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戦国異伝供書

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第三十三話 隻眼の男その八

「父上、今川殿から文が届きました」
「何とある」
 いかめしい顔の大男だった、その彼が主の座にいて晴信を嫌悪の目で見据えながら問うた。
「一体」
「はい、一度駿河に来て頂きたいと」
「あの国にか」
「姉上に会われてはと言われています」
「是非にとか」
「左様です、どうされますか」
「ふむ」
 少し考えてからだった、信虎は晴信に答えた。
「近頃戦もなく国もまとまっておる」
「それでは」
「少し行って来る、留守はじゃ」
「はい、その間は」
「お主が守れ、よいな」
「わかり申した」
「そして二郎よ」 
 信虎は信繁には笑顔を見せて言った。
「お主もな」
「はい、兄上と共に」
「甲斐の留守を守れ、よいな」
「わかり申した」
「それではな、では駿河に向かうとしよう」
 早速だった、信虎は甲斐の国を出て駿河に旅立った。そして彼が駿河の国に入ったと聞くと晴信は主な家臣達を集めて言った。
「父上を二度と甲斐に入れるでないぞ」
「では」
「この度は、ですか」
「太郎様が」
「そうじゃ、今川殿にはお話してる。父上は以後は甲斐で隠居して頂く」
 名目上はそうなるというのだ。
「それでじゃ」
「そのうえで、ですな」
「これからは太郎様が甲斐の主となられ」
「治められるのですな」
「左様じゃ、しかしお主達を見ておると」
 晴信はここで家臣達を観た、そのうえで彼等に言った。
「皆父上を見限っておったか」
「そう言われますと否定出来ませぬ」
「どうにも」 
 家臣達を代表してだった、甘利と板垣が答えた。彼等の後ろには飯富、原、小幡といった者達もいる。
「大殿のやり方ではです」
「やがてこの国は分かれていました」
「そしてです」
「そこから乱になっていました」
「そうであるがしかし」
 ここでだ、晴信はまた言った。
「父上はまことに完全に人心を失っておったのだな」
「はい」
「お館様が思われている通りです」
「大殿は我等もですし」
「民達も」
「だからこそ勘助の策が通じたか」
 ここで家臣達の末席にいる山本も見た。
「父上が人心を失っておられたが故に」
「はい、しかしです」
 家臣達の筆頭の座にいる信繁が言ってきた。
「若し勘助の策がなければ」
「この様にはじゃな」
「いかず」
 そしてというのだ。
「到底です」
「この様にはじゃな」
「簡単にはいっていませんでした」
「やはりそうじゃな」
「お館様、ここはです」
 強い口調でだ、信繁は晴信に話した。
「勘助を是非共」
「当家の軍師にじゃな」
「迎えるべきです」
 こういうのだった。
この度の策を見てもわかる通り」
「そうじゃな、ではじゃ」
「そうされますか」
「うむ」
 晴信は弟の言葉に一言で答えた。 
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