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ロックマンX~Vermilion Warrior~

作者:setuna
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第103話:Laser Lab

ホタルニクスのレーザー研究所の前にハーネットカスタムを停めたルナは欧州の城のような外観を見つめた。

「久しぶりに来たけど…相変わらずいい趣味してんな爺さんの城。」

外観は素晴らしいが、城の中ではホタルニクスが侵入者除けとして配置したメカニロイドとプレスがあちこちにあり、この城にはホタルニクスに入城を許された者しか入ることが出来ない。

様々な仕掛けやメカニロイドは許されざる侵入者を頑なに拒んでいる。

「(ははっ、ウィルスの影響を受けてんだろうけど、はっきり言って影響を受ける前と大して変わんねえな)」

寧ろホタルニクスの頑固さがセキュリティシステムに乗り移ったかのように攻撃が熾烈だ。

すると、突如目の前にシグマウィルスがルナに迫る。

「マジで悪趣味なウィルスだな。てめえのツラなんてここまで来る途中に何度も見たからもう見飽きたぜ」

ウィルスバスターを装備したバレットでショットを数発放ってウィルスを破壊する。

中から強烈な邪気のようなものが発生させられており、恐らく内部はシグマウィルスが繁殖する温床となっているのだろう。

「待ってろよ爺さん!!今から俺があんたを助けに行くからな!!」

ショットを連射して門を強引に開けると研究所に入った。

迫り来るメカニロイドの軍勢を二丁のバレットを巧みに扱ってショットを乱射して潰し、プレスを回避しながら突き進む。

一方、レーザー研究所のホタルニクスの部屋では、薄れゆく意識の中で、ホタルニクスは何とか自制を保っていた。

二頭身の小柄なボディと短い手足の蛍型のレプリロイドと言うのはあまり品のあるデザインとは言えないが、それは科学者としては関係のないことだ。

実際彼は世界的に有名なレーザー工学者なのだから。
だが、それが今ではどうだ。

少し前から得体の知れないウィルスに感染してからというもの、自分は当然のこと、研究所全体が混沌の渦に飲み込まれている。

今頃セキュリティシステムは全て暴走し、動く物体を見境なく攻撃する物と化しているだろう。

「渡さぬ…このレーザー装置をあのイレギュラーハンターに渡すわけには…」

ホタルニクスは己の研究成果全てをイレギュラーハンターに渡さぬために死出の道連れにするつもりであった。

最初のシグマの反乱において、レプリフォースの協力を、名誉回復のチャンスを損ねると言ったつまらない目的で拒否してその活動を妨害した。

更にはその事実を隠蔽し、挙句にレプリフォース大戦ではレプリフォースの怒りを無視して徹底的に独立国の設立を妨げた。

もはや一部の人間至上主義の人類達の飼い犬となってしまった彼等に、果たして自分がレーザー工学技術を提供することは正しいと言えるだろうか?

…答えは否だ。

彼らは例えるなら制御を失った兵器でこの世で最も危惧すべき者達で、レプリロイドを影で脅かす極めて悪質な組織なのだ。

政府に認められている組織な分、下手をしたらイレギュラーよりも危険な存在であり、彼らにレーザー兵器を渡したら鬼に金棒だ。

ホタルニクスはもう、彼等を信用することは出来ないのだ。

いずれ増長したイレギュラーハンターはその強大な力を持って、レプリロイド全体を“管理”し始めることだろう。

自分がそんな事態の引き金となってはいけない。

寧ろレプリロイドの未来のために、あの組織は存在してはならないのだ。

ふと、モニターに目を遣ると、1人のレプリロイドがセキュリティシステムを無力化しながら突き進んでいた。

「イレギュラーハンター…?いや、あれは…」

最初はイレギュラーハンターかと思っていたが、次の瞬間目を見開いた。

「馬鹿な…あれは…」

本来ならここにいるはずのない…いや、来る理由もない彼女がこの研究所にいる。

「何故あの娘がここにいるんじゃ…」

研究のためにあの娘の扱う高性能のメカニロイドから得るジャンクパーツを求めて、客として訪れることが多々あり、今では自分の数少ない自分の苦悩を理解してくれる友人。

ホタルニクスはウィルスに蝕まれた体を必死に動かし、何とか音声を彼女に伝えようとするが、ウィルスの影響で全く作動しない。

今のモニターもウィルスの影響で誤作動しているに過ぎないのだ。

「くっ…こうなったらわしが直接向かうしか…」

ウィルスに蝕まれ、満足に動けない体でルナの元まで向かえる可能性はゼロに等しい。

下手をしたら途中でイレギュラー化してしまうかもしれない。

しかしそれでも、このままここで見ているなどホタルニクスに出来るはずがなかった。

「数少ない友人を…未来ある若者をこんな所で死なせるわけにはいかん……」

モニターを見遣るとルナがいる場所はシグマウィルスが大量に繁殖している場所だ。

そこに彼女は戸惑うことなく入っていく。

「なっ!?」

自殺行為だとホタルニクスが驚愕するが、シグマウィルスを浴びても全く彼女に変化はない。

寧ろ、驚愕しているのは実体化したシグマウィルスの方だ。

「馬鹿な…?我がウィルスを受けて…」

「残念だったなあ、ご自慢のウィルスが効かなくて……さっさとくたばれ害虫野郎」

実体化したウィルスにショットを当てるとウィルスは霧散し、消滅した。

「き、貴様…何者だ!!?」

自身のウィルスが全く効かないレプリロイドにさしものシグマ(厳密にはシグマの人格を持ったウィルス)も驚愕するしかない。

「俺かい?てめえに名乗る名はねえ…俺はただの通りすがりのジャンク屋さ。」

凄みのある笑みを浮かべながら高く跳躍すると二丁のバレットを回転させる。

「うおおおおおお!!!」

全方位に向けて凄まじい勢いで乱射されるショットにより、この場に繁殖していたシグマウィルスは尽く消滅した。

それをモニターで見ていたホタルニクスは安堵の溜め息を吐き、思い返してみれば、彼女はとある能力のおかげでウィルスが効かない体なのだ。

ウィルスの効かない体に興味を覚えたホタルニクスも彼女に調べさせてくれと頼んだが拒否された。

それに関してはホタルニクスも分かっている。

もし万が一、外部に漏れたりしたら悪用される危険性があるからだ。

ホタルニクスも自身の研究の悪用を恐れているために彼女の気持ちは理解出来た。

とにかく何とか音声を出そうとウィルスに蝕まれた体を叱咤し、機器の操作を再開した。

ウィルスとメカニロイドを蹴散らしながらしばらく走ると、機械の駆動音が聞こえた。

「もしかして爺さんか?」

そこにホタルニクスがいるのかと思い、壁を蹴りながら上に移動するとルナには見慣れないカプセルがあった。

「何だこりゃあ?爺さんの新開発か?新しいメカニロイドの転送カプセル?」

首を傾げながら、カプセルに近づくとカプセルが起動し、ライト博士のホログラムが現れた。

「うわ!?あ、あんた…まさかトーマス・ライト博士かい?」

科学史を僅かでも齧った事のある者ならばその名を知らぬ者はまずいない。

世界に名を馳せたロボット工学の父にして伝説の英雄ロックマンの製作者。

ライト博士は穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。

『君がルナ君かね?噂は聞いているよ。優秀な技術者だそうだね』

「お、ロボット工学の父とさえ言われたあんたにそう言われるとは技術者として光栄だな。それで、どうしてあんたが爺さんの研究所にいるんだ?」

『至極尤もな質問じゃな。1つ聞きたいのだが、君は簡易転送装置は持っているかね?』

「へ?ああ、一応持ってるけどさ」

『ならば、安心して渡すことが出来る。』

ルナにこのカプセルのパーツファイルに記録されたデータプログラムへの説明を始める。

『このパーツファイルに記録されておるのはエックスの強化アーマーであるファルコンアーマーのアームパーツじゃ』

「エックスの強化アーマー?ああ、あのいつもエックスが纏うアーマーのことか?」

最初の大戦のファーストアーマー。

カウンターハンター事件のセカンドアーマー。

ドップラーの反乱のサードアーマー。

そして今回の大戦でも使っているレプリフォース大戦で得たフォースアーマー。

「エックスのアームパーツ…つまりエックスのバスターをパワーアップさせる代物だな。こいつにはあのフォースアーマーのプラズマチャージショットをも上回る出力を誇るってのかい?正直あれ以上の出力を出すと機動性を損ねたり、発射後の硬直時間が長くなるぞ?」

『うむ、君の言う通りじゃ。セカンドアーマーもサードアーマーもバスターの威力と命中率を重視しすぎた結果、発射後の機動性を損なうという致命的な欠陥が出てしまったからのう。じゃが、ファルコンアーマーのアームパーツは装備してもバスターの出力はノーマル時と比べても特に変化はない。』

「へ?どういうことだよ?出力変化しないならパワーアップパーツの意味ねえじゃん。」

ファイルを見つめながら尋ねるルナにライト博士は説明してくれた。

『話は最後まで聞いて欲しい。優秀な技術者である君なら既に気付いているかもしれないが、実の所、エックスに与えたアーマーの中でも安定した力をバランス良く引き出し、発揮すると言う点ではフォースアーマーは1つの到達点に至っておるんじゃ。フォースアーマーのアームパーツも初期アーマー故にバランスが優れていたファーストアーマーのアームパーツを基にギリギリのバランスで調整しておる』

「じゃあそのアームパーツは出力変化がない代わりに何かバスターに特別な工夫を施してんのかい?」

『その通り、ファルコンアーマーは今までのアーマーと違い、局地戦向けに空戦での機動力に特化したアーマーじゃから、バスターの出力に関してはプラズマチャージショットどころか歴代のアーマーには及ばん。じゃがバスターに工夫を施し、エネルギーをより高い密度で一点集中させたスピアチャージショットの貫通力は、使いようによってはプラズマチャージショットを上回る威力を発揮する。」

「ああ、確かにライドアーマーとかの固い敵には威力より貫通性能を強化したそっちの方が強そうだよな」

『そしてエックスが所有するXブレードを解析し、バスターから高出力のビームスピアを発現させることが出来る。ブレードとスピアを連携させることで強力なソニックブームを繰り出すことが可能じゃ。しかし、ソニックブームは一定距離まで行くと消滅するから近~中距離の敵にしか使えん。どちらもプラズマチャージショットのように広範囲の敵を一気に殲滅することは出来ぬが、そこは用途に応じてフォースアーマーとファルコンアーマーを使い分けるようエックスには伝えて欲しい』

「OK、伝えておいてやるよ。それにしても凄えプログラムだなあ、ウィルスまみれじゃなきゃ今すぐこの場で解析したい!!」

無邪気に目を輝かせながらファイルを見つめるルナに微笑するとライト博士のホログラムは消えていく。

「さてと、じゃあ早く爺さんの元へ向かうとするかね」

そしてルナも踵を返すと目当てのレーザー装置を求め、研究所の中枢へ向けて走り出したのであった。

しばらく進むと螺旋階段に出たルナは天井からレーザー砲台、プリズムガーディアンが現れた。

赤の砲台が2体と黒の砲台が1体。

高出力のレーザーがルナに向けて放たれるが、それを容易く回避し、黒い砲台にバレットを向ける。

「弱点があからさま過ぎるっつーの!!」

リフレクトレーザーが黒い砲台に炸裂し、黒い砲台に狙いを定めてショットを連射した。

他にも黒い砲台を見つけ、ショットを叩き込みながら破壊し、ホタルニクスの元に向かう。

「やべえな、思ったより時間がかかっちまった」

プリズムガーディアンを沈黙させたルナは、その遅れを僅かでも取り戻そうと全力で走り出す。

ホタルニクスのいる部屋の前まで来たルナは扉を強引にこじ開けた。

「爺さん!!」

「ルナか…何をしに此処に来たのじゃ?」

「あのなあ!!今、地球にユーラシアが落ちようとしてんだ!!だからあんたを助けに来たんだよ!!」

「もう遅い…わしはウィルスに侵されてしまった。ありったけのワクチンプログラムを使ったことで今は鎮静化しておるが…。」

「じ、爺さん…」

「早く逃げるんじゃ…このままではわしはイレギュラー化して君を襲ってしまう……」

「駄目だ…エニグマの強化にあんたの造ったレーザー装置が必要なんだ…爺さん、あんたにこんなこと頼むなんて酷だってのは分かってる。レーザー装置をイレギュラーハンターに渡してくれないか?」

「君の頼みでもそれは出来ん。わしは彼らのやり方に常々疑問を感じていた。故に協力は出来ない」

「爺さん…頼むよ。この通りだ」

頭を下げる彼女にホタルニクスは問い掛ける。

「……何故そこまでイレギュラーハンターを助けようとする?武力でイレギュラーを討ち、それどころか本当のイレギュラーすら見抜けず、彼が造ったレプリロイドにも問題のあるレプリロイドがいたとは言えまともな調査もせずに無実のレプリロイドを勝手にイレギュラーと決めつけた挙げ句に自殺にまで追い込んだ最早一部の人間至上主義の飼い犬と化した彼らに」

「確かにそういう奴らもいるよな…悲しいけど。でも全てのイレギュラーハンターがそうって訳じゃないんだぜ爺さん。エックスやルインのように…力で押さえ付けるようなやり方に疑問を持ってる奴だっている…。俺はそんな奴らがイレギュラーハンターにいることに希望を見出だした。あいつらならきっとハンターのやり方を変えてくれるって信じる…」

「…………」

「ゲイトの奴も戦ってんだぜ!?この事態に必死に抗ってんだ。イレギュラーハンターのエックス達と一緒に!!」

「何と…彼が…?」

ゲイトまでこの事態に抗っていることに、しかも思うところがあるであろうイレギュラーハンターと共に挑んでいることに目を見開くホタルニクス。

そしてルナとホタルニクスの間に長い沈黙が続く。

2人の間の空気はリュートの弦の如くピンと張り詰め…どれだけの時が過ぎただろう。

「…そうか、彼…ゲイトまで…戦っておるのか……のう、ルナ……」

「?」

「イレギュラーハンターの存在意義とは、何かね?いや…それ以前に、イレギュラー化するという危険性を残したレプリロイドの存在が何故ここまで世界に広がったと思うかね?」

「え?」

「わしはこれまで、人類の大半はレプリロイドを利用するために生存させてきたのだと思っていた。イレギュラーハンターはそのために同胞を排除する悪質な組織だとそう思ってきた。しかし、どうやらそうではないらしい。少なくとも…彼くらいは…」

「彼…あんたの友人のDr.ケインか?」

「うむ…ケイン氏は多分…自分が愛情をこめて造り上げた“子供達”を…アルファや今のシグマ同様、失敗作のまま終わらせたくはなかったのだろう。それはそうだ…自分の子供達を失敗作扱いされるのは自分が負う痛みより辛い。彼は今でもイレギュラー化したアルファやシグマを大切に思っているはず。ケイン氏は子供達を救うために仕方なく、彼はイレギュラーハンターを組織したのだろう。それはレプリロイドにとっては迷惑以外の何物でもないのかもしれない。だがそうするより他に、レプリロイドが生き残る手段などなかったのかもしれん。しかしそれは親が子に向ける、彼なりの精一杯の愛情だった。それを否定する権利は誰にもないのかもしれん。少なくとも私はそう思う。そう信じたい」

「爺さん……」

「わしも少しだけ信じてみようと思う。わしのDNAデータを使いなさい。それを使えばそこの扉を開けることが出来る。その奥にあるレーザー装置…持って行きなさい。」

「サンキュー爺さん…あんたはどうするんだ?」

「わしは、この研究所を自爆させる。満足に動かせぬ体だが、研究所の動力炉を破壊することくらいは出来るじゃろう」

覚悟を決めた表情でルナを見つめ、何時もの頑固なホタルニクスとして言い切る。

「だ、駄目だ爺さん!!あんたも一緒に…」

「駄目じゃ、このままではわしは完全にイレギュラー化してしまう。そうなれば人々に危害を加えるじゃろう。それにここはシグマウィルスの温床と化しておる。完全に破壊しなければならん。」

「…爺さん……」

「さあ、行きなさいルナ…わしがわしのままでいられるうちに…」

慈愛に満ちた表情でホタルニクスは未来ある若者…ルナの背を押す。

「ありがとう…爺さん……忘れないよあんたのこと…ずっと…ずっと…」

「うむ…そのハンター達に世界の平和を任せたと伝えて欲しい」

そう言って、ルナはレーザー装置を回収すると即座に研究所を脱出した。

それを見届けたホタルニクスは研究所の動力室に入り、動力炉の前で佇む。

不思議なことにあれだけ自身を苛んでいたシグマウィルスの苦しみが消えていた。

「わしは幸せだったかもしれん……最期にあの娘に会えたことを…平和の夢を若者に託すことが出来た…。戦いを恐れ…研究に引きこもりがちだったわしが最期にこの世の役に立てた…ありがとう…ルナ…わしは、何時までも君を見守っておるぞ…今は機械にしか興味がなくとも、いずれ君も異性に恋し…その者と結ばれることになるじゃろう…あんな良い子なんじゃから…どうか、幸せにな…」

自身の動力炉にエネルギーを集中させる。

エネルギーが臨界点に到達し、ホタルニクスは自爆したが、最期の瞬間、本当に幸せそうに笑いながら生を終えた。 
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