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楽園の御業を使う者

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CAST37

九校戦を一日毎に性別をひっくり返しながら観戦する。

新人戦の摩利さんのスピードボードやらメスタヌキのスピードシューティング予選を観戦した帰りだった。

とある男と偶然出会った。

「あ。ポップコーンメーカー男だ」

「ぶっふぅっ!」

俺がその男をポップコーンメーカー男と呼ぶと、隣にいた真夜さんが爆笑し始めた。

そしてポップコーンメーカー男の隣にいた男も肩を震わせている。

当のポップコーンメーカー男はにこやかな顔をカチカチに固めていた。

「あ、俺は千葉白夜。百家の千葉の三男。世間では質葉白夜で通ってる。よろしく」

と手を差し出すと、固まった笑顔のままで握り返された。

「一条将輝だ。よろしく」

さて、それじゃぁ…。

「これでポップコーン作ってよ」

ポケットの中でスキマを開きポップコーンの元を出す。

「ぷ…くく…将輝…ぷふっ…やったげなよ……」

「ジョージ」

と不機嫌そうにポップコーンメーカー男が隣の男をたしなめる。

「確かに。確かに爆裂でポップコーンは作れるが、こんな場所で殺傷ランクAの魔法を使えばどうなるかわからない君ではないだろう?」

「つまんねー」

生真面目な奴って弄りたくなるよねぇ…。

「というか、爆裂をポップコーン作りに使うなんてアイデアがどうかしている」

「んー? 爆裂を再現しようとした時に思い付いたのがポップコーンだったのさ」

「成功したのか?」

「滅茶苦茶効率悪いし疲れるけどね」

爆裂擬き。

作ったはいいが、並の魔法師なら一発でサイオンが空になる。

そこで真夜さんに肩を叩かれた。

「私は戻るわ。一条君と話してていいわよ」

「いいの?」

「いいのよ。貴方同年代の同性のお友達少ないでしょう?」

まぁ、そうなんだけど…。

はっきりいわないでよ…。

「だから、ね?」

真夜さんがポップコーンメーカー男と向き合う。

「はじめまして、質葉極夜よ。この子の姉のような者かしら。この子同性のお友達少ないから、仲良くしてあげてね」

そう言って真夜さんは戻っていった。

「「「……………………」」」

真っ先に沈黙を破ったのはポップコーンメーカー男…もとい、一条将輝だった。

「千葉。あれって四葉…」

「ん?」

「いや、なんでもない」

十師族…二十八家は各家の当主の名前をしってるのかな…。

「千葉君」

と一条将輝の隣の男が手を差し出す。

「僕は吉祥寺真紅朗。よろしく」

「よろしくな、吉祥寺」

で、三人で観戦する事になったのだが…。

一条がむくれている。

たぶん俺と吉祥寺が一条そっちのけで魔法談義をしているからだろう。

「そんなにむくれるなよ。スカーレットプリンスの名が泣くぞ」

「別に…」

たしか一条って強力な戦闘魔法師でそれなりには考えるけど大局や詳しい技術まではわからない、みたいなキャラだっけ?

対して吉祥寺は戦闘魔法師としてはいまいちだけど大局や詳しい技術とかを見れるんだったか。

見事なタッグだ。

暴力装置と参謀。

こういう単純な役割分担の奴らほど強い。

できない事は相棒に投げて自分の強みを強化しまくる。

理想的だなぁ。

「なぁ、お前らっていつも一緒に居るんだろう? そういう噂って立たねぇの?」

「噂って?」

「お前らがベーコンレタスな関係って噂」

吉祥寺は、昨年の夏にのソ連の佐渡島侵攻で身寄りを失い一条の庇護下にある。

これは十師族や百家では有名な話だ。

曰く、脳筋の一条の跡取りに優秀なブレインがついたと。

と、まぁ、そんな訳で。

事情を知る百家やら十師族やら二十八家やらの子女がキャーキャー騒いでる訳だ。

「で? 将×真なの? 真×将なの?」

「黙れ」

一条が凄い目で睨んでいる。

「なんだ。そんなにキレるなよ」

「ジョージの事を知らない奴がそういう話をするのは嫌いだ」

「そか、すまんな。吉祥寺」

「いいよ、気にしてないし」

一条をチラリと見る。

「なんだ」

「いや、くどいかもしれないが、これが物語で吉祥寺が女だったら絶対お前とくっついてるよなぁと」

試しに吉祥寺を女体化してみようかな。

「あはは。確かにね僕が女だったら…か」

「茜が悲しむ」

一条がぶっきらぼうに言った。

「あかね? なに? 吉祥寺の彼女?」

「俺の妹だ。ジョージの事が好きらしい」

「好きらしい? 告ってないの?」

「告白もしたし毎日のようにアプローチしているがジョージは断ってるな」

およ? マジで?

「吉祥寺…やっぱりお前…」

「ちがうよ…」

ならなんでだ? 十師族の子女ともなれば美人揃いだろうに。

「僕…幸せになっていいのかなってさ…」

「はぁー? バカじゃねぇの? 悲劇のヒロインでもあるめぇし」

「おい。そんな言い方は…」

と一条が咎めるように言うが、少し黙ってて貰う。

「吉祥寺。お前の事情は人づてにしか知らんが、正直お前の事情はどうでもいい。
が、茜って子の気持ちも考えてやれよ」

「それは……でも……」

「いいじゃねぇか幸せになっても。俺はテレビに出てるような奴だから、芝居臭いし嘘臭いかもしれねぇけどさ。
お前の両親。お前がそんな風じゃ報われねぇだろ」

「なるほど。考え方の一つとして覚えておくよ」

「おう、そうしろ」

で、だ。

「一条。妹の事だろ? もう少し応援してやれよ」

「えぇ……俺がわるいのか?」

「三割くらいは?」

残りの五割が吉祥寺、二割は状況かな?

「で、その茜って子はいくつ?」

「小五」

ん━━━━━━━━━━━━━━━。

「まぁ、いいんじゃね? 吉祥寺って背ぇ低いし、事案には見えないでしょ」

「というか、茜の方が背が高い気が…」

「言わないでよ将輝!」

「大丈夫だ吉祥寺。俺なんて127しかないから」

「千葉、お前は開き直っているだけだろう………」

開き直らないとやってらんねぇよ。

だって見る人全員俺よりデカイもん。

「で、これからスピードシューティング決勝なんだけども。結果わかりきってるしなんか食いに行こうぜ」

「見ないの?」

吉祥寺が意外そうな顔をしている。

「新人戦程度であのメスタヌキが優勝出来ない訳ないだろ」

とは言った物の結局見る事になった。

案の定、何の面白みもなく、淡々と、あっさりとメスタヌキが優勝した。

しかもこっちに視線送ってくるし。

「知り合いなのか?」

「そんな所だ」

「七草にパイプがあれば報道系では強いだろうな」

「パイプはないよ」

「そうなのか?」

「うん。メスタヌキとは…激辛キャンディを口に捩じ込むくらいの関係?」

「それは結構親しいんじゃないの…?」

「じゃぁ後でキャンディ渡すよ」
















その晩。俺は吉祥寺を『千里先を見通す程度の能力』でピーピングしていた。

「うひひひひ…」

「何してるの白夜君?」

と真夜さんに聞かれた。

「覗き」

反応を返したのは水波だった。

「………………………深雪様のですか?」

「お前は俺を自殺志願者とでも思ってるのか」

━━境界を操る程度の能力━━

吉祥寺の背後にスキマを開く。

━━なんでもひっくり返す程度の能力━━

性別反転の力を込めた指先で吉祥寺の背中をつつく。

「よし。覗き終わり」

「何をしたの?」

「一条将輝の隣にいた子の性別をひっくり返したんですよ。
一条と吉祥寺は同室だし…さてどうなることやら」

「悪趣味ですね」

「吉祥寺には女の子の気持ちをわかってもらおう」

「彼、何かあったの?」

「一条の妹の告白をうけながしているとか」

「「…………………」」

ん? なんか二人の視線が冷たいような…?

まぁいいや。じゃぁ今から達也の性別をひっくり返そう。

達也の背後にスキマを開いて、背中をつつく。

性別反転は成功したのだが………。

「にゅぁっ!?」

ガシリと手を掴まれた。

向こう側に引っ張られる。

不意討ちだったので一気に肩までスキマに入った。

達也の奴どうやら俺をスキマから引き出すつもりらしい。

━━怪力乱神を持つ程度の能力━━

能力で競り勝ち、手首あたりまで戻った時だった。

ボギィ!

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!?」

あの野郎躊躇無く指折りやがった!?

スキマを閉じ、手首を切り離す。

━━老いることも死ぬこともない程度の能力━━

一瞬で傷口から焔があがり、再生した。

「ふぅ…悪戯の報復にしては重かったな…」

再生した手をぷらぷらさせる。

「白夜様。たぶんあっちで深雪様が腰抜かしてますよ?」

「その分達也が甘やかすだろうさ」

あー、手を虫みたいに動かして深雪さんをびびらせても……いやわざとだったら達也から何されるかわからんな。

「白夜君。深夜達にはしないのかしら?」

「んー……」

こないだ深夜さんをフタナリにしたら穂波さんから苦情きたんだよなー。

「じゃぁ穂波さんに」

水波の血を介して穂波さんを捕捉。

スキマ越しに背中をつつく。

「ふぅ。おしまい」

さて、明日はどうなってるかな。
 
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