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ある晴れた日に

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108部分:谷に走り山に走りその四


谷に走り山に走りその四

「竹林ってやっぱりな」
「私?」
 話を振られた未晴は少しきょとんとなっていた。
「私何かあるの?」
「いい奴だよな」
 彼が言うのはこのことだった。
「やっぱりな。それもかなりな」
「そうかしら」
「それはうちが保証するぜ」
「私も」
「私も」
 いつもの五人がその未晴のところに来て言う。
「未晴がいい奴じゃなかったら誰がいい奴なんだよ」
「そうよ。いつも私達のこと考えてくれるし」
「こんないい娘いないわよ」
「そうだよな」
 正道は彼にしては珍しいことにこの五人の意見に賛成して頷いた。
「こんないい奴いないな、本当にね」
「へえ、音無ってよ」
「その仇名使うなって言ってんだろうが」
 まずは春華に言い返した。そのうえで問い返す。
「それで何なんだよ」
「人を見る目はあるんだな」
「意外ね」
 凛も言う。
「全然ないと思っていたけれど」
「俺だってわかるぜ」
 二人に言われたので顔を顰めさせての言葉だった。
「それ位な」
「それ位っていうけれどわからない奴はわからないわよ」
「安橋」
 恵美が後ろから正道に言ってきた。彼はそれを受けて背中越しに彼女を見やる。
「人を見るのってね。難しいコツがあるから」
「コツか」
「人によってはそれはどうしても身に着けられないものだからね」
「何か随分と深い言葉だな」
 正道はそれを聞いて今度は恵美に話した。
「けれどそうなのかよ」
「喫茶店にいたらわかるのよ」
 言うまでもなく彼女の家が経営しているその喫茶店である。
「色々な人が来るから」
「そうなのかよ」
「そうよ。私の見たところあんたはわかってるわね」
 微笑んで正道に告げた。
「そういうコツは」
「そうか?」
 しかし当の正道は恵美のその言葉に首を横に振るだけだった。
「俺は別に」
「自覚していなくてもわかっているわよ」
 しかし恵美はまた正道に告げた。
「あんたはね」
「だったらいいけれどな」
 自分でもそれならそれでよしとした。
「わかってるんならな」
「音楽のことはどうかわからないけれど」
「そっちはバリバリにあるぜ」
 これについては自分から派手に言い切るのだった。
「それこそな。誰にも負けない位な」
「それでここにまでギター持って来たのかよ」
「よくやるわね、全く」
 佐々と茜が呆れた声で今の発言に応えた。
「まあ真夜中に騒いだりしねえからいいけれどな」
「それでもバスの中じゃ奏でるのよね」
「聴きたくないんならいいぜ」 
 茜の言葉が嫌そうな表現だったのでこう返した。
「それならな」
「別にそうは言ってないから」
 茜もそれについてはちゃんと説明した。
「嫌じゃないわよ」
「だったらいいけれどな」
「けれどバラードがいいわ」
 それでも注文はつけてきた。
「疲れてるとそれ聴いたらすぐに寝られるから」
「それかよ」
 寝ることを言われて苦笑いになる正道だった。しかし特に悪い気はしてはいなかった。
 
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