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ありふれた世界で一方通行

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第1章 オルクス大迷宮
  始まりの時

 
前書き
勢いで書いていきます 

 

「くあぁ〜」


目覚ましの音で俺は布団から抜け出る。
転生してから早くも17年。転生したばかりの時は自分がまだ生まれたてのBABYだったことに驚いたが、時は早くすぎるものだった。
今日は月曜日。世間の学生は皆この日が嫌いなんじゃないだろうか。特に連休明けの月曜日の憂鬱なことと言ったらありゃしない。それでも行かなければ学校の先生から電話が掛かってくるのだから行かねばならない。
そんな憂鬱な気持ちを押し込めて俺は朝食を食べ、支度をして家を出る。
転生してから17年。ベクトル操作能力を使えるかどうか人気のない所で試してみたのだが、能力は全く発動しなかった。まさか特典がないのかと思ったが、そうではないようだ。俺の学校の成績はトップクラス。特に数学が図抜けていて、そこだけ見るなら公式の演算の足掛かりに思えなくもない。
ただそれだけでは不安なので、近くの剣道の道場に幼少期から通い、友人と呼べる人も出来た。まぁ剣道はとあるやつのせいで諦めたのだが……
しかし何時になったら一方通行の能力を使うことができるようになるのだろうか。それとも、この世界では使わないのであろうか。デスゲームの中かもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか学校の自分の教室に着いていた。
教室の扉を開けて自分の席に向かい、カバンを置いて授業の準備を始めると隣から声が掛けられる。


「おはよう、悠斗」


彼女の名前は八重樫雫。ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークの美少女で、切れ長の鋭い目の奥には柔らかさも感じられるため、冷たいと言うよりはカッコイイという印象を与える。
172センチと言う女子にしては高い身長と引き締まった体、凛とした雰囲気は侍のようだ。彼女の実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、俺が通っていたのもそこだ。俺の事を名前で呼ぶ数少ないヤツでもある。


「あぁ、おはよう雫」


彼女の挨拶に俺も挨拶を返し、世間話に花を咲かす。


そんな日常を破壊する声が耳に届く。


「よぉ、キモオタ!また徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」


「うわっ、キモ〜。エロゲで徹夜とかマジキモいじゃん」


教室に入ってきたのは南雲ハジメ。アニメやラノベについて共に語れる親友だ。
そんな彼を罵倒するのは如何にもThe・モブといった感じの男子、檜山大介とその取り巻きである……名前なんだっけ?取り敢えずモブ男4人。
確かに世間のオタクに対する風当たりは厳しいが、ハジメはキモオタと罵られるほど身嗜みや言動が見苦しい訳では無い。髪は短めに切り揃えており、寝癖もない。積極的でこそないが受け答えは明瞭だ。
なら何故彼がここまで男子から敵愾心を向けられるかと言うと――俺のもう1人の友人が原因だ。


「南雲くん、おはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」


満面の笑みを浮かべながらハジメに歩み寄る1人の美少女。名を白崎香織。
校内で雫と2人で二大女神と言われている、男女問わず絶大な人気を誇る少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。
そんな彼女がハジメに積極的に話しかけるのだ。男子から敵愾心を向けられても不思議ではない。


「あ、ああ、おはよう白崎さん」


ハジメが挨拶を返すと白崎はさらに笑顔を向けるため、クラスの男子の殺気がハジメに全方位爆撃をしている。視線に晒されて引きつった表情を浮かべるハジメを見て俺と雫は苦笑するしかない。
そしてそんな空間にさらなるダイナマイトが放り込まれる。


「香織、また彼の世話を焼いているのか?全く、本当に香織は優しいな」


「全く出ぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」


些か臭いセリフで白崎に声を掛けたのが天之河光輝。如何にも勇者っぽいキラキラネームの上、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。
八重樫道場に通う門下生の1人で、俺が通わなくなった原因である。ダース単位で惚れている女子生徒がいるらしいが、いつも一緒に居る雫や白崎に萎縮して告白されていない。まぁそれは校内に限った話で、校外では告白を受けるのだからスジ筋入りのモテ男(笑)だ。
投げやりな発言をしたのは坂上龍太郎。努力とか熱血とか根性とかそういうのが好きなタイプなので、ハジメのことが嫌いらしい。
2人を言い表すならイケメン(笑)と脳筋。


「ほら、めんどくさいクソ之河と脳筋が出てきたからハジメを助けてやってくれ、オカン」


「ちょっと、南雲くんを助けてあげないの?それにオカンって何?!」


「雫だって知ってるだろ、俺がアイツらのこと嫌いだって」


「知ってるけど……はぁ、分かったわ、どうにかしてくる」


そう言って雫は戦場へと歩いて行った。
分かると思うが、俺は天之河と坂上が嫌いだ。特に天之河の努力しなくてもなんでも出来るところと、自分の正しさを疑わないこと。前者は道場に通っていた時、天之河は俺の後から入ってきたのだが、入ってきて一週間で俺を倒すレベルにまでなったのだ。才能をまざまざと見せつけられた俺は、道場を辞めたのだ。
後者についても、自分の都合で物事を判断し、発言をする。それも恐ろしく方向性の違うことを平然と。吐き気がするほどだ。それを諌める雫はマジで天使。
カオスな空間から視線を外し、もう少し静かな日常を夢見ながら俺はそれを見上げた。


(・8・)(・8・)(・8・)(・8・)


4限目が終わり、昼休みに入る。
俺が自分で作った弁当を食べようとした時、横から声を掛けられる。


「悠斗、一緒に食べましょう」


雫はそう言って俺の机に自分の机を連結させ、自分の弁当箱を取り出す。ところで、どうして隣に来るのん?正面でよくね?まぁ面倒臭いから言わないけど。


「南雲くん、一緒にお弁当食べよ?」


視界の端では白崎がハジメの元に弁当箱を持って突撃し、それにハジメが抵抗していた。


「誘ってくれてありがとう、白崎さん。でももう食べ終わったから天之河くん達と食べたらどうかな?」


そう言って空になった10秒チャージのパッケージを振る。しかしそれは悪手だったようで、白崎はハジメに追撃をかける。


「えっ!お昼それだけなの?ダメだよ、ちゃんと食べないと!私のお弁当分けてあげるね!」


やめてあげて!ハジメのSAN値はもうゼロよ!
俺?俺は隣の雫と苦笑いしながらその光景を見ている。


そんな空間に救世主(笑)が現れる。


「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の手料理を寝惚けたまま食べるなんて許さないよ?」


爽やかな笑顔でそう言うクソ之河にキョトンとする白崎。少々どころかかなり天然である彼女には、クソ之河のイケメンスマイルやセリフは通用しないようである。


「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」


白崎の天然発言に俺と雫は「ブフッ」と吹き出してしまう。お茶飲んでたら危なかった。クソ之河はあれこれと白崎を説得しているようだが、彼女には届かない。
何はともあれ、ハジメの周りには校内の有名人がほとんど集まっているため、視線を集めるのは必然的だ。ハジメの表情が死に始めた。


「ほら雫、出番だぞ。あのバカをどうにかs」


雫を仲裁のために送り出そうとした瞬間、俺の目の前、クソ之河の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れた。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。


え、また転生?俺これどうなるの?でもこれもしかしたら向こうの世界で一方通行の能力使えるかも。


クソ之河の足元に現れた魔法陣は徐々に広がり、教室全体に広がった。それを見た俺らのクラスの担任で、未だに教室に残っていた愛ちゃんこと畑山愛子先生が「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。


数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。


そうして俺は再び転生をすることになった。









 
 

 
後書き
一話で書き忘れてしまいましたが、悠斗は白髪赤眼のアルビノです。なので普段からフードを被り、外出時は日傘指してます。


感想や評価をして貰えると嬉しいです。


では3話で(・ω・)ノシ 
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