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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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二十二 忍びの闇

 
前書き
大変お待たせしましたぁ―‼

ダンゾウが悪役ですのでご注意ください!



 

 
「アンタは…自分の部下を見殺しにする気か!!」

五代目火影の剣幕に、志村ダンゾウは涼しげな顔で答えた。

「部下…?ふん、勘違いしてもらっては困る」

水戸門ホムラとうたたねコハルのご意見番を前に、ダンゾウは冷ややかな目をゆるゆると細めた。

「あやつらは、もともと大蛇丸の部下だった。それを返却するだけだ」
「ハッ!自分の部下を物扱いかい?」
「ワシの手駒の中でも役に立たない捨て駒を返して何が悪い」


しれっと答えるダンゾウに向かって、綱手は目の前の机を叩いた。
随分力を抑えたものの勢い余って罅が入った机を、ダンゾウは横目に眺める。


「短気なのは相変わらずだな、綱手姫」
「……アンタも相変わらずだね」


『根』の創始者であり、『忍びの闇』と評される志村ダンゾウを、綱手は苦々しげに見やった。





つい先ほど火影室に訪れたご意見番のホムラとコハルの二人によって、突如開かれた会合。
案の定、波風ナルの処遇に関する内容に、綱手は溜息をつく。

『暁』から得た情報である天地橋。
そこで大蛇丸が現れるという情報により、ナルを向かわせるはずが、どこから聞きつけたのか、ご意見番が出てきたことに、綱手は顔を顰める。もっとも聞きつけた情報源はわかっている。


視線を彷徨わせる傍らのシズネを睨みつけると、綱手はご意見番に自分の意見を押し通した。

なんとかナルが天地橋へ向かうことを承諾させたものの、追加の班員に関してはこちらで用意した忍びをつけさせる、と条件をつけられる。

確かに、現状第七班は、うちはサスケと春野サクラが里抜けしている為、実質ナルひとりである。
はたけカカシが倒れた今、だれか追加の班員が必須なのは綱手としても同意見だ。


何らかの魂胆を覚えずにはいられないものの、ご意見番の意見を無碍にするわけにもいかず、渋々了承を返した綱手は、背後の気配に振り仰ぐ。


「久しぶりだな、綱手姫」
「アンタが出てくるってことは…そうか」

杖をついて猶、威厳を損なわぬ、忍びらしい忍び。
志村ダンゾウに、綱手は眉を顰めた。


「新しい班員というのは、暗部の根の者か」
「根の者?いいや、ただの捨て駒だ」


冷たく吐き捨てたダンゾウに、綱手は元々低かった機嫌を益々降下させた。
直後、ダンゾウから追加の班員の名を聞いた彼女は、抑えていた憤りを露わにさせた。



そして冒頭に戻る。





















ダンゾウが指名した相手。

かつてサスケの里抜けに助力し、結果的に『根』に捕らえられた『音の五人衆』。


他三人は死亡を確認したが、唯一生存していた彼らの生け捕りに成功した話は、五代目火影である綱手も耳にしていた。『根』ではなく、木ノ葉が保護すべきだと再三申し出たが聞き入れてもらえなかった忍びの子ども達。

左近と鬼童丸を天地橋へ向かわせるというダンゾウの意見に、綱手は額に青筋を立てた。


「そんなもん、大蛇丸にみすみす殺させに行かせるようなものじゃないか!!」

死んだはずの部下が実は生きていて、そしてしれっと大蛇丸の許へ向かえば結果は見えている。
それなのに、大蛇丸が訪れる天地橋へかつての部下である右近・左近と鬼童丸を向かわせるなど、何を考えているのか。


憤る綱手に対し、ダンゾウは「元部下なら、親心をだしてアジトにまで案内してもらえるかもしれないだろう」ととぼけた返事を返す。

「そんな殊勝なタマじゃないと、アンタが一番理解しているはずだろう!!」


かつて大蛇丸を従わせていたダンゾウに問いただす。
だが、ダンゾウは聞く耳をもたず、窓から木ノ葉の里を一望している。
綱手が更に詰問しようと口を開くも、ご意見番の二人に「追加の班員はこちらで用意すると伝えたはずだ」と非難された。

「チッ」

納得できずに舌打ちした綱手は、極力怒りを抑えつつも「…カカシの代わりはどうするつもりだ」とダンゾウの背に鋭い視線を投げた。


「…班員を子どもだけにするつもりなら、益々アンタの正気を疑うね」
「ならば、火影直轄の暗部の中から、より優秀な忍びを1人選抜して隊長にするべきだな」


綱手の鋭い視線を一身に浴びながらも、ダンゾウは振り返らずに淡々と答えた。

「カカシの代役の人選はこちらで任せる……、という事で良いのか?」


無言の返事に、綱手は今一度舌打ちすると、強かに机を叩く。
どうやらこれ以上話すことはないらしい。

「そちらが二人指名するのなら、こちらもカカシの代役と班員…二人指名させてもらおう」

せめてもの反抗とばかりに意見する綱手に、ダンゾウは一瞬チラリと視線を投げる。

無言の承諾に、綱手は鼻息荒く立ち上がった。
ご意見番とダンゾウを一瞥し、勢いよく部屋を出て行く。

その後を慌てて追い駆けたシズネは、一度立ち止まると、ご意見番のホムラとコハルに一礼した。
五代目火影の前にあった机がビキビキと音を立てて壊れていく様子を目の当たりにして冷汗を掻きながら、綱手を追い駆けてゆく。


その光景を、天井裏から覗き見ている者には気づかずに。


















足音荒く廊下を歩く綱手に追いつくも、シズネは師である彼女の機嫌が悪いことに身を縮こませた。
抑えていたとは言え、叩いた机が時間差で粉砕されたことにも、綱手の怒りが窺える。

萎縮するシズネをよそに、「カカシの代わりをも、てっきり自分の部下をゴリ押ししてくるかと思ったが…」とぶつぶつ呟いていた綱手は、親指をギリッと噛みしめた。

「カカシの代行に火影直轄の暗部というのはこちらも考えていたことだ。だが、まさか向こうから提案してくるとはな…」

目下の急務は、カカシ班の編成だ。
だが、それにしても大蛇丸の部下である音の五人衆を向かわせるとは、どういう意図あってのことか。

「…それとも何か他に魂胆が、」


ダンゾウの考えが読めない。
苛立ちを隠しもせずに、綱手は再三舌打ちした。














































薄暗い闇に、研ぎ澄まされた刃物がギラリと鈍い光を放った。

鈍刀の兜割・長刀の縫い針・爆刀の飛沫・雷刀の牙。

それぞれ忍び刀とは思えない造形をしている名刀の数々に、鬼童丸はヒュウッと口笛を吹く。


『霧の忍刀七人衆』の特殊な忍刀は代々受け継ぐ習わしとなっており、刀を受け継ぐ度に襲名されてきたが、今や霧隠れの里が所有する忍刀は双刀のみ。
相次ぐ内乱等で再不斬のように所有者が刀ごと次々離反していったからである。故に忍刀の一振りである双刀以外は現在消失している有様なのだ。

再不斬の首切り包丁に鬼鮫の鮫肌、それに霧隠れが唯一所有している双刀『ヒラメカレイ』を除けば、『霧の忍刀七人衆』の忍び刀は幻のものとなっている。

それらが全て自分の手の内にある事に、鬼童丸は軽い感動を覚えていた。



「おめーの無駄に多い手はこの為にあったのかもな」
「いやべつに俺は忍び刀を持つ為に手が六本あるわけじゃないぜよ!?あと、無駄には余計ぜよ!!」

右近の揶揄に、思わずツッコミを入れる鬼童丸だが、その手には四本の名刀がしっかと握られている。

刀というより斧に近い兜割と、斧に巻物を組み合わせた形状の飛沫や、巨大な刺繍針の如き刀の縫い針はともかく、斧と巨大なハンマーを組み合わせる兜割と、二刀一組の牙は二本揃っている。

その為、腕が六本あるからこそ、ひとつひとつの刀を持つことができる鬼童丸に、「これだけ多い忍び刀を一発で持ち歩けるなんざ、コイツしかいねぇわな」と右近はボソッと呟いた。

「で?これで全部か?」
「水月から聞いた話ではそうなるな」

前もって水月と会っている鬼童丸に、普段は左近の中で眠っている右近が問いただす。
水月から直接刀の説明を受けていた鬼童丸は「確かに刀の特徴を知らねぇと、『霧の忍び刀七人衆』の刀だととても気づけないぜよ」と六本もある自らの腕が全て納まっているのを眺めた。


「き、貴様、なんだ、その腕は!!??我々『根』はそんな報告受けてな…、」
「おっと」

右近に現在身体を共有させられているダンゾウの部下が、鬼童丸の腕の多さを目の当たりにして、目を白黒させた。
大声で怒鳴ろうとするも、右近によって口を閉ざされてしまう。

『霧の忍び刀七人衆』の忍び刀が保管されている場所へ案内させられたダンゾウの部下。
その身体を乗っ取っている右近は、落ち合って一緒に忍び刀を探した鬼童丸と顔を見合わせた。

「「言ってないからな」」



そもそも『音の五人衆』は、うちはサスケの里抜けに便乗して大蛇丸の許から抜けようと企てていた。

君麻呂・多由也・次郎坊は上手く死を偽造し、ナルトの許へ向かえたが、鬼童丸と右近・左近は『根』のダンゾウに生け捕りにされてしまったのだ。
ナルトが前以って取り引きしていたので身の安全は保障されているが、いつ切られるかも定かではないのだ。
スパイとして潜り込んだ先に手の内を明かす愚か者がどこにいるだろうか。

よって『根』には自分の能力に関しては一切明かしていない。
鬼童丸は能力どころか腕が六本あるというのさえ、徹底的に誤魔化していたので、現在、ダンゾウの部下を驚かせているという次第である。



「お前が長時間出てるなんて珍しいな、右近」

口を右近によって押さえられているダンゾウの部下がふごふご言っているのを尻目に、鬼童丸は右近に訊ねた。

基本的に右近は普段左近の中で眠っている。
だが、今は分離してそれぞれ単体で動いているのを疑問に抱きながら、鬼童丸は巻物の中に『忍刀七人衆』の忍び刀を収納した。
流石に敵のアジトの中を盗んだ忍び刀を持ってうろつくわけにはいかない。

鬼童丸の問いに、右近は「ああ」とダンゾウの部下の口を押えながら、答えた。

「アイツは今、ダンゾウを見張ってる」



今頃五代目火影の綱手の許で、天地橋へ向かう波風ナルの処遇に関して話し合っているのだろう。
木ノ葉の里に関わる情報をナルトだけでなく、鬼童丸や右近・左近にも流してくれる相手からの情報だ。

現在、波風ナルの七班は、うちはサスケと春野サクラの里抜けによって班員がナルしかいない。
班を率いるはたけカカシでさえ、風影の我愛羅の件で木ノ葉病院に収容されている。

その欠員に、ダンゾウは『根』の誰かを送り込む手筈となっている。
その誰かが自分たちであることを、右近・左近、それに鬼童丸は知っていた。









大蛇丸に、かつて彼の部下であった自分たちをぶつける。
要するに、裏切り者である右近・左近と鬼童丸自身を大蛇丸への贈り物とすることで、大蛇丸の警戒心を緩ませようとする魂胆だろう。

死んだと思っていた右近・左近や鬼童丸が実は生きていたとすれば、大蛇丸は彼らを裏切り者だと認識する。
何故なら生存しているにもかかわらず、音に帰らなかった者など大蛇丸にとっては裏切り者に他ならないからだ。

その裏切り者である右近・左近と鬼童丸をダンゾウは手土産にするつもりなのだ。






ならば、こちらも相応の手土産を頂いても構わないだろう。



ダンゾウが秘密裏に保管していた『霧の忍刀七人衆』の忍び刀を秘かに持ち出しても。
































ダンゾウを今まさに天井裏で見張っている左近が戻ってくるまでに、さっさと忍び刀を持ち出そうと考えた右近は、融合することで人質にしているダンゾウの部下の身体を使って、普段は入れない場所を秘かに歩く。

いつもは閉鎖されており、どうあっても行けなかった廊下を突き進むと、何処かで水音がした。

「なんだ…?」

自分の口寄せ動物である蜘蛛を鬼童丸が音のする方向へ向かわせる。するすると、音がする方向へ小蜘蛛が糸を出しながら向かって行く。

安全を確認して戻ってきた小さな蜘蛛を人差し指に乗せた鬼童丸は、「奇妙な水槽があるらしい」と右近を振り返った。


「あっちに何があるんだ?」
「し、知らない…あちら側にはダンゾウ様しか行けない場所だ」

人質のダンゾウの部下の答えに、右近は思案顔を浮かべる。

『霧の忍刀七人衆』の忍び刀の在り処でさえ知っていた者が知らない場所。
上手くすれば、ダンゾウの弱みをつかめるかもしれない。



そもそも、幻の忍び刀でさえ、何故ダンゾウが手に入れていたのか定かではない。
大方、自分の部下に命じて収集したのだろうが、本来ならば霧隠れの里に返さないといけない代物だ。
それを秘密裏に隠していたとなると、国際問題にもなりかねない。

よって、たとえ右近・左近と鬼童丸が忍び刀を持ち出したところで、ダンゾウは表立って忍び刀を追うわけにはいかないだろう。
更に、自分達二人は今から天地橋へ向かわされることになっているのだ。

忍び刀が無くなったことに気づいた時には、天地橋で大蛇丸と会っている頃だろう。
その時、忍び刀の紛失に気付いたところでもう遅い。


全てはナルトの読み通りに動いているが、ダンゾウの秘密が他にもあるのなら調べない手はない。
ダンゾウの部下が大声を出さないように口を押えながら、右近は鬼童丸に目配せした。


子蜘蛛の糸を辿る。
糸を辿ったその先には、水柱があった。







その中に、囚われている存在に、右近と鬼童丸の目が大きく見開かれる。


「な…どういうことだ…!?」












































『おい、ナルト!!』


【念華微笑の術】で連絡を取ったナルトに、鬼童丸は開口一番に問いただした。
ナルトは、香燐をからかう水月に視線を投げながら「どうした?」と尋ねる。


以前、水月に会って、忍び刀の特徴を伝えられた右近・左近と鬼童丸。
その鬼童丸からの報告に、ナルトは心の中で(────やはりな)と呟いた。

























『なぜ水月が此処にいる!!??』 
 

 
後書き

最後の台詞の人物の名前、誤字ではありません。やっと伏線回収できます…!
あー長かった!!

次回もどうぞよろしくお願い致します~!!
 
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