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ロックマンX~Vermilion Warrior~

作者:setuna
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第98話:Enigma

エックス達がハンターベースに帰還してから数十分後。

この短い時間内に世界各地からイレギュラーハンター本部に寄せられるイレギュラーの発生件数はもはや数え切れぬほどである。

「シグナス、彼らの精密検査とハンターベースに戻ってきた初期症状のハンター達のシグマウィルス除去は完了したよ。エックス達は特に問題はない。他のハンター達はシグマウィルスに感染していたけど初期症状の者達は自我がある分治療は楽だった。最新型のシグマウィルス…死に損ないのシグマ同様、中々しぶとかったけど…この僕を屈服させる力はなかったね…最終的にシグマウィルスの抗体ウィルスで破壊してあげたよ」

その際、抗体ウィルスでシグマウィルスとは別のダメージを受けてハンター達から抗議を受けたが、ゲイトはどこ吹く風である。

どんなに痛くてもイレギュラー化して処分されるよりはマシだろうに。

そんなゲイトにエイリアとアイリスは顔を見合わせて苦笑した。

「ところでシグナス。俺達が精密検査を受けている間の各地の状況は一体どうなっている?」

精密検査を終えて戻ってくるなり、開口一番に問い掛けるのはゼロだった。

彼の腕は継ぎ足されてはいるが、バスターの変形機構を完全に失っている。

「知っての通りだ。極めて深刻な状況だな」

そんなゼロに向かってシグナスが言う。

世界中にシグマウィルスが蔓延しているとの情報は既にゼロ達も耳にしている。

「シグマの爆発の影響で蔓延したシグマウィルスの影響で多くのレプリロイドがイレギュラー化し、そして社会機関は必然的に麻痺している」

「それは分かっている。だから今ここで手をこまねいている場合じゃない。1人でも多くの犠牲を減らす為に早くシグマウィルスを除去する方法を考えなければ」

こうしている間にもどれだけの犠牲者が出ているのか分からず、焦燥に駆られるエックス。

しかしそんな彼に溜め息するとシグナスは更に言葉を続ける。

「世界中のシグマウィルスの除去に集中したいのは山々なのだがな。実はそんな地上の混乱さえ些事と見なさなければならない事態に我々は直面している。ラグランジュポイントに浮かぶスペースコロニー・ユーラシア。それが突如ラグランジュポイントを外れ、地上に向かって落下し始めたのだ」

「な…何だって!?スペースコロニー・ユーラシアが地球に!!?」

「本当よエックス。ユーラシアの内部からも大量のシグマウィルスが感知されている上、この落下自体まるで地上の混乱と呼応するかのようなタイミング。シグマの仕業である事は間違いないわ」

「ふむ、地上のシグマウィルスで僕達の動きを制限し、そして宇宙から大型スペースコロニー・ユーラシアを落下させて人類滅亡、ハンター滅亡を同時に狙う作戦か。えげつないけど中々理にかなった作戦だね…流石は元精鋭部隊の隊長と言うべきかな?」

「感心してる場合ですか!?」

シグナスとエイリア、ゲイトが告げるあまりに絶望的な事態にエックスもゼロもルインも呆然としたままその場に立ち尽くす。

「シグマウィルスの蔓延で通信機能も麻痺し今は各地のハンター支部とさえ満足に連絡が取れない状態だ。我々は独自にこの未曾有の危機にどうにか対処して行かねばならんが…ウィルスの第一次感染によって既に大多数のハンターが感染し、症状が深刻な者は身動きが取れん状態だ。ゲイト、彼らのウィルス除去にはどれだけ掛かりそうだ?」

「流石に重症者含めて全員となると一朝一夕では終わらないよ。しかもユーラシアの地上激突までの予測時間は16時間しかないだろう?なら、どう足掻いても間に合わないね。ドップラー博士を呼んで、シグマウィルス破壊用の抗体ウィルスを作成してもらっているけど、どれだけ急いでもこのままでは人類もレプリロイドも何もかもが消滅するだろう」

「何て事だ…」

「それでも、地上の混乱にはある程度の対策はしているんでしょ?」

「勿論よ。過去に起きたイレイズ事件…それを応用してイレギュラー化したレプリロイドを強制的にシステムダウンさせたわ。被害を最小限に抑えるにはそれしかなかったの…尤も、ハンターベースのリソースも限りがあるから、主要都市のレプリロイドしか…今、エイリアさんがレプリフォースに連絡を入れてくれたんだけど…どこまで期待出来るか…」

「それで充分だアイリス」

主要都市のイレギュラーによる被害はアイリス達によって最小限に抑えられたが、問題はユーラシアだ。

どうにかユーラシアを破壊しなければならないが、今や地上には地上から大気圏外の標的を撃ち抜けるだけの出力を持つ兵器は存在しない。

度重なる戦乱の果てにその殆どが大破し使用不能となってしまっているのだ。

「政府への報告は?」

「既に報告済みだ。間も無く全世界に向けて最寄りのシェルターへの退避勧告が発せられるだろう。だが、たった16時間で果たしてどのくらいの人々が避難可能なことか……はっきり言って誰がどう見ても今の状況は絶望的だ…しかし…最後の砦である我々までが絶望するわけには行かない。そのため悪足掻きにプランを2つばかり考案してみた。ダグラス」

「おう」

シグナスに言われて席から立ち上がったのはハンターベースの優秀な最古参メカニックの1人であるダグラスである。

「まずは大出力兵器による地上からの狙撃。とは言え…皆も知っての通り、ここ最近の一連の争乱によってそれを可能とする兵器の大半は失われてしまっている。しかし…唯一大気圏外の標的を破壊する事が可能であろうと思われる兵器が存在した。それがこの…」

ダグラスがコンソールパネルを叩きモニターの画面上に巨大な砲台の映像を映し出す。

「え?あの…これって…」

「今から約100年前の大戦時に建造されたと言われているギガ粒子砲・“エニグマ”だ」

「これはこれは…随分と古臭い物を引っ張り出してきた物だね。兵器として出すより骨董品として売り出した方がまだ良いんじゃないかな?」

だがシグナスの説明を聞いても周囲の反応はゲイト同様に冷ややかなもので、寧ろ落胆の空気が蔓延していくのが目に見えて分かる。

エニグマは最新式の同型兵器に比べ命中精度やエネルギー効率などで大きく性能が劣るばかりではなく、既に数十年に渡りまともな整備も行われていないため今では正常に作動するかどうかすら危ぶまれているのだ。

そればかりか、場合によっては暴発しユーラシアが落下する前に地上に甚大な被害を及ぼす危惧さえある。

そんな物に縋らざるを得ないのだから、つくづく今の世界が直面している事態の絶望さが実感出来ると言うものだ。

「そして、エニグマ作戦が失敗した場合のもう1つの作戦がスペースシャトル作戦。出来ればあまり使いたくはないけれど。ハンターベースのシャトルに大量の爆薬と大容量エネルゲン水晶液タンクを積み、それをユーラシアに激突させる作戦ね。それもシグマウィルスの影響でオートパイロットが機能しないため、誰かが操縦してユーラシアに向かうと言うまさに命懸けの特攻作戦と言う事になるわ」

更に告げられたエイリアの言葉に場の空気が凍りつく。

エニグマによる狙撃作戦にしろスペースシャトルによる特攻作戦にしろ共に成功率はあまりに低く、しかも命の危険さえ伴う。

誰もが絶望感に打ちひしがれ、言葉さえ満足に発する事が出来ない状況でそんな一同を見回しながらシグナスが言う。

「言ったはずだ。我々までが絶望する訳には行かないとな。どちらも極めて危険で…しかも成功率に関しては殆ど賭けだ。しかし…それでも可能性はゼロでは無い。無論シャトルによる特攻は最終手段だ。今は限られた時間の中で出来る限りエニグマを整備し、ユーラシア狙撃の体勢を整えるのだ。で、ダグラス。エニグマの状況は…」

「簡単なチェックをしてきたが、ハッキリ言って使い物にならねえな。整備もなしに放置されていた期間を考えれば思ったよりは老朽化はしていなかった。発射による暴発の心配はねえが、それでもこんな状態じゃ大気圏を貫いてビームを放出出来るまでの出力が発揮出来るかどうかは微妙な所だ」

ダグラスはプロの技術屋であるために事実は事実として淡々と述べる。

「そこでまずはエニグマを最低限稼動可能とするため、エックスとゼロ、ルイン。お前達3人でエニグマ補強の為のパーツを収集してきてもらいたい」

「俺達…3人だけでか?」

迅速にパーツを集めなければならない状況であるにも関わらず、たった3人でのパーツ収集に怪訝そうな表情でゼロがシグナスに問い掛ける。

「ああ、シグマウィルスが蔓延している状況で他の者を派遣しても無駄にイレギュラーと犠牲者を増やすだけだ。だがお前達はシグマが爆発したその現場に居合わせながら、その影響を全く受けなかった」

「これからもそうだとは限らないんだぞシグナス。シグマウィルスの自己進化次第ではもしかしたら俺達も感染してイレギュラー化してしまうかも…」

「お前達がイレギュラー化してしまうならコロニーの墜落も何も関係ない。イレギュラーハンターが誇る最強のハンターであるお前達がイレギュラー化してしまった時点で世界は終わりだ」

「確かに…OK。それで私達は何処に向かえば良いの?」

「これからモニターに映す4人の人物に協力を求める事になるだろう。彼らがエニグマ補強・強化の鍵を握っている」

クレッセント・グリズリー:武器ブローカー

大量のレアメタルであるオリハルコンを所有している。

「伝説の金属の名を与えられたレアメタル・オリハルコンはエニグマの砲身補強には必要不可欠な素材。稀少な金属であるオリハルコンを最も多く所有しているのが武器ブローカーのグリズリーなのだ。」

タイダル・マッコイーン:海洋博物館館長

近くの海を占領し、彼の占領する海を利用して、水素を作って核融合を起こす。

「続いては海洋博物館の館長であり、海上警備隊の隊長でもあるマッコイーンの協力を仰いでエニグマの核融合炉の燃料となる必要量の水素を入手してもらいたい。」

ボルト・クラーケン:元イレギュラーハンター

大容量エネルギーカートリッジを保持している。

「それから元イレギュラーハンターであり、現在エネルギー研究所に所属しているクラーケンには大容量エネルギーカートリッジの提供を求める事にしている。」

シャイニング・ホタルニクス:レーザー工学博士

最新型のレーザー装置を持っている。

「最後にレーザー研究の権威であるホタルニクス博士が発明した最新型のレーザー装置こそがエニグマ作戦の最大の肝だ。僅かなエネルギーでも膨大な破壊力を生むエネルギー加速装置の開発には必要不可欠なものだからな。以上の4人の人物に協力を仰ぎ一刻も早くエニグマの改修を完成させるのだ!!」

「でも、仮にパーツが揃ったとしてもコロニー衝突までに間に合うの?」

「下手をしたら、間に合わずコロニー衝突なんてオチになりそうだな」

「何とか間に合わせてみせるさ」

珍しくルインとゼロが不安を口にする。

ダグラスが言うが、それでも不安は消えない。

「メカニックすら足りないからな…残っているハンターをエニグマの整備に回してもどれだけ役に立つか……」

メカニックすら不足している現状では例えパーツが間に合ったとしてもエニグマの補強が間に合わない可能性だってあり得る。

「待て…メカニック……優秀な技術者なら知っているが…」

その言葉に全員の視線がゼロに向く。

「お前達も知っているはずだ。いつもハンターベースに武器やジャンクパーツを売りに来るあのジャンク屋を…」

「彼女か?しかし、彼女はイレギュラーハンターじゃないんだぞ…?」

「そんなもの…世界滅亡に比べれば安い物だろう。今はそんなことを言っている場合じゃない」

「確かにね、彼女とは何度か交流したけど、彼女もまた天才だ。彼女が加わることで成功率は上がるはずだよ」

「そうだな。今は一刻を争う。優秀な人材は1人でも欲しいくらいだ」

「だけどこの状況よ?もしかしたらそのジャンク屋の方もイレギュラー化しているかも……。」

「その時は処分するしかないだろうな…」

彼女がイレギュラー化していないことを願いながら彼女に通信を入れ、しばらくするとモニターに営業スマイルを浮かべた彼女の姿が映る。

『はいはい!!武器とパーツを求めるとあらば、誰であろうと何処にでも!!ジャンク屋兼武器屋のルナ・アームズでございます!!…って、何だあんたらかよ』

「何だとはご挨拶だな。」

イレギュラー化していないことに安堵しながら言うゼロに対して、ルナは頭を掻きながら口を開いた。

『まあ、それは置いといて…一体全体、地球に何が起きてんだよ?外が騒がしいから様子を見たらいきなり世界中がウィルスまみれじゃねえか』

「シグマの仕業だ。奴は俺達にわざと負けて世界中にウィルスをばらまいた」

『へえ…何だよまだ生きてたのか、あのハゲ。懲りねえ奴だな…』

「全くだ」

ウンザリしたように言うルナに全く同感だと頷くゼロ。

エイリアはゼロ達が噂する程のジャンク屋がこのような少女だとは思わなかったのか、目を見開いていた。

「(そう言えばエイリアはルナと会ったことなかったな)」

ルナと会う時はエイリアがいない時であるため、エイリアはルナとは初対面となる。

しかしエックスはウィルスまみれの現状に何の変化もないルナを不思議に思ったために尋ねる。

「君はウィルスを受けても大丈夫なのか?」

『んん?ああ、俺か?俺には自分のDNAデータの構造を作り変える能力があってな。例えウィルスを受けてもDNAデータの構造を瞬時に作り変えることで完全な対ウィルス性能を持ってるからシグマウィルス程度のウィルスでイレギュラー化はしないよ』

「自分のDNAデータの構造を作り変えるですって…!?」

DNAデータの構造を作り変えることでウィルスを無効化出来る能力など聞いたことがない。

「相変わらず興味深い能力だねルナ、僕に解析させてくれないかい?」

『却下、それより何の用だよ?ゼロの武器か?今から向かおうとしてんだけど…』

「それもあるが、今…地球に向けてスペースコロニー・ユーラシアが落ちようとしているんだ」

『へえ~、ユーラシアが地球に……そりゃあ大変だな~っ…て、はああああ!!?』

ゼロから聞かされたあまりにも予想外の事態にルナが目を見開いた。

「今、それを回避するために、100年前に建造されたギガ粒子砲・エニグマの補強をするんだが、人手が足りないんでな。メカニックとして来てくれないか?」

『おいおい、俺はハンターじゃないんだぜ?いいのかよ?あんたらにも機密とか色々あるだろ』

「構わんよ。ハンターであろうとなかろうと今は優秀な人材が1人でも必要だからな。機密など世界滅亡に比べれば大した問題ではない」

『…分かったよ。地球の未来やお客さんの命が掛かってることだしな。ただし報酬は…』

「報酬はそちらの言い値で払おう」

『違う。力を貸す代わりに必ず作戦を成功させろってことさ!!』

「…分かった」

ルナ『じゃあ、今からそっちに向かう。俺のハーネットカスタムを全力で飛ばしてハンターベース着くのには少なくとも10分だな』

「分かった。今から10分後に、彼女を迎え入れる準備を」

【了解】

こうして世界の命運をかけた作戦が始まる。 
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