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ロックマンX~Vermilion Warrior~

作者:setuna
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第91話:Tear

エックス達がカーネルやディザイアのことで落ち込んでいる中で、拠点から離れた火山地帯ではフクロウルの部下の生き残り達の残骸が散乱していた。

「その力は…一体…?」

指揮官であるレプリフォース兵がボロボロになりながらも自分達を全滅に追い込んだ怪物を睨んだ。

「一体…何なのだ…き、貴様のその力はレプリロイドの域を明らかに超えている!!答えろ!!イレギュラーめ!!」

「私がイレギュラー?ふふふ、面白いことを言うね…」

兵士の言葉に微笑むとバスターの銃口を向け、無慈悲な一撃を放った。

「ぐはあ!?」

零距離でのチャージショットを喰らった兵士は跡形ともなく消滅した。

「イレギュラーは私じゃなくて君達の方だよ」

散乱する残骸を見渡しながら穏やかに笑うルインの姿は誰がどう見てもイレギュラーにしか見えないことを彼女は気付いていない。
 
「天の理……地の理……」

「!?」

聞き覚えのある声にルインの目が見開かれた。

「全てに背きし我が拳に………」

「………来る!!」

「一方の道理も存在はせぬ!!」

地面を吹き飛ばし、凄まじい業火を纏って弾丸の如く飛び出す影は着地と同時に拳を構えた。

「あれは…ドラグーン!?」

龍型レプリロイドのイレギュラーハンター第14特殊部隊の隊長であり、突如ハンター本部を脱走後はレプリフォース側に加担したと聞いていたが、まさかここにいたとは。

「我が拳、己が欲のため………貴女の心の臓を貫くためにあり!!いざ、尋常に勝負!!」

ドラグーンと対峙するルインは即座にドラグーンの情報を検索する。

素手による体術を極めた武道家で、イレギュラーハンターとしての実力も指折りであり、上層部からの信頼も厚かったはずだが。

「そんなの関係ない…イレギュラーは全て破壊する!!」

バスターをチャージし、ドラグーンに向けてチャージショットを放つ。

「……哈っ!!」

「!?これは…波動…!!」

前方に波動の防壁を展開してルインのチャージショットを無力化し、次の攻撃、波動拳の発射体勢に移行した。

エックス以外にも波動を扱えるレプリロイドがいるとは思わなかったルインは目を見開く。

「我もまた波動を極めし者なり!!貴女の真の力を我に見せてみよ!!灼熱…波動拳!!」

灼熱の業火を思わせる波動を放ち、それを見たルインは拳を地面に叩き付ける。

「裂光覇!!」

衝撃波と共に光の柱がドラグーンの放った波動と激突し、相殺される。

「相殺か…そうでなくてはな!!天魔空刃脚!!」

「(セイバーでは対応が間に合わない!!)アースクラッシュ!!」

ドラグーンの飛び蹴りに対してルインはあまりの速さにセイバーでは対処出来ないと判断してアースクラッシュで迎撃する。

激突した瞬間、2人の真下の地面が陥没し、巨大なクレーターを作り出し、力の拮抗が崩れた瞬間に両者は弾かれるように吹き飛ばされる。

「波動拳!!波動拳!!波動拳!!」

着地と同時に波動を連続で放つドラグーン。

ルインもドラグーンに放った波動にショットを連射して多少、波動の速度を低下させながらかわし続ける。

「はあああ…!!」

ドラグーンは指先に巨大な火球を作り出すとルインに向けて投擲し、ルインはそれを跳躍してかわす。

「………おおおおおおお!!!」

体を固定し、口から大規模の火炎放射を放って来る。

HXアーマーに換装する暇がないルインはショットを真上に放ってその反動で脱出。

そして火炎放射による硬直で動けないドラグーンにアースクラッシュの拳で殴り掛かる。

「アースクラッシュ!!」

「ぬうんっ!!」

アースクラッシュの拳を片手で受け止めるドラグーン。

「なっ!?アースクラッシュを…!!なら!!」

空いている片方の拳にエネルギーを収束させ、ドラグーンに殴りかかるが、それもまたドラグーンに受け止められる。

「………様々なことに囚われていなければ良い拳だ。様々な迷い…特に貴女の“怯え”が拳の冴えを鈍らせておるわ!!天魔巴投げ!!」

「うわっ!?」

「滅殺豪昇竜っ!!!!」

ドラグーンは自身の凄まじい身体能力を活かして本来飛行能力を持たないにも関わらず、空中を疾走してルインに肉薄する。

そして昇竜拳をルインに連続で叩き込み、拳に気を収束させてルインの顔面を殴りながら撃沈した戦艦に落下した。

意識を失う直前、ルインの前に見覚えのある幾つもの手が伸ばされた。

エイリア、ケイン、ゼロ、アイリス…そしてエックス。

エックスの手がルインの手を掴もうとするが、後僅かだけ届かず、ルインはそのまま…。

ドラグーンは撃沈した戦艦から飛び出し、ゆっくりと拳を下ろした。

「渇きに耐えかね、イレギュラーへと身を堕とした我に………天は真の強者を与えはせぬか………自業自得というものか………」

そのままこの場を去ろうとしたドラグーンだが、背後の戦艦から光の柱が立ち上る。

「何だ!?」

光の柱を見遣ると、そこには紅いオーラを身に纏い、バスターをチャージしているルインの姿があった。

この時、意識が遠ざかっていく中、ルインは仲間達との繋がりをこの時僅かに思い出し、本来の心を僅かだけ取り戻していた。

「私は…私は…負けない…負けない…負けない!!イレギュラーなんかに絶対に負けないんだあああああ!!!」

「………ふっ、天は我に…真の強者を与えたかっ!!」

満足そうに笑みを浮かべてドラグーンも波動の発射体勢に入り、今までとは比較にならないくらいの波動を放った。

「うわあああああ!!!」

波動とチャージショットが激突する。

一度は波動の壁に力負けしてしまったチャージショットだが、オーバードライブで強化した一撃はドラグーンの波動を見事に押し切り、ドラグーンの上半身と下半身を分断させた。

分断されたドラグーンの上半身と下半身が地面に音を立てて落ちる。

「はあ…はあ…やった…後はレプリフォースの中心部だけ…そいつらを倒せば…戦いは終わる…バッファリオやこの戦いで死んだみんなも浮かばれるはず…なのに…何で……涙が出てくるのかなあ…?」

OXアーマーの精神高揚で無理矢理抑え込んでいた悲しみが緊張が解けたことで溢れ出したらしい。

笑いながら涙を流す姿はこの凄惨な光景を作った者と同一人物とは到底思えないくらいに弱々しかった。

一方でエックス達はアイリス達を連れてハンターベースに戻ったが、あまりのダメージにメンテナンスルーム行きとなった。

特にゼロはダメージが深いために出てくるのに時間がかかりそうだ。

しかし、アイリスが率いていた部隊がイレギュラーハンターにもたらした情報によってレプリフォースの最高司令官のジェネラルがいるかもしれない場所を絞ることが出来たために今、急いでエイリア達が調べているところだ。

「ここね…確かにここなら…形勢逆転出来る可能性が最も高い場所…急いでエックス達に知らせないと!!」

エイリアは部屋を飛び出してエックスがいるであろう隊長室に向かい、中に入る。

「エイリア?」

「エックス、レプリフォース最高司令官・ジェネラルの居場所が分かったわ」

「何だって?それは何処なんだ?」

「レプリフォースが建造した兵器…地上のいかなる場所にも狙撃出来る兵器…デスフラワー…そこにいる可能性が高いわ」

「そうか…」

それだけ言うとエックスはデスクの椅子に座ったまま動かない。

因みにソニアはエックスから勝手にサイバースペースに行ったこと、そして外に出たことをエックスに説教された後、ケインの元に送られた。

多分、回路を修理したマシュラームと遊んでいることだろう。

「エックス…どうしたの?」

「いや…正直、今回は色々なことがありすぎたなって……」

「ルインと…ディザイアのこと?それとも話で聞いたカーネルのこと?」

エイリアが知るうち、エックスを悩ませている原因を出してみる。

「うん…カーネルを助けられなかったことや彼女があんな状態になってしまうほど追い詰められていたことに気付けなかった自分が情けなくて仕方ないんだ。あの時、悩んでいた彼女に何か言ってあげれば…何か変わったかもしれないのに…力が足りなくて守れない悔しさや悲しみは…俺もよく知っているはずなのに…!!」

「それはエックスだけのせいじゃないわ。私もルインの心を救えなかったんだから…ルインの親友が聞いて呆れるわ……」

自嘲するエイリアにエックスも深い溜め息を吐いた。

「アイリスは大丈夫だろうか?」

カーネルを喪い、亡骸に触れることすら許されなかったアイリスの気持ちはどれ程辛いのか、エックスには分からない。

「アイリスは大丈夫よ。ゼロがいるもの」

「でもゼロはあんまり慰めるとかは得意じゃないし…」

「分かってないわねエックス」

思わず溜め息を吐いてしまうエイリアの態度に思わずむっとなるエックスである。

「何だよ?」

「エックス、女の子はね…好きな人が傍にいるだけでも大分違うのよ」

「そう…なのか…?」

「そうよ、アイリスのことよりあなたはあなた自身の心配をしなさい。ディザイアにやられた怪我はもう大丈夫なの?」

「怪我…あ、ああ…大丈夫だよ。」

「そう、良かったわ」

「それにしても、エイリアが怪我って言うなんて…ね…ふくく…」

らしくなくエックスは含み笑いをし、今度はエイリアがむっとなる番であった。

「な、何?何か変なこと言った?」

「いや、ごめん。初めて臨時オペレーターとして配属された時は俺達がダメージを負った時は“損傷”って言ってたじゃないか…あの時のエイリアは妙に固くて…」

「あ、あの時は…慣れない仕事で一杯一杯だったからよ!!あんな状況だったし…」

臨時オペレーターとして配属されたばかりの頃を思い出してか、エイリアは恥ずかしそうに言う。

「うん、分かってるよ。あの時はみんな必死だったから…」

エックスもそんな彼女に微笑みながら、当時のことを思い出していた。

「私はあなた達と関わるようになってから色々な事に疑念、私情を抱くようになったわ。これって何なのかしら?研究ばかりの頃はこんな風じゃなかったのに…」

エックスやルイン達と関わる度にエイリアの中に科学者時代には全く感じなかった疑念や様々な私情を抱くようになった。

最初は戸惑うこともあったが、今ではとても良いもののように思える。

「うーん…様々な経験をして、色んな人と触れあったことで心が成長したんじゃないかな?」

腕を組んで少しの間、エイリアの疑問を考えるがその疑問に対してエックスは心理学者とかではないので、何となくでしか説明出来ない。

「心…成長…昔ならレプリロイドが?って一蹴してたけど…今なら納得出来るわ…特にあなたの言葉ならね」

「俺の?何で?」

疑問符を浮かべるエックスに思わずエイリアは笑ってしまう。

きっと彼は自分が今までしていることがどれだけ凄いことなのか分かっていないのだろう。

「あなた気付いてないの?あなた自身、科学では説明出来ないことを何度もやってのけているのよ?私もそれを見てきたから…みんなもきっとそう思うはずよ」

そう言われたエックスは何となく恥ずかしいのか、頭を掻いた。

「前にも言ったけど、みんながあなたを必要としているの。あなたはみんなの希望なのよ」

「希望…か…そうだといいな…」

「さてと…私は私の仕事をするわ、エックス。多分ルインもデスフラワーに向かうはず…ルインをディザイアから守ってあげて…そして、何時も通りに接してあげましょう?」

「それは勿論だ」

今のディザイアをルインに会わせる訳にはいかない。

ディザイアはデスフラワーで確実に倒すと決意し、エックスはデスフラワーに向かうためにハンターベースのスペースポートに向かう。

一方でゼロはケインの研究所にいるアイリスの面会に来ており、扉の前にはルナもいる。

「おい、爺。アイリスの容態はどうだ?」

「一先ずは安定した。兄弟型は精神がリンクしておるため、片割れが破壊されると精神が不安定となるんじゃ…そう、ビートブートのようにな。特にアイリスとカーネルは元々同一の存在じゃ、その繋がりも普通の兄弟型とは比べ物にならんわい」

「そうか…会っても…良いか?」

「構わないが、今の彼女の精神状態でまともな会話など出来るかどうか…」

「分かっている。」

ドップラーの言葉に頷きながらゼロはアイリスのいる部屋に入ろうとする。

「待ちな」

「ルナか…何だ?」

「彼女に謝るつもりで来たなら止めとけ、そんなことは彼女を追い詰めるだけだぜ」

「だが…俺には…彼女に、他にしてやれることなど…」

「あるぜ」

「何?」

「自分の心に素直になってアイリスにお前の気持ちを伝えてみな。お前にとってアイリスは大切な存在なんだろ?お前の想いが彼女の心の傷ってウィルスを除去するワクチンだぜ」

そう言うとルナはゼロの背を押して、彼女のいる部屋の中に入れた。

そこには瞳には何も映さず、ただメンテナンスベッドに横たわり、虚空を見つめるアイリスの姿があった。

「アイリス…」

「………ゼロ」

ゼロの声に反応し、ゆっくりと振り返って無理に笑顔を浮かべるアイリス。

「(違う…俺が見たいのはそんな顔じゃない…そんな目じゃない…)」

今まで感じたことのない痛みに顔を顰めながら、ゼロはアイリスに歩み寄る。

「大丈夫か?」

「大丈夫…エラーも怪我も全部ケイン博士達が直してくれたから」

「(大丈夫じゃないだろう……そんな顔で…)」

外傷は確かに無くなっているが、エラーよりも深刻な物がアイリスを侵している。

「それなのに…」

「え…?」

「胸が痛いの…まるで穴が開いたように…何かが、足りない…変だよね…怪我もないのに…どうして…」

瞳から止めどなく溢れる涙を見て、ゼロは咄嗟にアイリスの手を握った。

「何で涙が止まらないの…?」

「アイリス…」

こんな時に気の利いた言葉を言えない自分を罵りながら、ゼロは彼女の手を握った。

途中で上層部の命令でデスフラワーに向かうことになり、ゼロはゆっくりと立ち上がった。

「……出撃する」

「ゼロ…」

「また来る…今はゆっくり休め………」

それだけ言うと、ゼロは部屋を後にしようとするが、途中で立ち止まる。

「………?」

立ち止まったゼロにアイリスは不思議そうに見つめる。

「なあ、アイリス…」

「何…?」

「君のその…足りない物…俺では補えない…か?」

その言葉にアイリスは目を見開いた。

「俺にこんなことを言う資格なんてないことは分かっている。この戦いで俺は何度も君を追い詰めてしまった…だが、俺は戦いの中でしか自分を見出だせない男だから…そんな俺でも…君の心に応えられるなら…応えたい…アイリス…俺に君を守らせてくれ…」

ぎこちなくアイリスの手を包み込みながら言うと、少しだけアイリスの目に光が宿った。

そしてゼロの胸に顔を押し付けながら静かに泣いた。 
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