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ある晴れた日に

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203部分:思いも寄らぬこの喜びその二


思いも寄らぬこの喜びその二

「こういう時に誰かいると楽なんだな」
「そうだね。一人より二人ってことだね」
「そういうことだよな。やっぱりな」
「音橋君もそうじゃないの?」
 桐生は正道に話をやってきた。
「そうじゃないの?やっぱり」
「それを言ったらな」
 正道は首を少し揺らすように動かしながら述べた。
「俺もそうなるな」
「やっぱり」
「それで今来てくれたってわけか」
「そうなるかな。僕も緊張してるしね」
「お互いにってわけか」
「そういうことになるね」
 実は桐生もそうなのだ。だからそれから逃れる意味もあって正道に声をかけてきたのである。
「緊張に耐えられないってところがあって」
「誰かと話をすると気持ちが落ち着くってな」
「そう。だからね」
 それでなのだった。
「悪いけれど」
「別に悪かねえよ」
 正道はその桐生を受け入れるのだった。
「別にな」
「そうなの」
「俺も誰かと話そうと思っていたところだしな」
 ここでは少し嘘をついていた。
「いいタイミングだった」
「よかったの」
「今とにかく緊張したままだからな」
 正道は明日夢と凛だけでなく教室全体も見回していた。
「それでな」
「うん」
「御前最近頑張ってたな」
 今度は桐生に顔を戻していた。
「裏方の仕事。かなりな」
「僕はそんなに」
 しかし当の桐生は穏やかな顔でこう言葉を返すのだった。
「別に」
「頑張ってる奴程そう言うんだよ」
 だが正道はその彼にこう返した。
「逆にやってない奴程言うもんなんだよ」
「そんなものかな」
「それかあえて言わないと駄目な奴かな」
 彼はこうも言った。
「そういう奴もいるけれどな」
「あえて言わないと駄目って?」
「自分でそれを周りに伝えないと駄目だって思ってる奴だよ」
 彼は目をしばたかせて問うてきた桐生にさらに深く話した。
「例えば自分の功績が全く認められなかったことがあってな。それでそうしたことを周りに自分から言わないとそこにいられないって奴がな」
「そういう人もいるんだね」
「そういう奴が昔ツレにいたんだよ」
 語るその目が少し寂しそうなものになった。桐生はその目は黙って見ていた。この時はあえて何も言わず彼の話をじっと聞くのだった。
「中学の時な」
「どういう人だったの?」
「そいつはいつも真面目だったんだよ」
 彼は中学の時をその目に見ていた。この時は今は見ていなかった。
「真面目だった。必死に努力やっていたな」
「必死だったんだ」
「そうさ。勉強も何でもとにかく必死だった」
 彼はさらに話す。
「それでもな。結果が中々出なくて」
「結果はね。そうそうは出ない時もあるよね」
「そいつがそれだった」
 そういうことだったのだ。正道はそうした境遇の人間を見てきたのだ。
「クラスメイトどころか教師にも家族にもな」
「誰にも認められなかったの」
「誰もそいつを認めなかった」
 話を続ける。
「誰もな。けれどそいつは耐えた」
「耐えたんだ」
「一人で努力し続けたさ。それで結果が出た」
「よかったじゃない」
「それはな」
 限定だった。その限定にこそ正道が今言いたいことがあるのだった。
 
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