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ある晴れた日に

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117部分:谷に走り山に走りその十三


谷に走り山に走りその十三

「それでな」
「いいのね」
「まあよ。山芋取られたのは腹が立つぜ」
 これは引かないのだった。実は山芋は彼の好物である。だからそれを取られたということが彼にとっては癪なことであるのだ。それは否定できなかった。
「けれどな。猪だって生きてるんだよな」
「ええ」
「だったら食って当たり前か」
 こう考えることにする正道であった。
「それもな」
「そうよ。生きているから食べるから」
「だよな。まあそれでもな」
 未晴に応えたうえであらためて周りの面々を見て言うのだった。
「どいつもこいつもこのクラスってな」
「何だよ」
「何かあるのかよ」
 野本と春華が彼の言葉に応えて顔を向けてきた。
「俺達がどうしたっていうんだよ」
「別に何もねえだろ」
「食い過ぎだろうがよ」
 彼が言うのはそのことだった。食べ物に関してだった。
「いつもいつもな」
「育ち盛りだから当たり前だろうがよ」
「そういうおめえだってそうだろうがよ」
「幾ら何でも御前よりは食ってねえぜ」
 正道は春華に絞って言った。
「今朝だって丼に三杯だったじゃねえかよ」
「それが普通なんだよ」
 春華はあくまで自分を基準にして語った。
「あたしにとっちゃな」
「御前だけ・・・・・・じゃねえな」
 ここで考えをあらためる正道だった。そのうえでまた言うのだった。
「御前等全員だな。少年だってな」
「私!?」
「小さいのによく食べるよな」
 正道は今度はこちらに顔を向けてきた明日夢に対して言った。
「伊藤と同じだけ食ってるよな、いつも」
「食べないともたないじゃない」
 育ち盛りに相応しい言葉だった。
「そうでしょ?食べないとね」
「それはそうだけれどよ」
 明日夢の言葉に応えながら彼女をまじまじと見る。どう見ても小柄だ。その小柄さだけはどうしても否定できないものがあった。
「栄養は何処にいってるんだよ」
「何処にって言われると」
 自分で首を傾げる明日夢だった。
「体力にいってるのかしら」
「ずっとそれだけ食ってるんだよな」
「小学校の時からね」
「それで何でその背なんだ?」
「だから体力じゃないかしら」
 自問自答して正道に述べる明日夢であった。
「子供の頃からクラスじゃ前の方だったし」
「そうか。ずっとか」
「まあ背についてはね。別に何も思ってないし」
 これは明日夢の考えであった。誰もが背を気にしているわけではないのである。少なくとも今の彼女はそうであった。
「とりあえず今はね」
「前もっと欲しかったとか言ってなかったか?」
「前は前よ」
 こういうことだった。
「けれどね。今はね」
「そういうことかよ」
「そういうこと。とりあえず食べないと身体がもたないのよ」
「身体動かしてるから太りもしないんだな」
「当たり前だろ?それはよ」
 また春華が彼に言ってきた。
「動く為に食ってそれで動いてまた腹が減るんだよ」
「そういや伊藤も部活やってたな」
「探検部な」
 こういう部活もこの学校にはあるのである。
 
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