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戦国異伝供書

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第三十三話 隻眼の男その六

「あの者はじゃ」
「実は、ですな」
「天下の才じゃ」
 その持ち主だというのだ。
「だからじゃ」
「是非にですな」
「長尾家のあの者とな」
「それにですな」
「あの者もじゃ」
 長尾景虎と織田信長はというのだ。
「是非家臣にしたい」
「それがしもです」
「尾張のあの者をそう見ておるな」
「大うつけと聞き一度星を見てみますと」
「うつけではなかったか」
「将星でありました」
「そうであったか」
 晴信も話を聞いて頷いた。
「やはりな」
「それも相当に大きく、長尾家の方も」
「将星であったか」
「はい、北条様や今川様にも負けぬ」
 そこまでだとだ、山本は晴信に話した。
「ですから必ずです」
「天下を収めた時はか」
「貴方様の両腕にされるべきです、そしてまずはです」
「この甲斐をか」
「どうにかされるべきかと」
「その言葉、知っておるか」
 晴信は山本の言葉からこのことを察して述べた。
「わしと父上のことは」
「甲斐に入りすぐに聞きました」
 これが山本の返事だった。
「このことは」
「そうか、それでか」
「それがしも知っておりまする」
 こう晴信に答えたのだった。
「よく。そして」
「そのうえでか」
「それがしも申し上げます、そして甲斐で貴方様につかぬ者はおりませぬ」
「父上からそこまで心が離れておるか」
「誰もが。ですから」
「わしが立てばか」
「自然と甲斐は貴方様のものになります」
「それはわかっておる、だが」
「それはですな」
「わしが若し立てば父上も刀を抜かれるぞ」
 このことだ、晴信は山本に話した。
「そうなれば甲斐の国は内乱となるわ」
「親子で血を血で洗うこととなりますな」
「そうなってはどうなる、国が悪戯に荒れて民達も戦に巻き込まれる」
「そして貴方様は父親殺しとなる」
「そうなっては元も子もない、誰が父殺しにつく」
 山本に真剣な顔で問うた。
「違うか」
「はい、ですからここはです」
「ここは、か」
「それがしに考えがありまする」
 山本はその隻眼を光らせて晴信に答えた。
「一つ」
「どうするのじゃ」
「晴信様の姉君が今川様に嫁いでおられますな」 
 このことをだ、山本は言ってきた。
「左様ですな」
「では」
「はい、お館様には駿河の今川様のところに行って頂き」
「その間にか」
「貴方様は甲斐の主となられるのです」
「その手があったか、では今川殿にはか」
「前以て文を送られてお話をされ」
 そのうえでというのだ。
「お館様に行って頂くのです」
「今川殿からの招きということでか」
「そうすればです」
「そうだな、今川殿には手間をかけさせるが」
「そのことについてはお館様の暮らしの分はです」
「こちらで出すか」
「そうすればいいのです」
 それで充分だというのだ。 
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