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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第91話

午前、10:00―――

それぞれ天守閣に続く橋を降ろす装置の前に辿り着いた両チームは装置を起動させてそれぞれの橋を降ろして天守閣へと向かうと、まず最初に主攻チームであるリィン達A班が天守閣に辿り着いた。

~グラーフ海上要塞・天守閣~

「あ、あれ…………?」

「鉄機隊がいないだと…………!?」

「神機はいるようだが…………」

「一体どういうこと…………?今までの結社の”実験”を考えたら連中は必ず神機の近辺に待機していたのに…………」
鉄機隊がいない事にミリアムとユーシスは驚き、ガイウスとサラは真剣な表情で中央に鎮座している神機を見つめた。
「クスクス、パパ達がいるから、敵わないと判断して逃げちゃったのじゃないかしら♪」

「た、確かにその可能性も考えられなくはないのですが…………」

「―――彼女達の誇り高さを考えると、そのくらいの理由で退くとは思えないし、何よりもブリオニア島で戦った時に分校長が自ら姿を現して自分達を裁くかもしれない可能性を覚悟の上で現れたと言っていたから、例え陛下達が俺達に同行していても分校長がここにいるのだから、彼女達は決して退かないだろう。」

「それ程の覚悟をもってフォートガードに現れたという事は鉄機隊はリアンヌ様何か言いたい事や聞きたい事があって、あえて姿を現したのかもしれませんね…………」

「……………………」
レンの推測にセレーネが答えを濁しているとリィンが静かな表情で答え、リィンの話を聞いたイリーナは複雑そうな表情で推測と口にしてリアンヌに視線を向け、リアンヌは目を伏せて黙り込んでいた。
「それにしてもあれが今回の実験で使われた”神機”か。」

「”彼女達”の話によれば、あの神機は転移もそうですが空間に干渉する能力がある事から他の2機の神機と比べると遥かに厄介な機体との事ですが…………」
そしてリウイとエクリアが警戒の表情で神機を見つめたその時
「はあはあ…………お待たせしました!―――って、え………」

「鉄機隊の姿が見当たりませんが…………」

「その代わり神機の姿はありますが…………一体どういうことなんでしょう?」

「まさかとは思うけどそこのガラクタとの戦いで疲弊したエヴリーヌ達に攻撃を仕掛けるために、まずエヴリーヌ達がそこのガラクタと戦うのを待っているとか?」

「いや…………神速を始めとした鉄機隊の面々はそのような合理的な戦術は好まないし、そもそも神機との戦いは今までの事を考えれば騎神(ヴァリマール)や機甲兵達を操縦しての戦いだから直接神機と戦う事になるリィン達はともかく、俺達にはほぼ無意味な戦術だ。」
ユウナ達B班も天守閣に辿り着き、プリネやツーヤは鉄機隊の姿が見当たらない事に戸惑い、エヴリーヌの推測にレーヴェは静かな表情で否定した。


「フム…………とりあえず鉄機隊の事は後回しにして、神機の無力化を先にした方がいいんじゃないかい?」

「ええ、そうですね―――!」
アンゼリカの提案にリィンは頷いたがすぐに神機が動く気配に気づいて血相を変えて神機に視線を向けると神機は起動して立ち上がり始めた。
「神機が…………!」

「どうやら今回の結社の”実験”で戦う相手は入れ替わるみたいね…………」
起動し始めた神機を見たアルフィンは驚き、エリゼは警戒の表情で神機を見つめた。
「だったら、まずはそちらの望み通り神機を無力化させてもらう―――ユウナにクルト、アルティナにゲルド、アッシュにミュゼ!セレーネ、ユーシスにミリアム、ガイウス、サラさん!プリネ皇女殿下にルクセンベール卿、エヴリーヌさん、レオンハルト准将にレン教官も!どうか―――力を貸してくれ!」

「応!!」
リィンの要請に仲間達は力強く頷き
「―――せっかくの機会ですから今回は私も加勢させて頂きます、シュバルツァー。」

「ありがとうございます、分校長!来い―――”灰の騎神”ヴァリマール!!」

「顕現せよ―――”銀の騎神”アルグレオン!!」

「来て―――パテル=マテル!!」
リィンとリアンヌ、そしてレンはそれぞれの相棒の名を呼んだ。
「ティータ、お願い!」

「ヘクトル、ケストレルを頼む!」

「現在地、ビーコンで補正します!」
一方ユウナ達は通信でティータ達に機甲兵を発進させるように連絡をした。
「ハアッ!?」

「”騎神”だと!?」

「銀色の”騎神”…………」

「えええええええっ!?それじゃあ”鋼の聖女”―――”槍の聖女”もリィンやクロウと同じ起動者(ライザー)の一人なの~!?」
リアンヌの背後に現れたアルグレオンを見たサラとユーシスは驚き、ガイウスは呆け、ミリアムは信じられない表情で声を上げた。


~地上~

「応…………!」

「―――――」
一方その頃リィン達からの連絡を受け取ったヴァリマールとパテル=マテルは飛び上がってリィン達の元へと向かい始め
「ブーストキャリア点火や!」

「3(ドライ),2(ツヴァイ).1(アインス),0(ヌル)―――」

「ヘクトル弐型、ケストレルβ、上昇(リフトオフ)…………!」
機甲兵のヘクトルとケストレルはティータ達主計科によって背中に装着したブースターを使って飛び上がり、ヴァリマール達の後を追って行った。
(リィン君、みんなも頑張って…………!)
その様子を見ていたトワはリィン達の武運を祈った。

~要塞内・外壁~

「あら?あれは…………」
同じ頃、ファーミシルス達と共に要塞内の外壁を進んでいたセオビットは飛行するヴァリマール達に気づき
「レンの”パテル=マテル”にリィンのヴァリマール…………?だったかしら。他は機甲兵ね。あら?でも確か機甲兵は飛べないんじゃなかったっけ?」

「RF(ラインフォルトグループ)の開発によって機甲兵が飛行できるブースターが実装されているから騎神達のように飛行できるのでしょうね。しかし騎神達を呼んだという事は天守閣での戦いは佳境に入っているのでしょうね。」
カーリアンの疑問に答えたファーミシルスは静かな表情で現在の状況を推測した。

~天守閣~

そしてヴァリマール達がそれぞれ天守閣に着陸するとリィン達はそれぞれが操縦する機体に乗り込み、レンはパテル=マテルの近くへと移動し、リアンヌは背後に現れたアルグレオンの中へと入って行った。
「おおっ!あれが話に聞いていた”騎神”とやらか!…………ぬ?」
ヴァリマール達が動く様子を興味津々で見ていたリフィアはそれぞれが持つARCUSⅡから光を放ち始めているエリゼ達―――特務部隊や新旧Ⅶ組の様子に気づいた。
「これが聞いていた…………!」

「何て鮮烈な…………」

「ふふ…………あたしも認めてもらえるなんて。」

「アーちゃん、がんばろーね!」

「はい…………!教官たちの力になるためにも!」

「…………あれが”騎神”を介してのリンク機能か。」

「確か話によるとリンクできるメンバーは灰の騎神(ヴァリマール)が封印されていたトールズ本校の旧校舎を攻略したメンバー―――旧Ⅶ組と特務部隊との事でしたが、唯一そのどちらでもないアルフィン夫人まで騎神とリンクできることは少々気になりますね。」

「ふふっ、アルフィン夫人までリンクできるようになった理由はもしかしたら起動者であるリィンさんと結ばれたからかもしれませんね。」
それぞれが戦意を高めている中リウイは興味ありげな様子でヴァリマール達とリンクしているエリゼ達を見つめ、エクリアの疑問にイリーナは苦笑しながら答えた。
「―――伝えた通り、あの機体は”空間”を操る。何をしてくるかわからない!様子を見つつ連携するぞ…………!」

「ハッ、いいだろう!」

「了解しました…………!」

「うふふ、それでは始めましょうか♪」

「ええ―――鉄機隊との決着をつける為の前哨戦、迅速かつ慎重に挑みましょう―――!」
そしてヴァリマール達は神機との戦闘を開始した!”空間”を操る神機は今までの神機と比べると手強かったが、アルグレオンというもう一体の騎神かつリィンよりも遥かに優れた起動者であるリアンヌが加勢したお陰で、ヴァリマール達は苦戦することなく着実にダメージを与えて神機を無力化した!



「―――うむ、見事じゃ!」
ヴァリマール達の勝利を見届けたリフィアは感心した様子で声を上げ
「やったああっ!!」

「アッシュにミュゼもよくやった…………!」

「よかった、これで…………」

「―――ううん、むしろ”ここからが本番”よ。」
リィン達の勝利にユウナ達はそれぞれ喜んでいたが予知能力によってある光景が視えていたゲルドは静かな表情で答え
「え………それは一体どういう…………?」

「―――大方”予知能力”で鉄機隊がこの後すぐに現れ、俺達と対峙する光景が視えたといった所か。」
ゲルドの言葉の意味がわからないペテレーネが不思議そうな表情をしている中既に察しがついたリウイは静かな表情でゲルドに問いかけるとユウナ達はそれぞれ血相を変えた。
「そ、そういえばまだ鉄機隊の方々が残っていましたわよね…………?」

「ええ…………兄様の話によると彼女達はリアンヌ分校長に裁かれる事も覚悟の上でこの地に現れたという事だから、恐らく彼女達にとって最も優先すべき目的はリアンヌ分校長と会う事でしょうし…………」

「―――その通りですわ。」
不安そうな表情で呟いたアルフィンの疑問に頷いたエリゼが推測を口にしたその時、娘の声が辺りに響き渡るとデュバリィ達鉄機隊が転移の魔導具によって姿を現した!


「”鉄機隊”…………!」

「フム…………想定通りやはり、神機の制圧後に現れたか。しかし、今回の”実験”はサザ―ラントやクロスベルの”実験”での流れと若干異なるようだが…………もしかして何か意味があるのかい?」
デュバリィ達の登場に仲間達と共に驚いたサラは警戒の表情で武装を構え、アンゼリカは真剣な表情でデュバリィ達に問いかけた。
「ほう…………”よく気づいた”と本来ならば称賛の言葉をかけるべきかもしれないが…………」

「―――未だ私達を”結社の所属”と判断している時点で、その答えは”的外れ”よ。」

「へ…………」

「その口ぶりだと今の貴女達は”結社”から抜けたように聞こえるが…………」
アンゼリカの推測にアイネスが感心している中、苦笑しながら答えたエンネアの答えを聞いたミリアムは呆け、ガイウスは困惑の表情でデュバリィ達に問いかけた。
「ええ…………ガイウス・ウォーゼルの指摘通り、”今の私達は結社の所属”ではありません。―――正確に言えば先程の”アイオーンTypeαⅡと灰色の騎士達の戦いが始まった時点で結社の鉄機隊としての私達の役目を終えていますわ。”…………最も、”英雄王”達の加勢に加えてマスターが操縦するその銀色の機体の加勢までは完全に想定外でしたが。」

「何だと…………!?」

「い、一体何の為にそのタイミングで結社からの脱退を…………」

「恐らく事情はリアンヌさん関連なんでしょうけど…………それでしたら何故、わざわざ元・北の猟兵達と協力してこの要塞を占領するような罪を重ねてまでリアンヌさんと会う事にしたんですか?会うだけでしたら他にももっと穏便なやり方があったと思うのですが…………」
デュバリィの答えを聞いたユーシスは驚き、セレーネが戸惑っている中、ツーヤは静かな表情でアルグレオンに視線を向けた後デュバリィ達に問いかけた。
「それについては我々も元・北の猟兵達と同じ穴の狢と言えば理解できるかな?」

「”元・北の猟兵達と同じ穴の狢”って………」

「…………なるほどね。アンタ達も連中のように”結社の鉄機隊としての意地”を見せる為に、今回の騒動に関わっていたのね…………」
アイネスの答えにユウナが目を丸くしている中事情を察したサラは複雑そうな表情でデュバリィ達を見つめた。
「ええ、そうよ。―――まあ、私達”鉄機隊”が終わりを迎えているのは2年前マスターが結社と決別し、”英雄王”に新たな忠誠を誓った時点でしょうね。自分で言うのもなんだけどお仕えするマスターを失ってもなお、2年も”既に終わった鉄機隊”を続けられたと思っているわ。」

「そして今こうしてこの場に現れたのはマスター―――いえ、あえてこの場では”シルフィア・ルーハンス卿”と呼ばせて頂きます。シルフィア卿からマスターの件も含めた更なる詳しい事情を聞くためですわ!」

「あ…………」

「”シルフィア・ルーハンス”…………?」

「確か”ルーハンス”はあの娘―――ミントがメンフィルから貴族の爵位を貰った時の貴族としての家名だそうだけど…………もしかして、何か関係があるのかしら?」

「…………第Ⅱ分校の件を聞いてからずっと気になっていたが槍の聖女―――いや、”鋼の聖女”が結社を離反してメンフィルに所属を変えた経緯は俺達も知らなかったな…………」

「そうだよね~。今までみんな忙しかったから、事情を知っていそうなプリネ皇女達から聞く暇もなかったもんね~。ちなみにアーちゃん達も鋼の聖女の件について何か知っているの~?」

「…………まあ、ある程度は。」
デュバリィの話を聞いたイリーナは呆けた声を出して辛そうな表情でアルグレオンに視線を向け、聞き覚えのない名前を聞いたゲルドは不思議そうな表情をし、サラは考え込み、ユーシスの疑問に続くように呟いたミリアムに訊ねられたアルティナは静かな表情で答えた。
「…………そうですね。ちょうどいい機会ですから、リアンヌ様が何故結社を離反してお父様に忠誠を誓った理由を皆さんにもお話しします―――」
するとその時プリネが静かな表情で申し出て、リアンヌの事についてリアンヌと同じ”転生者”の例としてエステルの事情も含めて説明をした。



「鋼の聖女―――いや、槍の聖女にかつて”メンフィルの守護神”と称えられた程の武人の魂が宿った事で、槍の聖女はその”シルフィア・ルーハンス”という人物の生まれ変わりになっただと!?」

「しかもその人物がメンフィル建国時からリウイ陛下達に仕えていたファーミシルス大将軍閣下達と同じ昔からの忠臣の一人にしてリウイ陛下の側妃の一人にしてシルヴァン皇帝陛下の母君でもあるとは…………」

「それにエステルまでメンフィルの関係者―――それも”英雄王”の側妃達の生まれ変わりだったなんてね…………」

「あの人、ただでさえ”カシウス・ブライト直系の娘にして空の女神の血族”なんていうとんでもない出自なのに、そこに加えて”英雄王”の側妃達の生まれ変わりだとか一体どこまでボク達を驚かせば気がすむの~~!?」

「つーか、そんな非常識過ぎるオカルトが実在するなんて、普通に考えてありえねえだろ…………」

「フフ、本物の天使や悪魔どころか神々や魔王まで実在するディル=リフィーナという異世界自体が私達ゼムリア大陸の人々にとっては非常識なのですから、分校長がそのシルフィア卿という人物の転生者という話も今更かと♪」

「クスクス、確かにディル=リフィーナと比べたら分校長の事情も”今更”よね♪」
事情を聞き終えたユーシスは驚きの声を上げ、クルトは信じられない表情で一端ヴァリマール達から降りたリィン達同様アルグレオンから降りたリアンヌを見つめ、サラとミリアムは疲れた表情を浮かべてエステルの顔を思い浮かべ、呆れた表情で呟いたアッシュにミュゼは微笑みながら指摘し、ミュゼの指摘にレンは小悪魔な笑みを浮かべて同意した。
(ア、アハハ…………皆さん、予想通りの反応でしたわね…………)

(ああ…………ただ、鉄機隊の口ぶりからして彼女達も分校長がシルフィア卿の生まれ変わりである事は分校長から聞かされていたようだが…………)
驚いている様子の仲間達を見て苦笑しているセレーネの小声に頷いたリィンは静かな表情でデュバリィ達を見つめた。
「―――それで私から詳しい事情を聞くためにこの場に現れたとの事ですが、一体何を知りたいのですか?」

「単純な話ですわ…………シルフィア卿、貴女は一体いつからマスター―――リアンヌ様からシルフィア・ルーハンスの生まれ変わりになったのですか?」
静かな表情で問いかけたリアンヌの問いかけにデュバリィは決意の表情でリアンヌに訊ねた。


「あ…………」

「確かにシルフィア様の転生した時期によっては彼女達は途中から主を失った事になりますね…………」

「あれ?そういえばシルフィアが転生した時期っていつだっけ?」

「”鋼の聖女”に生まれ変わった事までは俺達も”影の国”で聞いてはいたが、転生した時期までは聞いていなかったが…………」
デュバリィの問いかけを聞いて事情を察したペテレーネは呆けた声を出して辛そうな表情でシルフィアを見つめ、静かな表情で呟いたエクリアの言葉を聞いてある事が気になって来たエヴリーヌは首を傾げ、レーヴェは静かな表情で呟いてリアンヌを見つめた。
「…………―――いいでしょう。リアンヌ・サンドロッドの自我と一体化した結果”私”―――シルフィア・ルーハンスの生まれ変わりとなった時期は8年前、当時遊撃士であった”剣聖”カシウス・ブライトが指揮を取った各国の軍や警察組織の連携による外道の集団―――”D∴G教団殲滅作戦”の完遂を見届けた時です。」

「!!」

「そんなにも前からリアンヌ様は生まれ変わっておったのか…………」
リアンヌの答えを聞いたデュバリィは目を見開き、リフィアは目を丸くして呟いた。
「8年前のあの件…………という事は少なくても私がマスター達と出会う前ね。」

「私もだ。デュバリィ、お前はどうなのだ?お前が鉄機隊の中で最も早くマスターに見いだされた一番の古株だろう?」
一方当時の事を思い返していたエンネアの後に答えたアイネスはデュバリィに訊ね
「…………私の場合はギリギリではありますが、マスターと出会った時点で既にマスターはシルフィア卿になっていたようですわ。」

「!そうか…………」

「つまり私達は結果的とはいえ、最初からシルフィア卿にお仕えしていたのね…………」
デュバリィの答えを聞いて目を見開いたアイネスは静かな表情で呟き、エンネアは僅かに安堵の表情を浮かべて答えた。そしてデュバリィ達は少しの間黙り込んで互いの顔を見合わせて頷いた後リウイに視線を向けて口を開いた。


「―――”英雄王”―――いえ、リウイ・マーシルン前皇帝陛下。貴方に提案がありますわ。」

「鉄機隊が俺に提案だと?―――一体なんだ。」

「それは…………―――我ら結社の元・鉄機隊をマスター―――リアンヌ・ルーハンス・サンドロッド様直属の騎士としてお仕えする事を許可して頂く事です。」

「対価として先程灰色の騎士達が無力化したそちらの神機―――アイオーンαⅡを自爆させずにそちらに差し上げますし、今後はメンフィル帝国に仕えるマスターの剣として、そして盾としてメンフィル帝国の戦力となる事をお約束致します。」

「ですがその前に”結社の鉄機隊の最後の意地”を見せる為に、今回この場に現れた”特務部隊”メンバーとの決戦を許可して頂きたいのですわ。」

「な――――――」

「えええええええええええええっ!?鉄機隊が所属を結社からメンフィルに寝返る~~~!?」

「しかもその前にリィン達”特務部隊”と決戦をするとか、意味不明よ…………」

「それ以前に今回このような騒動を起こした貴様らにそのような都合がいい事がまかり通ると思っているのか?」
鉄機隊の驚愕の提案にリィンは思わず絶句し、ミリアムは驚きの声を上げ、サラは疲れた表情で溜息を吐き、ユーシスは厳しい表情でデュバリィ達に指摘した。
「ええ。―――NO.Ⅱの件を考えればメンフィル帝国は罪無き民達に刃を向けるような”外道”な真似をしなければ、例え結社や猟兵のような裏に生きる者達もメンフィル帝国自身が謳い文句としている”光と闇の勢力を区別せず、全て共存する”という謳い文句通り、受け入れています。エレボニア出身の貴方たちにとってはあまり面白くはない話でしょうが、メンフィル帝国とエレボニア帝国の”力関係”を考えれば、”この程度の些事”でしたら通ると思っていますわ。」

「それに確か例の灰色の騎士へ要請(オーダー)は結社の所属であった私達の処遇についても灰色の騎士―――メンフィル帝国に委ねられているのだから、メンフィル帝国が私達の処遇を決定するならば、エレボニア帝国政府も文句を言えないでしょう?」

「え”。」

「ア、アハハ…………まさかお兄様の例の要請(オーダー)をそのように利用してくるとはわたくし達も全く想定していませんでしたわね…………」

「というか、リィンに討伐か捕縛されるはずだった君達がリィンの要請(オーダー)を利用してメンフィルに投降するとか色々と間違っていない!?」
デュバリィとエンネアの答えに表情を引き攣らせて思わず呟いたリィンをセレーネは苦笑しながら見つめ、ミリアムは疲れた表情で指摘した。
「ど、どうしましょう、リウイ様…………?」

「神機―――それも神機の中でも”空間を操る能力”という最も優れた機体が手に入る事もそうですが、鉄機隊がレオンハルト准将のようにメンフィル帝国の戦力になる事はメンフィル帝国にとっても利は十分にある話ではありますが…………」
一方ペテレーネとエクリアは困った表情でリウイに判断を委ね
「…………ハア…………黒の工房や結社の戦力を確実に消耗させるためにわざわざ今回の件に介入したのに、こんな話になるとは完全に想定外だ…………―――が、確かにメンフィルにとっても悪くない提案ではあるな。――――――そういう訳だからリィン・シュバルツァー。鉄機隊の提案について文句はないな?」
判断を委ねられたリウイは疲れた表情で溜息を吐いた後気を取り直してリィンに確認した。
「は、はあ…………”蛇狩り”も関係している今回の要請(オーダー)に関しては”討伐”か”捕縛”ですから、自ら投降を申し出たこの場合だと一応”捕縛”という形になりますから要請(オーダー)通りですし…………というかそもそも要請(オーダー)を出したのは陛下達ですから、陛下達がそう判断した以上、自分には反論のしようがないですし…………」

「ちょっ、ええっ!?こんな大騒動を起こした人達を許して、今までの罪の償いもさせずにエレボニア帝国から庇うなんて間違っていません!?」

「ユウナさん、幾ら隠居の身とはいえ、リウイ陛下はメンフィル帝国の皇族でしかも、メンフィル帝国の初代皇帝ですよ。」

「…………無礼を承知で意見させて頂きますが、彼女の言う通り、エレボニア帝国政府に話を通す事もなくそのような事を独断で決めるのは筋が通ってはいないのではないでしょうか?」
リィンまでリウイの確認の問いかけに頷くと驚きの声を上げたユウナは真剣な表情でリウイを見つめて反論し、アルティナはリウイ相手にも怖気づく事無く意見するユウナに忠告をし、ユーシスもユウナに続くように真剣な表情を浮かべてリウイに意見をした。
「我らメンフィルは先程”神速”が口にしたように、本来ならば敵対同士となるであろう光と闇の勢力を区別せず、全て受け入れて共に生きる―――”全ての種族との共存”を謳っている。レオンハルトの例のように、メンフィルは過去敵対関係であった者達も我らメンフィルの謳い文句にして理想である”全ての種族との共存”に恭順を示すのであれば、”外道”でなければ受け入れている。そもそも列車砲の件もそうだが、この要塞の不当占拠の”主犯”は元・北の猟兵で、結社の関係者の処遇についてはリィン・シュバルツァーへの例の要請(オーダー)にもあったように我らメンフィルに優先権がある。よって、鉄機隊の処遇についてエレボニア帝国政府がリィン・シュバルツァーに要請(オーダー)を出した時点で口出しする権利はない。」

「…………それは…………」

「……………………」

「…………確かに結社の関係者の処遇も任せられている例の要請(オーダー)を持ち出されると我々としても反論し辛いですね。―――ちなみにまさかとは思いますが今回の件も、もう一人のエレボニア側のカイエン公爵候補と話がついているのですか?」
リウイの正論に対して反論し辛いユーシスは答えを濁し、サラは複雑そうな表情で黙り込み、アンゼリカは疲れた表情で溜息を吐いて気を取り直して一瞬だけミュゼに視線向けた後真剣な表情でリウイに訊ねた。
「さすがに鉄機隊の件までは想定外の為、例のもう一人のエレボニア側のカイエン公爵候補にもまだ話は通していない―――が、向こうも我らメンフィルと自分達―――エレボニア側のカイエン公爵家を含めたエレボニアの貴族勢力の和解の為に”普通に考えれば非常識な条件”をこちらにも求めてくるだろうから、こちらがその条件の一部を受け入れる事を条件にすれば鉄機隊の件についても呑むだろう。」

(クスクス、少なくても自分がリィンお兄さんの伴侶になる条件は確実にレン達に呑ませるでしょうね♪)

「………フフッ……………」

(あん…………?)

(あの娘ったら、メンフィル帝国にどんな条件を求めるつもりなのかしら…………?)
リウイの答えを聞いたレンは小悪魔な笑みを浮かべ、静かな笑みを浮かべているミュゼの様子に気づいたアッシュが眉を顰めている中アルフィンは疑惑の目でミュゼを見つめていた。
「―――それとユウナ・クロフォード。お前の言っている事は2年前のクロスベル動乱の主犯の一人である”風の剣聖”アリオス・マクレインにも当てはまる事に気づかないのか?」

「そ、それは…………で、でも!アリオスさんは今もノックス拘置所で罪を償っていますし、ご自身の罪を償う為に先月のクロスベルで起こった結社の”実験”の時も教官達に協力してくれましたよ!それに対して、鉄機隊の人達は結社時代に犯した罪を償っていないじゃないですか!」
リウイに指摘されたユウナは辛そうな表情で一瞬答えを濁したがすぐに反論した。
「その件に関しては心配無用だ。――――少なくても鉄機隊にはお前の目でも確認できる償い方を考えている。」

「「へ。」」

「ふむ…………一体どのような償い方になるのだろうな?」

「フフ…………私はどういう形で償う事になるか、今のリウイ陛下の話を聞いて何となく予想はできたわ。」
リウイの答えにユウナとデュバリィの双方が同時に呆けた声を出している中、興味ありげな様子で考え込みながら呟いたアイネスにエンネアは苦笑しながら答えた。


「それと念の為に確認しておくがリアンヌ、鉄機隊はああいっているが、お前自身の答えとしてはどうなんだ?」

「…………二つ、彼女達に確認したい事があります。デュバリィ、シュバルツァー達―――”特務部隊”を”結社の鉄機隊最後の相手”として選んだ理由は”七日戦役”でのメンフィル帝国軍によるパンダグリュエル制圧作戦から始まった因縁の相手だからですか?」

「ええ、そうですわ。欲を言えばリアンヌ様だった頃のマスターがお仕えしていた主であるかの”獅子心皇帝”が建てた学び舎で学ぶ者達であり、特務部隊の者達と共に何度も私達の前に立ち塞がった”Ⅶ組”とも決着をつけたかったですが…………彼らは特務部隊と違い、メンフィル帝国による指示に従う義務は存在しませんから除外したのですわ。」

「フフ、ちなみに灰色の騎士達に加勢したかったら加勢しても構わないわよ?―――本気になった私達”鉄機隊”には人数による戦力差は関係ないもの。」

「うむ、むしろ我々にとってはより闘志を燃やせる戦いとなるだろう。」

「―――まあ、アルゼイドの娘や西風の妖精(シルフィード)を欠いて”紫電(エクレール)”頼りである旧Ⅶ組と、マスターの薫陶のお陰で”少々実力を付けた程度の新Ⅶ組”が灰色の騎士達に加勢した所で大した障害ではありませんもの。」
リウイに促された後に問いかけたリアンヌの質問にデュバリィが答えた後エンネアとアイネスはそれぞれ不敵な笑みを浮かべてユーシス達を見回し、デュバリィは新旧Ⅶ組に対する挑発の言葉を口にし、それを聞いたⅦ組メンバーを除いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「あんだと…………!?」

「むっかー!そりゃラウラやフィーはボク達旧Ⅶ組じゃ最強コンビだけど、だからと言って二人やサラがいなくてもボク達でも君達と十分渡り合えるよ~!」

「フン、安い挑発だな。――――――だが、北の猟兵共の”全力”に応えてやったリウイ陛下のように、かのドライケルス大帝が建てた”トールズ”出身として俺達も”鉄機隊の意地”を見せようとする貴様等の本気に応えてやる為に、あえてその挑発に乗ってやる。」

「内戦で何度も戦った鉄機隊との決戦…………リィン達特務部隊だけに任せるのは”筋が通らない”。だからリィン、オレ達も加勢させてもらう…………!」

「及ばずながら自分達新Ⅶ組も加勢させて頂きます…………!」

「フフ、私達もブリオニア島でつけられなかった決着をつける権利はありますものね♪」

「うん、それに私達も”Ⅶ組”だから、彼女達の全力に応える義務はあるわ。」

「ふふっ、今回は教え子達はあたしの助けを必要としなさそうだし、あたしは高見の見物をさせてもらいましょうか。」

「フッ、では彼女達との因縁が薄い我々もサラ教官と共にリィン君達やⅦ組のみんなと鉄機隊の決着を見届けましょうか、殿下。」

「ええ、そうですわね。」

「ぬう~…………こんなことになるのじゃったら、余も特務部隊への参加に申し出るすべきじゃったな…………」

「例え申し出ても幾ら何でもリフィアお姉様の特務部隊への参加はお父様もそうですがシルヴァンお兄様も許可しなかったと思いますよ、リフィアお姉様…………」
デュバリィの挑発に乗ったアッシュとミリアムはデュバリィを睨み、ユーシスは鼻を鳴らした後真剣な表情で答え、ガイウスとクルトはリィンに参戦を申し出、微笑みながら答えたミュゼの答えにゲルドは頷き、その様子を見守っていたサラとアンゼリカ、アルフィンは観戦する事に決め、残念そうな表情で呟いたリフィアにプリネは疲れた表情で答えた。
「ア、アハハ…………何が何だか…………」

「何でもいいからさっさと遊ぼ。前よりは楽しめそうだしね、キャハッ♪」

「やれやれ…………だが、心しておけ―――”星洸陣”を使った鉄機隊はかつての俺の”本気”に迫る程の連携力だ。」

「かつてのレーヴェさんの”本気”に迫る程ですか…………確かにそれならば数の利は活かせないかもしれませんね。」
セレーネは苦笑し、エヴリーヌは無邪気な笑顔を浮かべ、呆れた表情で溜息を吐いた後気を取り直して答えたレーヴェの話を聞いたツーヤは表情を引き締めてデュバリィ達を見つめた。


「フフ…………―――デュバリィ、エンネア、アイネス。最後の確認ですが…………貴女達は私が”アリアンロード―――リアンヌ・サンドロッド”ではない事を承知の上で、再び私の下で研鑽を積みたいのですか?」
それぞれ闘志を高めているⅦ組や特務部隊の様子を見て微笑んだリアンヌは気を取り直してデュバリィ達に問いかけた。
「はい!…………大陸辺境の小貴族に生まれ、故郷と家族を喪い、両親の仇を取る事もできずに嬲られようとした哀れな小娘がせめて一対一となるよう、間引き…………仇を取った小娘を拾い、根気よく導いて下さったのはマスター―――シルフィア卿であることは変わりませんもの。そしてそれはエンネアとアイネスも変わりませんわ。」

「ああ…………一度は遊撃士協会(ギルド)に所属した事もあったが、規約に縛られた遊撃士の紋章など投げ捨てて構わないと思える程の気高く、慈悲深く、しかし容赦なく悪を断つあの武に一目で魅せたのは貴女です―――マスター。」

「フフ…………かのD∴G教団による幼い頃からの洗脳と異能開発された私と死闘を繰り広げ、敗北してそのまま果てる事も受け入れようとしていた私に『せめて己の目で世界を見てみなさい』なんて言ったのは貴女なのですから、責任をもってこれからも私を導いてください。―――どんな事情があってもマスターはマスターですよ。」

「ハアッ!?」

「このタイミングでさり気なくとんでもない事実を連続で暴露するとか理解不能です。」

「へえ?まさか鉄機隊の一人が”教団”の関係者だったなんて、凄いスクープね♪」

「…………彼女達の出自についてレーヴェは知っていたのかしら?」

「―――いや、”神速”が帝国貴族の出身であることは知っていたが他の二人に関しては初耳だな。」

「…………彼女達がリアンヌ分校長に心酔している真の理由が今ようやくわかりましたね。」

「ああ…………」
リアンヌの問いかけに頷いた後に答えたデュバリィ達が口にしたそれぞれの驚愕の過去に仲間達がそれぞれ驚いている中サラは思わず驚きの声を上げ、アルティナはジト目で呟き、レンは興味ありげな様子でエンネアを見つめ、プリネに訊ねられたレーヴェは静かな表情で答え、エリゼの言葉にリィンは静かな表情で頷いた。
「そうですか…………―――いいでしょう、ならば私はトールズ第Ⅱ分校の分校長として、そして鉄機隊の主として此度の決戦、見届けさせて頂きます。―――双方、全力をもって遺恨を残す事なく正々堂々互いの決着をつけなさい!」

「イエス・マム!!」

「イエス・マスター!!」
デュバリィ達の答えを聞いて静かな笑みを浮かべたリアンヌは双方に対して指示をし、リアンヌの指示に対して双方はそれぞれ力強く答えた後リィンは”鬼の力”を解放し、デュバリィ達”鉄機隊”は互いを結び合う事で様々な恩恵を受けられる戦術リンクに似た能力―――”星洸陣”を発動し
「おおおおおおお…………っ!」

「はああああああ…………っ!」
リィンとデュバリィが同時に雄たけびを上げながら突撃し始めた事を合図に決戦を新旧Ⅶ組と特務部隊のメンバーは鉄機隊との決戦を開始した――――――
 
 

 
後書き
3章は残り全てが完成しましたので、今日から3章が終わるまでは久しぶりの連日更新をします。ちなみに3章は最後の最後で唯一まだ登場せず、光と闇の軌跡シリーズや運命が改変された少年シリーズで皆勤賞だった戦女神シリーズのあのキャラがようやく登場します!(ニヤリ)なお、鉄機隊戦のBGMは碧の” Unfathomed Force”か閃Ⅳの”Endure Grief”のどちらかだと思ってください♪ 
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