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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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外伝~ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエン~前篇

領邦会議、2日目(最終日)

~フォートガード・カイエン公爵家第二城館~

「方々、よろしいですな!?前公爵は2年前の内戦で既に戦死し、前公爵直系の娘達は他国―――クロスベル帝国に帰属した以上、もはや前公爵の娘達を再びエレボニアの貴族として復帰する事は叶いますまい!ならば早急に次期公爵を推挙する必要があるのです!四大名門を揃え、貴族全体が生き残る為にも!」
自分が追いつめられている立場である事を理解していたバラッド侯爵は必死の様子で演説をしたが、会議に出席している貴族達は誰も言葉を口にする事なく何の反応もしなかった。
「ど、どうしたのだ…………!?わかっているのであろうな!?ワシはエレボニアのカイエンを継ぐ唯一の―――」
周りの貴族達の反応に戸惑ったバラッド侯爵が主張を続けようとしたその時、ユーシスとアンゼリカが立ち上がってバラッド侯爵に対して宣言をした。
「――――此度の件、そして度重なる公費の私的乱用…………」

「四大名門の現当主、並びに当主代理として結論しました。」

「バラッド侯―――次期公爵候補から貴公を正式に外させていただく。オルディスのユーディット皇妃陛下からも、此度の騒動に巻き込まれたオルディス地方は貴公を次期公爵候補から外せば、エレボニア・クロスベル間の国際問題には発展させないようにヴァイスハイ皇帝陛下並びにギュランドロス皇帝陛下の代理であるルイーネ皇妃陛下を説得すると確約して頂いている。」

「!?」

「コホン…………それではお入りください。」

「…………失礼します。」
二人に続くように立ち上がって宣言したハイアームズ侯爵の宣言にバラッド侯爵が驚いたその時、バラッド侯爵の背後に控えていたパトリックが言葉を口にすると少女の声が聞こえてきた。すると”長髪のミント髪の少女”とレンが部屋に入ってきた。
「あの娘は…………?」

「メ、メンフィル帝国のレン・H・マーシルン皇女殿下…………今年の春に新設されたトールズの分校に教官の一人としてメンフィル帝国から派遣され、その分校が”演習”という形でフォートガードに滞在しているとは聞いていたが。」

「な、なんだ…………どこかで見たような…………」
二人の登場に諸侯達が戸惑っている中、バラッド侯爵は困惑の表情で少女をよく見つめ、少女が意味ありげな笑みを浮かべると少女がミュゼであることに気づいた。
「な…………!?もしやその顔―――」「

「前公爵クロワール・ド・カイエンが姪にして現クロスベル側のユーディット・ド・カイエン公爵代理の従妹。ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンと申します。―――お久しぶりですね、大叔父様。」
驚いているバラッド侯爵に対して恭しく礼をしたミュゼ――――――ミルディーヌ公女は自己紹介をした後バラッド侯爵に対して意味ありげな笑みを浮かべた。
「……………………」

「公子アルフレッドの忘れ形見か…………!」

「まあ、前カイエン公の兄君で海難事故で亡くなられたという…………!」
エレボニア側の新たな次期カイエン公爵候補にして、バラッド侯爵よりも遥かに候補としての資格があるミルディーヌ公女の登場にバラッド侯爵が驚きのあまり口をパクパクしている中諸侯達は興奮した様子で公女ミルディーヌを見つめた。
「ふ、巫山戯るなぁああっ!こんな茶番、認められるものかああっ!」
そしてウォレス准将が合図をすると統合地方軍の兵士達はみっともなく喚くバラッド侯爵をその場から無理矢理連れ出した。


「…………それでは方々、採決をお願いします。こちらの公女ミルディーヌ殿をエレボニアの次期カイエン公に推挙するか否かを。」

「善きかな!」

「異議なしだ!」
バラッド侯爵が締め出されるのを確認したパトリックが諸侯達に確認すると、諸侯達は満場一致を示すかのように全員拍手をし、その様子をイーグレット伯爵夫妻が見守っていた。
「――――それではご挨拶の代わりに、最後の議題を追加させていただきます。帝国政府からの圧力と、彼らが帝都の夏至祭以降に進めようとしている”計画”。即ち、メンフィル・クロスベル連合への侵攻と、『国家総動員法』への対策について――――――」
その後席についたミルディーヌ公女はある議題を挙げて、それについての説明をし、説明を終えると諸侯達はそれぞれ驚きの声を上げた。


「な…………っ!?」

「りょ、領邦軍だけでなく、メンフィル・クロスベル連合とも盟を結んで鉄血宰相―――帝国正規軍に対抗するですと…………!?」

「た、確かに彼らと盟を結ぶことができれば、形勢は一気に逆転して、ミルディーヌ殿達―――”ヴァイスラント決起軍”の勝利は固いが…………」

「メンフィル帝国のレン皇女殿下がミルディーヌ殿と共にこの場に現れ、傍聴を続けている事に疑問を抱いておりましたが、まさか既にメンフィル帝国との盟を結べた為、それを示すために殿下がミルディーヌ殿と共に現れたのですか…………!?」
公女ミルディーヌが考えている”対策”の内容に驚きの声を上げた諸侯達の中の一人は公女ミルディーヌの背後に控えているレンに問いかけ
「フフ、(わたくし)に関しましてはあくまで”トールズ第Ⅱ分校の教官として”、建前上は実家である”イーグレット伯爵家に外泊する”という理由でアーヴィング主任教官にも内密で演習地を抜け出して今回の会議に出席している公女殿の付き添いの教官としているだけですわ。」

「”レン教官”も仰ったように、この場でのレン教官の立場はあくまで”第Ⅱ分校の教官として”ですわ。―――最も、レン教官には教官のご家族であるメンフィル帝国の皇族の方々への繋ぎをして頂き、”今回この会議に出席して頂けるように取り計らって頂きましたが。”」
諸侯達の問いかけにレンは上品な笑みを浮かべて答え、レンに続くように答えたミルディーヌ公女の説明に諸侯達は血相を変えた。
「”メンフィル帝国の皇族の方々がこの会議に出席して頂けるように取り計らって頂いたという事”は…………!?」

「まさか…………リウイ陛下達がフォートガードの地に現れた”真の理由”は―――!」

「――――長らくお待たせして申し訳ありません。皆様方、お入り下さいませ。」
ミルディーヌ公女の説明に諸侯の一人が驚きの声を上げ、ある事に気づいたユーシスが推測を口にしたその時ミルディーヌ公女は自分が現れた時の扉に視線を向けて宣言した。
「――――失礼する。」

「――――失礼します。」
すると扉が開かれ、扉からはリウイ、イリーナ、ユーディット、キュアが現れた!
「あ、貴方方は…………!?」

「メ、メンフィル帝国の前皇帝夫妻であられるリウイ・マーシルン皇帝陛下とイリーナ・マーシルン皇妃陛下…………!?」

「そ、それにクロスベル帝国のカイエン公爵当主代理にしてヴァイスハイト陛下の側妃でもあられるユーディット皇妃陛下とその妹にして次期カイエン公爵であられるキュア公女殿まで…………!?」

「まさかバラッド侯どころか我々にも気取られないように彼らと既にコンタクトを取り、今回の会議に出席するように手配をしていたとは…………」

「やれやれ…………どうやら、ラクウェルでのヴァイスハイト陛下達との会合は要塞の件だけでなく、この会議での件も含まれていたようですね?」
リウイ達の登場に諸侯達が驚いている中ハイアームズ侯爵は信じられない表情でミルディーヌ公女を見つめ、アンゼリカは溜息を吐いた後真剣な表情でリウイ達に問いかけた。
「―――そういう事だ。――――――現メンフィル大使、リウイ・マーシルン。メンフィルを含めた西ゼムリア大陸の平和を乱そうとする鉄血宰相共の謀への対策の為に今回の会議にメンフィルを代表してイリーナと共に出席する事となった。」

「リウイの正妻のイリーナと申します。以後お見知りおきを。」

「クロスベル側のカイエン公爵当主代理にして、元エレボニア帝国領の”総督”を務めているユーディット・ド・カイエンと申します。―――お久しぶりですね、帝国貴族の皆様方。」

「ユーディットの妹のキュア・ド・カイエンです。今回私達の従妹であるミルディーヌの嘆願を了承したヴァイスハイト・ギュランドロス両皇帝陛下の意向を受けてクロスベルを代表して姉ユーディットと共に此度の会議に出席する事になりましたので、どうかよろしくお願いいたします。」
それぞれ自己紹介をしたリウイ達はそれぞれ席につき、ミルディーヌ公女と共に今後の事について説明し始めた。


「なんと……………………」

「まさか現時点で帝国政府の動きを読み、その対策として既にそこまで話を進めているとは、さすがは公子アルフレッドの忘れ形見と言うべきか…………」

「…………リウイ陛下、イリーナ皇妃陛下。先程の説明を聞いて新たな疑問が出てきたのですが、恐れながらその疑問をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
説明を聞いた諸侯達がそれぞれ驚いたり思考している中、ユーシスは真剣な表情でリウイとイリーナに問いかけた。
「何を知りたい?」

「先程ミルディーヌ殿の説明の中に2年前の内戦と”七日戦役”でできてしまった貴国と我々エレボニア帝国の貴族勢力の”溝”を埋める為に、ミルディーヌ殿自らがアルフィン殿下のように貴国の英雄であるロード=リィンの側室として政略結婚をする予定だと仰っていましたが、その件については貴国もそうですが、当事者であるロード=リィンも既に了承しているのでしょうか?」

「その件につきましてはこの後オルディスで行う私達とミルディーヌ殿の交渉の場にて決定しますので、この場では確言はできませんが…………万が一、当事者であるリィンさんもそうですが新たな側室を増やす決定権を持つリィンさんの正妻予定であるエリゼさんが了承せず、その件が流れましてもメンフィル(私達)は彼の代わりとして、可能な限りミルディーヌ殿の希望に合ったメンフィル皇家の者をエレボニア側の次期カイエン公爵であるミルディーヌ殿の婿養子として出すつもりです。」

「2年前の”七日戦役”の件があったにも関わらず、エレボニアの為にメンフィル皇家にそこまでして頂けるとは…………」

「それ程までに鉄血宰相達が―――帝国政府が進めようとしている”計画”はメンフィル帝国も重く見ているという事ですか…………」
ユーシスの疑問に答えたイリーナの答えに諸侯達はそれぞれ驚いたり顔を見合わせたり、考え込んだりしていた。
「ふふっ、イリーナ皇妃陛下が仰った事はあくまで”万が一”で、私としましては次期エレボニア側のカイエン公として、そして私個人としてもロード=リィンの側室の一人として彼と結ばれたい事を強く希望していますから、この希望は絶対に通すつもりですが♪」

「全くこの娘は…………」

「アハハ…………」
小悪魔な笑みを浮かべたミルディーヌ公女の話にユーディットは呆れ、キュアは苦笑していた。
「しかし…………ミルディーヌ殿は本当にそれでよろしいのでしょうか?確かに2年前の”七日戦役”と内戦を終結へと導いたかの”灰色の騎士”殿はメンフィル帝国もそうですが、我が国にとっても”英雄”であり、次期クロイツェン統括領主と”公爵”へと陞爵する事が内定しているシュバルツァー家の次期当主に内定している彼はミルディーヌ殿にとって相応しい伴侶かと思われますが…………ミルディーヌ殿もご存じのように彼には既にアルフィン殿下を含めた多くの伴侶が存在している上、アルフィン殿下の件も考えると彼と結ばれればミルディーヌ殿も例外なくアルフィン殿下のように彼の伴侶としては序列の低い伴侶となってしまいますが…………」

「その件につきましては先程も説明しましたように、エレボニア側のカイエン公爵家の当主である私が序列の低い伴侶としてロード=リィンと結ばれるからこそ、”尊き血”を重視した前カイエン公爵―――クロワール叔父様が起こした内戦やそれに付随して勃発した”七日戦役”の件で一般的に見て”血統主義”である我々エレボニア貴族に対して”七日戦役”や内戦の件で思う所があるメンフィル帝国に、”血統主義”であった私達エレボニア帝国貴族は内戦と”七日戦役”の件で今までの行いを反省して変わろうとしている事やメンフィル帝国に対して野心を抱いていない事を知っていただくために、エレボニアの貴族達の中でも絶大な権力を持つ私自らがあえて彼の伴侶としては序列の低い伴侶として結ばれる事でメンフィル帝国に信用して頂けるのですわ。それに私の婿となる事でクロワール叔父様やバラッド大叔父様のようにカイエン公爵家が持つ権限を乱用しようと考える者が出る事を防ぐ措置でもありますから、カイエン公爵家として、エレボニアの貴族全体として、そして私個人としても十分に”利”がある話です。」

「む、むう…………確かに言われてみれば…………」

「そもそも”灰色の騎士”は野心や権力争いといったものとは無縁だったシュバルツァー卿に育てられた訳ですから、父君であられるシュバルツァー卿の理念を受け継ぐ彼も恐らくカイエン公爵家の当主の伴侶として持てる権限にも興味はもっていないと思われますものね…………」

「第一彼は温泉郷であるユミルしか領地をもたなかった領主から一気に広大なクロイツェン州の約8割を統括する事になる領主に内定しているから、カイエン公爵家を含めたエレボニアの権力に関わっているような暇はないだろう。」
ミルディーヌ公女の考えに反論できない諸侯達はそれぞれ納得した様子で考えていた。
「フフ、要はクロスベル帝国でも貴族として存続する為に平民でありながら皇帝へと成りあがったヴァイスハイト陛下に嫁いだユーディお姉様と同じようなものですわ♪―――もしかしたら、キュアさんもそうなるかもしれませんが♪」

「フウ………実際その通りだから反論はできないけど、そこでわざわざ私を例えに出す必要はないでしょう。」

「それとさり気なく縁談すらまだの私まで含めようとしないでよね…………」
小悪魔な笑みを浮かべて答えたミルディーヌ公女の話にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ユーディットとキュアは疲れた表情で溜息を吐いた。


「……………………ミルディーヌ殿、貴女のしようとしている事は理由は違えど、前カイエン公であるクロワール卿と同じ―――いえ、それ以上のアルノール皇家に対する謀反であり、エレボニアの未来をメンフィル・クロスベル連合に――――――他国に委ねることになる事は理解していらっしゃっているのでしょうか?」

「当然、覚悟の上です。このまま帝国政府の計画が進めば、エレボニアに待っているのはメンフィル・クロスベル連合――――――いえ、西ゼムリア大陸全土の各国が盟を結んだ連合に無謀な戦争を仕掛けた挙句敗戦し、滅亡するだけの未来です。それを未然に食い止める為にはオズボーン宰相達を廃し、オズボーン宰相を重用しているユーゲント皇帝陛下にもオズボーン宰相を重用した責任を取って皇位から退いて頂かなければなりません。それと臨時政府の件は先程も説明したようにあくまで”期間限定”ですので、その期間が過ぎれば当然メンフィル・クロスベル両帝国には政府から撤収して頂きますし、私を含めたヴァイスラント決起軍の関係者達も政府から撤収する事をリベール、レミフェリア、七耀教会も参加してもらう予定となる国際会議にて宣言し、公文として残すつもりですわ。」
静かな表情で問いかけたハイアームズ侯爵に対してミルディーヌ公女は決意の表情で答え
「その…………ミルディーヌ殿は帝国政府の計画は必ず破綻し、戦争の為に戦力を増強した正規軍もエレボニアを除いた西ゼムリアの国家の連合軍に敗戦すると仰っていましたが………正規軍が連合軍に勝利する可能性は一切考えていないのでしょうか?」

「逆に聞きますが、今の正規軍―――いえ、エレボニアにエレボニアを除いた西ゼムリアの国家による連合軍に勝利できる要素がどこにあるというのですか?”百日戦役”、”七日戦役”共にメンフィル帝国軍に対して圧倒的な敗北をしてかつては”大陸最強”を誇っていた自分達が”井の中の蛙”である事を思い知らされた挙句、その”代償”として国力のおよそ5割とRF(ラインフォルトグループ)を失った今のエレボニアに。メンフィル帝国―――一国にも勝てないエレボニアが、共和国を飲み込んで大国となり、RFを手に入れたクロスベルとも連合を組んだメンフィルやリベール、そしてレミフェリアの連合軍に勝利できる可能性は”ゼロ”と言っても過言ではありませんわよ。」

「それは…………」
諸侯の一人はミルディーヌ公女にエレボニアの可能性を指摘したがミルディーヌ公女の正論を聞くと気まずそうな表情でリウイやユーディットに視線を向けて黙り込んだ。
「ユーディット皇妃陛下、リウイ前皇帝陛下。先程ミルディーヌ殿が仰った臨時政府の件については既に両帝国も承認しているのでしょうか?」

「はい。クロスベルは既にヴァイスハイト陛下並びにギュランドロス陛下の代理を務めておられるルイーネ皇妃陛下からも承認を頂いています。」

「メンフィルは先程も説明したように、ミルディーヌ公女との正式な交渉はこれからだが……………………臨時政府の件については現メンフィル皇帝であるシルヴァンからも承認をもらっている。」
アンゼリカの質問にユーディットとリウイはそれぞれ答えた。
「他にも質問がある方々も全て回答致しますので遠慮なく質問をお願いします―――」
そしてミルディーヌ公女は諸侯達を見回して問いかけた。


その後会議は進み、会議を終えるとミルディーヌ公女はリウイ達と共にレンの転移魔術によってオルディスの城館へと移動し、オルディスでリフィアと、外出届けを出して既にリフィア達と合流していたエリゼを交えて交渉を始めた。


~クロスベル帝国領・オルディス・カイエン公爵城館~

「―――改めてになるが、エレボニア側の次期カイエン公爵への内定、メンフィル帝国政府並びに現メンフィル皇帝・父シルヴァンに代わり祝福する、ミルディーヌ公女よ。」

「この身にとっては過分なお言葉、心より感謝致しますわ、リフィア殿下。それとレン教官、エリゼさん。私の希望通り、御二方ともエリゼさんも今回の交渉の場にお連れするように足労して頂いた事、心より感謝致しますわ。」
リフィアの賛辞に恭しく礼をしたミルディーヌ公女はリフィア達と共に席についているエリゼやレンに視線を向けて感謝の言葉を口にした。
「うふふ、別に大した事はしていないから気にしなくていいわよ。」

「…………私はリフィア殿下の専属侍女長として…………そして兄様の正妻予定の婚約者としてこの場に同席する義務がありますから、私にまで感謝する必要はございません、ミルディーヌ公女殿下。」
ミルディーヌ公女の感謝に対して二人はそれぞれ謙遜した様子で答えた。
「まあ…………この場にはお互いをよく見知った者達しか同席していないのですから”ミルディーヌ公女殿下”だなんて、他人行儀な呼び方をする必要はありませんわ、”エリゼ卿”。私達は将来、愛するリィン教官を支える伴侶同士となるのですから、”新参者”である私としましても既にリィン教官の伴侶となった姫様もですが、将来リィン教官の伴侶になる事が確定しているエリゼさん達とも是非仲良くしたいと思っているのですから♪」

「…………なるほど。やはり私やアルフィンが睨んでいた通り、貴女は”灰色の騎士”である兄様に憧れる他の有象無象の女性達と違って”本気”で兄様と結ばれたいと思っているようですね。」

「ぬおっ!?エ、エリゼよ…………幾らこの場には親しい者達しか同席していないとはいえ、この場は正式な交渉の場じゃから落ち着いてくれ…………!」

「よくリィン様の正妻予定のエリゼさんの目の前で堂々とそんな宣言ができるよね、ミルディーヌは…………」

「ハア…………本当にこの娘はもう…………」
エリゼの自分への呼び方にミルディーヌ公女はわざとらしく寂しげな笑みを浮かべた後微笑みを浮かべてエリゼを見つめ、それを見たその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中エリゼは膨大な威圧を纏って微笑むミルディーヌ公女と見つめ合って火花を散らし、エリゼの隣にいたリフィアは思わず驚いて表情を青褪めさせながらエリゼを諫めようとし、キュアとユーディットは呆れた表情で溜息を吐いた。
「―――早速だが、”本題”に入らせてもらう。レンから予めミルディーヌ公女が望むメンフィル帝国に対する要望を聞いてはいるが…………互いに思い違いがないかどうかを確かめる為とその要望内容の詳細を知らない今回この場を提供してくれたクロスベル側のカイエン公爵令嬢姉妹にも知ってもらう為にも、その要望内容をこの場にいる全員に聞かせるが構わないな?」

「はい、お願いしますわ。」
リウイの問いかけにミルディーヌ公女が頷くと、リウイはミルディーヌ公女のメンフィル帝国に対する要望内容を口にした。


1、2年前の”七日戦役”時にメンフィル帝国が占領した貴族連合軍の旗艦”パンダグリュエル号”をエレボニア側のカイエン公爵家の当主であるミルディーヌ公女への返還

2、ギリアス・オズボーン討伐後に行う帝国政府の解体並びにメンフィル帝国、クロスベル帝国、ヴァイスラント決起軍による臨時帝国政府の期間は最長でもエレボニアの次期皇帝として帝位に付いてもらう予定のリーゼロッテ皇女が成人するまで。

3、ギリアス・オズボーンの件で責任が追及されるであろうユーゲント皇帝を含めたアルノール皇家に対する処罰内容で決してユーゲント皇帝達の命を奪うような内容ではない事。

4、メンフィル側のクロイツェン次期統括領主にしてシュバルツァー公爵家の次期当主であるリィン・シュバルツァーとミルディーヌ公女の婚約を認める事。(なお、ミルディーヌ公女のリィン・シュバルツァーの妻としての序列は交渉時点での最下位。)


「私達―――クロスベルに要望を出した時と同じように政府やユーゲント陛下達の件、それにリィン様の件までは想定していたけど、パンダグリュエルの返還の要望まで出していたの…………!?」

「―――ミルディーヌ、一体何の為にパンダグリュエル―――”戦艦”までメンフィル帝国に返還してもらおうと思ったのかしら?」
ミルディーヌ公女の要望内容を知ったキュアが驚いている中ユーディットは真剣な表情でミルディーヌ公女に問いかけた。
「帝国貴族の方々にエレボニア側のカイエン公爵に就任したばかりの私の”手柄”と”力”を示す為ですわ。」

「”手柄”と”力”…………?…………あ…………」

「…………なるほどね。バラッド大叔父様を退けたとはいえ、まだ10代の貴女の能力に疑問を抱く帝国貴族達に、2年前の”七日戦役”で敗戦させられた国であるメンフィル帝国から貴族連合軍の旗艦であったパンダグリュエルを返還してもらえるという”手柄”をたてる事で交渉を含めたカイエン公爵家の当主として相応しい能力がある事を貴女の能力に疑問を抱く帝国貴族に知ってもらう為ね。」

「”力”は親メンフィル派…………ううん、親メンフィル・クロスベル連合派に見られるミルディーヌに反感やバラッド大叔父様のようにエレボニア側のカイエン公の地位を簒奪する野心を抱く帝国貴族達が逆らえないと思えるような”力”だよね?」
ミルディーヌ公女の答えを聞いてミルディーヌ公女の狙いをすぐに悟った姉妹はそれぞれミルディーヌ公女に確認した。
「ふふっ、さすがですわね。―――話を戻しますが、その”対価”となる条件もレン教官を通じて陛下達にお伝え致しましたが、いかがでしょうか?」

「要望内容の内1~3については特に問題ないと既にシルヴァンからも回答をもらっている。」

「問題は要望内容の4なのじゃが…………公女も知っての通り、シュバルツァー家は”七日戦役”を含めた今までの功績によって、メンフィル皇家の分家と同格の大貴族になる事が内定しておるのじゃから、そんなシュバルツァー家の”意志”を無視してまで勝手にリィンの婚約者を増やす訳にはいかん。―――一応リィンの両親であるシュバルツァー男爵夫妻には既にその件を説明して、当事者であるリィン達が承諾するのならば二人もリィンとミルディーヌ公女の婚約を承諾するとの回答をもらってはいるが…………」

「エリゼさん、正直な所ミルディーヌ公女の件はどう思っているのですか?」
ミルディーヌ公女の確認にリウイが静かな表情で答え、リフィアはエリゼを気にしながら説明を続け、イリーナがエリゼに訊ねた。
「…………例え、政略結婚であろうとも彼女が私達のように心から兄様を想っているのでしたら、兄様の新たな伴侶の一人として増やしても構わないと思っています。―――ですが、彼女の事をよく知るアルフィンからの話通りの人格ですと、彼女が本当に兄様の事を愛しているのかどうか今でも疑問を抱いています。」

「ふふっ、姫様がエリゼさんに私の事をどんな風にお伝えしたのか興味はありますが…………エリゼさんが私のリィン教官への想いをそんな風に思っていたなんて、心外ですわ。―――お望みでしたら、ユーディお姉様のようにすぐにリィン教官に私が今まで守っていた純潔を捧げる上リィン教官が望まれるのでしたらいつでもこの身を捧げて喜んで犯されますし、何でしたら姫様のように”婚約者同士の親交を深める為”にエリゼさんやセレーネ教官を含めたリィン教官の他の婚約者の方々も交えてリィン教官から寵愛を頂いても構いませんわよ♪」

「どうしてそういった話になると何度も私を例に出すのよ…………」

「そ、それよりもミルディーヌ、エリゼさんどころかアルフィン殿下達とリィン様の…………その…………リィン様達にとってはリィン様達以外には知られたくない事実まで私達やリウイ陛下達のいる目の前で口にするのは、不味いと思うよ…………?」
エリゼの答えに対して苦笑した後小悪魔な笑みを浮かべて答えたミルディーヌ公女の答えにその場にいる多くの者達が冷や汗を表情を引き攣らせている中ユーディットは疲れた表情で指摘し、キュアは頬を赤らめてリウイ達を気にしながらミルディーヌ公女に指摘した。
「クスクス、レン達の事は気にせず話を続けてもらって構わないわよ♪ヴァイスお兄さんやロイドお兄さんみたいにハーレムを築いているリィンお兄さん達がどんな”プレイ”をしていようと、リィンお兄さん達の”愛の営み”に意見したりするような野暮な事はしないし、パパ達だって、リィンお兄さん達みたいにたまに複数での”プレイ”をしているでしょうし♪」

「…………まあ、”英雄色を好むという”諺もあるのじゃから、女である余には関係ないが”英雄”であるリウイやヴァイス、そしてロイドやリィンにはそういった事ができる”器”はあるじゃろうしの。」

「それとこれとは別問題だ…………」

「ふふっ、そういう意味ではセリカ様も該当するでしょうから、そのお相手であるエクリアお姉様達も私達のような事もしたことがあるのでしょうね。」

「イリーナ、貴女ね…………そこで私にまで話を振るなんて、何を考えているのよ…………というか今の貴女の発言でレン皇女の推測が当たっている事を答えたようなものよ…………」
からかいの表情で答えたレンの推測にリフィアは困った表情で答え、リフィアの答えとイリーナの指摘にリウイとエクリアはそれぞれ呆れた表情で頭を抱えて溜息を吐いた。
「ふふっ…………―――恐らくエリゼさんは私がリィン教官と結ばれる事で”七日戦役”と内戦で有名になったリィン教官を含めたシュバルツァー家を利用する事を警戒されていると思われますが…………現実的な話、私をリィン教官の伴侶に加える事はリィン教官を含めたシュバルツァー家にとっても非常に”益”となる話ですから、リィン教官やシュバルツァー家の将来を考えた上で私とリィン教官の婚約も受け入れるべきだと愚考致しますわ。」

「兄様やシュバルツァー家にとっての”益”…………それは四大名門の一角にしてエレボニア最大の貴族であるカイエン公爵家の当主である貴女と縁戚関係になる事ですか?」
ミルディーヌ公女の指摘に対してエリゼは真剣な表情で問い返した。
「確かにエリゼさんの仰る通りカイエン公爵家がエレボニア最大の貴族かどうかの件はともかく、四大名門の一角であるカイエン公爵家の当主たる私と縁戚関係になる事は新興の大貴族であるシュバルツァー家にとっても”益”となる話は否定できませんが…………より正確に言えば、私自身をシュバルツァー家の一員にする事で、リィン教官を含めたシュバルツァー家に様々な恩恵をもたらすことをお約束致しますわ。」

「…………どういう意味ですか?」
ミルディーヌ公女の意図が理解できないエリゼは眉を顰めて問いかけた。
「―――それは私が持つ”能力”ですわ。」

「え…………ミ、ミルディーヌが持つ”能力”…………?」

「…………?」
ミルディーヌ公女の答えにキュアは戸惑い、ユーディットは不思議そうな表情でミルディーヌ公女を見つめた。
「―――ユーディお姉様とキュアさんもご存じのように本来カイエン公爵家の跡継ぎであった私の父は母と共に事故で亡くなって跡継ぎが叔父クロワール叔に代わり…………叔父がカイエン公を継ぐにあたり、わたくしは帝都に遠ざけられました。アストライアの初等科に封じ込められ10年近くを過ごしました。―――いずれ叔父が帝国で内戦を引き起こすであろうことを予感しながら。」
するとミルディーヌ公女は驚愕の事実を口にし、その場にいる全員を驚かせた――――――
 
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