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人理を守れ、エミヤさん!

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風前の灯、少女達の戦い (後)





「――ほう、ほう。これはこれは、錚々たる顔触れじゃないか」

 アグラヴェインの号令が下った次の瞬間、突如として人理継続保障機関フィニス・カルデアの心臓部、中央管制室に濃霧のような霧状の魔力が立ち込んだ。
 床を舐める毒ガスじみた魔力の霧。其処から立ち上がるは竜の牙で構成された骸骨兵。槍、剣、弓で武装した雑兵。空間を縦に引き裂いて姿を現したのはカルデアに縁深い男である。
 鬣のように蓄えられた錆色の髪、深緑のコートと紳士然としたシルクハット。そして他者を見下した面構え。魔術師然としていながら、何処か俗的な人間臭さを感じさせる瞳。

 人間を遥かに超え、数騎のサーヴァントにも比する膨大な霊基規模を備えたその男は名を――レフ・ライノールといった。

「レフ……!?」

 知己の間柄だったロマニが眼を見開く。
 カルデアの実働に貢献した魔術師、人類の裏切り者、死んだはずの男。その遺体は今も医療施設に安置され、研究と解析が進められている。
 貴重な魔神柱のサンプルだった。その遺伝子情報や体内の魔術式も大方の解析を終えている。だが魔術王であるロマニをして読み解くのが困難なブラックボックスがあった。英霊の霊基では足りない――生前の魔術王でなければ至れない式だ。
 だがブラックボックスの中身、その一部の内容が現在の状況が結び付き、思い至る。まさか! と。

「ああ、クソッ! レオナルド、逆探知されたのか!?」
「いやそれらしき干渉は全て絶った! カルデアの座標はまだ掴まれていないはずだ!」

 ダ・ヴィンチをして、レフの出現は慮外のものだった。愕然と眼を見開き、驚愕も露に計器を流し見る。しかしそこに異変はなんら見当たらず、外部からの干渉は悉く跳ね除けている痕跡だけがあった。
 やはりかとロマニは悔しそうに呻く。逆探知による侵入ではないのなら、彼の中で確信的な答えは一つしか有り得ないのだ。

レフの亡骸を触媒にして逆召喚したのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)!?」

 魔術王ソロモンは召喚術に特化した冠位魔術師だった。人理焼却の実行犯がソロモンではないかと目されているのであれば、それは想定して然るべき魔術である。ロマニは己の見込みの甘さに歯噛みする。ロマニは認識した、魔神柱は不死であり、その不死は七十二柱の魔神の特性で総体を滅ぼし尽くさない限りは不滅のものだと。
 ならレフは死なない。死んでいないならば、その骸をカルデアに置くのは自殺行為だ。可及的速やかにレフの亡骸を破棄しなければならない! レフ・ライノール・フラウロスはロマニの叫びにやや意外そうに眼を瞬いた。

「まさか思い至ったのか、お前が? はははは、これはいい! 昼行灯を気取っていたのか、ロマニ・アーキマン! その通り、お前達は私をこのカルデアに招待してくれたも同然なのだよ」

 嘲笑する悪意。得意気に明かす真実は、堅実に敵の正体を探ろうとしたのがそもそもの間違いだと糾弾していた。
 竜牙兵が不揃いなマリオネットのように関節を鳴らす。仰々しく両手を広げ、舞台役者の如くにレフは醜悪に嗤った。

「ごきげんよう、そしてさようなら、だ。お前達の旅は此処で終わる。他ならぬお前達自身の傲慢が! お前達を滅ぼすのさ!」

「――遺言はそれで終わりか? 招かれざる客、早々にお帰り願おう」

 宝具『時のある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)』が起動する。
 不意討つは冬木の焼き増しの如く赤いフードの暗殺者。穿つは第二宝具、魔術師殺しの代名詞足る『神秘轢断(ファンタズム・パニッシュメント)』である。雑兵悉く無視しての暗殺者の一撃は、過たずレフの背後を襲いその心臓を貫いた。ゴボと吐血したレフは、しかし。己を背後から貫くナイフの感触に刷いた笑みを絶やさない。

「アサシンか……つくづく芸のない……」

 レフが斃れる。そのまま骸は魔霧に溶けて消えていく。だがレフは嗤っていた。

「莫迦め。そう何度も同じ手で私を――」
「煩い蝿だ。黙っていろ」

 尚も囀ずるレフの頭蓋に、アサシンはコンテンダーの銃口を向けて発砲する。弾け飛ぶ頭部に、イリヤが短い悲鳴をあげた。アサシン……切嗣はそれにぴくりと反応するも、それだけだ。
 レフが穿たれたのと同時に動き出していたアルトリアとアタランテが、竜牙兵を一掃する。そうして侵入者は撃滅され――

「ははははは! この私を一度は殺してくれたお前に、私が注意を割いていないと思ったか?」

 ――次の瞬間には、フィルムを逆巻いたように再生していく。

「これは……!?」

 現れたのは竜牙兵だけではなかった。

 低位神格を持つ、異境の民が祀る異形の蛮神。常人を遥かに超える巨躯、蝙蝠のそれに近い禍々しい翼、山羊のような捻れた大角、黒々とした皮膚。蛮人の神悪魔(デーモン)と呼称される怪物がいた。獅子の頭と胴、山羊の後ろ足と頭、尾として生える蛇を持つキメラが。最上位の亡霊に等しい魔性の霊、エンシェントゴーストが。
 強力なエネミーが同時に多数出現したのだ。この中央管制室に。それだけではない。嘗て与しやすいと侮られていた魔神柱が今――カルデアに未曾有の大打撃を与える真の姿を明らかにする。

「顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり」

 居合わせた職員が、戦闘に巻き込まれる恐怖を飲み干して喚起した。医療区画より大規模な魔力反応! ――召喚魔術です! 此処に、管制室に魔神柱が!?
 アグラヴェインが剣を抜く。クラスを持たないサーヴァントとはいえ、戦闘が不可能な雑兵ではない。鉄の司令塔は油断の欠片もなく、そして危機に在りても鉄面皮に揺らがさず指令を発した。

「ロマニ・アーキマン、レオナルド・ダ・ヴィンチ。各区画の破壊を防ぎに向かえ。アーチャー、アサシン、ハサン! お前達は敵エネミーの殲滅だ。王よ、あなたは魔神柱を撃破していただきたい。私も援護します」

 ――魔神柱、顕現――

 カルデアの床を下から貫くようにしてその肉の柱が具現化する。多数の魔眼の眼球が、嘲弄の念も露に全ての者を見下した。嘲った。
 警報が鳴り響く。赤いランプが点灯する。レフは確かに殺された。だが死んだとて復活する触媒はカルデアにあるのだ。この器を用いての顕現である。カルデア内部に巨大な魔神柱が発生した事で、たちまち渡り廊下や壁面、電灯を破損させてしまう。

 敵エネミーが一斉に動き出した。アタランテが迎撃の矢を放つ。アサシンが舌打ちして短機関銃を掃射した。百貌のハサンが雑魚の掃討に乗り出す。分裂する暗殺者の統制の取れた連携は、あくまで竜牙兵のみを狙ったものだ。
 アルトリアが風の鞘を解く。裂帛の気合いと共に疾走し、その背後を黒い甲冑を纏った騎士が追う。魔神柱が凝視した、魔眼が無作為に魔力を発してカルデアの設備ごと蹂躙せんと嘲笑を爆発させた。

 イリヤは、震え上がった。

 明確な殺意、殺気――命の危機が、彼女を総毛立たせる。
 死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない――! 竜牙兵が剣を振り翳してイリヤに躍りかかった。それを砕いたのはダ・ヴィンチの腕に嵌め込まれた巨腕、打ち出されたパイル・バンカーである。

「御免ッ! 私はもう行く、カルデア内に湧いた敵が此処にしかいない訳じゃないんだ。イリヤスフィールちゃん、踏ん張ってくれ!」

 駆け去り際に、ロマニはイリヤの肩を叩いた。魔神柱にすら気取らせぬ魔術が掛けられる。イリヤと桜、美遊を繋ぐレイラインの構築。そして彼女へと付与される身体硬度の増す防御魔術。ロマニは苦渋の顔で言った。逃げてもいい、だから生き延びてくれ――

 生存本能の訴える悲鳴が五月蝿い。哭き喚くような心臓の鼓動。ダ・ヴィンチの激励、ロマニの優しさ――イリヤは挫けない、ここで立ち往生していては、それこそ死に至る。死の恐怖に支配されながらも、生き残る芽があるなら止まらないのが彼女の本質だった。
 瞭然たる脅威。進撃せんとする敵性体。己を眼中にも入れていない魔神柱。誰も期待せず、見向きもされていなかったイリヤは吼えた。

「ぁ、ぁぁあああ――ッッッ!!」

 満身から吼えた。腹の底から咆哮した。
 そして己の頬を叩いて怯懦に竦む心に活を入れ、イリヤは人間として、生物として立ち上がった。

「桜ちゃん! お願い、行って!」
「……っ!」

 幼い少女の体を覆う黒い甲冑。繋がれたパスを通じて注ぎ込まれるのは令呪の魔力。脆い体の耐久が、少女が実戦に耐えられるように、令呪の頑強さが一時的に鎧われる。
 桜の未熟な肉体には、サーヴァントの霊基は厳しすぎると聞いていた。その身を慮れる優しい思いに後押しされ、抜き放たれるは魔剣アロンダイト。小さな体には余りにも不釣り合いな剣を、桜は内なる霊基に導かれるまま握り締める。
 恐怖は不思議なほどない。いや、ある。あるのに、体はまるで固くない。力強い霊基が教えてくれる。勇気の持ち方を、武器の使い方を、宝具の力を。そして如何なる精神状態であっても翳らぬ無窮の武練を。桜は大きな安堵感に包まれた。この霊基(ひと)が一緒に居てくれる……優しい人が勇気を分けてくれる……わたしは、大丈夫。

 魔剣を引き摺るようにして桜が走り出した。魔神柱が眼を剥く。こんなにも幼い少女があの娘と同じデミ・サーヴァントである事に少なくない驚愕と、関心を抱いたのだ。

 アルトリアが囁く、「風よ――」魔霧を周囲に蔓延しないように封鎖する竜巻だ。辺りに一切の風圧を及ぼさせず、制御されたそれはエネミーを取り囲む。桜が魔剣の切っ先を引き摺りながら走り、小さな弾丸の如く竜巻を突破した。そして不慣れな気合いが口腔より迸る。一閃が竜牙兵を砕き亡霊を容易く切り裂いた。蛮神の眼が悍ましい光を発する。桜は回避しようとして、その前にアルトリアが飛び出し桜を守った。
 高位の対魔力を貫いて着弾した眼光は、しかしアルトリアの堅牢な鎧に煤をつけただけだ。アルトリアは横目に桜の無事を確認する。

「イリヤスフィールとミユはコフィンを!」
「はい!」「分かりましたっ」

 赤と青のカレイドステッキを握った少女達が魔法少女カレイドルビー、カレイドサファイアへと変身するや、マジカル・ルビーが奇声を発した。

『おお! 久々の! 召喚されて以降久々の出番とセリフ――』
「は……? は――ははははは!? なんだ、なんだそれは!? カルデアは一体いつから色物を混ぜ合わせた!? 面白い、笑わせてくれる。こんな人類(もの)……残す価値などないな」

 失笑が溢れる。魔神柱は嘲笑っていた。少女達の奮起を、果敢に戦わんとする勇気を。
 無駄だ、無駄だ、守るものがあるのだろう? 命より大事なカルデアの発明品があるのだろう? コフィンに入っている生身の者らを守らねばならないのだろう? 全てを守り抜く? 多勢に無勢だ、出来はしない。元より魔神柱フラウロスに『勝利してやろうという目的はない』

 真っ先に気づいたのはアグラヴェインだった。

 周囲の者に気を配るアルトリアよりも、アグラヴェインは只管に魔神柱の隙だけを伺っていたのだ。故に気づけた。
 多数の魔眼の齎す破滅の魔力、その颶風。際限なく湧き出る竜牙兵をはじめとするエネミーを斬り伏せながら、アグラヴェインは目前にしていた蛮神の爪に晒されるのにも構わず跳躍した。
 魔神の凝視が熱線を放った。狙われたのは疑似地球環境モデル・カルデアスである。遠巻きにして、ハサンに守られていた職員が悲鳴を迸らせ、

「ッッッ!!」

 アグラヴェインが身を呈してその熱線よりカルデアスを庇った。

「アグラヴェイン!?」

 アルトリアが驚愕する。彼の甲冑を貫通した熱線が、アグラヴェインの胴を大きく抉っていたのだ。直前に蛮神の爪を背に浴びていた事も合わさり重大な負傷である。
 だが断固としてアグラヴェインは吼えた。

「陛下ッ!」
「――!」

 同じ円卓を囲った同胞である。アルトリアはその遺志を汲み取って馳せた。辺り一面無作為に迸る、魔神柱の魔の力の籠った視線を掻い潜る。
 魔神柱はアルトリアにまるで注意を向けなかった。眼中にないのではなく、気にする必要はないという意識が透けて見える……。
 醜悪な肉の柱を聖剣が切り裂いた。痛打を浴びせられても魔神柱はなお、無数の魔眼から夥しい熱線を発していた。アルトリアが吼える。させじと、迅速に斬り倒すと。だが魔神柱の生命力は強大だった。幾度も聖剣の斬撃を浴びても。体当たりのように桜が魔剣を突き刺しても力尽きない。

 魔神柱フラウロスは分かっていた。弁えていた。単独でカルデアを打倒する事は不可能だと。勝利を目指すのは現実性の欠けた目論見だと。故に彼は、

 カルデアの設備を破壊する為だけに現れたのだ。

「おぉぉぉおおお――ッッッ!」
「司令官代理に遅れるなッ!」
「させるか……!」

 アグラヴェインが更に体を楯とする。死力を尽くし、命を賭けて守護する――命じるだけではない、有言実行する指揮官がいた。
 カルデアスに浴びせられる熱線を悉く防ぐ。剣が熔け鎧が爆ぜると、腕を楯にし体を楯にする。
 無数のハサンが、嘗めるように走る魔の視線から近未来観測レンズ・シバや、霊子演算装置・トリスメギストスを死守して消滅していく。

「は、はは、はははは――!! 英霊ともあろうものが、己を捨て石とするか!?」

 魔神柱が飽きる事なく嘲笑していた。嘲り、罵り、見下し――健闘を讃える響きが根底にある。
 だが苛烈な熱線は留まる事を知らない。魔神柱を基点に無限に湧くエネミーを、切嗣は迅速に処理していきながらアタランテに鋭く言った。聖剣や魔剣の斬撃を浴びる端から再生する魔神柱へ標的を変えろと。

「アーチャー、雑魚の掃討は僕に任せろッ。君は魔神柱に」
「!? だがそうなれば多勢に無勢――いや、分かった。頼むぞ!」
「『時のある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)』……!」

 切嗣が再度宝具を起動する。彼の銃撃が竜牙兵を塵芥とし、ナイフで蛮神を刻む。そうしながらイリヤの背後に迫っていたキメラの口に腕を突っ込んだ。

「イリヤぁ!」
『イリヤさん、後ろですっ!』
「え?」

 美遊の悲鳴、ルビーの喚起。イリヤが振り向く先に、赤いフードの暗殺者が立っていた。彼女を噛み砕かんとした牙で腕を圧搾され、しかしコンテンダーの銃撃を口腔より脳天に貫通させた暗殺者は、立ち竦む白い少女を首を巡らせて振り返り……背中越しに声を掛けた。

「無事か」
「ぇ……お父……さん?」

 イリヤはその背中に――普段は情けない、自分の父の後ろ姿を幻視する。
 暗殺者はそれに応えない。端的に告げる。

「火力は申し分ない。だが、立ち回りが致命的だな。とても見れたものじゃない」
「ご、ごめんなさい……!」

 淡々としながらも、切嗣は短機関銃の射撃を止めなかった。イリヤは切嗣の顔が見えない故に、その腕の傷の酷さに顔を青くしていたが――続く切嗣の言葉に眼を白黒させた。

「少しはそこの、美遊という娘を見習え。だが今すぐに学習しろというのも無理な話だ。担ぐぞ」
「え? え? わ、わわわわ!?」

 切嗣は短機関銃を捨てると、無造作にイリヤの矮躯を担ぎ上げた。大いに慌てるイリヤを無事な腕で抱えると、彼は合理的に言う。

「立ち回りは僕がやる。君は敵を撃つことだけに集中しろ。いいな?」
「は――はいっ!」

 頼りになる……不思議と安心する。イリヤはこんな時なのに胸を踊らせた。切嗣はフード越しに美遊を見る。

「美遊・エーデルフェルト」
「は、はいっ」
「君に言うことはない。その調子でやればいい。コフィンの守りを任せる。二十秒保たせるだけでいい」
「……はい!」

 美遊はこの暗殺者に苦手意識があった。只管に苦手、それだけ――なのに、間違いはないと信じられるのは何故だろう。
 切嗣が加速する。自身の常識を超える超速にイリヤは眼を回しそうになりながらも、ルビーの補助のお蔭か誤射もなく次々と雑兵を駆逐していった。イリヤの持つ膨大な魔力にものを言わせた魔力弾は、エンシェントゴーストやキメラ、デーモンをも次々と屠っていく。
 無限に湧き出るエネミーの数が目に見えて削れていくではないか。イリヤは己を肩車する暗殺者が――士郎や英霊エミヤのように、自分に近しい誰かなのでは……もしかすると、あの人なんじゃないかと感じ始めていた。

 敵の出現するペースを上回る撃破効率。切嗣は宝具の酷使に口から血を溢れさせているが、フードの下にそれを隠していた。

 アタランテが魔神柱の撃破に参加する。削り切らんと弓を引き絞った。刻一刻とハサンが消滅していく。百体の山の翁が半数を切った。
 そして――アグラヴェインが血塗れになり、両腕を失った体で。口に、英霊エミヤが投影して備蓄していた宝具を咥えた。

「勝機を作る。これ以上はさせるものか――!」

 投影宝具は、真名を金剛杵(ヴァジュラ)という。使い捨ての投擲弾、それを咥えた鉄の男が決死の形相で突貫した。

「アグラヴェイン……!?」
「王よ、先に逝く不忠……御許しを……!」

 アグラヴェインは魔神柱に突撃し、金剛杵を叩きつけ、その霊基ごと爆散した。魔神柱が苦悶する。大きな風穴が空いた。アルトリアは激情の任せるままに、されど一寸の冷徹さを損なわず風を束ねた。

「桜、ランスロット! 合わせろ!」
「は……いっ!」

 魔剣に魔力が充填される。聖剣に束ねられた風王鉄槌が打ち出される。それは魔神柱を貫通し、魔神柱の背後で跳躍した湖の騎士の魔剣が、貫いてきた風弾を相殺した。魔神柱が哄笑する。その身が致命的な損傷を受けて、再生が叶わないと悟った故に。

「おめでとう、諸君の勝ちだ。おめでとう、おめでとう! そして――は、ははは! これからも是非とも頑張りたまえ! 諸君がそれで何処まで行けるか、見物だな!?」

 ハハハハ! フラウロスの嘲りが木霊する。

 魔神柱の撃破と共に、エネミーの出現は止んだ。急ぎ残敵を駆逐すると、後に残ったのは交戦の結果残された爪痕だった。
 カルデアの職員達は顔面を蒼白にする。アルトリアや、切嗣、アタランテ……彼らは顔を険しくする。勝利の喜びなどない。その空気に生き残った安堵感に浸る事は、イリヤや桜、美遊にも出来なかった。

 被害は、甚大ではない。されど軽微でもない。細やかな損害すら致命傷となるカルデアの心臓部で、人理の守護者達は立ち尽くした。












『被害報告:
  脱落者:アグラヴェイン、百貌のハサン
 設備損害:疑似地球環境モデル・カルデアス、損傷皆無
      近未来観測レンズ・シバ、損傷皆無
      霊子演算装置・トリスメギストス、損傷皆無



      疑似霊子演算器、小破
      ・レイシフト召喚、喚起システムに影響あり

      守護英霊召喚システム・フェイト、中破
      ・霊基(セイントグラフ)データ破損
      ・新規サーヴァントの召喚不可
      ・再召喚不可
      ・早急なる修復の必要性を認む

      事象記録電脳魔・ラプラス、小破
      ・レイシフト対象の保護機能に狂い

      霊子筐体、不明
      ・損傷は見られない。しかしなんらかの術式の反応が埋め込まれている』




 
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