ある異常に気付いた。

「(これは…ルインのエネルギー反応が…減るどころか増している…?)」

普通なら有り得ない話だ。

ルインは普通なら何度も死んでいるような攻撃をその身に受けていると言うのに減るどころか増しているのだ。

そして離れた場所でこの戦いを見る存在はゼロの戦いぶりに興奮していた。

『ぬははははは!!!良いぞ!!良いぞゼロ!!さっさとその訳の分からん小娘など片付けてしまえい!!そしてそこのロックマンの後継機を破壊し、わしの偉大さを世界に知らしめるのじゃ!!!』

『ワイリーよ』

『ぬう!?貴様は…ライトか!?』

『久しぶり…と言うべきかのう?まさかサーゲスだけでなくわしのようなプログラム体にもなっておるとはな』

ライト博士の登場にワイリーは一瞬目を見開くが、すぐに嘲笑を浮かべた。

『久しぶりじゃなライトよ。まさか息子の最期を見守りにでも来たか?』

『………ワイリーよ、覚醒し、本来の性能を引き出したゼロはルインに勝てると思うかね?』

その問いに答えずに険しい表情でゼロとルインの戦いを見つめるライト博士は隣のワイリーに問い掛ける。

『?』

一瞬ライト博士の言葉の意味が分からず、目を見開くワイリーだったが、次の瞬間には大笑した。

『ふはははははは!!ライトよ、あれを見てどちらが優勢なのか分からんのか!?あのルインとか言うゼロを騙る小娘など全く相手になっとらんわい!!』

ワイリーの言葉通り、ルインはゼロの攻撃を受け続けているがライト博士の表情は険しいままだ。

「これで終わりだ!!」

ふらついているルインに真・滅閃光のエネルギーを纏わせた拳をルインの顔面に向けて振るうが、ルインのヘッドパーツのクリスタル部分に“Ω”の文字が浮かび、口の端を歪ませてそれを容易く片手で受け止めてしまった。

「何…!?」

『な、何じゃとおっ!?』

目を見開くゼロとワイリー。

ライト博士は嫌な予感が的中してしまったと冷や汗をかいてしまう。

「これだけか?」

「何…!?」

「これだけかと聞いているんだが?この言葉の意味が分からないのなら…覚醒したのは良いが、知能は仮の人格の方よりも下回ってしまったんじゃないのか?」

嘲笑と共に叩き付けられた言葉にゼロは屈辱に顔を歪めると更に拳にエネルギーを収束させた。

「これを防いだ程度で調子に乗るな!!」

「ハッ」

今度こそルインの頭蓋を砕こうと殴り掛かるゼロだが、彼女は屈んでかわし、裂光覇のエネルギーを収束させた拳をゼロの腹部にめり込ませた。

「ごはあっ!?」

「ダブルアースクラッシュ!!」

アースクラッシュのエネルギーを込めた両拳をゼロに叩き付けて吹き飛ばす。

それを見たワイリーが驚愕で目を見開く。

『な…まさか、この短時間で…ゼ、ゼロの性能を上回ったとでも言うのか…!?』

『やはり今の彼女にも搭載されておったか、自己進化システム・ラーニングシステムが!!』

それを聞いたワイリーが目を更に見開いた。

『ラーニングシステムじゃと!?あの進化速度…現在世に出ている粗悪品とは比べ物にならん…伊達にわしの息子の名を騙ってはいないと言うことか…ならばゼロ!!お前もラーニングシステムの稼働率を限界まで上げるんじゃ!!そうすればあのような小娘に…』

『止めるんじゃワイリー!!ルイン相手にそれは悪手じゃ!!』

『黙れライト!!わしの最高傑作、ゼロは無敵じゃ!!』

ゼロのヘッドパーツのクリスタル部分に“W”の文字が浮かび上がる。

「ふん、ラーニングシステム…追い詰められてようやく本気か…まあいい、掛かって来い。私を楽しませるために精々足掻くんだな!!」

挑発するように指を動かしながら言うルインにゼロは歯噛みした。

「俺を挑発したことを後悔するなよ!!」

再び真月輪と電刃零を繰り出すゼロに対してルインも余裕の笑みを浮かべながらダブルチャージウェーブを繰り出した。

今度は力負けしたのはゼロの方だった。

「なっ!?」

「どうしたゼロ?さっきまでの余裕はどこに消えたんだ?これならまだ仮の人格との戦いの方が楽しかったな」

「黙れ!!」

2人は再び肉弾戦を開始する。

ゼロとルインの拳と蹴りがぶつかり合い、衝撃を撒き散らす。

ラーニングシステムでゼロはルインの動きを学習し、性能を高めていくが…。

「残念だったな、進化の速度は私の方がお前より上のようだ」

「うぐっ!!ぐあっ!!」

しかしルインの成長速度はゼロを上回り、ゼロに拳のラッシュを叩き込み、側頭部に回し蹴りを繰り出して吹き飛ばした。

それを見ていたワイリーは目を見開くしかなかった。

『ば、馬鹿な…確かにゼロはラーニングシステムの稼働率を最大まで上げているというのに…』

『当然じゃよ、謂わばルインはエックスとゼロの力を持っているような存在なんじゃからな』

『エックスとゼロの力を…じゃと?』

ライト博士の言葉に怪訝そうに見遣るワイリーにライト博士はルインの細かい事情を省いて説明する。

『ワイリーよ、わしがエックスに人と同じように悩む機能と完全な人の心を与えたことでエックスに成長する力を与えたのは知っておるな?』

『当然じゃ、かつてはダブルギアシステムの搭載も視野に入れていたが、エックスのその未知数の成長の対抗策のために確実性を求めてゼロに自己進化システムのラーニングシステムを搭載したんじゃからな』

『もし、ルインにもエックスと同じように成長する力があると言ったら…どうする?』

『何?』

『詳しいことは話せんが、ルインはわしらと同じように元々人間なんじゃ、人間を素体にしたレプリロイドのためにエックス同様に成長する力を持つ』

それを聞いたワイリーの表情は更に険しくなった。

天才を自称するだけあり、それを聞いただけで全てを察したようだ。

ゼロの劣勢、ルインの異常な成長速度の理由が。

『なるほど、あの小娘の異常な成長速度の秘密が分かったわい。エックスの未知数の成長とゼロの自己進化を併せ持つ…それがあの小娘の正体か』

『そういうことじゃな。いくらゼロでも成長速度では今のルインには勝てん。』

『ぬうう、認めん!!わしは認めんぞおおおおおっ!!ゼロはわしが全てを注ぎ込んで造った最高傑作じゃ!!あんな小娘に負けはせんわっ!!!!』

『(ああ、ワイリーの悪い癖がまた出たわい)』

こういう風に追い詰められて頭に血が上ると暴走状態になるのは何年経っても変わらない。

「フッハハハハハハッ!!!」

「ぐっ!!なら、こいつを受けてみろ!!」

「ん?」

一方的に殴られていたゼロがルインから距離を取ってセイバーを大上段に構えた。

「幻夢零!!!」

セイバーにゼロの全エネルギーを収束させた一撃は勢い良く放たれ、ルインに向かっていく。

これをまともに受ければそこらのレプリロイドなど一瞬で消滅してしまうだろう。

「裂光覇!!!」

しかし、それに対してルインは嘲笑いながら裂光覇を繰り出した。

それも拡散させるのではなく自身の周囲に展開して自身の盾代わりにすることで衝撃波は光の柱によって受け流されてしまう。

「なっ…!?」

自身の最高の技があっさりと防がれたことにゼロは目を見開く。

「確かにその幻夢零の威力は凄まじい。まともに受ければいくら私でもただでは済まんだろうな。だがな、私は貴様なんだ!!予備動作でどういう技なのかくらいバレバレなんだよ!!技の性質さえ分かればどんな技でも防御など容易いわ!!…これが本当の人格か…戦ってみるとやはり理性的な仮の人格の方が強いな…所詮は今まで眠っていたような奴か……もういい…飽きた…消えろ」

再び距離を詰め、打撃のラッシュをゼロに叩き込む。

ゼロ以上の成長速度を持つルインには流石のゼロもどうにも出来ない。

「あ…っ」

「終わりだ」

拳にエネルギーを纏わせ、チャージナックルを繰り出そうとするルインだが、拳を振るわれる前にゼロの顔に液体がかかる。

「!?(こ、これは…!?)」

顔に掛かった液体にゼロは目を見開き、ルインの顔を見ると…彼女の目には…。

「(涙…だと…?)」

笑っているはずの彼女の目には涙が浮かんでいたのだあった。

『ごめん…ごめ…んな…さ…い…ゼロ』

「(っ!!?)」

電子頭脳に響いた声に気を取られて額にチャージナックルを受けて吹き飛ばされてしまう。

そしてヘッドパーツのクリスタル部分が破壊されてしまい、床に仰向けになって倒れた。

『ぬうう…ゼ、ゼロ…!!』

『今の声…彼女の…』

ゼロがやられたことにワイリーは膝をつき、ライトは自身にも聞こえた彼女の声に目を見開いた。

「ゼロ!!」

ここでようやくエックスがゼロに駆け寄り、何度か揺さぶるとゼロはゆっくりと目を開いた。

「…エックス」

「ゼロ、大丈夫か?」

「………ああ、全く…後輩に何度も助けられるとは先輩として本当に情けないな…またあいつに無理をさせてしまった…」

微笑みながらエックスに答えたゼロの目の色は禍々しい紅から澄んだ蒼に戻っていた。

『な、何じゃとおっ!?何故仮の人格が表面化して…』

『彼女のロボット破壊プログラムじゃな、あの時ルインは僅かだけ意識を取り戻し、自身のロボット破壊プログラムでゼロのロボット破壊プログラムとそれによって誕生した狂暴な人格を破壊したんじゃろう』

『な…何…?』

『わしは正直、お主やあの方が仮の人格と呼ぶゼロの方が本来のゼロの人格なのではないかと思っておった。そして本来の人格と呼ばれたゼロはロボット破壊プログラムによって歪んでしまった人格じゃと。何せゼロのあの真っ直ぐな心根、何があろうと自身の信じる道を突き進もうとする姿が若い頃のお主にそっくりじゃったのもあるがな。』

『……………』

『エックス、ゼロ…諦めるでないぞ……彼女もまた戦っておるのじゃからな』

立ち上がり、ルインと対峙するエックスとゼロを見つめながらライト博士は呟いたのであった。 
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