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魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。

作者:エギナ
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第一部
  第29話 新年魔法大会 【ショットダウン 其の五】

「———シッ‼︎」

朱乃ちゃんが一瞬で距離を詰め、足を振り上げる。そのまま踵を物凄いスピードで落とす。勿論、狙いは僕の頭一点。
確か、朱乃ちゃんは電磁気力を操る魔法を使う。磁力はそのまま使っても意味がなく、対象物に触れる事によって、自分の魔法に反応するマーカーをつける必要がある。だが、その状態で磁力を使うと、対象物は忽ち朱乃ちゃんが指定した所まで引き寄せられてしまう。そして、朱乃ちゃんに殺される。電気の力はそのまま使う事が出来るので、もしマーカーの設定をミスったとしても、雷以上の力に打たれ、死亡。

僕の死亡パターン出来たわ。
———勿論、回避パターンも。

まず、踵落としを避ける。そうする事でマーカーの設定は回避。磁器の力を使われる事は避ける。すると、朱乃ちゃんは電気の力で真っ先に僕を攻撃しに来る。なので、勿論それも避ける。そして、その動きを予測した朱乃ちゃんは“電気の力で僕を攻撃する事が出来なくなる”。

だから、僕が避けるべき攻撃は、この踵落としのみ。

「よっ、と! 朱乃ちゃん、ざんね……え」

避けた。しっかりと避けたのだが———僕が先程まで居た場所を中心として、地割れが広がっていた。
あ、そういやぁ。

「———外しましたか。次は……コロス」
「怪力娘‼︎‼︎」

朱乃ちゃんは橙条先輩と同じく怪力の持ち主だったわ。

だが、やる事は同じ。“わざと”横に向かって跳躍する予備動作を行う。勿論、朱乃ちゃんは反応して、僕が跳ぶ場所を予測する。そして、彼女は目を見開いた。

その後ろに、汐梨ちゃんが居たからである。

態勢を崩していない限り、僕は朱乃ちゃんの攻撃を必ず避ける。だから、僕が避けた所で朱乃ちゃんが攻撃したら、必ず汐梨ちゃんに当たる。なので、朱乃ちゃんは攻撃出来ない。

その思考の達した時、一秒にも満たないとても短い時間だが、朱乃ちゃんは硬直する。その間に、僕は朱乃ちゃんと距離を詰めて、拘束の為に再度糸を張る。今度は目で見えるタイプのモノ。手で糸を持ってグッと引っ張ると、勿論朱乃ちゃんは引っ張られて、前のめりになって転ぶ。最高に良い眺めだ。

さて、次。汐梨ちゃんかな。
でもまぁ、全員を相手する訳にもいかないからね。ここで終わらせる事にするよ。

「……今更だけど、全員相手って辛くないかな」
「そのくらいがちょうどいいでしょ? でもまぁ、流石に辛かったかなぁ?」
「その位が丁度良いと思うぞ。琴葉は優しいからのう」
「ボクも丁度いいと思いますよ!」
「そうだねぇ……じゃあ、終わったらご褒美あげる! 勝てたらだけどね」

はいきたー。僕はその言葉を待っていたー。

と言う事で、マジで本気出します。

糸をもう一度張り巡らせる。勿論、それは琴葉が言い終わって一秒経ってない時にね? 間違えた点としては、勢い余って琴葉の方まで糸を飛ばしちゃって、琴葉まで拘束しちゃったことかな! 選手の邪魔が出来ない琴葉は、拘束を解く事が出来ないから、現在糸で拘束されている。ヤヴァイかわええ。

「へっ⁉︎ ちょ、要! 早く解いてよ‼︎ 私、自分で解いちゃダメなんだけど⁉︎」
「後でやる拘束プレイの準備だよ! ご褒美くれるんでしょ⁉︎」
「好き勝手していい訳じゃないんですけど‼︎」

うん。琴葉は演技だとしても、何だかんだノってくれるからありがたい。

って事で、今のうちにコトハチャンを———

「同じ手が何度も通じると思ってないよね? 要くん」

と思った所で、再度糸を燃やされる。有り得ない筈だった事態に少し困惑。糸は切れないし、燃えない様にもした筈なのに。
琴葉は魔法や此の世の理さえも消滅させてしまう、トンデモナイ魔法を使えるため、この糸を僕が作った魔法ごと消滅させて、拘束を逃れてしまう。
だから、琴葉に敵わない事は分かっていたのだが、真冬くんのあの炎。一体、あれは何なのか。

「いやぁ、コレは自信作だったんだけどなぁ」
「僕の炎はありとあらゆるものを焼き尽くす。勿論、要くんの糸だってね」
「名前は冬とか雪なのに、蒼炎遣いとか、ね」
「ハハ、よく言われるよ」

真冬くんは上手く炎を遣って、剣を作る。アレに触れれば火傷では済まず、忽ち体は溶けてしまうだろう。つまり、朱乃ちゃんの魔法同様、触れたら死亡。
それを悟った他の副主任達とコトハチャンは、瞬時に空中へと逃げる。勿論僕もそうしたかった。
だが、逃げようとしたタイミングで真冬くんが攻撃を仕掛けて来た訳で。上に跳ぼうとしていたのを中断して、後ろに跳ぼうとするが、見事足がもつれてしまい、転倒。ブンッと勢い良く炎の剣が眼前を通過し、髪の毛がジリッと焼ける音がした。
今の感じからすると、剣の軌道は斜め。掠ったのが右側の少しだけだったから。あ、嫌な予感がしてきた。

ゆっくりと右側を向くと、そこは案の定———溶岩に近いドロドロとしたモノが広がる地に変化していた。

「えぇぇぇええええええええ⁉︎⁉︎」
「……次は当てるよ。要くん」

上を見ると、にっこりと笑みを浮かべた鬼、真冬くんが、また剣を振り上げていた。こりゃ死ぬわマジで。

勢いを殺しきれなかった攻撃は、そのまま僕から一メートル程離れた地面に激突。熱さによって地面は溶け、まず剣が刺さった部分が一瞬で溶ける。その後、剣が纏う非常に熱い空気が地面を焦がし、そして溶ける。という流れで、フィールドの半分が崩壊した。
勿論、その流れで行ったら選手席だって、客席だって溶ける。客席に人が居なくて、映像があるだけだったから良かったもの、客が居たら間違えなく死んでいた。だけど、客は居ないし、それに琴葉ちゃんが客席とフィールドの間に膜を張っている。なので、席が溶ける事は無い。

追撃から逃れる為に、今度こそ上に飛ぶ。今回はもう跳躍する事は出来ない状態でのスタートだったので、仕方なく魔法を使って空に浮く。

僕は魔法による空中浮遊が嫌いだ。何故なら、同時に魔法を発動する事が出来る上限が決まっているため、出来るだけ枠を使いたく無いからだ。
魔法を同時発動出来る上限は人によって異なる。どれだけ鍛錬を積んだかによって、段々と増えていくからだ。一般では五が限界と知られている———が、大抵の人は同時発動は出来ない。
因みに僕は五だ。だが、この第一魔法刑務所にとっては五は通常レベル。さっき相手をしていた朱乃ちゃんは七、今相手をしている真冬くんは九。主任まで行くと、橙条主任、青藍主任が三十、神白主任が五十、琴葉が計測不能———琴葉が使えると宣言した全魔法を発動しても上限に達しなかったため———とまで跳ね上がってしまう。あの四人、特に琴葉は論外だから放っておいて、とにかく同時発動出来る魔法に上限がある。

僕は空中浮遊の魔法で一枠使うと、常に残り四枠の中で戦う必要が出て来る。拘束の為に使う糸は、糸の伸縮を操る魔法と、糸の強度、性質を固定する魔法と、ダメージを喰らった部分の修復をする魔法の、三種の魔法に因って成り立っている為、糸を使ってしまった場合、枠が一つしか残らなくなる。
枠の余りが一つしか無いと、その事を意識しながら戦わないといけないため判断が遅くなる、カウンターが出来なくなる等のデメリットがある。だから、出来るだけ枠は空けておきたいのだ。

現在使用している枠は一枠のみ。真冬くんに糸が通じない事は分かった。それに、僕より高い位置に居る他の副主任達が攻撃を仕掛けて来そうな気配は無い。糸の魔法を使う必要は無いため、残り四枠は自由に使える。
さて、どう戦おうか。

「真冬くん真冬くん。君の炎って、水とか風で消せる?」
「消せないよ。少なくとも、僕達レベルじゃね。黒華主任とか、青藍主任なら、一瞬で消しちゃうかもしれないけど」
「へぇ。つまり、琴葉レベルの魔法を使えばいい、と。了解」

僕は見たものを覚えるのが得意だ。だから勿論、琴葉の魔法だって、全部覚えている。ずっと喰らってきたから、加減して居ない時の威力だって分かる。

他人の魔法を再現する事は基本的に不可能である。魔法師によって魔法の性質や魔法発動時に出した力、イメージの力等が大きく異なるからである。
その中で、他人の魔法を忠実に再現する方法が一つだけある。それは、イメージの力が強い者しか出来ない方法。

琴葉が放った水の魔法の少しを異空間に転送する事で、ずっと溜めてきたモノを一気に召喚する。その量は、先程汐梨ちゃんが出した水の量を遥かに超えている。
それに琴葉ちゃんの最大限の力を込めるために、一点に凝縮。反発する力を糸で抑え込みつつ、残りの一枠で自分の力を全て水の魔法に込める。琴葉ちゃんの手加減無しの魔法をイメージしながら。
段々とその水は黒くなっていき、最終的に漆黒の球体と化す。これが、琴葉ちゃんの手加減無しの水魔法“黒波乱舞(ネグロオラバイラル)”。漆黒の波が龍の形を取って乱れ舞う魔法。

「これで———終わりだッ‼︎‼︎」

一気に水を解放。すると、水は龍の形を取って、真冬くんに襲い掛かる。勿論、真冬くんは龍に抵抗も出来ず、呆気なく飲み込まれる。フィールドの炎も全て飲み込まれ、煙が立ち上る。
龍はそのまま他の副主任を飲み込み、そのままコトハチャンの方へ。コトハチャンは咄嗟に防御の為に炎の盾を作るが、盾ごと龍に飲み込まれる。

魔法を切ると、龍は四散し、空から気を失った副主任達と、コトハチャンが降って来る。それを糸で受け止めて、地面に下ろしてから、僕はコトハチャンの前に立つ。そして、ゆっくりと糸で拘束し、そのまま締め付ける。グッと力を込めると、糸がその体を粉々にした。

「———試合終了ッ‼︎」

琴葉が高らかとそう叫ぶと、映像越しに僕達の戦いを見ていた客達が、おぉぉぉおおお‼︎と歓声を上げる。

……嬉しいんだけど、もう無理かなぁ。

視界が暗転し、重心が前に傾く。力の出し過ぎで、もう立っても居られない。
このまま硬いフィールドに頭ぶつけて意識とサヨナラするんだなぁと思っていたが、その前にふわりと良い香りがして、柔らかい感触があった。いつまで経っても頭が痛くならない。

「……お疲れ様、要。よく頑張ったね」

嗚呼、この声は。
不意に頭を撫でる様な感覚がして、気持ち良さにそのまま声の主に体を預ける。

「ご褒美ね」

頰に柔らかい感触。

そのあと、僕は意識を手放した。
 
 

 
後書き
【MI☆O☆Uの次回予告だぜッ!!】
「長い‼︎」
まぁ真面目回を終わらせたかったって言うのと、看守枠をこれ以上長引かせたくなかったらしいっスよ‼︎
「いつもの二話分じゃねェか。分けろよ」
次回予告考えるのが面倒くさいんだって‼︎ どうします⁉︎ 橙条センパイ‼︎
「大丈夫だ、次回からオレはここのレギュラーを外される。つまり本編での登場シーンがある」
いやぁったぁぁぁあああああああああ‼︎‼︎ 本編復活だぜぃ‼︎
「次回。『第30話 新年魔法大会【ショットダウン 其の六】』」
次回予告しまーっす‼︎
「遂に長い長い看守枠が終わり囚人枠へ行くかもしれないがまだ少しだけ看守のターンが続くぜ‼︎」
看守枠の結果発表もあるぜ‼︎
「看守枠が最早ラスボス戦みたいになったのはマジ謝罪。全然続くからな‼︎」
それじゃあ、次回もよろしくだぜ‼︎‼︎ 
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