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八条学園騒動記

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第五百六話 イッカククジラの牙その十四

「琉球だと濡れ女がそうだな」
「濡れ女っていうのが琉球の吸血鬼ね」
「元々は日本の妖怪だった」
「ああ、それが同じ日系国家で」
「琉球にも入ってきてな」
「琉球の吸血鬼になってるの」
「そうだ、上半身は長い黒髪の女で下半身は大蛇だ」
 これは濡れ女の外見だというのだ。
「水の中にいてかなり怖い」
「人を襲って血を数から」
「蛇の身体が何百メートルもあるからな」
「その長い身体でも襲い掛かるの」
「蛇の身体で絡め取ってだ」
 そうしてというのだ。
「血を吸う」
「怖い妖怪ね」
「そうした妖怪が琉球の吸血鬼だ」
「ドラキュラ伯爵とは全然違うわね」
「吸血鬼といっても色々だからな」
 一口に言っても実に様々だ、ナンが言うドラキュラ伯爵だけでなくキョンシーも吸血鬼のうちである。
「普通に昼に活動する種類も多い」
「夜じゃないとっていうのは限定的なの」
「そうだ、しかしモンゴル人はな」
「羊や馬の血だから」
「流石に人の血は関係ないか」
「人の血って鉄の味じゃない」
 中に鉄分が多く入っている、だからその味がするのだ。
「そんなの飲んでも」
「仕方ないか」
「ええ、そんな話は聞いたことがないわ」
「モンゴル人が人の血を飲むことはか」
「また言うけれど飲むのは羊や馬の血よ」
 あくまで家畜のものだけだというのだ。
「羊は血の一滴まで口にするけれどね」
「無駄にはしないか」
「そうよ、しかし羊は飼育しても」
 ナンはステラーカイギュウを観続けている、吸血鬼の話をしても目はずっとそこにあって観続けているのだ。
「カイギュウの飼育はね」
「モンゴルでは縁が薄いな」
「どうしてもね」
 実際にというのだ。
「少なくとも私は知らないから」
「草原だとそうか」
「海も観たことがなくて」
 八条学園つまり日本に来るまではだ。ナンは海というものをその目で見たことは一度もなかったのだ。
「漁場とかもね」
「なかったか」
「それでカイギュウもよ」
 海で彼等を飼育する牧場もというのだ。
「なかったわ」
「そうだったか」
「全部ね、けれど観ていてね」
「いいと思うか」
「凄くね。暫く観ていたいわね」
 ナンはダンに優しい笑顔で話した。
「そうしていい?」
「俺もそうしていたい」
 ダンもまた優しい笑顔になっていた、そのうえでの言葉だった。
「ではな」
「これからね」
「ゆっくりと観よう」
「あっ、ベンチもあるわね」
 ナンはここでこのことにも気付いた、丁度そこにベンチがあった。
「あそこに座って」
「そうして観ていくか」
「そうしましょう。オオウミガラスもね」
 この鳥も観ようとだ、ナンは微笑んで言った。
 そうして二人でベンチに並んで座った、そのうえで今は水槽の中にのどかにいるステラーカイギュウと彼等の周りで泳いだりその上にいるオオウミガラス達を観てそのうえで二人で親しく話もするのだった。


イッカククジラの牙   完


                    2019・1・2 
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