ある晴れた日に

序曲その十七

「まあお店の名前が今一つ好きになれないけれど」
「そう？いい名前じゃない」
「センスを感じるわよね」
　凛と鈴華の言葉である。
「凄く強くて頼りになりそうで」
「しなやかで格好よさもあって」
「ホッシーランドとかならいいんだけれど」
　明日夢はここでも星を出すのであった。
「浜番長とか。どうかしら」
「弱くなりそうだから嫌だな」
　佐々もかなり酷いことを言う。
「何だよそれ、またベイスターズかよ」
「いいじゃない、ベイスターズでも」
「昨日も負けた癖によ」
　佐々はまた言うのだった。
「カープによ。ボロ負けだったよな」
「この前の巨人には勝ったからいいじゃない」
「一勝だろ？二勝もくれてやってるじゃねえかよ」
「せめて巨人には勝って欲しいよな」
「なあ」
　野茂と坂上もそれは言う。
「巨人に二敗もするなんてな」
「国賊だよ国賊」
「で、これで阪神に勝ったらよ」
「まあ俺達横浜には寛容だけれどな」
「ああ、それね」
　明日夢は彼等のその横浜に対して寛容であるという部分について言うのであった。
「それ何でなの？前から不思議に思っていたけれど」
「んっ！？巨人が嫌いだからだよ」
「それだけだよ」
「そうよね。他に理由なんてないわよね
「じゃあ少年他に理由必要？」
「そう言われると」
　静華と凛にまで言われてかえって言葉に詰まる明日夢であった。実は彼女も巨人に敗れるのは嫌だが阪神に敗れてもそれ程ではないのだ。
「それは別に」
「そういうことよ。まずは巨人」
「巨人にさえ勝てばいいのよ」
　二人の女の子の言葉は実に阪神ファンの考えをよく現わしているものであった。
「そういうことよ。だから」
「巨人にさえ勝ってくれたら」
「じゃあ今日は決まりだな」
　ここで佐々がまた出て来た。
「今日は皆俺の家に来い」
「猛虎堂ね」
「ああ、阪神が勝ったら割引やってるからよ」
「何割？」
「一割か二割だ」
　わりかし妥当な数字である。
「十点差か完封なら二割だからな」
「よし、じゃあ皆で」
「楽しくやるわよ」
　クラスのはじまりは賑やかで明るいものだった。誰もこの時は思いも寄らなかった。まさかあの様な事件が起こるとは。そして明るさが突然として暗さに変わってしまうことも。考えも寄らなかったのだった。


序曲　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００８・９・１３